トラノスケの新たな翼
いろんな乗り物や武器がいたるところに置かれてある。隊員が作業服を着て武装を搭載した乗り物を整備したり、武器の設計図を見ていろんな部分の調整をしていたりしている。
「やっぱ、ここはワクワクするぜ。玩具屋に遊びにきたような気分だ」
第00小隊が己の実力を示すためにグラトニーと戦って翌日、トラノスケは武装開発研究所に来ていた。
「指揮官用の武器を準備してあるって言われたから来たが……一体どこにあるやら」
トラノスケがこの場所に来た理由、それはグラトニー討伐での任務で使用する武器を貰うために来ていた。
もうすぐ自分も第00小隊の指揮官としての地上に出る。
後方から隊員たちをサポートする指揮官とはいえ、最低限の武器は必要。
その武器を確認して問題がないかどうか、確かめるためにこの武装開発研究所に足を運んできていたのだ。
「しかし……銃器を持つのか。興奮と不安がやってくるな。危ないものだし」
重火器は扱いを間違えたら人の命を簡単に奪ってしまうものだというのは理解しているが、だとしても火器というものは人の心を引き付ける魅力があるものなのである。訓練で初めて握った時は心がバクバクと鼓動が速くなったことを思い出す。
そうやって研究所の入り口で待っていると、
「おっと、期待の新人登場か」
バンダナを巻いた作業着の男が声をやってくる。
(……あれ、あの指輪。見たことあるような)
青みが強い紫色の髪をして、右手に指輪を付けていた。その指輪にどこか見覚えがあるトラノスケ。だけど思い出せない。
なんとか思い出そうとしていると、バンダナを巻いた男がさらに話しかけてくる。
「待ってたぜ、松下指揮官」
「えっと……あなたは?」
「名乗りが遅れたな。俺は八幡ツカサ。よろしくな。ここの武器開発研究員、ついでに第01部隊の副官ってところか」
八幡司が手を差し伸べて握手を求める。それに応えて握手をし、
「え、二足の草鞋ってことですか? 大変じゃあないですか」
「まあ、副官になったのは俺の我儘ってところかな。でもどっちも手を抜くつもりは全くないぜ。とまあ、自己紹介はそこまでだ。こっち来な」
ツカサが手招きしてトラノスケを連れていく。
「俺の用件はアンタに指揮官の武器を渡すように上から言われていてな。武器の取り扱いなら隊長の中で俺が一番よ、そりゃあこの施設の研究員だからな。だから松下指揮官にばっちりの武器を選んで支給するってわけだ」
「ようやく武器が!」
「それに、とっておきもあるが。まあまずは基本の武装からだな。指揮官にとって大事な武器を渡してやるよ」
「おお!」
ようやく武器が支給される。
これで隊員たち共に地上に出ることができ、サポートをすることもできるようになる。
ツカサがガラスケースの前で色々とボタンを押し、するとガラスケースの中から銃器が現れた。
「ほら、まずはこの指揮官用ビームピストルだ。ウカミタマが使っている奴と比べたら威力は低いが、それでもグラトニーにダメージは通る。味方には打つなよ。ウカリウムのビーム弾でも鋼鉄を溶かして丸い穴をあけるぐらいは楽勝だからな」
「マジか……わかりました」
「それとビームナイフ。これはまあ握るとビームの刃が出る。ただ出力を抑えてあるからソードじゃなくてナイフってわけだ。でも威力は折り紙付きだぜ。合金だって真っ二つ、グラトニー相手でも簡単に斬ることができる。襲われたら逆にこれを突き刺しちまえ。そうすりゃグラトニーもお陀仏だ」
長く説明してくれる。
ビームピストルとビームナイフ。この二つが指揮官の身を守る基本武器だ。
それを受け取って腰につける。
「で、今までは前座。俺が紹介したいとっておきのお待ちかね。松下指揮官専用の武器のご紹介だ」
「俺専用の? 新人の俺が?」
「驚くよな。だが、作ったんだ。受け取ってくれ」
新人である自分に専用武器。
用意してくれたのは嬉しいが、少し期待されすぎなのではないか。少し心に緊張がよぎった。
だが用意された武器を見て、その緊張は瞬く間に吹き飛んだ。
「ドローン⁉ これはいったい!」
自分の大好きなドローンを目にして瞳を輝かせる。
それは作業で使っていた大型ドローンよりもさらに一回り大きいドローンであった。
翡翠と白のカラーリングがされた洗練されたフォルムのドローンはトラノスケの心を奪う。
「ほらよ、アンタ専用にチューニングされた松下指揮官専用ドローン。名前は『ハイドラグン・試作型』だ。試作品だが、実戦でも投入できるぐらいには調整してるぜ」
「――ハイドラグン……ッ!」
自分専用のドローンが目の前にある。
トラノスケのテンションはマックスだ。
「しかしまあ、なんでお前が入隊したばかりで専用機を貰えるのか。それほどドローンの扱いが上手いのか? なら今度見せてくれよ。自信あるんだろ? まあさて、ここからは長い説明になるが、ドローンはお好きなんだろ? なら長話でも問題ないな」
「はい!」
「いい返事。このドローンは汎用性を重視した。戦闘、サポート、索敵、全てが可能。俺たち武器開発研究の技術の粋をこれに込めた。基本、なんでもできるぜ」
ドローンの説明が始まる。
「グラトニーを索敵するレーダーはもちろん、戦闘では他の戦闘用ドローンの性能をはるかに上に行く。まず高速飛行モードだとマッハ3を超える。時速でいうならマッハ1が約1224キロメートルだから約3672キロメートルってところか」
「――マッハ3⁉ 大型ドローンで音速の三倍並みの速度ってことですか⁉ ジェット機搭載していないのに⁉」
「おいおい、今時無人戦闘機だってマッハ10は超えるぜ。あとライフラインスーツ――機械仕掛けのパワードスーツっていう方がわかりやすいか? 体に機械の鎧を着ける奴。それでもマッハ5を超える。ドローンだって音速ぐらい軽々と超えれるさ。まあ普通の人間は障害物にぶつけるだろうだがな」
「まあそりゃ……」
「まあ、高速飛行モードのときだけだ。次に武装の話になる。こっちも大事だぜ。なにせグラトニーを倒すためにいいもん取り付けたからな。上部には連射できるビームライフル。まあバルカンだな。これは連射できる。出会い頭にこれをぶつけてやれ。弱いグラトニーはこれでくたばる。そんでもって下部にはビームキャノンを搭載。ウカミタマが使っているビームスナイパーライフルをちょこっと改造して装着させた。ビームキャノンの威力は折り紙付きだ。直撃させれば即死は間違いない。手ごわいグラトニーでも重症を与えることができるぜ」
「なるほど!」
「さらにサポートでビット装備も搭載している。ビットは全部サポート用。ビームバリアの壁を展開グラトニーの攻撃を防ぐシールドビッド、そしてウカミタマの自然治癒力を高めるウカリウム回復薬の煙を発生させるヒールビッド。特にシールドビッドは指揮官にとっちゃ大事なサポート道具だ。出力最大で大抵の攻撃は数発は防げる。これで己と部下の命を守ってやれ」
「おおっ! いいことしか言っていませんね! それほどまで高性能ってことですか」
自分が使うであろうハイドラグンの性能を聞けば聞くほど、本当に貰っていいのかと思ってしまう。そして早く操作してみたい、どんな動きをするのか確かめたい。ドローンを動かしたい欲がドンドンわいてくる。
「しかし、一つのドローンにこれだけの機能を積み込むとはな。普通ありえんぜ」
「そうなんですか?」
「武器の機能はシンプルな方がいい。あれこれつけても性能が中途半端になったり、緊迫した戦闘中に多くある武器からこれを使うって選択するのものむずいんだよ」
「なるほど」
「それぞれ特化した機能を持つドローン複数用意してそれを操作した方が楽ってわけさ。まあだから他のドローンもお前に渡しておくことにする。ドローン一機だけじゃあ心もとないだろ?」
それはありがたい。
いろいろなドローンも支給してもらって至れり尽くせりだ。
「まあ、ハイドラグンも中途半端にならないようにしているから。松下指揮官、上手く使ってくれ」
「はい!」
「あと大事なことだ」
長く説明して、一息ついて、
「これだけ性能を上げても、本体の防御面に関しては低い。グラトニーの侵食のせいでな」
「侵食……厄介な特性ですね」
「ああ、あの侵食能力のせいで戦車も戦闘機もライフラインスーツもグラトニー相手にしたらかってにやってきたご飯だ。なにせ都市一個火の海にするようなミサイルだって侵食して無力化しちまう。あの侵食がなかったらあんな奴ら、楽勝だったのによ。おかげで戦車やら戦闘機やら当時最先端の武装も日本国内ではもうほとんど見なくなって……侵食されたのさ。いやまあ、わずかに俺らの研究所にもあるんだか。まあその侵食が厄介でな」
ハイドラグンのボディに触れて、
「ウカリウムを混ぜた特殊塗料で塗っているだけだ。触れられただけで侵食はしないが、ちょっとでも傷がついて塗料が剥がれたらすぐに侵食される。気をつけろよ? 危なかったらビームバリアで何とかしろ。何回かは防いでくれる」
「本体に傷つかないように操作しろってことですか」
「無茶なこと言っているかもしれんが、そうしなけりゃあグラトニーとは戦えん。このドローンをうまく使えればお前もウカミタマの戦闘を支援できるはずだ。頑張りな」
ドローンや道具を支給される。
自分一人のためだけにここまで用意してくれるとは。しかも専用機のドローンまで。上層部やツカサのご厚意に感謝する。
ここまで期待されているなら、その期待に応えなければ。
「ありがとうございます!」
「……なあ、思ったけどよ。やっぱ敬語はいらないな。自然にしゃべってくれ。年同じぐらいだし」
「聞くけど何歳なんですか?」
「今年で二十一」
「二つ年上か。結構近いですね」
「この基地に男性で若い人あんまいないんだ。二十台になるとマジで少ない」
「そうなんですか……わかったよ八幡さん。話しやすいしゃべり方で話すよ」
「おう、こっちも気使わなくてすむ」
敬語を外していつも通りの口調で話すトラノスケ。
正直軍の中で気軽に話せる男友達がいるのはありがたい。宿舎内で何か問題あったらここに来ればいいし。
「……その指輪、法隆さんもつけていたような」
ふと、ツカサがつけている指輪を見て思い出した。
これ同じもの指輪ではないか。そう思って聞いてみたら、
「あっ、これ。一緒に買いに行ったんだよ」
「結婚してたのか?」
「飛躍しすぎじゃね?」
おそろいの指輪までしているからそう思ったが、そういえば名字の方は変わっていない。でもそれに近い関係のはずだ。
「結婚はまだしてねえよ」
「してねえってことは恋人関係、ってこと?」
「……恥ずかしいことズバズバ聞いてくんじゃねえよ! そうだよ! 悪いか!」
「えっ! マジ⁉」
結構驚くトラノスケ。
まさかアキラとツカサが恋人関係だったとは。
でもよく考えたら軍の中で恋愛しても不思議じゃあなかった。英雄とたたえられている法隆も恋はする。
「どんな出会いがあったんだ? 好きになった理由とか」
「結構踏み込んでくるな、おい」
「いいじゃん、押してくれよ」
「……出会いは普通に地球奪還軍に入隊したときに出会ったよ。好きになったのは……アキラの誰かを守る正義感とか、そんな強い意志にひかれて、それと同時に支えてやらないといけないそのか弱さとか……あとめっちゃ可愛くて、スタイル良くて――」
「すいません。聞いているこっちが恥ずかしくなってきた」
「聞いてきてそれかよ!」
二人が熱い仲だというのはすごくわかった。聞いているトラノスケも頬をわずかに赤く染めている。
「じゃあ逆にこっちが聞くけどさ、00小隊の中で誰が好みよ?」
「ぶっ⁉ い、いきなり何を⁉」
「こっちの恋愛聞いてきたんだからそっちも答えろよ! オラオラ、誰なんだ? 全員別嬪さんだぜ」
アキラほどじゃあないけど、と付け加えて強引にトラノスケの好きな女性を聞いてくる。男性同士でも恋バナは盛り上がるものだ。
「……白神さん、かな?」(前に助けられたし)
「へえ、白髪のナイスボディーな同じ年の女の子が好みと」
「それ、嫌いな人いるんすか?」
「まっ、いねえな」




