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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
ツムグ・ハートソウル
105/105

ちょっとした祝勝会

 鉄板だ。

 熱々に熱せられたホットプレートが目の前にある。

 そしてその中央には綺麗に焼かれたお好み焼きが。


「よっと!」


 へらを持ったイチカが巧みにひっくり返す。反対側もいい焼き加減だ。

 そこに手早くソースを塗り、マヨネーズをかけ、青のりに鰹節。ソースと鰹節の合わさった香りが食欲を誘う。

 そして大きめのお好み焼きを四等分にして、それらをさらに盛り付けて、


「できましたよ! 海鮮ミックスお好み焼きです! どうぞ!」


 皿の上に焼き立ての子おばしい香りを漂わせるお好み焼きが。

 リオ達もあっと驚いている。


「おお……鰹節が躍っているっ」

「ふふふ! こう見えてお好み焼きのセミプロですからね! 家ではよく作っていたんですよ!」

「プロじゃないのね」

『早く食べさせてくれよ! イチカ、交代交代!』

「はいはい、わかったから落ち着いて」


 ご飯を楽しみにしているトオカが表に出て、イチカが作ったお好み焼きを頬張る。


「うんめー! はむっはむっ!」


 出汁の風味と甘じょっぱいソース、そして海の幸の旨み口の中で一気にやってくる。熱々の生地にしんなりとしながらも甘みのあるキャベツ、そして噛むほど旨みが押し寄せてくるイカと貝、具がたくさんのお好み焼きは美味しさが多く詰め込まれていた。

 トオカが美味さに喜びながらどんどん口に運んでいく。

 箸が止まらない。

 それほどまでにトオカはイチカの作ったお好み焼きの虜となっていた。 


「あら、本当においしいわ」

「……あむ、はむ、がぶ」


 マリもリオもその味に舌鼓を打っている。


「リオの奴、ひたすら食っているぜ」

『そうでしょうそうでしょう! 久しぶりでしたけど美味しくできてよかった!』

「でも、どうやって食材を? 粉とか野菜とかは今のニューキョートなら楽に手に入るけど肉や海鮮はそうはいかないわ。人工物でもね」


 稲作や野菜などの植物は地球奪還軍の技術によって大量生産が可能となり、今では町に住む住民全てが気軽に買えるほどだ。プロテインバーはもっと安い。

 だが魚や肉はそうはいかない。

 農作物は種を地上から持ってこれたが、動物となると輸送するのも大変であり、実際ごくわずかの動物しか連れてこれず、さらに繁殖するとなると時間も必要。

 そのため今も魚や肉、乳製品などは他の食品よりも高く値段が設定されているのだ。だからこそ用意するのも難しいものである。


『トラノスケさんが用意してくれたんです』

「海鮮の食材って高いのに買ってきてくれたのか」

『お祝い事だからって奮発してださったんですよ』


 だが、トラノスケはせっかくの祝勝会兼トオカの歓迎会、めでたいときは美味しいものを食べたいものだ。

 だから街にいってイチカに頼まれたものを調達してきたのである。全部自費で。

 家族の治療費を軍が払ってくれているので懐に余裕ができ、こういったときに使うべきだと、トラノスケは迷うことなく今日のために出費を惜しまなかったのである。


「用意してくれたこと、感謝しないといけないわね。ところでイチカ、あなたお酒はイケる口?」

『いえ、一滴も飲んだことありませんが……興味はありますね』

「オレも! その茶色のお酒、くれ!」

「初心者にはウイスキーは早いわ。度数の低い奴から飲むべきよ。まあ悪酔いでもしたら、私が介抱してあげるわ。スッキリさせてあげる」

「……や、やめとく」

『危険な何かを感じ取ってしまうのですが……』

「…………はむ?」


 危険を感じ取ったのか、トオカはマリから距離を取る。リオは気にせずご飯を食べている。 


 一方、この場の食材を用意したトラノスケはと何をしているのかというと、


「焼肉しかり、お好み焼きしかり、こういう鉄板焼きはワクワクするよな」


 隣で焼いていた。


「料理は高校の家庭科の授業以来だが、なーに簡単な料理だ。問題ねえぜ!」


 しかし焼いているのはお好み焼きではない。

 そう、ホットケーキである。それが三つ焼かれてある。綺麗な黄金色だ、甘い香りが漂ってくる。

 十分に焼きあがったホットケーキをさらに映して重ねていく。


「三つだ! そしてクリームを間に挟んで、そして絞ってデコレーション! カラフルチョコを振りかけて……」


 最後に!


「中央に旗を立てて……口直しのミントをちょびっとのせて――」


 完成だ!


「できた! これが俺の『三重塔のホイップクリームたっぷりパンケーキ』だ! 食べてくれ!」

「わー! 綺麗なパンケーキですね~! はちみつありますか?」

 

綺麗に盛り付けされた三段重ねられたパンケーキ、その出来にエリナが目を輝かせる。


「メイプルならあるぜ。鉄板使うデザートといえばコイツよ! しょっぱいお好み焼きの後はパンケーキでガツンと行こうぜ!」

「パンケーキ〜♪ じゃあいただきます〜♪」


 満面の笑みを浮かべながら、トラノスケが作ったパンケーキを口に入れるエリナ。


「わあ〜……」


 さらに笑顔が明るくなる。

 しっとりとしたパンケーキに甘いクリーム、その甘さとおいしさにほっぺたがとろけそうになる。


「美味しいです~!」

「うまくいってよかった! ほら、皆も食べるか? あー、お好み焼き食べるのが先か!」

「甘いもの好きと聞いたけど……本当に大好きなのね、トラノスケ」

『パンケーキ! パンケーキですよ! わはー、ケーキなんて久しぶりですよ! トオカちゃんもどうですか⁉』

「オレ甘ったるいものよりほろ苦くて甘い奴がいい。コーヒーだ! コーヒーの粉末混ぜようぜ!」

「味覚は大人っぽいのね」

「コーヒーゼリーとかどう? 甘めのミルククリームがかけてある奴だ」

「もらった!」


 食材ついでに買ってきたコーヒーゼリーを貰ったトオカ。

 ほろ苦いゼリーがミルクの甘みを引き立たさせて、なおかつコーヒーの美味さも引き立たせる。

 甘さと苦さの割合が丁度よく、互いに調和し合って美味しさを作り出していた。トオカも満足そうに味わっている。 


「うめー!」

「ここまで喜んでもらえると色々と買ってきたかいがあるってもんよ」


 お好み焼きの材料だけでなく、様々なお菓子も買ってきていた。

 ニュー・キョートシティに住む日本人は食にこだわりを持っているのだ。安定した生活を手に入れた次は食の文明をグラトニーが襲われる前までに戻すことに執念を費やしたのだ。

 まだ新鮮な食材は高価なものの、手に入れられないことはない。


「なあ、トラノスケ。私もパンケーキもらっていいか?」


 トラノスケのパンケーキを羨ましそうに見たリオがそう聞いてくる。


「おう、パンケーキいるのか?」

「ほしい。いっぱいほしい」

「いいぜ! とびっきりのヤツを作ってやるよ」

「ありがとう……待っている」


 笑顔を浮かべて席に座る。

 ポーカーフェイスの彼女から漏れる自然の笑みにトラノスケは張り切ってパンケーキを作ろうとした。 


「……うむむ?」

「ツムグ、箸進んでいないけど腹すいてないのかい?」


 お好み焼きを見つめて唸っているツムグを見て、トラノスケは声を掛けた。ご飯を食べる人の顔ではない。皿も見てみると一口も食べていなかった。

 嫌いなものでも入っているのだろうか、と少し心配になって聞いてみると、


「す、すいません……自分小食なもので……この量でも多くて」

「いや、無理して食べてもつらいだろう。食べれる程度でいいぜ。残りは俺が食うから」

「申し訳ありません……指揮官さま」


(小柄だから胃も小さいのか?)


 いくら小食でも一口も食べないってことはあり得るのだろうか?

 そう思っていると、ツムグは近くに置いてあった鞄から何かを取り出す。


「粉薬からの栄養補給ゼリー……いやまあ、美味しく飲めるように改良されてはいるが……毎日これか?」

「はい。甘いので飲みやすいですよ」

「金に困っているとかじゃなくて?」

「こればっかりは体質の問題です」


 そう言って彼女は食事を始めた。

 いつもと違い、静かな表情。普段は笑顔で、そして任務や訓練の時は使命感を抱くようなまなざしであったが、全く見たことない彼女の顔であった。

 心なしか話し方も穏やかだ。


(俺は金の節約のために、ツムグと同じような食事をしていたが……彼女の場合、体質か)

「なあ、リオ。ツムグは前からこうなのか?」

「……そうね。彼女はいつも同じ物を食べている」

「そうか……」


 こっそりと隊長のリオに話を聞くと、ツムグの食事事情を理解した。

 軍に入ってからずっとこうなのだろうか。

 ならば無理に食事を勧めるべきではない。

 しかしみんなが集まっているのに一人で黙々とご飯を食べているツムグを見ると寂しそうに感じてしまう。

 輪に入ってくれればいいと考えて、彼女の食べられそうなお菓子を探して、


「ツムグ、これどうだ? プリン、俺お気にの店のやつだぜ」


 栄養補給ゼリーを食べていたのなら、柔らかいプリンなら食せるだろう。

 そう考えてツムグに買ってきたプリンを渡す。


「そ、それなら……ありがとうございます」


 トラノスケから貰ったプリンのふたを開けて、食してみるツムグ。

 スプーンの上でプルンと艶やかに輝くプリンを一口ほおばった。


「――……」


 彼女は止まる。

 そしてわずかに目を細めた。


「美味しかったか?」

「あっ、はい……美味しいです……とても」


 トラノスケにそう聞かれた瞬間、はっと目を開き戸惑いながらもそう答える。

 それは美味しいと思っているような顔ではない。

 嫌な感触を味わったかのような――マズいものを口にしたような顔であった。


(……甘いの駄目なのか? いや粉薬もゼリーも甘いって言っていた)


 ツムグは甘いものが好きだと思ってプリンをプレゼントした。

 だがプリンを食べている最中の彼女の顔はどこか険しい。

 甘いデザートを食べてそのような顔をするなんて甘いものが苦手な人ぐらいだろう。

 だがツムグのさっき食べていた粉薬や栄養補給ゼリーは甘いと言っていた。


「リオ……これって?」

「……わからない。だが彼女が無理をしているのはわかる」


 どこかツムグの行動に矛盾を感じる。

 リオの言う通り無理して嘘をついているような気がする。


「トラノスケ、愛しのイチカがあなたの分のお好み焼きを作ったって」

「ちょ、なに言っているんですか、マリさん! あれです、マリさんの戯言は気にしないでください!」

「急にきつい言葉ぶつけてきたわね」

「トラノスケさんのために大きなお好み焼き! できましたよ! 出来立てですから食べてください!」

「オーケー、すぐいく! ツムグ、行こうぜ。飯食わなくても駄弁るだけで楽しいもんさ」

「わかりました!」


 ツムグのことを考えているとイチカから料理が。 


(……食べているとのツムグ、ものすごく静かだったな)


 先ほどまでお好み焼きを楽しみにしていたが、今はツムグの様子が気になる。普段とは違う彼女の姿。

 だがなぜだろう、妙に胸に引っかかる。

 心臓がバクバクする感覚。

 そしてそれは恋のようなものではない。

 不安からなってくるものであった。

「みなさ~ん。エリナさん特性のお肉とネギたっぷりのそば飯ですよ~お好み焼きと一緒にいかがですか~」

『うわお……お好み焼き一枚食べたのにまたお腹すいてきたぜ!』

「こんなの……食べないわけないだろ! 最高だぜ、エリナさん!」

「……! 美味しい」

「わー! 炭水化物のコンビにあまじょっぱいソースの組み合わせ……食べます!」

「酒にあうわね。ってイチカ、ガッツリいくわね。丸くなっても知らないわよ」

「大丈夫ですよ! ウカミタマになってから逆に体重が減りすぎて……たくさん食べても問題ないですよ! それに、訓練でたくさん動いているんですから太りませんって! いやー、ウカミタマになって初めてよかったって思ったかも!」

「あなた、本当に変わったわね。愉快な方に」

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