地上からの逃亡者たち
――ピピピッ!
目覚まし時計がなり目を覚ます。
「もう朝か……まあ、太陽なんて昇んねえんだが」
目を覚ましベッドから起き上がって、洗面所に向かう。軽く歯を磨き、そこから冷蔵庫にあった健康食品であるプロテインバーと冷えた炭酸水を机に置いて食事を始めた。
彼にとってこれが当たり前の朝。
無音で食事するのが寂しく感じた松下寅之助はテレビの画面を付けた。
『昨日、『グラトニー』の集団が地上エレベーター付近で発見され、それらの対処を行おうと――』
だが内容を見て、寅之助の眉がゆがむ。嫌なものを見たかのような表情だ。
「またか……最近増えすぎじゃあねえか?」
ニュースを見てため息をつく寅之助。
西暦二一〇〇年の年末。
誰もが新世紀を迎えようとしたその時、奴らがやってきた。
それは青い隕石が地球の各地に飛来してきた。
そしてその隕石は国のいたるところに衝突。中には人々が住む街にまで落ちてきて、多くの被害を出した。
だがそれで終わっていれば隕石衝突の事故で済んだ。多くの建物の損失と少ない死亡者を出すだけだった。
隕石からひびが入り、そこから人の形をしたどろどろとした液体のようなものが現れる。
そしてその人の形をした液体が周囲を歩く。するとアスファルトの大地が白い灰へと変わり、建物も奴らが歩いた場所のようになっていく。
怯えた人間に奴らが触れたら、人の形をした灰へとなり命を消していく。
奴らは触れたものを喰らい、そして喰われたら白き灰へとなる。脱色されたかのように。
奴らに食えぬものはない。どんなものも喰らってしまう。
各国の軍隊が動いても、どんな兵器でも奴らには傷一つつけることすらできない。
超合金の銃弾でも、なんでも貫通させるビーム兵器でも、全てを壊すミサイルでも駄目だった。
最後には条例違反の生物を殺すためだけに作られた毒ガスの爆弾も使った。爆発した後の地球の大地のことなんか気にせずに。
だがそれでも意味がなかった。
奴らは地球のありとあらゆる物質と侵食できる。
ゆえにどんな兵器であろうとその物体に侵食し、自分の体の一部とする。それが爆発物であろうと毒物であろう関係ない。奴らにとっては食事をしているようなものだ。
ゆえに奴ら、地球外侵略生命体は地球ではこう呼ばれる。
暴食の悪魔、『グラトニー』と。
人類は己の命を守るために宇宙船で地球から逃げ出した。または地下十キロに作られていた超大型シェルターに避難した。それが完了したのが西暦二一〇一年の四月。
寅之助が選んだのは後者の方。
京都府の地下深くに作られていた巨大シェルター、『ニュー・キョートシティ』。シュンが暮らしているのは地下の世界なのである。人口は約百万人が暮らしている。
窓の外から街並みをのぞけば、反重力装置を乗せたホバーカーが地面と空中にできた道路を走り、小道を見れば様々な店が自分の商品をアピールするために空中液晶で3Dモデルのキャラクターが宣伝している。
グラトニーがやってくる前と変わらない景色。
二十一世紀の世紀末の科学技術があるからこそ、地下でも平穏に暮らしている。
寅之助がこの場所に来て三年がたった。今は二一〇四年。
グラトニーも地下深くまではまだやってこない。時間の問題かもしれないが、地上に比べたらまだ安全なのである。
だがそれでも、この地下で暮らしている人々はグラトニーに怯えながら暮らしている。
もしかしたらこのニュー・キョートシティにグラトニーが襲ってきてこの街が死の街へと変化してしまうかもしれない。
そんな不安を抱きながら。
「やべ! 早く職場に向かわないと!」
寅之助は作業服を見にまとい家を出る。
今日もこのような忙しくも不安であるが平穏な生活が続く、松下寅之助はそう思っていた。