48,蛇足
「どうしてこんな事になっちゃったんでしょう?」
リラが遠い目をして言った。
「どうしてって、何が?」
僕がそう尋ねると、彼女は両手を広げて僕らの居る場所を示した。
「何がって、この状況の事ですよ!」
僕らは今、王様の用意した馬車に揺られている。四人乗れる馬車に、僕ら二人だけ。それだけ彼女が敬われている、という事だろう。
中央広場に魔物が現れたあの日。
彼女が揮った力は王都の外まで達しており、周辺の魔物が根こそぎ消滅したのはもちろんの事、討伐者たちが午前中いっぱい頑張って集めた残滓も、ちょうど討伐者ギルドで処理中だった残滓も、まとめて綺麗さっぱり消えてしまっていた。
とは言え今回の件で、英雄として広く知られる事になった彼女へ文句を言う訳にもいかない。その結果、苦情は全て「全力で」と指示を出した僕のところへ回って来る事になったのである。
とまあ僕の方の話は、そんなところだ。
しかし彼女の方は、そんなものでは終わらなかった。
王城へ連れて行かれ、そこで王様と謁見。特級討伐者に任命されるも、彼女はこれを拒否。しかし王様はニコニコしていても、押しが強かった。断われそうにないと分かると彼女は、自分では魔力が扱えない事を理由に僕を巻き込んだのである。
だが前にも言った通り、ウィスタリアだって一人で討伐へ向かったりはしない。なので僕は彼女の護衛兼従者のような立場で落ち着いた。まあ僕からすれば、今まで通りとも言える。
「でもまあ、お城の料理には喜んでたよね?」
僕がそう言うと、彼女は気まずそうに目を逸らした。
「えっ、そ、それはまあ…、美味しかったですけど…」
任命の後でお祝いの料理が振る舞われると、不満そうだった彼女の機嫌はすぐに直った。僕としては食の殿堂と同じで、豪華で美味しいという事しか分からなかったが。
そして彼女が十分に満足したところで、王様から一つの頼み事をされた。
今この馬車が向かっているのは、中央山脈の最も高い頂き。
そこには聖剣で封じられながらも未だ消滅していないホロビがいて、これを完全に消し去る事が王様から託された使命なのである。
「まあ別に、魔物と戦うのはいいんです」
彼女は何て事もないようにそう言った。
人々からもてはやされるのは嫌でも、ホロビと戦えと言われるのは構わないらしい。
その力にしても運命にしても、彼女は自分の特異性に無自覚だと思っていたが、そもそも彼女自身が相当な変わり者だと思う。それもまた英雄らしさかもしれないが。
「でも、何て言うかその、私一人では…」
リラは言い淀み、チラチラとこちらを見た。
彼女が心配しているのは、自力で魔力を引き出せない事だろう。だが彼女が魔力を使える条件は、先日の件から考えても、恐らく人命がかかっているかどうかである。
だからまあ、彼女が本当に必要だと思える状況なら、まず間違いなく使えるだろうから心配はいらないと思う。
そう考えると僕のやっている事は、本格的に女神の意志に反している事になる。だが、それでも…。
「相手が特級でもホロビでも。君が必要とする限り、最後まで付き合うよ」
僕はそうハッキリと、確かな意志を込めて言った。似たような事は前にも言ったが、あの時は残り短い期間だと思っていた。しかし今は違う。
「えっ! 本当の本気ですか? 何ならこの先ずっとですよ!? え〜と、それから…」
すると彼女もいつかと同じように、これでもかと念を押してきた。
もちろん本当の本気である。
たとえ女神の意志に反していようとも。英雄と共に歩き、その活躍をこの目で見届ける事。それこそが僕の一番の望みなのだから。




