47,英雄を超える存在
戦っても戦っても、一向に魔物が減っていかない。
このままでは魔物が増え続け、そして以前ベルが言ったように、本当に第二のホロビが誕生してしまうかもしれない。
僕はこの状況を覆せるかもしれない、唯一人の存在に目を向けた。
「!」
するとリラも、僕の方を振り返っていた。この混乱状態では、彼女が剣を振る事は難しい。周りが邪魔で、全力を出せずに困っているのだろう。
「…よし」
僕はすぐに彼女の周りへ光る人型を数体出すと、ふらふらと不安定に飛ばして周囲の人々を追いかけ回した。
「ギャアァァァ!!」
すると人々は魔物の時より凄い叫び声を上げて一目散に逃げ出し、リラの周りにはすぐに大きな空白が出来た。さすがは、あのカメリア教官に悲鳴を上げさせた魔術だ。効果覿面である。
「今の内に、全力で!」
僕はこの機会を逃さずに、状況を覆す一撃を、と声を張り上げる。
「! …はい!」
力強く返された言葉と共に、彼女の体は目映い七色の光を放ち始めた。
「え?」
その光景に一瞬、誰もが目を奪われた。それは逃げ惑っていた人々ですら、一時その足を止めた程だ。
そして彼女が剣を抜き放ち、空へ向かって高々と掲げると、その光は天高くどこまでも伸びていく。本当にどこまでもどこまでも。それはもはや下から見上げるだけでは、どこまで伸びているのか分からない位どこまでも…。
「いや、ちょ、ま…」
あるいはここで僕は、程々でと言い直すべきだったのかもしれない。
よく考えてみれば、彼女が僕の手を借りずに魔力を使うのは、あの討伐実習の時以来だった。そして、どちらも人命のかかった状況である。
もしかすると僕はこれまでずっと一緒にいて、なお彼女の全力を見た事がなかったのかもしれない。
「えぇぇぇい!」
次の瞬間、彼女は剣を横薙ぎにして回転し始めた。すると七色の光もそれに追従して、広場全体をなめ尽くしてゆく。
「おいおい、マジかよ…」
そう呟いたのは、ウィスタリアだったと思う。
視界を埋め尽くす七色の光が、怒涛の勢いで迫って来る。
聖属性魔力は人には一切害がない。そう分かっていても、その迫力には僕もさすがに肝が冷えた。
「!」
しかし光に飲まれた途端、そんな恐れは全て消え去り、大きな安心感に包まれる。これが、聖なる魔力の輝きなのか。
「わぁぁ…」
同じく聖なる光に洗われた人々は、まるで憑き物が落ちたかのように大人しくなっていた。
そして七色の輝きが消えた後、そこには残滓の一つも残ってはいなかった。
リラは剣の一振りで、魔物をことごとく消滅させ、人々の不安までも消し去ってしまったのである。
絶望すら感じた戦いはあっけなく終わり、広場は不気味なほど静まり返っていた。
しかし今はまだ理解が追いついていないだけで、安全だと思っていた街中に魔物が出現したという恐怖は、簡単には払拭できないだろう。だがそれでは、いずれ先程と同じ事が起こってしまう。
これを治める為には人々を安心させる英雄が必要で、それが出来るのは彼女だけである。
そして、それを知らしめる事が出来るのは、ずっと彼女の側にいた僕だけだ。
「刮目せよ! 新たなる英雄の誕生を!」
僕は意を決して、声の限りに叫んだ。
そして取り敢えず形だけでも良いので、リラの体と剣を光魔術で光らせた。
「え!?」
彼女は驚いていたが、この際それは無視する。
『魔物を残滓一つ残さず殲滅するその力! その力こそ女神に与えられし聖なる剣!』
すると僕の意図を察したのだろう。ベルが僕の声を大きくしてくれた。
「ほら、ラセットも」
「ん、あぁ…」
ついでにベルに命じられたラセットが、リラの足元に土で即席のお立ち台を作り出し、遠くからもよく見えるように彼女を高く持ち上げた。
「…! …! …!?」
当のリラは困惑した様子だったが、これも声を大きくする風魔術の応用だろうか。リラの声は僕らの耳には届かなかった。
逆に手を上げ下げする様子は、人々へ手を振っているようにも見えた。
『彼女こそは英雄をも超える存在!』
僕はそこでウィスタリアの方をチラリと見たが、彼も僕の意図を理解しているのだろう。やや不満そうではあったが、何も言わずに成り行きを見守っていた。
ここに状況は整った。
広場にいる全ての人が彼女の事を見詰めている中で、僕は声高らかに宣言する。
『讃えよ! 真なる英雄! その名はライラック!』
その言葉を噛み締めるかのように、辺りにはしばし静寂が訪れる。そして次の瞬間、中央広場には人々の大歓声が湧き起こった。
「「「ライラック! 真なる英雄! ライラック!」」」
この日、サウスラントに新たな英雄が誕生した。
リラ:あの時、ライくんを選んだ事に後悔はありません。でもそれはそれとして、今は一発殴りたいです!




