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せかいでいちばんつよいひと  作者:
第1章:訓練所
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4,聖属性と光属性

 カメリア教官が他の訓練生たちを見に行ってから、僕らは運動場の端にあるベンチへ移動した。

「自分が魔力持ちだと知らなかったのなら、魔力について知る機会もなかっただろう。だからまずは訓練の前に、魔力について一通り説明しようと思う」

 魔力の確認を怠るような孤児院だから、とは僕も敢えて口にしなかった。

 大抵の孤児院は、孤児を含むあまり裕福ではない十才から十二才の子供に簡単な教育を与える教育機関を兼ねるが、その質は場所によって大きな差があると聞く…。

「はい! お願いします、ライくん!」

 元気いっぱいに返事をする彼女。やる気があるのは結構な事である。

 …まあいいか。話を戻そう。

 魔力とは全体の十パーセントしか持たない体力とは別の力である。しかし体を動かせば体力を使うように、体の一部である魔力を使えば体力が減る。

 と、この辺りは基本中の基本なので軽く流そう。

「そして魔力は全てが同じではなく、属性によって六つに分かれている。火土水風、それから君の聖属性と…、僕の光属性だ」


 火属性は攻撃力の高さに比べて、負担の軽い極めて強力な属性である。その代わりに攻撃以外にはほぼ使う事が出来ない。同期ではカルミンがこれに当たる。

 土属性は重さを持つ力であり負担も重いが、その重さが攻撃にも防御にも生きる為、これもまた強力な属性である。同期ではラセットとエクルがこれに当たる。

 水属性は重さを持つものの土よりも負担は軽く、その分だけ土より攻撃も防御も劣る。ただ水を生み出せる事自体が強みでもある。同期ではゼニスとシアン。

 風属性は光に次いで負担の軽い属性である。その分、攻撃に利用するには高い練度が必要になるが、一応過去に特級討伐者になった者もいる。同期ではベルとウィロー。


 一般的に魔力持ちと言えば、この四つを思い浮かべる人が多い。それは魔力持ちには魔物と戦う事が期待されていて、実際討伐者のほとんどはこのいずれかであるからだ。

「そして例外の一つ。君の持つ聖属性は、魔物に対して絶大な効果がある、極めて希少な属性だ。攻撃にも防御にも使えて、魔物と戦って負ける事はまず有り得ない」

 その力ゆえに聖属性の持ち主は皆、英雄の卵のようなものだが、その中でも最も有名なのは、言うまでもなく特級討伐者のウィスタリアだ。彼は在野の討伐者では太刀打ち出来ないような魔物が現れた時に派遣される、名実共に最強の英雄である。

「へー、凄いんですね」

 しかしその説明を聞いた彼女の反応は、僕の予想に反して薄かった。

 いや彼女自身の属性の話なんだけど…、まだ実感が湧かないのだろうか。最近まで自分が魔力持ちだと知らなかったのなら、まあそんなものか。

「…最後に僕の光属性は、よく聖属性と混同されるけど、全くの別物だ。言葉通りに光を操れるだけで、攻撃力は一切ない」

 気を取り直して僕は、最後に残った属性の説明をした。

 光属性持ちも四属性と同じくらいは居るはずだけど、討伐者として見かける事はまずない。聖属性よりも珍しいくらいである。

「ライくんの光属性も、十分凄そうですけど…。ほら、光ってそこら中にあるし、無いと何も見えないじゃないですか?」

 実に良い質問だ。しかし結論から言おう。僕は太陽の光を操れない。

 これはほとんどの人が勘違いしているが、その属性のものなら何でも操れるという訳ではない。僕はランプの明かりなら操れるが、太陽の光は操れない。同じように他の属性も、汲んだ水は操れても川は操れなかったり、岩は操れても大地は操れなかったりする。

「え? 何でですか!?」

 彼女が驚くのも無理はない。僕は説明するのに分かりやすい例を探して運動場を見回し、そして一人の訓練生を指差して言った。

「あそこに火属性のカルミンがいるだろう。彼は教官の出した炎を消す訓練をしているけれど、それが訓練になり得るのは、自分より強い者の魔術に干渉するのが大変だからだ」

 その事実から、この世界は人以上の存在が魔術を使って形作った物。すなわち女神様が、魔術で創り出した物だと考えられている。

「そんなの、初めて聞きました!」

 まあこの辺りは僕も訓練所に入ってから聞いた話だけど。僕らは皆、この世界を創ったのは女神様だと聞かされて育つけれど、普通はどうやって創ったかなんて話はしない。

 とまあ、最後はちょっと話が逸れてしまったが、ひとまずこんなものだろう。

「何だか魔力について分かって来ました。今なら出来る気がします!」

 彼女はそう言って、自信ありげに拳を握った。

 まあそれは気のせいだったが。


「今度こそ出来ると思ったんですけど…」

 がっくりと肩を落とす彼女。まあそんな簡単なら教官も、わざわざ僕に話を振らないだろう。しかしこれで駄目となると、次はもっと具体的な感覚の話をしなければならないが。具体的な感覚というのも矛盾している気はするけれど。

 直接指示できれば早いのだが。感覚的にあると感じて、実際に魔術が使えるだけで、僕も自分の中の魔力を直接見た事はない。

「?」

 どう説明しようかと思い、改めて彼女を見た時、不意に彼女の中へ光を感じた。精神性の話ではなく、魔術で干渉出来そうな光の存在を感じたのだ。まさか服の下にランプを隠し持っている訳でもないだろう。

 僕が見た事のある聖属性持ちはウィスタリアだけだ。記憶の中の彼は、光の斬撃を飛ばして魔物を両断していた。もしかすると聖属性の魔力には、光としての側面もあるのだろうか。

 僕は自分の魔力を使ってその光を引き出そうとしてみたが、それはまるで太陽の光のように動かす事が出来なかった。

「!」

 しかし別のものが動いた。僕の魔力に反応するかのように、彼女の肩が上下したのだ。

「…今、何か感じたかな?」

 半信半疑ではあったけれど、もしかしたらと思い念の為、彼女に確認をした。すると彼女は大きく頷いてこう言った。

「は、はい。なんだか胸の奥を引っ張られたような…」

 どうやら、これは彼女の魔力で間違いないようだった。まさか本当に出来るとは思わなかったが。

「え? 今のライくんなんですか!? これって凄いじゃないですか! こんな事、カメリア教官も出来ませんでしたよ? 何でそんな冷静なんですか!?」

 そうは言っても希少な聖属性と、それ以上に希少な訓練を受けた光属性が揃って、初めて可能な方法では、他に使い道もないだろう。

 でもまあ今回に限っては、彼女に魔力を直接指示できるのは有用だ。大いに活用するとしよう。

「とにかく、これならすぐ出来るようになりますよ!」

 さっきも似たような台詞を聞いた気がするけど。


 この後も『もう後ちょっと』だの『惜しい所まで来てる』などと言い続けた彼女だったが。結局この日は、魔力を引き出せるようにはならなかった。

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