21,事の顛末
魔物が黒い粒子となって風に散ってゆく。
「はぁ」
その隣で未だ僅かな光を放っているリラは、魔物が跡形もなく消滅した後も、そのまま放心したように立ち尽くしていた。それは、とても幻想的な光景だった。
一方の僕らは、一連の光景に目を奪われて、一言も発する事が出来ずにいた。
「お前たち、何でこんな所にいるんだ!」
そんな空気を破って、突然聞き覚えのある声が聞こえてきた。驚いて振り返ってみると、案の定それはカメリア教官だった。
南門からズカズカと歩いて来るカメリア教官だったが、その後ろにはもう一人、別の教官がいた。特別講師のブラウン教官。前にも少し話したが、ラセットが憧れている土属性の特級討伐者である。
「…あ~ぁ、何も出来ずに見付かってしまいましたね。まさかカメリア教官も戻って来るとは思いませんでした」
この教官たちの登場に対して、いち早く反応したのはベルだった。彼女は僕らに目配せをしてから、殊更に明るい口調でそう言った。その口振りから察するに、どうやらベルは魔物と遭遇した事を隠すつもりのようだ。
先程のリラの活躍を隠す事は、僕としては不本意なのだが。しかし既に規則を破っている以上、怒られる理由は少ない方が良いのは間違いないだろう。
カルミンと、そしてもう光っていないリラも、その意図を理解したようで、会話をベルに任せて成り行きを見守っている。
「全く、お前たちのような者が出るから、敢えて説明しなかったのだが。今回はそれが裏目に出てしまったか」
カメリア教官は僕らの所までやって来ると、そう言って呆れたように溜め息を吐いた。そんな僕らの様子に、追いついて来たブラウン教官が笑いながら言った。
「カメリア教官が、何でお前たちを早く帰したか分かるか?」
ブラウン教官は、目印の大岩を魔術でポンと出した人物である。土属性かつ特級討伐者として、納得の巨漢だった。
「今回のように魔物が急に姿を消した時は、必ずという訳ではないが強力な魔物が出現する前触れである事が多い」
なるほど。だからカメリア教官と一緒に、ブラウン教官もここへ現れたのか。確かに特級討伐者のこの人なら、どんな魔物が出て来ても大丈夫だろう。
きっとこんな時の為に訓練所にいるのだろうな、とこの時は思ったが。後で聞いた話では、ただ城勤めに飽きて、無理を言って訓練所の教官に収まったのだとか。
「一般的には、強い魔物が現れる事で弱い魔物が逃げ出すから、とも言われているが。俺としては魔物に、そんな知能や感情があるようには思えんのだがな」
それにしても、あの魔物がそれ程の相手と分かった事で、先程の自分の不甲斐なさにも一定の説明がつき、少しだけ安堵する。まあそれと同じ分だけ、先程のリラの凄さも増してしまった訳なのだが。
「まあ、そう言う事だ。そう滅多にある事ではないのだが…。先程も言った通り、こういう時は町へ戻った方が無難だ」
カメリア教官は先程と同じ忠告を繰り返したが、最初から言ってくれればとは…、別に思いはしなかった。聞けば聞くほど説明されてもされなくても、同じ結果になっていただろうと思える。倒せるとまでは思わなくても、一目見てやろうとは思ったに違いないから。
「ブラウン教官。呼んでおいて申し訳ないが、ここはお願い出来ますか。こいつらを連れて帰らないといけないので」
「ああ、気にするな。もし特級が出ても、俺が何とかするさ。それよりも、問題児を見張っておかないとな」
カメリア教官の申し出を、ブラウン教官は気さくに請け負った。
するとそこへ、ベルが口を挟んだ。
「え~、ブラウン教官もいるなら平気じゃないですか? せっかくなので見学くらい…」
来たばかりで何もしてないアピールだろう。その強力な魔物とやらはもういない事を知っているはずのベルは、敢えて普段なら言いそうな事を口にした。
「駄目だ」
そんなベルの言葉を、カメリア教官はもちろん却下する。
「お前たち、当然罰則がある事は分かっているな。だがまずは、ここを離れよう。四人とも付いて来い」
そうして僕らは訓練所へと戻され、余計な事をしないように即刻解散を命じられたのだった。
ちなみに罰則は、用具倉庫の清掃と決まった。もちろん中にある物も含めてだ。たくさんある使い古しの防具のパーツを、一つ一つ丁寧に磨き上げるのが僕らに科せられた罰である。




