2,編入生
魔力持ちの人間というのは、全体の約十パーセント程度だと言われている。しかもその全てが討伐者となる訳ではなく、約半数が戦う事を恐れて一生魔力を使う事なく生きていくと言う。
だがこの世界には魔物という明確な脅威があって、この国の王様は何とか討伐者の数を増やしたかった。そこで作られたのがこの訓練所である。具体的に言うと、魔力を持った金持ちの二男や三男といった、金はあっても実家を継ぐ予定のない者を集めて、討伐者に仕立て上げようという訳である。
また更に数を増やそうと思ったのか、孤児の中からも魔力のある者は将来の討伐義務と引き換えに、無償で教育を受けられるという制度があった。正直、光属性ではあまり魔物討伐の役には立たないと思うが、属性に関する条件はなかったので、それに乗っかってやって来たのがこの僕という訳だ。
意外かも知れないが、訓練所にも座学はある。一応、王立の名を冠する教育機関だからか、その生徒にはそれなりの知識を持っていて欲しいのだろう。
その日、教室に現れたカメリア教官は、見慣れない少女を連れていた。見たところ僕らと同じくらいの年齢なので、助手という訳でもないだろう。
「あー、急な話だが、編入生を紹介する」
開口一番で教官が放ったその言葉に、教室の中がざわついた。と言うのもこの訓練所は、先程言った通りの理由で作られたもので、この国に一つしかないからだ。普通は親に倣って、と言うのが一般的な討伐者のなり方である。にも関わらず編入して来るという彼女は、一体どこから出て来たのか。
「静かに。彼女は孤児院側のミスで、魔力の確認がされていなかった。そのまま村の農家で一年間見習いの仕事をしていたそうだが、つい先日聖属性の魔力持ちである事が発覚した」
続く言葉に、今度は教室が静まり返った。教官に言われたからではなく、皆が息を飲んだからだ。
前にも少し言ったが、聖属性と言うのは対魔物に特化した属性であり、特級討伐者ウィスタリアもこの属性だった。しかし何より聖属性は、全体の一パーセントにも満たない希少な属性なのである。
なんでも北にある規律の国ノースラントでは、聖属性という時点で魔物と戦う事を義務付けられたりするそうだが、自由を掲げるこの国ではそうもいかない。
でもやっぱり魔物と戦う者は一人でも増やしたい、という事で聖属性の人間は訓練所に通って、一応戦う術を身につける事が義務付けられていた。義務だから無償だし討伐義務もないけれど、せっかく身につけた技術だからと討伐者になる事を期待されているのだろう。
「まあなんだ、一年生に入れるか二年生に入れるかで少し揉めたんだが、あくまで義務という事で二年生へ編入する事になった」
教官は明言しなかったが、彼女が剣も握った事のなさそうな少女だったから、というのもあるのだろう。あくまで国で定められた義務で連れて来られただけで、実際に討伐者になる事などないのだろうと、教室の誰もがそう思っていた。
「えっと、初めまして、ライラックと言います。戦いとかよく分かりませんが、私にその力があるのなら、皆を守りたいと思います」
けれどそんな彼女の自己紹介を聞いて、僕は大いに感銘を受けた。
「それでは授業を始める。今日は初めての者もいる事だし、軽く討伐者とは何かというところから改めて説明する」
そこからは普通の授業となった。
と、それだけでは何なので、以下にその簡単な内容を記す。
討伐者とは元々、村の用心棒から始まった職業である。
それから村が町になり、用心棒が討伐者と呼ばれるようになる頃には、報酬関係で揉めるようになった。お金を払わない悪質な依頼者や、法外な報酬を要求する悪質な討伐者が現れ、それらを管理し取り締まる組織が生まれた。それが討伐者ギルドである。
現在、討伐者ギルドは役所とも連携して、町の税金の中から治安維持費として報酬を用意し、またきちんと住民登録された者のみの登録制で討伐者を管理している。つまり問題を起こして別の町へ流れても、住民登録がないから討伐者の仕事が出来ないのである。もちろん登録のない者が勝手に報酬を要求した場合は処罰される。
そんな以前にも聞いた話を聞き流しながら、僕は一人物思いにふけっていた。
僕はかつて一人の討伐者に憧れて、討伐者を志した。けれど最近は目先の目標に囚われて、最初の憧れを忘れていたように思う。
目を閉じて、あの日の光景を思い出す。
僕がウィスタリアに憧れたのは、強かったからでもなければ、特級討伐者だったからでもない。迷わず人を救う、その大きな背中だった。
編入生の彼女は戦う為の訓練など受けた事もないのに、皆を守りたいと言った。もしかすると彼女は、英雄と同じ精神を持っているのかもしれない。




