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せかいでいちばんつよいひと  作者:
第2章:討伐実習
19/46

19,カルミンの提案

 僕らが訓練所へと戻ってから、カメリア教官が解散を告げた事で、本日の授業は終了となった。けれど僕は、そのまま部屋へ戻る気にもなれず、未だ運動場にいた。

「………」

 普通に考えれば、別に深刻になるような話でもないだろう。まだまだこれから、実習の機会などいくらでもある。卒業までの一年間、ずっとこんな調子なんて訳でもあるまいし。急ぐ必要など、どこにもない。

 しかし。とは言え、だ。

 何とも言えず、空虚な気持ちになってしまうのは、どうしようもなかった。

 せっかく防具一式も身に着けたのだ。せめてこれで、素振りか走り込みくらいはしようかと思っていると、カルミンが声をかけてきた。

「ライ、ちょっとこっち来い」

 そう言いながら肩を組んでくると、そのまま運動場の端まで連れて行かれる。そして、まるで規則破りでも持ち掛けるかのようなヒソヒソ声で、こう囁いた。

「今からこっそり抜け出して、延長戦といこうぜ」

 なんと言う事だろう。それは本当に規則破りの話だったのである。

「お前だって、このままじゃ納得いかないだろ? 今更こんな所で立ち止まってられないぜ!」

 それは実に若者らしい、感情的で情熱的な主張だった。

 けれどその言葉を聞いて僕は、かつて英雄を一目見ようと、孤児院を抜け出した時の事を思い出す。もしかしたら僕は、待っていたのかもしれない。そうする為の、きっかけを。

 結局のところ、僕は好きなのだろう。そういう馬鹿をやるのが。だからこそ、これまでカルミンの挑発にも全て乗っかって来たのだ。

 であるならば、今回だけ例外という事もない。

「…いいね。行こうか」

「! …だろー!」

 もしも、この結果が再び戦果ゼロであったとしても、僕はもう空虚さを感じる事はないだろう。


「なかなか面白そうな話をしていますね」

 僕らが運動場の端でヒソヒソ話をしていると、いつの間にか後ろには当たり前のような顔でベルが立っていた。

「その話、私も乗りますよ」

 一瞬、止められるかとも思ったが、彼女はすかさず参加表明をしてきた。まあ彼女はエクルの意見を後押ししていたくらいだし、こんな話を聞けば乗ってくるか。

 それはまあ良いのだが…。

「わ、私も行きます!」

 その更に後ろにいるリラまで、何故か参加表明をしてきた。ベルの方は元々行儀の良い問題児という感じだったが、果たしてリラの方は僕らが何をしようとしているのか、本当に分かっているのだろうか。

「問題ありませんよね? あるなら今すぐカメリア教官を呼んで来ますけど?」

「お、おう…」

 笑顔で脅迫してくるベルに対して、カルミンは曖昧に頷くだけだった。

 結局、彼がベルの脅迫にあっさりと屈した事で、なし崩し的に僕らは四人で行く事になった。

「それで二人は、どこへ向かうつもりでしたか?」

 カルミンが大人しくなった事で、話の中心は完全にベルへと移行してしまう。

「それはまあ、北門かな」

 仕方ないので、その質問には僕が答えた。

 南門は普段閉まっているが、逆に王都がある方角の北門は大体開いている。僕らがこっそり町の外へ出るなら、こちらからしかないだろう。

「ふむ、それには反対ですね。訓練所が南門の外で実習をしているのも、それなりに理由があるのでしょうから。一つ規則を破る以上、それ以外は規則に従った方がいい。行くなら南門にしましょう」

 まあベルの言う事にも、一理あるかもしれない。しかし理はあったとしても、その為の方法がない。

「でも南門は、閉まってるだろう?」

 僕は極めて根本的な問題を指摘した。先程も教官が門番に言って開けて貰っていたのだ。僕らがこっそり行って、外に出られるとは思えない。

「そこは私が何とかしましょう」

 自信に満ちた顔でそう断言するベル。お金持ちって凄いな。そんな事も出来るのか。リラとカルミンも、何とも言えない表情をしている。何故かチラチラと僕の方を見てはいたが。

 だけどまあ、出来ると言うなら僕に否はない。たとえ南門の外に魔物がいなくても、僕はもう気にならないのだから。


 それから実際に南門へと移動し、ベルが詰所へ向かうと、程なくして格子の扉がゆっくりと上がり始めた。本当に、出来るものなんだな…。

「………」

 僕が感心して見ていると、何故か残りの二人は僕を見ていた。だが今注目すべきは、僕ではなくベルではないだろうか。

 不思議に思っていると、カルミンが何事か言いかけた。

「いや、あのな、ライ…」

「お待たせしました。さあ、行きましょう」

 しかし丁度ベルが戻って来たので、その話は有耶無耶になった。

 まあそれはともかくとして、本題はこれからだ。僕らは開かれた南門を抜けて、再び町の外へと向かったのである。

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