13,最終学年
それからも色々な事があった。
訓練所の女性陣が住んでいる別棟校舎に不審者が忍び込もうとして、守護神であるカメリア教官に尻を焼かれたり。僕がリラに奢られたり。
当時三年生を担当していたスマルト教官と我らがカメリア教官が、どちらの担当する訓練生の方が優秀かで、本気の喧嘩をしたり。僕がウィローに奢られたり。
僕は知らなかったが、訓練所にいる土属性の教官が実は特級討伐者だったとかで、ラセットが早口になったり。ベルが同期全員を引き連れて豪遊したり。
他にもあれやこれやがありつつも、僕らは討伐者になるべく訓練を続け、そして最終学年である三年生になったのである。
今日も今日とて模擬戦闘訓練の時間である。僕の相手は、もちろんカルミンだった。
「さあ行くぜ、ライ!」
そう言って彼が抜き放った剣に指を滑らせると、その刃が炎に包まれてゆく。
魔術の授業でずっとやらされていた炎を消す訓練において、カメリア教官から合格点を貰った彼は、今では自分が生み出した炎を他のものに燃え移らないようにする事が出来た。要するに今彼が出した炎は、熱を持った幻のようなものである。
僕がフェイントに使用する光る剣をよっぽど気に入ったのか、彼はそれを剣に炎を纏わせる事に使用していた。今は安全の為に熱を下げているが、火力を上げれば魔物相手にも一定の効果が期待出来る為、教官も注意したりしない。ちょっと呆れた目で見てはいるが。
対抗して僕も光る剣を作り出すけれど、彼と同じでは芸がない。
「…出でよ!」
僕がそう言って手の平をかざすと、地面に光の波紋が広がって行き、やがてその中心から長大な光の剣がせり上がって来た。
「な、何だそれ、カッコイイじゃねーか!」
これにはカルミンも大いに食い付いた。しかしそんな事をやっていると、教官から注意されてしまったが。
「そこ! 真面目にやれ!」
カルミンに対しては、さすがにフェイントも目潰しも効きにくくなって、二年生の後半は勝ったり負けたりしていたが、三年生になってまた僕が勝ち越していた。理由は彼が魔術を使って余計な事をしている為である。火属性も光属性ほど軽くはないのだ。
模擬戦が始まって、僕らは幾度か剣を打ち合わせる。さて今回は、どうやって彼の隙を突こうか。
そんな僕らの隣では、模擬戦一位と二位が真剣勝負をしていた。
相変わらずラセットに勝つ事へ固執しているベルだったが、その戦い方は大きく変化していた。彼女は体格、腕力、体重の全てで勝るラセットに力で対抗するのを止め、逆に身軽さを武器とする事にしたようだ。
今も彼女は、風魔術を併用して常人では有り得ない高さの跳躍をすると、ラセットの頭の上を跳び越し背中からその胴を狙う。
「貰った!」
その剣はラセットが振り向くよりも早かった。しかしそんなベルの一撃を、不格好な茶色い腕が受け止めた。
それは肘から先だけしかないような、土で出来た作り物の腕だった。ラセットが例の幽霊騒動の時に散々練習させられたもので、今では体術にも秀でた彼の定番の魔術となっている。
受けるだけなら手である必要はないのだが、逆に手であれば掴む事が出来る。土の腕がそのままベルの剣を掴もうとするのを、彼女は後ろへ吹き飛ぶように距離をとってかわした。
「ますます人間離れしてきたな。…ベルは」
風魔術を併用したベルの機動力は、既に僕らでは追いきれなくなってきていた。
「ラセットに言われたくないです」
一方のラセットも難攻不落さへ更に磨きがかかり、同期の中でこの二人だけ別次元の戦いを繰り広げていた。
他にもリラなどは一応基礎訓練を卒業して、皆との戦闘訓練に合流していた。
「えい!えい!えい!」
「…リラちゃん、もうちょっと落ち着いて」
もっとも根本的に、剣術には向いていないようだが。今もウィローと対戦しているが、その姿は子供が棒切れを振り回しているようにしか見えない。
しかしこの一年で最も変わった者と言えば、間違いなくエクルだろう。いつも消極的だった彼は二年生の途中から突然やる気になって、猛烈に練習へ打ち込み始めた。
今もカメリア教官へ指導を願い出ていた。
「カメリア教官。もう一度、手合わせをお願いします!」
リラが合流した事で僕らは九人になり、模擬戦では一人余るようになった。その為、最近は余った一人の相手をカメリア教官がしているのだ。
「お前な…、私とばかりやってどうする。他の連中とやって来い」
しかし既に一度エクルの相手をしていたようで、教官は少し呆れたようにそう返した。
「…分かりました。では一回りして来たら、また手合わせして頂けますね?」
「ああ、もうそれで良い。さっさと行って来い」
この場でカメリア教官が一番強いのは間違いない。その教官と戦うのが一番練習にはなるのだろうが、それにしたって少々焦り過ぎだと思わないでもない。
とは言え、エクルでなくとも逸る気持ちは、みんな同じだっただろう。最終学年でもある今年は、ついに町を出ての討伐実習があるからである。




