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せかいでいちばんつよいひと  作者:
第1章:訓練所
10/44

10,新技の披露

 昨日は結局、昼休みだけでは時間が足らずに、放課後も集まって話し合った。そのお陰で、どうにか新しい技の形も決める事が出来た。後は実践するのを待つばかりで、こんなにも模擬戦が待ち遠しいと思ったのは初めてだった。

 そして待ちに待った模擬戦闘訓練。授業が始まるとカメリア教官は簡単な指示を出してから、リラに剣の扱いを教え始めた。まあ彼女に関しては、さすがに皆と一緒に模擬戦とはいかないだろう。

「さあライ! お前の相手は俺だ!」

 さて誰で試そうかと思っていると、呼んでもいないのにカルミンが向こうからやって来た。しかしまあ丁度いいので、新しい技は彼で試させて貰う事にしよう。

 そう思って了承すると、彼はおもむろにポケットから何かを取り出してみせた。

「言って置くが、もうお前の魔術は通用しないぜ!」

 カルミンが自信満々で取り出したのは、鍛冶工房などで使われている色付きの眼鏡だった。まあ色付き眼鏡は光に強いかもしれないが、逆に光っていない物は見にくいのでむしろ都合が良いか。

 それにしても色付き眼鏡を着けたカルミンは、街のゴロツキ感が凄かった。一応彼もお金持ちの子息のはずなんだが。

「………」

 まあ気を取り直して、僕は鞘の中で刃を光らせた。そして敢えてゆっくりと引き抜いていく。するとその隙間から光が漏れ出し、徐々にその輝く刃が露わになっていく。その様子に一瞬、カルミンは言葉を失い目が釘付けになった。

「なっ!?」

 やはり男はみんな光る剣が大好きなのである。ついでなので更にカッコよくなるように、光の尾もつけよう。試しに軽く振ってみると、まるで炎のように光が尾を曳いた。

「カ、カッコイイだけじゃ意味ないぞぉ」

 そうは言っても語尾に力がない。彼の目は、今も光る剣に釘付けになっている。

「よーし、行くぞライ。そのカッコイイ剣で受けてみろ!」

 訓練所へ来る前から剣を習っていた三人の中で、カルミンの剣術だけは他と少々違っていた。他二人が実戦的なのに対し、彼の剣は良く言えば綺麗、悪く言えば型通りなのである。

 教官の話によると、世の中には金持ち相手に教養として剣術を教える人間がいるらしい。そして彼らの教える剣術は、型通りであまり実戦向きではないのだとか。それでも魔物が相手なら手の読み合いになる事もないので、カルミンの剣も訓練所的には良しという事になっている。

 一方の僕はウィスタリアと出会ってから剣を振るようになり、一応剣が手に馴染むようになってはいるが全て自己流だ。なのでカルミンの型通りの剣術は、手本として非常に都合が良かったりする。

 そう言えば、これも魔術と同じだろうか。教官に教わるよりも、同期の方が分かり易いというヤツだ。一年かけて彼の型を覚え、そして練度の差を魔術で埋めているのが今の僕である。

 色眼鏡をかけたカルミンに目潰しは効きそうにないが、代わりに光る剣が気になり集中出来ていない。お陰で目潰しなしでも、少しの間なら持ちこたえる事が出来た。

「どうしたライ! そのカッコイイ剣は飾りか?」

 僕はときおり距離を取っては、無駄に剣を振り回して印象付けたりもしていたが、もうそろそろ良いだろう。

 彼の目が光る剣に慣れた頃合いを見計らって、僕は剣を二つに分けた。本物の剣と、魔術で作った光る刃にだ。

「!?」

 魔術で作った刃は手で持つ必要がない。僕はそれを大上段に掲げ、ウィスタリアを真似て斬撃でも飛ばしそうなくらいに強く光らせた。

 すると光に慣れてしまっていたカルミンは、咄嗟にそれを剣で受けようとする。その間に僕は光っていない方の剣を、がら空きの彼の胴に当てた。これで今日も僕の勝ちである。

「おい、今のは何なんだよライ!」

 カルミンが興奮気味に詰め寄って来るのを適当にかわしていると、カメリア教官から声をかけられた。

「ほう、面白い事を考えたな。光魔術によるフェイントか」

 教官はリラに指導しながら、こちらの戦いも見ていたようだ。

「剣で倒せる以上、魔物も剣をかわそうとする。扱いは難しいが、目潰しよりは効果があるかもしれんな」

 そう。昨日ベルが提案してきたのは、光魔術を使ったフェイントだった。咄嗟に剣をかわせる者ほど、刃の煌きには反応してしまうという訳だ。目潰しより使い方を考える必要はあるが、逆に言えば工夫の余地があると言う事でもある。それに他にも手札があるとなれば、模擬戦でなら目潰しもまだまだ通用するだろう。

「良かったねライ君。うまくいったんだ」

 一区切りついたウィローも、嬉しそうに声をかけてきてくれた。そして、その向こうではベルが、まるで師匠のような顔で頷いている。二人とも、昨日のアイデアがうまくいった事を喜んでくれていた。

 何と言うか。こんなのも悪くはないなと、訓練所二年目にしてそう思った。

「…うん、ありがとう」

 僕はそう答えてから、ちょっと笑いが込み上げてしまった。

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