6
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「てめぇの仕事熱心さには頭が上がらないぜ」
「えへへ、すごいでしょ」
褒めてない。夕方にはアジトに帰って1週間ばかりはダラケて過ごそうと思ったのに、モーテルで、パンツ1枚で朝日を浴びているとアーヤがニコニコ笑顔で言った。「いい仕事をもらった」と。
「ワクワクするよね。依頼主はコウノイケの外交部だよ。こうやってコネが出来上がっていくんだよ。ワクワクしないほうが嘘だよね。ね?」
レイナは無言で目をそらす──肯定した。片田舎のシュプロケットからタダで帰るよりは、適当な仕事をもらったほうが割にあう。
「だが殺しの仕事だろ。しかも相手は連邦軍兵士」
「レイナちんは殺しが苦手なのかにゃー」
「うっせい。んなわけないだろが」
一方でニシとシスは相手がヒトだろうが腐獣だろうが気にしていないというふうだった。今は2人して偵察に出かけている。
砂漠のトカゲ団 一行はシュプロケット市からやや離れた渓谷地帯にやってきた。乾燥した幹の灌木に車両を隠し、半時ほど歩いて岩の陰に隠れている。このあたりに暗殺対象の連邦軍兵士がいるらしい。
「それじゃあレイナの罪の意識を和らげてあげよう。件の連邦軍兵士はね、どうも怪しい。兵士の身分だけれど怪しいことをしている。そんな不逞な輩なのさ」
「ふぅん」
「で、殺して情報機器を持って所定の場所へ向かう。231号線の廃墟のモーテルに。なあに心配いらないよ。私達<砂漠のトカゲ団>には優秀な狙撃手も前衛もいるんだから」
「って、あたしに受け渡しをさせるのかよ」
「んーあとニシくんも。接近戦じゃめっぽう強いみたいだし」
あーかったるい。生きるためなら殺しも厭わない。その覚悟はできている。でもいざ殺すとなると躊躇するかもしれない。しかしニシに言われた通りポーカーフェイスを演じる。何事もないように。平然と。手入れしたばかりのショットガンを手に取り銃身をなでてやる。あちこち傷だらけだが錆はない。あたしなりに大切に扱っている。
「おっ戻ってきた。もう2人だけでやっちゃったかもね」
「だとしたらあたしがぶっとばす」
できた。うまく虚勢を張れた。
シスの足取りは軽かった。身長と同じぐらい長いライフルを背負っているのに銀髪の身体能力らしい素早い身のこなしだった。ニシのほうは、足取りはゆっくりだが不規則に背後を振り返り追跡がないかどうか確かめていた。そして砂の上の足跡を消すよう砂を蹴り上げ、なるべく石の上を歩いている──なるほどああやるのか。
「情報通りだ。たしかにこの先に兵士たちの野営地があった」ニシはそう言って地面の砂に指で地図を書き始めた。「だが、少し警戒したほうがいい。依頼主は敵の位置をわかっていながらあえて実行を傭兵に任せている」
「どういう意味だよ」
「政治的な案件だ、ということだ。文字通りの政治か企業と政府の利害対立か、そこまでは知らないけど」
「あたしらには関係ねーだろ」
「敵を作るということだ。これから先は背中に用心したほうがいい」
くそ、わかってるそんなこと。偉そうにお説教垂れなくても。
ニシは大まかな図を指で書いたあと、砂を盛り上げて高低差を示した。色の違う石を4つほど拾い上げてそれぞれの場所においた。
「標的の陣地は20mほどの高台に……ええとこちらの尺貫法だと7間ほどか。標的は12名。連邦軍とは、よくわからないが、おそらく一個小隊で情報収集が目的だろう。長距離の無線アンテナもあった。背後の岩山に見張りが1人、正面の通路に1人、この気温なら4交代制。士官らしき人物が1人。回収目標のインテルはこいつが持っているはずだ。武装はアサルト……なんだっけか、シス?」
「三三式自動小銃。連邦軍の制式ライフル」
「それだ。小火器のみだ。まあ、なんとかなる」
そう言って顔を上げたニシと目があった──相手は重武装の正規兵だというのにどうしてああも澄ました顔をしているんだ。不安を気取られぬように簡易な地図に視線を落とした。
「じゃあ、あたしは正面担当か?」
「いい読みだ、レイナ。俺とレイナは正面を担当する。シスとアーヤはこの崖の上。十分に射角が取れる。歩哨を倒したあと、一気に倒す」
「陽動とかは?」
「この人数だ。下手に敵をゆすっても意味がない。それよりも“自分以外全員敵”という状況は、敵からしてみれば“誤射しないよう敵だけを撃つ”という困難な状況でもある。奇襲ならばこちらに分がある。この説明でわかった?」
「あ、ああ、わかった。で、てめーはどうなんだ? 銀髪なみに動けるんだよな」
ニシの返事はやや時間がかかったが、
「ああ。どれもこれも、あのクソ神のおかげだ」
4人はそれぞれの銃器と最小限の荷物をボディバッグに詰めて移動した。途中、シスとアーヤは崖をよじ登り別れ、レイナはニシの先導で岩陰を進んだ。雨季には川が流れる平らな地面は幾分か歩きやすい。無線機のイヤホンを耳にはめ、アーヤからの連絡を待つ。
頭上からの日光は強烈でその分、光が作る影も濃かった。どうしても明暗差で視力が追いつかない。その物陰に敵が潜んでいないか、どうも落ち着かない。
「な、なあニシ」
しかしニシは黙ったまま人差し指を1本だけ顔の前で立てる仕草をした。
「んだそれ?」
「これは『静かにしろ』という意味だ」ニシは聞こえるかぎりぎりの音量で、レイナの耳もとで囁いた。「そうかハンドサインの意味が違うのか。失念していたよ。ここは風上だから会話には気をつけたほうがいい」
おとぎ話のブレーメンじゃないんだ。遠くまで聞き耳を立てられるヒトなんざいねーってのに。
「聞いてなかったけどよ、攻撃のタイミングはどうすんだ?」
通信機はつながったままだが、向こうの2人は静かなままだった。
「シスはこちらが見えている。俺が攻撃を仕掛けたタイミングでシスも狙撃を始める」
「お前は素手でやんのかよ」
「できなくはないが、そうだな。ナイフ貸してくれるか。予備の小さいのでいい」
小さいの、と言われて食事にも使う万能ナイフしか持っていない。しぶしぶ渡すとニシは小さく礼を言った。
「洗って返す」
「んや、新しいの買って返せ」
ヒトを切った刃でステーキを切り分けたくない。
「意外と潔癖症なんだな」
「だまってろ」
なおもニシは鷹揚に、この状況なのにはにかんだ。
数分の後に2人は攻撃位置についた。見張りの歩哨は、暇そうに岩に腰掛けてタバコを吸っている。背中に下げている軍用ライフルは、弾倉が入っているが戦おうという準備はなかった。
「レイナ、ここでワンポイントテクニックだ」
「わんぽいんと?」
「見張りの時は、タバコは吸ってはいけない。臭いと煙、夜間なら光と赤外線で位置がバレる。煙の移動速度は風速に準ずるから狙撃も容易だ」
「あたしは、タバコ、吸わないって」
「じゃあ逆に、標的がタバコを吸っていたら油断している証拠、つまり攻め時だ。レイナ、準備はいいか」
「お、おうよ」
「前衛が一番危険なんだ。無理をするな。殺しも、だ。適当に痛めつけるだけでもいい。そのほうが返って敵と依頼主の関係もはっきりする」
「そうやって案件に関わると早死する」
「いい心がけだ、レイナ。でも依頼主もきっと織り込み済みだろう。アンダーグラウンドってのはそういうものだ」
「ああわかったよ」
ニシは唐突に動き始めた。話しながらもずっと歩哨の視線の動きを追っていたらしく、何かのタイミングで岩陰を飛び出ると風のような素早さと静かさで歩きにくい岩場を越えていく。そして一気呵成に飛び込んで兵士の背後に回ると、ナイフを首筋に突き刺し、動脈と気道を一緒に切り裂いた。
思わず顔をしかめてしまう光景。ほんのすこしだけ瞬きをゆっくりにした。真っ赤な鮮血が吹き出したかと思ったら、すぐに地面に倒れて動かなくなってしまった。そしで同時に到来する銃声/高台の見張りが胸を撃たれて崖下へ転落する。
「ええい、こうなったらやるっきゃない!」
息を止めて一気に駆けた。左手にはソードオフショットガン/右手には無骨なマチェーテを構える。ニシも死体から拳銃を拝借してあたしの少し後ろを走っている/あたしはやや先行気味。
兵士と目が合う。無線アンテナを整備していた男だ。顔を上げて慌てて近くに立てかけていたライフルに手を伸ばす/ためらうな=殺らなきゃ殺られる。
狙いを定める。おおよそ銃口が標的を向いていればいい。そして引き金を絞る。銃声/瞬発的なショットガンの反動も銀髪の腕力なら抑えきれる。男は上半身全体に散弾を受けもんどりをうって倒れた。
背後──ニシも拳銃を敵に向けていたが発砲していない。敵の方はすでにレバーを前後させてライフルを構えている。
撃った──2発目。糸が切れた操り人形のように、兵士は倒れた。
「ありがとう。銃のセーフティーの位置がわからなかった」
「貸しだからな!」
排莢──新しい弾を装填/ぱちんと機関部を閉じる。
狙撃の飛来。テントから出てきた兵士の胸を撃ち抜く。
ニシは右へ、レイナは左へ進んだ。通信アンテナを中心にテントが並ぶ。そのテントの影から大柄な兵士が突然現れた。斧を振りかぶって迫りくる。銃口を向けるもマチェーテを振りかぶるのも間に合わない。
マチェーテで斧の柄を受け止めるがその勢いで地面に倒れてしまった。ショットガンは手から離れて転がってしまう。鈍く輝く斧の刃がほんの眉間の数寸先にある。
くそぅ、こんなところでやられてたまるか。体の内側がカッカと熱くなり周囲の雑音が遠く聞こえる。耳鳴りがする。心拍数は数えられないぐらい速く打っている。
レイナは覆いかぶさる大男を力任せに蹴り飛ばした。銀髪らしい高い身体能力のせいで、大男は釣り上げられた魚のように宙へ浮かぶ。レイナはすぐに立ち上がってマチェーテを振り上げた──が、大男は背中から腹にテントの支柱が突き刺さって血のあぶくを吐いている。
やった。勝てた。死なななかった。どうだ見たか! いつぞやのあいつみたいに簡単にやられたりしないんだ、ボケが。ニシが、素っ頓狂に慌てた表情で迫ってくる。
ニシはそのままの勢いを止めずにレイナに覆いかぶさって、地面に倒した。
「周りを見ろ!」
ニシが叫んでいる/同時にライフルの速射で岩肌が弾けた。代わって狙撃弾が飛来した。ニシは力付くでレイナの体を物資コンテナの陰に引っ張り込んだ。
「ぼーと突っ立っているとやられる」
「いや、あたしは大丈夫だ」
ニシがレイナの両頬を抱えた。蠱惑的な黒い瞳がずずっと近づく。
「アドレナリンの過剰分泌だろう。視野が狭まって音が聞こえにくくなる」
「大丈夫だって」
「呼吸が浅くなっている。吸い込む息の量を感じるんだ。ゆっくり、そう。落ち着いて」
何度か呼吸を繰り返すうちに酸欠で頭がふらついていたことに気づけた。それに指先も震えていてマチェーテを握れない。薄暗いなぁと思っていたが実際は日光がカンカンに照りつけていた。
「あ、あたしは」
「気にするな。もう片がついた」
ニシはアーヤやシスの方に手を振った。同時に通信が入った。
『もしもーし。敵影なし、死体は12。死人に口なしってね。ところでレイナ、さっきから返事がないんだけど、聞こえてる?』
まさか──信じられない。あたしがそんなヘマしてたなんて。夢中で何も見えていなかったし聞こえていなかった。
「こちらニシ。そっちは一応、周囲を監視しておいてくれ。オーバー。────レイナ、立てるか?」
手を握る。男の大きい手だった。体がふわりと浮かぶ。
「あ、あんがとよ」
「だがまだ仕事は終わっていない。依頼主に情報端末を届けなきゃ。あいにく俺は唯一大陸の情報機器とやらが見当がつかない」
あの戦いのあとなのにニシの呼吸は乱れていない。返り血も泥汚れもない、ほんの近所を散歩してきましたっていう、そういう涼しい顔をしている。そういえばあの男も、何かと喧嘩が強くてよくこんな顔をしてたっけか。
キャンプ跡地は、どこも正規軍の物資が積み上がっている。寝袋から簡易調理器までどれも良いものだ。売るとさすがに足がつくが、自分で使うには十分すぎる。落ちていた軍用背嚢にごちゃごちゃと使えそうなものを集める。
「レイナ、仕事なんだ。ゴミ漁りはあとにしてくれ」
「わーかってるって!」
「このノートパソコンみたいなの。情報端末だよな」
「ん、ああ、そうだな。あとその死体のパルも。あたしは書類を探してるから。コレはあくまでおまけだ」
「なるほど、パルね。携帯電話みたいなものか。機能としてはiPhoneに近い気もするが」
「まさかパルも初めてだ、なんていうんじゃないだろうな」
案の定、ニシは死体の腕からパルを外すのに手間取ってる。
「俺は携帯電話も使うが、普段は疑似感覚通信を使っている。脳に電極が埋め込んである。言葉では説明しづらいんだが、ネットワークが“視える”んだ。言葉を喋らなくてもイントラネットに接続したり仲間と会話したり」
とんとん、とニシがこめかみあたりをつついているが──よくわからない。
「じゃあ、その、ニシは頭ん中のパルでサイバーネットにつながるとか?」
「いや、今は無理だ。接続はすべてユキ・システムによる……まあとにかく、今はただのちょっと強いホモサピエンスだよ」
なんじゃそりゃ。
レイナはずんぐりと膨らんだ背嚢を背負った。中には頂戴した野営用の機材と簡易食料、缶詰、水もある。
ニシはというと、空弾倉袋に情報機器を詰め込み、もう片方の手で死体から拝借したライフルを持っていた。
「無料で武器が手に入った」
「うへ、趣味悪いぜ」
「死者の武器は縁起が悪い?」
「アーヤならそう言うだろうよ。ブレーメン学派のありがたーい言葉付きで。あたしは、まあライフルは好きになれないっていうか。軍規格の弾は高いし、腐獣はショットガンのほうがよく効く」
「ふむ、そうか。だが俺はプルバップ式のライフルは馴染みがある。普段はFN2000を改造して使っているから。これの名前は三三式、だったな。銃身は短く取り回ししやすい。セレクターとセーフティーが別々……いったいどういう設計思想なんだ。全金属製でプレス加工。砂と泥にも強いだろうな。弾倉と弾丸はいくつか拾っておいた」
「そいつは、素晴らしいことで。ン千年も前からずっとあるライフルだ。中古部品ならどこでも手に入る」
「1000年というと、ニケの爺さんも使っていたのか」
誰だよそいつ。
前駆二輪とバギーを隠していた灌木まで戻ると、一足先にアーヤとシスは戻っていた。特にシスはニシの帰りを待ち望んでいたようで、硝煙臭いままニシに抱きついている。
「で、情報の方はこれでいいのか?」
アーヤはサングラスを外して、情報端末とパル、書類をそれぞれ見比べた。
「この書類は、機材の運用マニュアルとメンテナンス項目。あとはうーん符牒暗号だから私らにはわかんないな」
「パルの方は?」
「端末もパルも、プロテクトが掛かってる。無理に開けようとすると物理的に焼ききれちゃう政府専売モデルね。なので、触らず直接依頼主に届けるよ。ほら、追手が掛かるまえに出発しちゃお」
一行はアーヤのバギーを先頭に岩だらけの荒野を抜けてハイウェイに出た。地平線まで伸びるまっ平らな道路を直進し、日が落ちる前に目的のモーテルの廃墟へたどり着いた。フアラーンの風景が近くに見えている。
再びの2人組で、ニシは手にダンプポーチを持っている。腰に拳銃、背中に負革で三三式ライフルをオープンキャリーしている。仕事のやりとりはこういうものなのか?
廃墟のモーテルの駐車場に1台、高そうなSUVがとまっていた。反重力機構を4つ備えた全地形対応の完全浮遊車両で、普通顔役でさえこの手の車両には乗らない。
近すぎない距離で立っていると、運転席側から女性が降りてきた。乳のサイズは勝てそうになく身長は更に高かった。薄暗い夕日の中で浮かび上がる整った顔は女同士でも見とれてしまう妖艶さがあった。
「約束の品だ。確認してくれ」
ニシがぶっきらぼうに言い、利き手と逆の左手でダンプポーチを渡す。依頼主の女性はその中身をしげしげと見つめ、口紅を塗った唇を動かした。
「フフ、何も訊かないのですね」
対して、ニシは無表情に立ったまま。
依頼主は、袖口から通信ケーブルを抜き出し、パルと情報端末に接続する/数秒もしないうちに、うんうんと頷いた。
「すばらしい仕事ぶりですね」
「金を」
なおもニシはぶっきらぼうに/依頼主はにこやかにドーナツ屋の紙袋を差し出す。
なんなんだ、この2人は。
「4人と聞いていましたけれど、残り2人は、どこかで監視しているのでしょうか。安心してください。どうぞ。通貨カードが4枚と企業連合のトーンが1人5万ずつ」
5万! それにクレジットも付いている。アーヤはこんなに羽振りが良いと言っていなかった。すぐニシから紙袋を渡され紙幣を数え直す。
「それでは、腕のたつ傭兵の皆さん。またどこかで」
依頼主の女は丁寧にお辞儀まですると車に乗り込んで、そのまま走り去ってしまった。
夕日はすでに地平線の上にあり空は紫色に染まりつつあった。
「ふぅ、お疲れさん。一筋縄じゃいかない依頼主だったね」
ニシから厳しい相克が消えた。業魔のように戦っていたのに、今目の前にいるのは黒髪に黒い相貌の優男だった。なるべく彼の外見に吸い寄せられないよう、すぐ報酬の札束に目を向けた。
「そう気を病む必要はない」
「別にあたしは」
こんなやつにほだされるわけないだろう。
「俺だって、初めての仕事のときはそうだった。訓練で上手い上手いともてはやされたけれど、でも仕事はそう楽じゃない。相手が悪人だったとしても」
「ヤッたのか?」
「レイナとおなじさ。ショットガン。デカくてかっこいいし閉所で至近距離じゃ強いからね。浴びた返り血の感覚が消えるまで1週間かかったよ。あれ以来、なるべく散弾銃は使わないようにしている。いろいろ嫌なこと思い出すからさ」
ニシはあっけらかんと笑っていた。くそう、この笑顔にどう声をかけていいかわからないぞ。こんなことで戸惑ってちゃナメられる。
しかしニシは突然に拳を突き出した。
「これは?」
「俺たち流の挨拶。仕事がうまく終わったときの、なんだろう仕草? こうして拳を突き合わせるんだ」
ニシの太く硬い指が手首に触れる。そして導かれるまま、拳同士を突き合わせた。
「お疲れ様」
物語tips:三三式ライフル
連邦軍の制式ライフル。基本的な設計は1000年前と変わらないが、材質や口径、薬室のメッキ処理などはマイナーチェンジが繰り返されている。主に対人戦闘に用いられる。腐獣相手ではやや威力が劣る。
プルバップ式で装弾数は25+1、サカイ工業製。社外品の低倍率スコープ、レーザーサイト、サプレッサーなど種類は豊富。