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物語tips:レイナ

 17歳くらいの女性。

 長い銀髪を雑に束ねてスカーフの中に雑に押し込んでいる。

 態度と乳がでかい。八重歯/犬歯が長いせいでなめる癖がある。

 武器は左右二連式ソードオフ・ショットガンとマチェーテで、左腰のホルスターに提げている。特に習った訳では無いが力任せに振り回している。

 ニシいわく、なかなか粗雑で短絡的だが頭は回るので馬鹿ではない。かつて父と共にテウヘルに襲撃され、瀕死の重傷を負った中、テウヘルの心臓を生のまま口にしその力を得た。

 ニシは戦いの知識と経験が豊富なため、なにかと対抗心をむきだしにしがちだが、学ぶべき点は(黙って)素直に学んでいる様子。

 声が低いせいで周りからは同性愛者と思われている。かっこつけるタイプではないが無意識に「今日はいい死に日和か?」と敵に問いかけることがある。一見すると死を恐れないというふうに聞こえるが、その実、父親のように無意味な死を嫌っている。

 好きな食べ物(飲み物)は新鮮ミルク。人工食料が主流な現代においては天然物は貴重で高価である。

 挿絵(By みてみん)


 †


 どうも落ち着かない。男の手がすぐ顔の横を行ったり来たり、耳たぶに触れられると鳥肌が立つ。でも、すぐ突き飛ばしてやろうという気は起きない。

「よし、できた。完全に髪が隠れている」

 ニシの自信気な表情だった。レイナの飛び跳ねるような銀髪がすっぽりとスカーフで隠れている。ニシはまるで芸術作品のように、レイナの頭を右や左から眺めた。

 ふだんは首に巻くか、前駆二輪(バイク)の運転で鼻や口を覆う程度だったのだが、こうもすっぽり、そしてきつくなくゆるくない巻き方があるのは意外だった。首を振った程度じゃずり落ちてこないが、指で引っ張ればするすると解けるちょうど良さ。

「んーだが、ヘルメットもなしじゃ日焼けしてしまうだろ。というか肌のきめが細かいな」

 ニシがじろじろと見てくるので手で追い払った。

「あんま見るんじゃねーよ」

「暴飲暴食寝不足夜ふかし、それなのに肌が綺麗だ。日焼けさえしてない」

「うっせーな。あたしの勝手だろ。銀髪ってのは傷の治りが早い。日焼けだってしねーんだ」

「じゃ、歳も取らない?」

「それは、たぶん……とるけど。それより、これ何だよ。スカーフをこうやって巻くの知らなかった」

「イランで教えてもらった巻き方なんだ。ヒジャブやシェイラも試してみたがレイナならこの巻き方が一番だ。アフガン巻き」

「へぇ、強そうな名前じゃん」

「戦争ばかりの国だったが、何かと訪れる機会が多かったんだ」

「ふーん、戦争ね」

 なんだったか。その言葉はやたら長い綴り(スペル)だと知っているが意味がつかめない。

「アーヤに聞いたよ。戦争は唯一大陸(タオナム)で500年前に起こったきり、なんだろう? 国家と国家の争い(戦争)というからには」

「あ、ああ。確かそうだったはず。つか(ステイト)同士も仲が悪いぜ」

「仲が悪いのと、戦争とじゃ全く違う。小競り合いや紛争はまだマシだ。罪があり罰がある。お互いに恨みっこなし。火が消せる程度の火事にすぎない。だが戦争は燃え始めると止まらない」

 はぁ、まったく。こいつは難しいことばかり考えてやがる。

 アーヤとシスは先に出てしまっていた。情報提供者に会うために。打ち合わせ済みのアーヤと、パッと見でか弱そうなシスの護衛を付けるという算段だった。レイナとニシは少し早い昼食をバザールまで摂りに行き、そこで待ち合わせという予定だった。

 レイナは愛車の横にかがんで反重力機構の調子を見た。元は自動車用の中古部品で車体サイズに合っていない。そして相当古い。亡き父が駆け出しの頃から乗っている。そのせいで劣化した配線が短絡したり錆びて通電しなかったりと、気を使わなければならない。

「あたしにはどっちでも構わしねぇ。戦争があろうとなかろうと、あたしの生活は銃と力と、あとなんだっけか。ともかく慌ただしい。違いがわかんね。第一、戦争ってなにすんだよ。銃もってデカい戦車に乗って、そんなんだろ。普段と変わんねって」

「憎しみの連鎖。その連鎖を断ち切るには、相手を殺し尽くすか自分たちが死に尽くすしかない。はぁ、どれだけ死体を積み上げても争いは結局 無くならなかった。ホモ・サピエンスの忌まわしき習性だよ」

 また物騒な──ニシの顔が曇っている。まあいい、おちょくるのはやめにしよう。

「まあ乗れって。飯でも食って気分を変えようぜ。財団の街だ。大して美味いものは無いだろうけどよ。おごってやるよ」

 レイナは前駆二輪(バイク)にまたがって、後席のシートをぽんぽんと叩いてやった。ニシも表情をきっちりと切り替えた。

 今日の日差しは強く、肌をジリジリと焼く強烈さだった。道路は片側3車線で上下の車線が別々の道路で作られていた。自動車は交通ルールに従い、ゆっくり走り、まっすぐ列をなし、信号機の前で幼稚園児のようにお行儀よく並ぶ。自動車にはそれぞれナンバープレートが前後に貼り付けてあって、無機質なフォントで記号と数字が描かれている。リアウィンドウの日付つきシールは税金を払っている証拠だった。

 フアラーンじゃ全員が自動車を規則通りに所持しているわけじゃない。真面目なのは半分より少し多いくらい。貧民街じゃ登録証のない自動車や前駆二輪(バイク)なんてざらにある。あるいは盗品とは知らずに買って乗り回している。もちろん無免許だし交通ルールなんて死語だ。

「レイナ、あまり飛ばすなよ。警官が見ている」

「あーわかってるって」

 前駆二輪(バイク)の後ろには部外者用の臨時ナンバープレートを付けている。ダサいったらない。それにこの街じゃヘルメットは義務らしいが、そんな物持っていない。

「警官は、自転車の乗り方を注意するのに忙しいみたいだ。さっさと行ってしまおう」

 警官ってのはそんなどうでもいいことを指導するためにいるのか。しかも賄賂をせびるでもなく小さい額の反則金を、それを払うための切符を発行するために──アホらしい。

 道の左手には市内をぐるりと一周する電車が走っていた。もちろん、フワラーンのモノレールや地下鉄(メトロ)のような落書きは一切ない。どうせ中に乗ってる連中も小綺麗でつまんない人生を送ってる奴らなんだろう。あれじゃまるで首輪の着いた家畜同然じゃないか。

 バザールは駅前の広場で開かれていた。そばの駐輪場に前駆二輪(バイク)を停めて、レイナは寝起きの野良猫(ストレイ)のようにのび(・・)をした。

「へぇ、あんがい賑やかじゃん」

「どんな国でも、食事だけは大切だから。しかし、サパロップはまるで共産国のようだ」

「はぁ、共産(コミュニズム)……」

 綴り(スペル)が書けない自信がある、という自信が持てる。

「きれいな街、たくさんの車。食品に、先進的な生活」

「いいじゃねぇか。少なくともあたしが見てきたどの(ステイト)よりも良いところだぜ」

「あそこ。ガード下を見てみな」

 ニシの指差す先は、単なる歩道で電車の高架をくぐって反対側へ行ける。平らなコンクリートの壁はもちろん、落書きや汚れの一つさえないせいでかえって不気味だった。

「別に、ただきれいなだけじゃん」

「壁沿いに小さい石が置いてあるだろう。あれは『予約』だ。毎晩あそこで寝てる奴がいる」

 そう言われて目を凝らしてみたら、たしかに不自然に等間隔で、しかし目に止まらない小さい石が置いてある。

「だがよ、サパロップでは浮浪者ってだけでしょっぴかれるんだろ?」

「ここからは推測だけれど、取り締まる警察と手配師がつながってる」

「手配師っていうと、あれだろ。素性のやばい連中にやばい仕事を紹介するっていう」

 お世話になったことはない。でも声はかけられたことならある。

「そう、それだ。非合法な仕事をし、夜はここで寝泊まりをする。金をもらった所轄警察はそれを黙認している。あるいは街自体が、そういう存在しない市民の安い労働力を必要としてるか、だな。以前、上野でそういう不埒な警官をしばいたことがある」

「つーことはよ、ニシはどちらかというと警察(ポリ)の側なん?」

「時々そう言われるが、別にそうでもない。ヤクザや銃密売人の知り合いもいる」

「じゃあ、誰の味方よ」

「弱き者、搾取される側の人間だよ」

 ニシはぽん、とレイナの肩を叩きバザールへ品定めに向かった。

「……ってあたしは弱かねぇよ!」

 レイナは速歩きでニシの背中に追いついた。

 駅前のバザールはがやがやとあちこちから人の話し声が聞こえた。風がなくじっと籠もった空気に油と香辛料の匂いが交じる。ほかの(ステイト)とそう料理は変わりがない。違いがあるとすれば、企業連合系で買える食品はたいていがチョウシュウ食品のその系列企業のものだけ。ニシに言わせれば、カセンというらしい。綴り(スペル)は知らない。

 バザールは分解撤収が容易なテントの下で、手作りのような食品が多かった。魚肉の肉団子、イモが詰めてあるパフ、干し肉の串焼きに穀物を炒めた惣菜。しかし揚げ物が多く種類が少なかった。

「すごい匂いだ」

「きらいじゃない。ペナンを思い出す」

 どこだよ。

「ニシは何が食べたいんだ」

「そろそろ故郷の味が恋しくなってきた。手作りが多いから、もしかしたらピザに似た料理があるかもしれない」

「なんだそれ。トーキョーの飯か?」

「ん、そうじゃないが。生地の上にチーズが乗っている。牛乳を加工したチーズ」

 よくわからないが、美味しそうには思えない。牛乳は新鮮なうちに飲んでしまうに限る。 まだアーヤたちと合流するには早いが、腹も空いたし先に食べてしまおう。

「よし、あれにしよう」

割包(グァバオ)?」

 ニシはトーキョー語でぐだぐだ言っているが名前は知らない。だが直感でうまそうだとわかる。肉の塊が鍋の中に揺れていて、それを小さい白パンに挟んでいる。なかなか(いき)なサンドイッチだ。

 店主はヒゲの生えたおじさんが1人で、調理と会計を手早くこなしている。レイナはこの街の流儀通り列に並び、辛抱強く自分の番が来るのを待った。

「おっちゃん、これひとつちょうだい!」

 店主のやや驚いた表情で、レイナを頭から足までを見た。明らかに市民ではない身なりに警戒しつつ、

「いらっしゃい。配給票はあるかね」

「はいきゅ、いや無い。あたしら昨日サパロップに来たんだ」

「そうかい。じゃ、身分証はあるかい?」

「いや、ないけど。でも金ならあるぜ。ちゃんと財団の金。なんなら企業連合のも……」

「ごめんね、お嬢ちゃん。身分証か配給表が無いと売ってはいけない規則なんだ」

 店主が看板を指差し、はっとした。よくよく見れば小さな等級のような記号がすべての店の看板に記してある。そして市民は配給票と同じ記号の店に入り、票と金をいっしょに手渡している。

 レイナは無言のまま次の人に順番を譲って、肩をすくめているニシのところへ行った。

「くそ、なめやがって。こっちは客だぞ。金もある」

「やっぱ共産圏だ。ソ連というよりは昔の中国」

「んだよそれ」

「さ、バイクのところに戻ろう。あまり目立つのは良くない」

 なんとも釈然としなかったが、やはり1人じゃなくてよかった、とも感じた。

 バイクのそばに戻ると、ニシはかがんでレイナのスカーフの位置を整えてくれた。馬鹿みたいに優しい男が目の前にいるせいか、レイナはずっと遠くの道路標識の「一時停止」をじっと見ていた。

「もしかしたら銀髪が少し見えていたのかもしれない。しかしあの店主は冷静だった。いい人だよ。べつに君をけなそうとは思っていない」

「わーかってるよ、言われなくても」

「そうか、それならいいんだ」ひと仕事終え、ニシは微笑んでいた「お腹、すいたかい?」

「ふん、そんな気なんてとうに無くなっちまったよ」

 それから30分もしないうちにアーヤのバギーが現れた。ハイソな街なかではエンジン音が煩いせいでやたらめだつ。

「やっほーおまたせ」

 アーヤが無邪気に手を振った。鮮やかな空色のワンピースにショートパンツ姿はこの街の小綺麗な飼い猫(ブルジョア)を彷彿とさせたが、反骨精神丸出しのドレッドヘアと好戦的なサングラスはどう見てもよそ者の怪しいやつだ。

「その格好で警官(ポリ)に職質されて遅くなったかと思った」

「ちっちっち、あまいね、レイナ。この服は最新トレンドを盛り込んだファッションなのさ」

 テメーが読んでる雑誌のバックナンバーは半年も前のだろ。

 助手席から飛び降りたシスはさっそく飼い犬(ニシ)に抱きついている。

「で、うまくいったのか」

 しかし返事はない。アーヤはウィンクを飛ばしただけ。

「で、わたしたちのお昼ご飯は? 今から買いに行くとこ?」

「引換券がなきゃ買えないってよ」

 アーヤは目をパチクリさせたが、しばらくあとで、あっと小さく声を出した。

「あはは、うっかりしてた。いやね、配給票と現金で買うというのがいまいち理解できなくてさ。お金さえ払えばなんとかなると思ってた」

「ったく、しっかりしろよな」

「じゃ、またモーテルに帰ろっか。買ってきた食材はまだ残ってるし」

「あーあのスープの味 苦手なんだよな」

 世の中、そのすべてが呪われるよう神話のブレーメン戦士に祈ってみた。今このときだけ、こういうときだけは信仰心が湧いて出てくる。

 モーテルから来た道を戻り、床に車座で座った。各々、昼食のインスタントスープと乾パンをかじりながらアーヤの手書きの地図を見ていた。

「さて、ビッグ・フット=ジョーの紹介で情報提供者に会えた。標的の“玉無しのロン”は財団の設備の傭兵をしてるんだってさ。表向き、ただの工場だから正規の警備員じゃなくて裏の稼業人に仕事を任せてるんだって」

「こんな陰気臭い街で傭兵するなんて、どんな根性(タマ)なしだよ」

「あら、レイナだってタマ、無いでしょ」

「言葉のアヤだよ! てめーわかってて言っただろ」

 こほん、とアーヤは演技っぽく咳払いして、

現場(ステージ)は郊外の半導体工場。警備はゆるいと言っても監視はある。侵入には西側の壁が狙い目。先週の交通事故で壁が崩れて監視カメラの配線が切れたままになってる」

「その事故は、ジョーの手によるもの?」

 ニシが眉をひそめる。

「さあね。私も質問してみたけど、資材の調達に手間取るんだってさ、サパロップ市では。施設は地下のほうが多くなっていて、その奥に傭兵たちの詰め所がある。財団や公団の汚れ仕事担当なんだってさ」

「詳しい間取りだ。これも情報提供者から?」

「そ。真面目な取引相手だとこっちも楽できそう。みんなは他になにかある?」

 シスが唸った。顔に包帯を巻いているせいでどちらを見ているか判然としない。

わたし(シス)、ライフル撃ちたい」

「あはは、でも今回は我慢してね。地下だしさ」

 シスは不満そうに──表情は見えないが──ニシにしがみつく。ニシは顔をしかめたまま、晴れなかった。

「やっぱり妙な依頼だ、がやるしか無い。俺とレイナで施設に潜る。アーヤは撤退用の運転手(ドアマン)、シスはその護衛……『えー』じゃなくて、シス、それが君の仕事だ」

 ニシはシスの、文字通りに隠れた表情を読み取っている。さすがはペットだ。

「そうだね。私の戦闘力は腐獣(テウヘル)以下だし」アーヤは早速同意して、「決行は今夜1時。さ、派手にぶっ放しましょ」

 アーヤは元気に立ち上がって拳を天井に突き上げた。

「ぶっ放すのはあたしらだっての」

 レイナは眼の前で無駄に揺れるケツを叩いた。

物語tips:アーヤ

 20歳前後の長身な女性。ボーイッシュで編み込みドレッドヘア。知的で理性的。ただしすけべ。

 武器はサブマシンガンを持っている。ただし射撃の腕は素人。バギーの運転は4人の中ではうまい方で、度胸がある。

 砂漠のトカゲ団の取りまとめ役で、交渉術に長けている。裏社会にも詳しいようでいつかは顔役(バサラ)になることを目論んでいる。機械いじりも得意で、4人の中で唯一パルを持っていたりバギーの整備や自動迎撃機銃(セントリーガン)の整備もする。

 彼氏のDVのせいで目に後遺症がのこり斜視のように左目が動かない。美人だが顔を近づけて詰められたら迫力がある。妙なファッションセンス、髪型、スキニーな体型の一方で少なくともレイナは歌がうまいと評価している。

 傭兵(サイカ)の業界に入ったのはDV彼氏を殺したことがきっかけ。

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