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総統の娘  作者: 麦茶しょーさ
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04.地下組織

我が父なる祖国オイローパ帝国とは何だろうか。全オイローパ人民が団結し、協力しあって建国てられた国か?全オイローパ人民の総意の下に建国てられた国か?いいや、違う。全くもって違う。我が父なる祖国は恐怖と征服によって建てられた国だ。

 我が父なる祖国オイローパ帝国とは何だろうか。自由と正義を愛する高貴な国家か?国民を護り、幸福へと導く為努力する国家か?いいや、違う。全くもって違う。我が父なる祖国は無実の人を殺し、己の利益しか考えぬF.E.P党員が支配するドブネズミ以下のクソッタレた国家だ。

 そんな国家を父なる祖国などと呼べるだろうか?そんな国家を人々が愛するだろうか?答えは否、否、否だ。だから我々は立ち上がる。すべてのフェルク国民とオイローパに住むすべての人間を解放するため。自由で開かれた豊かな国家を作るために。


 人通りの少ない道を女は歩いていた。今日の群衆はヴィルムート・クリーク通りに集まっており、ここを歩く人間は彼女一人であった。小さな売店の角を曲がって、細い路地を抜けて、進んで、進んで、曲がって、進んで。暫くすると見覚えのある顔を見つけた。男は女を招くように腕を自身の後ろ側へ向かって振った。女は駆け足でその方向へと向かう。そこから廃ビルに入る。2階に登ったところで男がリズムよく扉を叩いた。中から「入れ」と返事が聴こえてくるのを確認した後に、扉を開けてそこへ侵入した。


「"忘れ物"だ。旦那に届けてやんな。」

 部屋の中にいた男はそう告げると茶色い手提げ鞄を目の前に置いた。

 女はそれを手に取り廃ビルを後にする。先程通った道とは違う道を通ってヴィルムート・クリーク通り近くの道に出る。予定通りならばここに“夫“がいるはずだ。辺りを見回すと人混みの中にそれらしき人物がいた。女は歩いて彼の元に近づき、彼に茶色い手提げ鞄を渡す。


「“忘れ物“よ。大切なものが入ってるのでしょう?」

「……あぁ、上司に届けなくちゃならない。」

 夫は手提げ鞄を受け取ると人混みの中に消えた。


 大観衆の中を男は練り歩いていた。前に進むほど増える群衆の中を、潰れそうになりながら前へ前へと進んでいく。やっと外の景色が見えた。目の前に警官はいない。右側の警官が少し近い気もするが、それ程問題はない。左側を向けば少し遠い位置で黒い高級車が徐行しながらこちらに向かって進んでいた。

  あと少し、あともう少し。鞄から少しはみ出た線を引っ張る。高級車が目前まで迫ったところで男は飛び出した。雄叫びをあげながら鞄を高級車の向かって放り投げる。と同時に左脚に鋭い痛みを感じた。男はその場に倒れ伏せる。


トンッ……チュドガァアアアンッッッ……ドガッ、バン、ダンッ


 瞬間、鋭い閃光と熱風が辺りを包む。至近距離での爆発にも関わらず、倒れ伏し姿勢が低い状態であったためか男はほとんど無傷であった。しかしただ一点だけ、左脚から焼けるように熱く鋭い痛みが感じられた。これは爆発によって出来た怪我では無いだろう。なぜなら爆発直前に出来たものなのだから。

 しかし生きているなら一刻もはやく立ち去らねばなるまい。男は四つん這いになって群衆の方へ逃げ込もうとした。と同時に聴こえた発砲音。右足に力が入らなくなった。そうか、そうだ。左脚も撃たれていたのか。だから動かないのだ。両足の機能を失った男は抵抗することも出来ずに黒服の集団に取り押さえられる。

 両足を撃たれ、痛みにもがき苦しんでいるところに尚も鋭い痛みが走る。両腕さえも撃たれ、これで男の四肢はすべて機能不全に陥った。4発もの鉛球がその肉体に埋め込まれ、意識が朦朧としつつある彼が最期に捉えたものは、拳銃をこちらへ向け、冷酷な表情でこちらを見つめる一人の少女だった。


ばんっ。

【フェルク】オイローパ帝国成立以前の国名。由来は国民を意味するフォルク。

【F.E.P】フェルク統一党。現政権にしてオイローパ帝国唯一の政党。

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