01.追憶
ベンツ300Dに乗った私は周りを見渡していた。左右には高層建築物が、道の両端からは民衆が歓声を上げながら私達を出迎えてくれた。オイローパ帝国首都ヴェルト「ヴィルムート・クリーク通り」。ヴェルト市民宮殿へ続く道。
その日の朝はやけに早く目が覚めた。まだ寝ぼけている脳を無理やり起こすべく、近くのカーテンを開く。真っ暗な部屋がガラス越しの朝日で照らされ、部屋全体が薄暗く照らされる。私は扉の向こうに待機しているメイドさんにホットミルクティーを頼むと、ぽすんとベッドに腰かける。
「……お父さま」
先週、父が死んだ。死因は脳卒中であった。父はこの国で最も偉い人だった。父は病院に運ばれ、懸命な治療を施したが、それは少しの延命としかならなかった。
私が母と、父の見舞いに行った時、父は元気であった。いや、本当はそう努めていただけかもしれない。元気そうで安心した私は一言二言会話した後、見舞いの品を渡して部屋を後にした。この日は叔父たちもお見舞いに来ていたから、早めに退散した方が良いと判断した。叔父を囲っているのは親衛隊の面々だ。きっと何か政治的な事を議論するのだろう。一家族に過ぎない私達は早く退散する方がいいのだと思った。
こんなに早く亡くなってしまうと分かっていたらもう少し一緒にいようと思っただろうか。母はもっと父といたいと思っていただろうに、私がその時間を奪ってしまった。
私たちと入れ替わりで叔父たちが病室に入った。しかし彼らはすぐに病室から出てきてしまった。叔父を除いて。
「お嬢様、ミルクティーをお持ちしました。」
ふと、扉の向こうから女性の声がした。そういえばホットミルクティーをお願いしていたんだった。私はメイドに入室の許可を出してテーブルへとミルクティーを運んでもらう。
「ありがとう、今朝のも美味しいわ、メルーデ。」
窓際の一人用の小さなテーブル。その窓から見える街並みを眺めながら私はミルクティーを啜った。
初投稿作品となります。
とりあえず話を描き続けることを目標にがんばります。