祝福された日
めっちゃ遅くなりました。すいません。次はリアルで大事な用事があるので、もっと遅くなるかもしれません。
おはよう世界。気持ちのいい朝だね。
なんてったって今日は土曜日。そう、学生の楽しみの一つである週に一度の日だ。そう、なんだが…
「あー!もう!テオスイストワールについて調べたら俺の写真の掲示板があったんだけどー!!」
カッとしてスマホを投げてしまう。
衝動的に投げられたスマホは、ポスッという柔らかい音を立ててベッドの上に着地した。
ベッドに放り投げられているスマホには、ウサギの耳を生やしたベイルの写真が表示されていた。
「くっ、ワンチャン広まってないことに賭けるか。いや、そうだな。言うてもただの掲示板だ。他にも似たような写真はあったしきっと日常的なものだと思われてるに違いない」
まあ、リアルなうさ耳をつけたプレイヤーの写真は俺以外に見つかんなかったけど…
それはそれとして、テオイスのカメラ機能はネームタグを表示しない。つまり、プレイヤーネームは広まっていない!
一人会議を終え、自分で出した結論に納得した。
「それじゃ、さっそくテオイスの世界へ行くか」
ヘッドギアを装着し、ベッドに仰向けに寝転がった。
◇◇◇◇◇
『始まりの街アルタの固定スポーン地点にスポーンしました』
「(あ、やっべー。スポーン地点更新し忘れてたー)」
ゲームを始めた者が最初にスポーンする広場。つまり、人が密集する場所。
幸いなことに、スポーン地点周辺にあの写真のことを知っているプレイヤーがいないのか、そういった感情の乗った視線は感じない。
「ふぅ、さすがに認知されてるなんてことはないか。まあ、もし認知されてたとしても中身がおっさんの場合もあるもんな」
VRゲームの醍醐味の一つであり、ちょっとアレな要素の一つを思い浮かべる。
女の子が同い年の女の子だと思って現実会ってみたらおっさんだったって事件もあったしな。
「そんなことはさておき、今日はボスに挑戦してみようかな」
軽く伸びをする。
ログアウトしている間に、ボスと戦うにはどうしたらいいのかと気になり少し調べてみた。あまり攻略情報は見たくない派だが、やみくもに探して見つからず時間だけが過ぎるという悲劇を別のゲームで味わっているので、今回は軽くだが見ることにした。
インターネットの情報によると、『特定のモンスターを一定数連続で倒す』や『難易度高めのミッションをする』、『自然エンカウント』などがあるようだ。
そこで、一番簡単そうなモンスターを倒しまくるやつをやることにした。安直な考えではあるのだが、ゴブリンを倒したらゴブリンなんちゃらが出てきそうだと思ったからだ。
「数は分からないけど、とりま倒すか」
◇◇◇◇◇
昨日レベル上げをした平原に訪れた。
インベントリから剣を取り出し、ゴブリンを探して平原を駆け回る。
さすが定番ザコモンスターと言ったところか、ゴブリン一体一体を倒すことに苦労は感じない。だが、それよりも問題なのがゴブリンがなかなかポップしないことだ。
「くっ!また先越された!」
テオス・イストワールは時代の最先端を走っているゲームだ、当然初心者の街にはたくさんのプレイヤーがいる。そのため、ポップするゴブリンを独占するということはできない。
「あと一体で10だ。キリがいいし、そろそろ出るんじゃないかー?」
この数十分で無駄に洗練されたゴブリンサーチ能力が草むらから出てるゴブリン小さいツノを見つける。
「いたぁ!」
全速力で走り、草むらごとゴブリンを真っ二つにしようと切りかかる。
「これで………10だ!」
ゴブリンは一撃で倒れた。
これでボスが出現する条件を満たしたと思い、警戒を高めていたが、何も起こらなかった。
「あ、あれか?ゴブリン君の家もしかして無線?有線じゃないとダメだってあれほど…」
しょうもないことを言いつつ待ってみるが、一向に出てくる気がしない。
グギャアァ!
後ろから聴き馴染んだ声がして振り向くと、そこにはごく普通の、ごくごく普通のゴブリンがいた。
少しばかり溜まっていたストレスが心を覆う。
「10体じゃねぇのかよクソが。地味に時間かかってんだよ、ざけんなよ親玉だせよコラ!」
力任せに剣を振り上げて切りつけた。
ゴブリンが消滅し、見慣れたドロップアイテムのログが出たと思ったら、それを遮るように別のものが表示された。
『ゴブリンキングの出現条件を満たしました。これより、ゴブリンキングが召喚されます。』
「はぁ?」
予期せぬ出来事に、マヌケな声が漏れる。
「おいおいマジかよ。この条件考えたやつ性格悪いだろきっと。いや、悪い」
頭の中のお猿さんがウッキーしていると、『頭上に注意』というものが表示された。
「へ?ず、頭上に何が…」
テキストの通り見上げてみると、そこには…
「お、親方。空からゴブリンがあぁぁぁぁぁ!?」
大地の軋むような音と共に空から小鬼の王が現れた。
「あっぶねー!?もっと良心的な登場の仕方しろよ!」
訴訟してやろうか。絶対敗訴するだろうけど。
「レベルは30か、ほぼ俺の二倍だな。これは、これは…」
剣を強く握り直す。
「楽しそうだな!」
ガアァァァァァァァ!
ゴブリンキングの咆哮が平原に響き、草が揺れる。
「Go!」
地面を蹴って走りだす。
ゴブリンキングの持つ大きな鉈での攻撃を避け、すれ違いざまに胴体に一撃入れる。
「あんまり削れないな。腹は攻撃が通りにくいのか?」
だとしたら、どこが…
「うわっ、と」
足の力を抜き、倒れるようにしゃがみ横ぶりの攻撃を交わす。
どうしたものか、考える暇があんまないな。こいつの見た目的に、腹にダメージが通りにくいのは脂肪が厚いからとかそういう現実的な設定があるんだろうな。
弱点といえば皮膚に守られていない眼ぐらいだろうが、明らかに難易度が高いからきっと他に楽な攻略法があるのだろう。
「あぶねっ」
そろそろ考えながら初見の攻撃を避けるの辛くなってきたな、弱点探すのは諦めて腹ばっか攻撃するか。
「ふうぅぅ…はぁっ」
軽く呼吸を整える。
弱点を探すことから、ひたすら攻撃することに意識を切り替える。
攻撃を回避し続けられて苛立っているゴブリンキングが鼻息を荒くしながら攻撃をしてきた。
「お、確かこの振り下ろし攻撃は二回分の攻撃する時間があったな」
横に避け、二回攻撃をする。
考えていたように出来たことで自信が湧いたため、思いついたことを実践してみることにした。
「狙い目の攻撃は……」
軽く攻撃をしつつ、少しばかり様子見をする。
少しして、横ぶりの攻撃がきた。
「これだ」
タイミングを合わせてジャンプをし、鉈を踏み台にしてゴブリンキングの頭上に飛び上がる。
「穿ち抜き!」
ゴブリンキングの眼に剣が突き刺さる。
グゴォァア!?
いい感じの削れ具合だ。
弱点を攻撃されて激怒し、顔の上にいるベイルを落とそうとゴブリンキングは暴れだした。
顔を蹴って飛び、攻撃を避けつつゴブリンキングの眼に刺さった剣を抜く。
距離をとって着地をし体勢を整え、追撃をしに再び接近をする。
「よっ、ほっ」
小さい動作で攻撃をかわす。
だいぶ近くまで来た。
「おっと…」
体を大きな影が覆う。
落ちてくる鉈を軽く剣で受け流し、無防備になったゴブリンキングに連撃を叩き込む。
「3、4、5……あぶねっ!?」
ゴブリンキングのHPはおよそ残り二割ほどだ。これなら、あと二回受け流しをしたらHPを軽く削り切れるな。
「よーし!さあ、どんとこいや!」
ガアァァ!
「え?」
咆哮と共に、ゴブリンキングの鉈が飛んできた。
「ふっ、見てから余裕でしたよっ、とぉ!?」
飛んできた鉈で視界が埋まっている状態で、ゴブリンキングが突進をしてきた。
「マジかよ…最後の悪あがきにしては、面白いことしてくれるじゃん。でもな…」
武器を拾いにいっている無防備なゴブリンキングに容赦なく攻撃を叩き込む。
「さすがに無防備すぎ」
《ゴブリンの王 ゴブリンキングを討伐しました。討伐報酬の振り分けに移ります。》
予想通りの文が表示されたが、予想外のものも表示された。
「報酬の振り分け…。ということは、多人数でやると活躍によって報酬が変わるということか…?」
気にはなるが基本ソロの俺には関係ない、と考えることをやめ報酬の確認に移る。
「レア装備かアイテムこい!」
ビッ
「ん?」
確認をしようとすると、ドロップ品の表示画面が別のもので覆い隠された。
「《ユニーククエスト 戦いの祝福 の開始条件を満たしました。クエストを開始します。》って、え?ユニーク?」
唐突な出来事に、思考が止まる。
「ゆにーく、ユニーク。ユニーク…」
ユニーク、ニク、肉…じゃなくて。
「高レアクエストキターーー!」
ゴブリンキングさんはただの踏み台ですね、ハイ。クエストが出現したことにより、ベイルくんが討伐報酬の存在を忘れないか心配ですね。