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ごちゃ混ぜ自警団は八色の虹をかける  作者: 花乃 なたね
二章 騎士団と自警団
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4話 倒れた死神

 地下水路での戦いの後、王都の街中に現れる魔物の数はぐっと少なくなった。

 今日は午前の時間を使って近隣の村を見回り、ニールたちは王都への帰路についていた。道すがら、ニールはふと気になったことをルメリオに尋ねた。


「なあ、ルメリオは生成魔法ってやつで壁とか、茨の(むち)みたいなのを出してるけどさ、例えばエンディみたいに武器を作ったりはできないのか?」

「さぁ? 試したことがないので分かりかねます。物心ついた頃から自然に出せたものを主に使っていますから」


 魔法の話ということもあり、ゼレーナが口を挟んできた。


「生成魔法は、使用者の個性を強く反映する魔法です。ルメリオも剣や刃を作ること自体は可能なはずですが、すぐ消えてしまったり大して威力のないものが出来上がるでしょうね。修行を積めばこの限りではないですが」

「私としては危ない武器を操るのは本意ではないですね。私の手は剣ではなく麗しい乙女の手を握るためにあるものですから」


 いつもならゼレーナがため息混じりに突っ込みを入れるのだが、今回の彼女はそのまま説明を続けた。


「生成魔法は、絵を描くことにも似ていると言われます。見たことがないものを描けと言われて、上手く描ける人はなかなかいないでしょう。ですが想像力があれば実在しないものでも自由に描き、形作ることが可能です」

「へぇ……そういうものなのか。じゃあ、エンディはやっぱりすごいんだな」


 ニールは後ろを歩くエンディの方を振り返った。エンディは魔力で身の丈ほどもある大鎌や足止めに役立つ手、鎖など様々なものを作ることができる。


「えっ、ご、ごめん、聞いてなかった。何の話……?」


 エンディが戸惑った様子で尋ねてきた。日中の彼は外を歩く時、フードを深く被って顔を隠しているので表情が分からないが、何か考え事でもしていたのだろう。気にするな、とニールは笑った。


「エンディの魔法は頼りになるって話さ」

「そ、そう? ありがとう……」


***


 王都まで戻り、ニールたちが月の雫亭へ続く道を歩いている時だった。

 ニールの隣にいたエンディの体が突如ぐらりと傾き、その次には道にどっと倒れ伏せた。起き上がる気配がない。


「エンディ!?」


 ニールと仲間たちの視線が一斉にエンディへと向けられる。通りを行く人々もその様子を気にしていた。


「エンディ、どうしたの!? 大丈夫!?」


 フランシエルが呼びかけたが返事がない。

 ルメリオがエンディの上半身を起こし、彼の頭を覆うフードを軽くめくり上げて額に手を当てた。


「ひどい熱です……!」


 エンディが先ほどから少しぼんやりしていたのは、体調が悪いせいだったようだ。呼吸こそしているものの不規則で、眉間にしわを寄せて苦しそうにしている。


「エンディ、気づかなくてごめんな。すぐに医者に連れて行ってやる。ギーラン、運んでくれないか」


 ギーランが軽々とエンディを抱きかかえた。

 突然のことに、ニールたちの周りに人だかりができつつあった。出発しようとしたところで、人込みをかき分け一人の青年がニールたちの前に現れた。


「どうした、何事だ?」


 黒髪の男はまだ年若いが、鉄の甲冑に身を包んでいる。騎士であることを示す、王国の紋章が左胸のところについていた。ギーランの腕に抱えられたエンディの姿を見て、はっとした表情を浮かべた。


「エンディ!?」

「エンディの知り合いなのか? 急に倒れたんだ。今から医者に……」


 ニールが言い終わらないうちに青年は腕を伸ばし、ギーランからエンディの体を取り上げた。


「医者はこちらで手配する。お前たちも来い、話を聞かせてもらう」


 青年が鋭い視線をニールたちに向ける。状況がいまいち理解できないものの、ニールたちは言われるがまま青年の後について行った。


***


 広い応接間でニールたちは騎士、アルフォンゾが戻って来るのを待っていた。

 偶然現れたエンディの兄、アルフォンゾは、自分と弟の住まいである屋敷までニール一行を連れて来た。ニールたちの案内を使用人に任せ、彼は別室でエンディと共に医者の到着を待っている。

 使用人が人数分の茶を出してくれたものの、ニールはすっかり恐縮して手をつけられなかった。いま座っている長椅子も、暗い赤色のビロードが張られた高級品だ。つやつやした四角い木製のテーブル、下に敷かれた複雑な模様の絨毯、ぴかぴかに磨かれた窓、壁に飾られている年代物と思われる剣、どれを見ても普段過ごしている宿屋とはまるで違う。


「エンディの家って、こんなにでっかかったんだな……」


 ニールの右隣に座っているアロンが周りを見渡して言った。足が床につかず、ぷらぷらとしている。


「変わっていても育ちのいい少年だとは思っていましたが……騎士の家の子供なら立派な上流階級ですよ。ニール、知らなかったのですか?」


 ルメリオの問いに、ニールは小さく頷いた。


「家族は仕事でずっと留守にしてるって言ってたんだ……俺もそれ以上は聞かなかった」


 エンディの話は間違ってはいない。アルフォンゾは今はたまたま王都に戻っているが、それまではずっと戦線にいたのだ。彼の父も騎士で、まだ戦いの場に残っているらしい。


「エンディ、大丈夫かな……」


 ニールの左隣に座っているフランシエルが呟いた。

 先日の地下水路での件といい、エンディには無理をさせてしまっていた。彼を気遣ってやれなかったことがニールには悔やまれた。


「……大丈夫だといいんだけどな」


 その時、部屋の扉が開きアルフォンゾが姿を現した。鎧をまとったままの姿でニールが座っている椅子の、テーブルをはさんで向かいに腰を下ろした。使用人が続いてやって来て彼の前に茶の入ったカップを置いて一礼し、すぐに出て行った。


「さて……」


 アルフォンゾは険しい顔で、ニールや周りの仲間たちを見回した。不信感を抱かれているのは言うまでもない。


「お前たちは自警団と呼ばれているらしいな。責任者は誰だ?」

「俺だ。名前はニール。エンディを仲間に引き入れたのも俺だ」


 ニールは答えた。


「エンディと初めて会ったのは?」

「三、四か月前だったと思う」

「……あいつの体のことについて、知っているか?」

「体? なんのことだ?」


 アルフォンゾの質問の意味がニールには理解できなかった。ひとつ思い当たるとすれば、エンディの髪や顔の白さくらいだろうか。確かに、兄であるアルフォンゾとはまったく違う。


「髪とか目が白っぽいのは生まれつきだろ? あの服は、死神の格好を真似ているだけで……」

「……そうか、あいつは何も話していないんだな。いや、それが当たり前か」


 アルフォンゾが大きく息をついた。先ほどより、いくらか表情から厳しさが薄らいでいる。


「すまない。素性の知れないお前たちのことを疑ってしまっていた」

「いや、俺たちのことを変に思ってもおかしくない。俺の方こそ、家族のことを考えずにエンディを連れまわしてごめん」

「本当のことを話させてくれ」


 アルフォンゾは神妙な顔になり、続けた。


「エンディの体は、病に侵されている」

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