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倫敦怪人録  作者: 武田武蔵
17/43

発作

 呼び出しのベルの音で目が覚めたのは、真夜中だった。殆ど聞いた事のなかったその音色に、アンソニーは飛び起きて、慌ててパーシーの部屋を訪ねた。

「如何なさいましたか?!」


 そこには、まるで子供のように布団にくるまったパーシーの姿があった。

「……また、僕を置き去りにするんだろう、ママ、パパ」

 主人のいつもとは違う、潤み声が聞こえてくる。

「なんで僕を置いて行ったの? 僕は邪魔者だった?」

「パーシー様!」

 布団の上から震える彼を抱きしめ、アンソニーは言った。

「昔の幻です。あなたには私がついています!」

 その声に、パーシーの動きが止まった。すると、

「"お前”は誰だ」

 低い声が聞こえた。

「お前が、パパとママを殺したのだな」

「パーシー様!」

 不安を感じ、アンソニーは言った。

「私はアンソニー・ブルーウッド。あなたのヴァレットです!」

「アンソニー……?」

 そう言ったパーシーの声色は戻っていた。

「アンソニー君か。……どうかしたのかい? こんな夜更けに」

 と、彼は布団から顔を覗かせる。そうして、首を傾げた。

「あなたの部屋から呼び出しのベルがなりました」

「呼び出しの、ベル? 使っていないよ。僕は眠っていた。君の大声で目が覚めたのだ」

 何だって。アンソニーは困惑した。そんな態度を見せるヴァレットに、主人は己の頬を伝った涙の意味を理解した。

「成る程ね……」

 等と言葉を濁す。

「たまに起きる事なのだ。発作のようにね。僕にも理解できていない。世話をかけてしまったね」

「いいえ、ご無事ならば何よりです」

「有難う。君は本当に優しいよ」

「それが、仕事ですから」

 淡々とアンソニーは答えた。あの時聞いた声は、明らかに目前で肩を竦めている主人ではない。発作と言ったが、彼は多重人格なのだろうか。思考は巡るばかりだ。

「ただ、眠る直前、ふと昔を思い出したのは確かだね」

 布団に潜り込み、パーシーは言った。


 やはり、彼の心の中の時計は、両親が死んだ日で止まっているのだろう。


 アンソニーは、そう思った。


 では、あの低い声の主は誰だ。

 そんな疑問も湧いてくる。


 ……明日、執事に聞いてみよう。

 そう思いながら、己の部屋に入った。


 翌日まだパーシーが起きる前に、アンソニーはこの屋敷の執事を訪ねた。

 ここで、改めてヒースコート邸の影の主が登場する。名前はオズワルド・バウンド。白髪に、白い髭の似合う老人だ。

「君から訪ねてくるとは珍しい」

 与えられた部屋の椅子に座った彼は、そう言って首を傾げた。

「何か、あったのかね?」

「いえ、些細ない事なのですが……」

 アンソニーは言い淀んだ。常に主人について回るヴァレットと違い、執事はハウスキーパーと肩を並べて屋敷を支配する。執事は男性使用人、ハウスキーパーは女性使用人の全てを司っているのだ。

「昨夜、パーシー様からの呼び出しのベルで自室に向かった所、お口から子供のような声と、そのあとに、いつものパーシー様と違う低い声が聞こえたのです」

「ほう」

 と、執事は相槌を打つ。

「その声は、"お前は誰だ”そう言いました。そのあとすぐにパーシー様はお目覚めになられ、その際に、眠る時にふと昔を思い出した。そう言われたのです。この事に対して、何か心当たりはありますか?」

 すると、オズワルドは立ち上がった。

「使用人用の食堂に向かいながら話そう。パーシー様もまだ目覚めてはおられないだろう」

「判りました」

 アンソニーは頷き、執事が立ち上がるのを待った。

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