9話
「えっと、頼まれていた物は……これだな」
地下倉庫に来たタヌキは早速スナイパーが入ったスーツケースを持ち上げようとしたが、
「何だこれ? 重いなぁ……」
スーツケースは想像以上に重かった。無理に持ち上げると腰を痛めそうだ。
「おい、ちょっと手伝ってほしいから地下倉庫まで来い」
タヌキが電話を取り出して部下を呼ぶと、すぐに若い下っ端が1人やって来た。
「おい、これを運んでくれ」
「分かりました」
無事に外まで運べたが、かなり時間がかかったなぁ……待ち合わせ時刻に間に合うといいが……
「あまり時間の余裕がないんだ。さっさと行くぞ」
「えっと、目的地はいつもの橋の下ですね?」
「あぁ、そうだ早く行くぞ」
スーツケースを持たせて目的地まで歩いていると、少し息を切らした部下が話しかけてくる。
「それにしても銃まで作れるなんて流石ですね!」
「フィギアに比べたら造作もない」
今回の頼まれたスナイパーは実際の軍人も使っている代物だ。1つ1つのパーツが複雑で数も多かったせいで完成まで1ヶ月もかかってしまった。
正直、フィギア以外に興味はないが黒豹さんからの命令なら仕方がない。それにこの仕事が無事に完了すれば追加のボーナスが貰える。またフィギアを買うか? それとも期間限定アイテムを集めるのも悪くないな……
タヌキの頭の中では、まだボーナスを貰ってもいないのに皮算用が始まっていた。
「ところで、受取人のキツネはどんな人なんですか?」
「ワシも詳しくは知らん。顔も知らないし話した事もないからな。ただ、噂によると長期任務の為にボディーガードをしているとか言ってたな」
「それってつまり潜入ですよね? 何だか凄そうですね」
「キツネは色んな奴に化けるのが上手いらしいからな。潜入はお手のものだろ。ほら、もう着くぞ」
待ち合わせ場所の橋の下に着くと、30代くらいの男が待っていた。
「お前がキツネか?」
「あぁ、そうだ。早速もらおうか」
キツネと聞いたから勝手に痩せ型の目の細い男を想像したがこの男は真逆だな。腹は出てるし、とても変装が上手いとは思えない。
「そのままスーツケースを持って橋の下まで行くぞ」
「あの……手伝ってもらえませんか? これが結構重たくて……」
「仕方ないな……ん? 何だこれ? 糸?」
何故かスーツケースから細い糸がはみ出してる。おかしいな……中には銃しか入っていないはずだが……
「おい、どうかしたのか? 早くしてくれ」
「あぁ、すまない。すぐに行く」
キツネに急かされて、橋の下までスーツケースを下ろすと……
「クラフト・メタル・チェーン!」
突然ケースが開いて、中から子供と鎖が飛び出して来た。
* * *
「動くな、お前たちの密売はボクが止める!」
謎の子供が作った鉄の鎖がタヌキと部下、それからキツネと名乗った男を拘束する
「タヌキさん、何ですかこのガキ!」
隣で同じように鎖で体を巻かれた部下が喚く。
「おい! これはどういうことだ?」
同じく鎖で巻かれたキツネがギロリとタヌキを睨む。
「ワシも知らん! 知るわけがないだろ!」
こんな事一体誰が予想できたんだ? スーツケースの中に子供が忍び込む? まさかこいつは⁉︎
「お前がサルとイノシシを捕まえた実月なのか?」
「えぇ、そうです」
「信じられんな……」
逃げ足なら誰にも負けないサルと圧倒的な強さのイノシシがこんな幼い子供に捕まるとは拍子抜けだ。
「警察に電話をするのでしばらく大人しくしていて下さい」
実月は携帯を取り出すと何処かに連絡を入れ始めた。クソ、まさかこんなチビにやられるとは! 今すぐその愛くるしい顔をめちゃくちゃにしてやりたい!
腹の中で憎悪が煮えかえる。せめてもの抵抗で殺気を込めて睨んでいると……
「動くな……そのままゆっくり手を上げろ」
突然、物陰から現れた男が実月の首に扇子を当てた。実月の首筋から赤い血がスーと流れる。
「だっ、誰?」
ビクッと体を震わせて実月がゆっくりと手をあげた。
「誰だ、お前は?」
タヌキも同じように謎の男に尋ねた。2人目の予期せぬ登場に頭が混乱するが実月の味方ではなさそうだ。
「申し遅れました、私がキツネです」
* * *
「君が実月くんだね?」
突然、背後に現れた男がボクに扇子を向ける。まさかもう1人仲間がいたとは……迂闊だった。
「キミは賢そうだから抵抗をしたらどうなるか分かるよね?」
キツネがボクの耳元で囁く。確かに今抵抗したら間違いなくやられる……
丸々と太ったタヌキとは違ってキツネは痩せ型のヒョロリとした男性だった。目は細くて本当に前が見えているのか分からない。
「なぁ、ちょっと待ってくれよ、お前がキツネなら、最初に現れた男は誰なんだよ?」
鎖でグルグル巻きになったタヌキが話に割り込む。
「それは私の部下です。万が一の事を考えて部下にキツネと名乗らせて向かわせました。さぁ、実月くん、彼らを解放してくれるかな?」
キツネの持っている扇子がボクの首筋を優しく撫でる。扇の部分が刃物で出来ているのか首筋から血が流れる。
とても断れる空気じゃない。さっきから背中に嫌な汗が出続ける。もしかしてボク、ここで殺されるの?
「クラフト・メタル・チェーン、解除」
タヌキと部下2人を拘束していた鉄の鎖が元の球体に戻る。
「君はメタリック社に入っているのかな?」
「………はっ、入っています」
恐怖のせいか口が回らなくて上手く喋れない……
「そうか、じゃあ研究部の日下部という男によろしく言っといてくれ、昔彼にはお世話になったからね」
昔お世話になった? キツネと日下部さんは繋がっているの⁉︎
「なぁ、キツネ、この少女には散々な目に遭わされたんだ! 少しくらい痛めつけても問題ないよな?」
タヌキはギロッと睨んだ。えっ、この人ボクのことを少女って言った?
「殺さない程度ならいいですよ」
「それは助かる。じゃあ早速、仮は返させてもらおうか!」
丸々と太ったタヌキがボクの首を掴んできた。くっ……苦しい……
足がゆっくりと地面を離れて行く、タヌキの巨大な両手がボクの首を絞める。やばい! 息が出来ない! 酸素が足りない! 嫌だ、死にたくない!
だんだんと指先の感覚が無くなってくる。もう苦しいのかどうかもよく分からない。意識も途切れかれて死を覚悟したその時だった……
* * *
「クラフト・メタル・ガン!」
タヌキにゴム弾がヒットしてボクの首を絞めていた両手が緩む。
「痛っ! 誰だ今度は⁉︎」
タヌキがうめきながら叫ぶと、
「クラフト・メタル・アーム!」
今度はキツネが殴り飛ばされた。
「実月、大丈夫か?」
「実月くん! 助けに来たよ」
肺に酸素を取り込んで状況を確認すると、絵梨香さんと万丈さんが助けに来てくれた。
「ゴホッ、ゴホッ、ありがとうございます……助かりました」
咳き込みながら感謝を述べると、絵梨香さんがボクの背中を優しく撫でる。
「どうして、どうしてこの場所が分かったんだ⁉︎」
タヌキが怒りで体を震わせながら尋ねると、絵梨香さんがポケットから細い糸を取り出した。
「この糸のおかげよ。実月くんがこれで私たちに居場所を教えてくれたのよ!」
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