8話
第3章 取らぬ狸男の皮算用
「どうだ見たまえ! 見分けがつかないだろ?」
黒豹率いるギャングメンバーの1人、タヌキは、丁寧に2体のフィギアをテーブルの上に置いた。
名前の通りタヌキのように丸々とした体をしているが、手先がとても器用なため偽造品を作るのは造作もない事だった。
「流石です! 全く見分けがつきません」
下っ端のいう通り、2体のフィギアはどこからどう見ても同じだった。細かい表情やポーズはもちろん、肌の色や赤い唇まで再現されている。
「ワシのフィギアに対する妄想力とこの3色クラフトメタルがあれば、再現できないものはない!」
タヌキは商売道具を大切にしまうと、豪快に笑い声を上げた。
通常のクラフトメタルは黒1色。だがそれではダメだ。1つ1つのフィギアに込められた思いや瞳の輝き、肌の温かみ、それらを再現するには色が必要だ。
理想のフィギアを作るためなら妥協はしない。そこで黒豹さんに頼んで開発してもらったのがこの3色クラフトメタルだった。
赤、青、黄色、の3色のクラフトメタル。これを組み合わせる事で様々な色を作る事ができる!
「こいつはプレミアがつくほどのレアなフィギアだからな。市場に売り捌けばいい値が付くだろう」
早速タヌキの頭の中で電卓が弾かれる。無事に売れたらまたフィギアを買うとしよう! ただ、それはいいとして……
「なぁ、それにしてもこの部屋寒くないか? エアコンをつけてくれ」
「すみません、実は朝から調子が悪くて……」
「なら早く業者に頼んでおけ」
「分かりました」
タヌキは部下に指示を出すと自分の部屋に向かった。それから待つこと数十分……
「失礼します。エアコンの修理を頼まれてやって来ました」
金髪のポニーテールをした若い女性が大きな荷物を持ってやって来た。やはり野郎共とは違って若い女はいいものだ。
「とりあえず直ぐに取り掛かってくれ。何かあったらそこら辺にいる奴に声をかけてくれたらいい」
出来る事ならもう少し話していたいが、今はやめておこう。今日は同じギャング仲間のキツネにお使いを頼まれている。
油を売ってる暇はない。後で地下倉庫にある銃を取りに行くとするか……
「では、早速取り掛かりますね」
若い女性は元気よく答えると、部屋を出て行った。
* * *
「実月くん。もういいよ」
絵梨香さんの声が外から聞こえる。どうやら侵入は成功したようだ。
「さてと、始めましょうか」
道具入れから出ると、そこは小さな部屋の中だった。ここがタヌキのアジトかぁ……
「打ち合わせ通り行きましょう。ボクが合図をしたらお願いしますね」
この作戦は時間との戦いだ。失敗は許されない……必ずボクが密売を阻止してみせる!
数時間前
「児童館のボランティアご苦労だった。実月くんの活躍は絵梨香から聞いたよ。ギャングの1人を倒したそうだな」
ここはメタリック社の最上階に位置する司令室。司令長の氷室さんがボクに労いの言葉をかけてくれた。
「あの、氷室司令長、ギャングについて何か新しい手がかりはありましたか?」
「君がイノシシを捕まえてくれた事で少し分かってきたよ。どうやら奴らは互いの事を動物の名前で呼び合っているらしい……あと、タヌキという男がこの近くの事務所を拠点に活動しているそうだ」
氷室司令長は一度言葉を切ると、手を組んで深刻そうな顔でボクを見る。
「他の精鋭舞台の報告ではタヌキが明日、銃の密売をするそうだ。それをキミに阻止して捕まえてほしい。イノシシとサルを捕まえたその実力……貸してはもらえないか?」
「密売の阻止とタヌキの捕獲ですか……」
正直な事を言うと不安だ。前回のイノシシとの戦いもすごく大変だった。でも、あんな奴らを野放しにするわけにはいかない! クラフトメタルを使って人を傷つける奴らは許せない!
「分かりました。必ず阻止してみせます!」
「そう言ってもらえると助かる。何か必要な道具があったら遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えてエアコン業者の制服を準備してもらえませんか? あと絵梨香さんと万丈さんを呼んでください。この作戦は3人必要です」
ボクは司令室を出ると明日に備えて何度もシュミレーションをしてみた。
* * *
「実月くん。もういいよ」
絵梨香さんの声が外から聞こえる。どうやら侵入は成功したようだ。
「さてと、始めましょうか」
道具入れから出ると、そこは小さな部屋の中だった。ここがタヌキのアジトかぁ……
「打ち合わせ通り行きましょう。ボクが合図をしたらお願いします。万丈さん、準備はいいですか?」
周りにタヌキの部下がいないことを確認して、ボクは電話を取り出した。
「あぁ、こっちは問題ない。言われた通り通気口に蓋をしといたぜ」
「では、合図があったら外してくださいね」
ボクたちの作戦は至って単純だ。まず最初に万丈さんがエアコンの通気口を塞さぐ。これで敵は故障したと勘違いするから業者に電話を入れるはずだ。
後は業者に変装したボクと絵梨香さんが向かえば怪しまれずに中に通してくれる。
予定ではボクも変装するはずだったけど『子供がお仕事ごっこをしてるようにしか見えない』と言われて却下した。ボクは子供じゃないのに……
仕方なく道具入れの中に身を潜めるハメになったのだが、これが狭くて狭くて息苦しかった。
「本当に1人で大丈夫? 実月くん」
「心配いりません。アジトの内装は全て暗記しました」
「流石実月くん。でも気をつけてね」
ボクは軽く頷いて部屋を出た。幸いこのアジトは人が少ない。見つからないように慎重に進み、音を立てないように階段を降りた。
地下は外からの光が入ってこないから蛍光灯の光がより眩しく感じる。
余計な部屋は無く20メートルほど廊下が続いていた。その先に目的の倉庫がある。ゴールまであと少しなんだけど……
「なるほど……これは想像以上だなぁ」
廊下には無数の赤外線レーザーが張り巡らされていた。スパイ映画だと主人公が華麗な身のこなしで触れずに進むのだけど、当然ボクには出来ない。でも考えはある。
「絵梨香さん、今です! ブレーカーを落として下さい」
ボクは電話を取り出すと、絵梨香さんに合図を送った。
* * *
「絵梨香さん、今です! ブレーカーを落として下さい」
修理のフリをしていると、実月くんから合図が送られて来た。ブレーカーね、任せて!
「すみません、エアコンの電源を落としたいのですが、ブレーカーは何処にありますか?」
「あぁ、それならここだな」
隣の部屋に居た人に尋ねたら、特に怪しまれる事もなく案内してくれた。
「えっと、エアコンの電源はこれかな?」
「あっ、それは違う。そこを落とすと建物全体の電気が……」
案内してくれた人が慌てて止めようとするが、私はそれを無視して電源を落とした。
* * *
「ふぅ……とりあえず難所は抜けれた」
ボクは軽く息を整えて立ち入り禁止と書かれた倉庫の扉を開けた。それと同時に蛍光灯の光が戻る。
どんなに赤外線レーザーを張り巡らせようが、大元の電気を落としたら意味がない。さてと……銃はどこにあるかな?
倉庫には陳列用のロッカーがずらりと並んでいた。書類やフィギア、あとクラフトメタルが整頓されている。お目当ての銃は……これかな?
ボクの身長と同じくらいのスーツケースを開けると、中からスナイパーが出てきた。
「クラフト・メタル・スナイパー」
鞄から取り出したクラフトメタルは、ボクの想像力によってスナイパーに姿を変えた。
見た目は全く同じ。でもこれではダメだ。黒1色のクラフトメタルでは持ち手の茶色い部分が再現出来ない。
「これはマズイなぁ……」
予定では偽物の銃を作ってすり替えるつもりだったけど、色の事までは考えていなかった。
「何か、何か使える物はないかな?」
背伸びをしながら上の段のロッカーを漁っていると、硬い何かが頭に落ちて来た。
「痛ったた……何これ?」
頭を押さえながら拾ってみると、それはクラフトメタルだった。でも普通のとは違う。赤、青、黄色の3色だ!
「もしかしたら……いけるかもしれない!」
とりあえず試しに赤と黄色を混ぜると予想通りオレンジ色になった。って事は、ここに通常の黒いクラフトメタルを少し混ぜたら……
「よし、出来た!」
無事に茶色が作れた! それにしてもこのクラフトメタルは凄い! 少しもらっておこう。研究部の日下部さんもきっと興味を持つはず!
「絵梨香さん、聞こえますか? またブレイカーを落として下さい」
後は本物とすり替えて脱出するだけ。電話を取り出して絵梨香さんに合図を送ると……
「実月くん大変! タヌキがいないの」
随分と慌てた様子で返事が返ってきた。
「いない? それって……まさか⁉︎」
首筋に嫌な汗がつたる。ゴクリと唾を飲んで耳を澄ませると、廊下から誰かの足音が近づいて来た。
ご覧いただきありがとうございました!
僕は不器用なので物作りは出来ません。でも物語りは作れます(笑)




