7話
2年前 絵梨香の入社理由
「クラフト・メタル・ガン!」
ここはメタリック社の地下にある狙撃場。外部に音が漏れる心配がないから気兼ねなく練習ができる。
「絵梨香、少しいいか?」
「あっ! パパ! 見に来たの?」
「パパではない。会社にいる時は司令長と言いなさい」
「は〜い、すみません」
せっかく来てくれたのにお説教か……誰も見てないから別にいいのに。
「実はやってもらいたい仕事がある。内容は資料にまとめてあるから頼んだぞ」
「分かった。ねぇ、この仕事が終わったら、その……」
「なんだ? あまり時間が無いんだ。用があるなら早く言ってくれ」
「えっと、その……この仕事が終わったら一緒にご飯を食べに行かない?」
「………そんな時間はない」
パパはそう言うと、私に背を向けて行ってしまった。
* * *
「お〜い、絵梨香、見てくれよ! クラフト・メタル・アーム!」
練習を終えて帰り支度をしていると、万丈が走ってやって来た。その手はクラフトメタルで覆われている。
「だいぶ慣れてきたぜ! って、なんかあったのか?」
万丈は私を見ると心配そうに尋ねてきた。あれ? 顔に出ていたかな?
「別に……」
「そんなわけねぇーだろ」
素通りして帰ろうとしたけど万丈が私を呼び止める。
「万丈には関係ないわよ! 放っておいて!」
イライラしていたせいでつい口調が強くなる。今日はもう誰とも話したくない。放っておいて……
「まぁ、確かにそうかもな。でも話してみたら意外と楽になるかもしれねぇーぜ」
話せば意外と楽になる……あれ? それ以前私が言ったことだ。
「万丈、その……ごめんなさい……」
「気にするなって。それでどうしたんだ?」
「えっと……私のお父さん……じゃなくて司令長はいつも忙しいの。だから少しでも楽をして欲しくてこの会社に入ったのよ。ほんの少しでもパパの役に立ちたくて……」
そう、私がメタリック社に入った理由はパパを楽にしてあげたかったから。いつも朝早くに出て行って夜遅くに帰ってくるのは本当に大変そうだった。
「だけど、たまには息抜きも大事でしょ? だから食事に誘ったのに断られたのよ。もう! 何なの!」
せっかくメタリック社に入れたのに、これじゃあ昔と何も変わらない。私はパパの役に立っていないの? だから一緒に食事にすら行ってくれないの?
「なるほどな、だったらいい案があるぜ!」
「いい案?」
「単純な事さ。お前が司令長になればいいんだよ」
万丈が自信満々に答える。えっと……私が司令長⁉︎
「何言ってるの? あんたバカ⁉︎」
「俺は本気だぜ。司令長の命令は絶対だろ? だから親父さんに強制休暇を与える。そして家族と一緒に過ごせ! って命令すればいいんだよ」
万丈は多分私を励ますために言ってるのね。内容はメチャクチャだけどその気持ちは嬉しい。
「ふふ、何それ? でもありがとね。何か元気出た」
「それは良かったな。じゃあ練習に付き合ってくれないか?」
「えぇ、いいわよ!」
私は気持ちを切り替えると、実戦場に向かった。
司令長と日下部の飲み会
「氷室司令長! たまには飲みに行きませんか?」
大量の書類仕事をしていると、研究員の日下部が司令室に入ってきた。
「私は忙しいんだ。まだ仕事が残っている」
「書類仕事に終わりはありませんよ。たまには息抜きをしませんか?」
「明日も忙しいんだ。30分だけだからな」
日下部に押されて仕方なく私は司令室を出て近くの飲み屋に向かった。それから30分後……
「日下部……私だってなぁ、たまには娘と食事に行きたいものだよ。でも年頃の娘と2人きりってのもなぁ……」
気がづいたら私は酔いに酔ってそんな事を話していた。
「司令長。ここは下手に意地を張らずに素直に行けばいいんですよ。父親の役に立ちたくて入社するなんて素敵な娘さんじゃないですか」
「あぁ、そうさ、私にはもったいないくらい出来た娘だ。5歳の誕生日の時にパパと結婚すると言ってくれた。今日だって食事に誘ってくれた。なんていい娘なんだ! それに比べて私はなんてダメな父親なんだ!」
「まぁ、まぁ、今日は奢るので気が済むまで飲んで下さい」
日下部に進められ私は浴びるように酒を飲んだ。いつの日か絵梨香と一緒に酒を飲める日が来るのだろうか?
二十歳になった絵梨香……きっと今よりも綺麗になっている。もしかしたら彼氏がいるかもしれない。その時はいよいよ私はすみに追いやられるのだろうか? そう思うと余計に酒が進んだ。
翌日……
「昨日は飲み過ぎたな……」
外の空気を吸うために司令室を出て廊下を進んでいると、
「あれ? パパ、顔色が悪いけど大丈夫?」
前から歩いてきた絵梨香が心配そうな顔で私を見る。
「大丈夫だ。昨日少し飲み過ぎただけだ」
「飲み過ぎた? 私との食事は断って他の人とは飲みに行ったの?」
絵梨香はムスッと頬を膨らませて不満げにそう言う。
「すまない絵梨香、実はその……今日の仕事の後は暇か?」
「えっ? どうしたの?」
「その、一緒に食事に行かないか?」
「えっ? 食事? そんな時間は無い。私は忙しいの」
日下部に教わった通り正直な気持ちで誘ってみると、胸に突き刺さるような冷めた声で断られた。
なるほど、この前の私はこんな酷い事を言っていたのか……私は父親失格だ。罪悪感に押しつぶされて項垂れていると……
「ふふ、冗談よ。一緒に行こ!」
絵梨香がチラッと舌を見せて、パッと明るく微笑んだ。
「でも今日は無理しなくていいよ。また今度とかでも……」
「心配はいらない。そうだ。今日の帰りに回らない寿司屋に行かないか?」
「えっ本当⁉︎ やった! 行きたい!」
絵梨香は私の両手を握って嬉しそうにブンブンと振る。約束通り今日の夕食は寿司屋へ向かった。
久しぶりに娘と食事をして緊張したが、やはりいいものだ。財布の中身はすっかり無くなってしまったが、決して後悔はなかった。
ご覧いただきありがとうございました。
2人の過去編はこれで終了です。次回から本編に戻ります。




