5話
「バウッ! バウッ!」
隣でずっと唸り声を上げていたボスが刃物を持つ男の手に噛み付く。
「痛ってぇ〜なー! 何だこいつ!」
男の手からナイフが落ちて地面に刺さった。
「えっ⁉︎ どういう事‼︎」
「絵梨香、子供たちを頼む!」
「分かった」
瞬時に万丈さんが指示を出して、絵梨香さんが頷く。子供たちは不安そうにオドオドしながら絵梨香さんの後ろに隠れた。
「お前、何者だ?」
万丈さんは警戒しながら近づくと、ボクには絶対に出せないドスの効いた声で尋ねた。
「オレの名前はイノシシ。ギャングの1人さ!」
大柄な男はそう名乗るとボクたちを睨みつけた。腕や顔の毛が濃く、体は獣のように巨大だ。
「ギャング? おい絵梨香! 気をつけろよ」
「分かってる!」
万丈さんと絵梨香さんが緊張した面持ちで構えた。
「狙った獲物は逃さない。それが俺のやり方さ! クラフト・メタル・クロー」
クラフトメタルが獣のように鋭い爪に変化する。あんなので引き裂かれたらお終いだ! イノシシは低く構えると、一直線に万丈さんの元に突っ込んで行く。
「万丈さん、避けて下さい!」
「避ける? 何言ってるんだよ! 後ろに子ども達が居るんだ、逃げるわけねーだろ! クラフト・メタル・アーム!」
万丈さんは手にクラフトメタルを纏わせると、正面からイノシシを受け止めた。
「くそ、強え……」
ジリジリと万丈さんが押されていく。
「どうしたその程度か?」
万丈さんの手に纏ったクラフトメタルがボロボロと地面に落ちる。
「うるせーな。それよりも自分の心配をしたらどうだ?」
万丈さんはイノシシの腕を掴むと、目で絵梨香さんに合図を送った。
「絵梨香、今だやれ!」
「任せて! クラフト・メタル・ガン!」
メタルガン? 何それ? 気になって振り返ると絵梨香さんが銃を構えていた。そこから放たれた一撃がイノシシに命中する。
「絵梨香さん! 流石にやり過ぎじゃないですか⁉︎」
イノシシは崩れるように地面に倒れた。確かに向こうから危害を加えてきた。だけど殺す事なんて……
「大丈夫。弾はゴムだから死なないよ。クラフトメタルで作った私専用のハンドガン! いいでしょ!」
絵梨香さんが銃を掲げて自慢げに見せてくれた。凄い、こんな事も出来るんだ!
「お兄ちゃんたち凄い!」
「ねぇ、今のどうやったの⁉︎」
万丈さんの周りに集まった子供たちが目を輝かせて口々にそう言う。
「まだ危ねえーから離れてろ! 勝ったと思って油断した時が1番危険なんだよ!」
万丈さんが注意をすると、ゆっくりとイノシシが立ち上がって子供たちを見下ろした。
「よく分かってるじゃねぇか!」
「おい、お前ら! 直ぐに離れろ!」
すかさず万丈さんが両手を広げて子供たちを守ろうとしたが、イノシシの右ストレートが万丈さんの腹部にめり込む。
「うっ……!」
万丈さんの目が大きく見開いて口から血が溢れ出る。
「ちょっとあんた、何してるのよ!」
絵梨香さんがすかさず銃を構えるが、イノシシは迷いのない足運びで銃ごと蹴飛ばした。
「きゃぁ!」
「絵梨香さん!」
急いで駆け付けると、絵梨香さんは苦しそうに顔を歪ませて体を起こす。
「大丈夫……私なら平気」
そうは言ってるけど、とても無事には見えない。
「どうして? 確実に命中したはずなのに……」
「なかなかいい腕だぜ嬢ちゃん。だけど惜しかったな」
イノシシが上着を脱ぐと、クラフトメタルで作った鎧でゴム弾が防がれていた。
「後はお前1人だ!」
どうしよう…… どうしたら……このままだと全員コイツにやられる!
「実月! お前は子ども達を連れて逃げろ! 俺が時間を稼ぐ!」
万丈さんが無理やり体を起こしてイノシシを睨む。
「無理ですよ万丈さん! そんな体で!」
「関係ない! 俺はもう誰かが目の前で死ぬのが嫌なんだよ!」
万丈さんが両手を広げてボク達を守ろうとするが、サンドバックのようにボコボコに殴られる。
「万丈さん‼︎」
イノシシの連続パンチがヒットして地面に吐血が飛び散る。酷い!
「もう、やめて下さい!」
手は震えるし、緊張のせいか口も乾く。でもそれ以上に腹の底から怒りが湧いてくる。
「ふん、断る! 黒豹さんの計画を邪魔する奴は全員敵なんだよ!」
「黒豹? 計画? 何の事か分からないけど、お前の事は許さない!」
気がつくとボクの口が勝手にそう言っていた。
「実月、やめろ、流石にお前でも!」
「そうだよ実月くん! 危険だよ!」
2人が懸命に止めようとするけど、ボクの耳には届かない。
「クラフトメタルには無限の可能性がある。きっと今よりも豊かな生活にしてくれる! それなのに……それなのに! だれかを傷つけて悪用する奴は許せない!」
「いい目で睨むな! でもそれは勝ってから言うんだな! クラフト・メタル・クロー!」
イノシシの爪が獣のような太く鋭く伸びていく。正直凄く怖い。下手をしたら死んでしまうかもしれない。でも! こんな奴に負けたくない!
「クラフト・メタル・バリア!」
鉄の壁がイノシシの攻撃を防ぐ……はずだったが、
「遅い遅い、吹き飛べ!」
鉄のバリアが完成するよりも早くイノシシのタックルがボクに襲いかかる。
避ける事も防ぐ事も出来ず、そのまま地面に3回ほどバウンドしながら10メートル近く飛ばされた。
「っ……‼︎」
あまりの痛さに息が詰まる。全身が打撲と擦り傷でボロボロだ。
「どうした口だけか?」
イノシシがまたタックルをかます。これ以上あの攻撃をくらったらマズイ! そうボクの中の直感が叫ぶ。
「クラフト・メタル・バリア!」
「だから無駄だって言ってるだろ!」
本来バリアは攻撃を防ぐためのもの。でも使い方は様々だ。イノシシの正面から順に鉄の壁が取り囲んでいく。
「俺を捕まえるつもりか? 無駄だぜ、壊せばいいからな!」
イノシシは余裕の笑みを浮かべて正面のバリアにタックルをかます。だけど壁はびくともしない。
「硬ったいなー んだよこの壁! 捕まってたまるか!」
後少し、もう少しで完全に包囲出来る。でも完成するよりも先にイノシシが唯一の隙間から逃げ出してしまった……
でも大丈夫。計算通りだ!
「さっきの仮りを返すぜ! クラフト・メタル・アーム!」
唯一の逃げ道で待ち伏せていた万丈さが、強烈な一撃をイノシシに打ち込んだ。
「うぐっ! クソ! テメェ!」
「実月、こいつを捕まえろ!」
「はい! クラフト・メタル・チェーン!」
殴り飛ばされたイノシシが宙を舞う。空中こそ本当に逃げ場が無い。ボクの想像によって形を変えた鎖がイノシシに巻き付いた。
「おいガキ! まさかわざと逃げ道を1つ作ってそこに誘導したのか?」
「はい、そうです。捕獲完了」
その後、絵梨香さんが呼んだ警察が駆けつけると、イノシシは手錠を掛けられて連れて行かれた。
* * *
「ねぇ、さっきのやつ僕もやってみたい!」
「ワタシも!」
「ズルい! ボクも!」
戦いが終わり、子供たちは目を輝かせて万丈さんの周りに走って来た。
「悪いな、これは子供には使えないんだ」
「え〜 使ってみたい!」
「お兄ちゃんだけなんてズルい!」
子供たちは頬を膨らませて不満を述べる。
「万丈さん、少しくらいならいいのでは?」
「ダメだ。これは扱いを間違えたら怪我するからな」
「まぁ、そうですけど……」
確かに万丈さんの言ってる事は正しい。包丁だって間違った使い方をしたら人を傷付ける。クラフトメタルも同じだ。
「じゃ、こうしよう。お前らが俺くらい大きくなったら最強の使い方を教えてやる」
「えっ! 最強⁉︎」
「どんなの? 必殺技とかあるの⁉︎」
最強と聞いて子供たちのテンションはさらに上がる。
「だからお前たち! ちゃんと飯食って大きくなれよ」
万丈さんはデカい手で子供たちの頭を撫ぜる。
「万丈さんって意外と面倒見がいい人ですね」
「そうなんだよね〜 あんなにイカつい顔なのにね」
絵梨香さんとコソコソ話していると、万丈さんがクルリと振り返る。
「おい、そこ2人、何か言ったか?」
「な〜にも言ってないよ、あんまり遅くなると先生が心配するから帰るよ」
「バウ! バウ!」
パグ犬のボスが元気よく吠えて尻尾を振る。日が暮れてきたため急いで児童館に戻ると、先生が傷だらけのボクたちを見てすぐに手当をしてくれた。
「本当に大丈夫だった?」
「私たちは大丈夫です。ですが……」
「子供たちを危険な目に合わせてしまい、すみませんでした!」
絵梨香さんと万丈さんが謝っていると、側で見ていた子供たちが駆けつける。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんは悪くないよ!」
「そうだよ! 悪いのは怖かったおじさんだよ!」
子供達は2人を守るように口々にそう言うと、先生は優しく微笑んで頷いた。
「えぇ、そうね、絵梨香ちゃん、万丈くん、それから実月くん、子供たちを守ってくれてありがとね」
宮下先生は何度もお礼を言うと、またいつでも遊びに来て欲しいと言って見送ってくれた。
ご覧いただきありがとうございました。
バグ犬のボスは可愛いですが、僕は犬アレルギーなので触れません……




