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3話

「やるじゃねーか実月(みつき)!」


 万丈(ばんじょう)さんはクラフトメタルをしまい、感心した様子でボクの肩を軽く叩く。


「実月くんですね。見事な戦いでした」


「ありがとうございます。えっと、貴方は……」


「私は氷室(ひむろ)。メタリック社の司令長を務めている者です」


 氷室司令長は軽く自己紹介をするとボクに頭を下げた。背が高くてスーツ姿がよく似合う男性だ。何だかすごいオーラを感じる。でも誰かに似ているような……


「実月くんかっこよかったよ! ってあれ? どうして()()がここに?」


「パパ? 絵梨香(えりか)さんのお父さんですか?」


 何となく誰かに似ていると思ったけど、こうして並んで見比べると確かによく似ている。特に目元なんてそっくりだ。


「絵梨香、仕事の場では司令長と言いなさい」


「は〜い、すみません、司令長」


 絵梨香さんは渋々頷くと、面倒くさそうに呼んだ。


「あの、絵梨香さん、約束通りクラフトメタルをもらえますか?」


「そうね。ちょっと待ってて、お〜い日下部(くさかべ)さん! まだですか?」


 絵梨香さんが呼びかけると、1階から中年の男性がボサボサの頭を掻きむしりながらやって来た。何だかオタク感の溢れる人だな……


「この人は日下部さん。クラフトメタルの研究オタクで、年中無休で実験するくらいのマニアよ」


「初めまして日下部です。いや〜 何だか人と話したのが久しぶりだな」


「日下部さん、今回はどれくらい籠っていたの?」


「う〜ん……1ヶ月くらいは経ったかな? あんまり覚えていないや」


 日下部さんは頭を掻きながら笑っているが、その目にはくっきりとクマが出来ている。


「君が実月くんだね。話は絵梨香くんから聞いたよ。はい、これが君専用のクラフトメタルね」


 日下部さんはポケットに手を突っ込むと、丸い鉄の球体を取り出してボクにくれた。


「ありがとうございます! それにしてもクラフトメタルは凄いですね。想像力で形を変えられるなんて今だに信じられません!」


「そうでしょ、凄いでしょ? まだ詳しい事はよく分からないけど。クラフトメタルにはこの世界の常識を作り変える可能性があるのだよ!」


 日下部さんは嬉しそうに頷くとクラフトメタルについてあれこれ教えてくれた。とても興味深い!


「お〜い実月くん、そろそろ良いかな?」


 絵梨香さんに止められてふと我にかえると、外はすっかり日が暮れていた。さっきまでいた万丈さんや氷室(ひむろ)司令長はもういない。


「外はもう暗いし家まで送っていこうか?」


「ありがとうございます。でも1人で大丈夫ですよ」 


「本当に大丈夫? 昨日みたいな事件には気をつけてね」


「そうですね、気をつけます」


 昨日の帰り道、窃盗犯を捕まえようとクラフトメタルを初めて鎖に変えたシーンが頭によぎる。


「結局、あの窃盗犯は何者ですか?」


「あれはね……()()()()()()()()()()()()ギャングの一味よ」


「クラフトメタルを悪用するギャング⁉︎」


 こんな凄い技術を悪用するなんて……正しく使えばきっと今よりも生活は豊かになるのに!


「昨日捕まえた男は自分の事を()()と名乗っていたわ。詳しい事はまだ分からないから私たち精鋭部隊が色々調査しているの」


 絵梨香さんはそこで一度言葉を切ると、少ししゃがんでボクと同じ目線に合わせた。


「さっきはつい実月くんなら精鋭部隊になれるとか言ったけど、きっと今までで1番危険な戦いになるわ。もし嫌だったら開発部の方に行ってもいいのよ」


 確かに絵梨香さんの言う通り危険かもしれない。でも!


「クラフトメタルがあればきっと今よりもいい生活を作れます。だから悪用する人たちは許せません! ボクも精鋭部隊に入れてください!」


 ボクは絵梨香さんの目を真っ直ぐ見つめて宣言した。


「ふふっ、やっぱり実月くんは男の子だね。じゃあ明日からよろしくね!」


「はい!」


 絵梨香さんに見送られボクはメタリック社を後にした。クラフトメタルを悪用するギャング……一体どんな人なんだ? 




* * *


「まさかあのサルが捕まるとはなぁ……」


 どこか不機嫌そうな男性が自動販売機に小銭を入れてブツブツと文句を言う。この男こそがギャングのボス──黒豹(くろひょう)だった。


 見た目は20代後半、黒いネクタイを締め、黒いジャケットを羽織り、手には黒い手袋をしている。全身が黒で染まっているが、その瞳は鋭く光っていた。


「サルがサツに連行か……まいったな〜 仲間が1人いなくなっちまった……」


 部下の名前はその見た目や性格が似ている事から、サル、イノシシ、タヌキ、キツネ、ヘビ、と呼んでいる。


「まぁ、嘆いていても仕方ないか……」


 適当にコーヒーを選んでボタンを押すと、数字が回転して4、4、4、4で止まった。


「おっ、ラッキー アタリか」


 と言ったものの正直2本もいらない。どうしたものか……


「おい、そこのガキ、なんか飲むか?」


 黒豹はちょうど前から来た女……いや男か? 中性的な見た目の子供に手招きをした。




* * *


「おい、そこのガキ、何か飲むか?」


 メタリック社を出て家に向かっていると、突然知らない男性がボクに手招きしてきた。


「えっ、ボクですか。別に今は……」


「運よく当たったんだよ。適当に選んでくれ」


 男はボクの話を無視すると早く選ぶように促す。まぁ、タダで貰えるのならいいかな?


「じゃあ……オレンジジュースを頂きます」


 適当に選んでお礼を言って立ち去ろうとしたが、


「おい、待てよ。ちょっと話し相手になってくれないか?」


 やはりタダでは返してくれなかった。流石に断るわけにはいかないよね……


「あんまり遅くなると両親に怒られるのですが……」


「すぐ終わるから安心しろ」


 何となく断れない雰囲気に押されて見知らぬ男とベンチに座った。


「お前、名前は?」


「実月です」

 

「なぁ、実月、どうして空き缶は円錐なんだろうな? 別に四角形でも三角形でもよくないか?」


 男は缶コーヒーの蓋を開けて突然そう言い出した。


「詳しくは知りませんけど、円錐の方が都合がいいのでは?」


「都合ねぇ……」


 男はつまらなそうに呟くと、缶コーヒーを飲み始めた。


「水は容器の形に合わせて自由に姿を変える事ができる。丸い容器に入れば丸に。四角い容器に入れば四角になる。それなのに製造者の都合によって円錐の筒の中に閉じ込められている。まるで俺たちみたいだな」


「どう言うことですか?」


 男はもったいぶるように缶コーヒーを弄ぶと、少し考えてから話を続けた。


「権力者や上の階級たちが枠組みを作って俺たちはその中で生きる。水みたいに自由な俺たちは顔も知らないお偉いさんが作った容器の中で一生過ごす。こんな世界はクソ喰らえだ。俺がぶっ壊してやるよ!」


 男は空き缶を握り潰すと、ゴミ箱に向かって投げ捨てた。空き缶は弧を描いてすっぽりと入る。


「行儀が悪いですよ」


 ボクが注意すると、男は悪びれる様子もなく鼻を鳴らす。


「別に入ったからいいだろ? 近くまで歩いて捨てようが投げ捨てようが結果は同じだろ?」


「そうかもしれませんが……」


「まぁ、そう言うことで、じゃぁな」


 男は背中を向けたまま手を振ると、路上の闇に消えていった。




* * *


「お帰りなさい、黒豹さん」


 ここはクラフトメタルを悪用するギャングのアジト。街から少し離れた廃ビルで黒豹を筆頭に部下達が暮らしていた。


「なぁ、イノシシ。サルを捕まえた奴の顔は分かるか?」


「はい、防犯カメラに写っていました!」


 イノシシと呼ばれた男は、毛むくじゃらな腕をポケットに突っ込んで2枚の写真を取り出した。そこには中性的な顔の子供が映っていた。こいつはまさか⁉︎


「おい、イノシシ、本当にこのガキであっているよな?」


「はい、あっています。どうかしましたか?」


「いや、何でもない」


 おいおい、マジかよ! さっきオレンジジュースを奢った実月(あいつ)がサルを捕まえたのか⁉︎


「もう一枚の写真も見ますか?」


 2枚目の写真には例の子供がクラフトメタルを鎖に変えるシーンが映っていた。


「まさか少女にサルが捕まるとは……思いもしませんでしたね」


 イノシシが2つの写真を見比べてため息をつく。少女? 何を言ってるんだ?


「お前の目は節穴か? こいつは男だろ。まぁ、ダメだったもんは仕方ない。次どうするか考えよう」


「それなら任せてください。必ず仕留めて見せます!」


「そこまで言うなら構わないが……どうやって見つけるんだ?」


「とにかく足を使って探しまくります!」


「お前はいつも猪突猛進で計画性がないからな……」


「心配しないでください。ヘマはしません!」


 イノシシは自信に満ちた顔で宣言すると、深くお辞儀をして部屋を出ていった。


「クラフトメタルをあの一瞬で鎖に変えてサルを捕まえたのか……天才だな」


 黒豹は写真を手に取ると、楽しそうに笑みを浮かべた。それはまるで新たな獲物を見つけて喜ぶ獣のように……

ご覧いただきありがとうございました♪

次回も20時30分に投稿します!

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