17話
「待ってよ、ボス!」
パグ犬のボスは短い足を高速で動かして狭い路地裏を駆け抜ける。
「バウ!」
目の前に柵があってこれ以上は進めない。だけどボスはその先をじっと見て吠える。
「えっ? ここを登るの?」
「バウ」
ボスは『そうだよ!』と言いたげな表情でボクを見つめる。
「ちょっと待って、クラフト・メタル・バリア」
本来は攻撃を防ぐ物だけど、それを足場にしてボクとボスはフェンスの先に進んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……ねぇ、まだ?」
流石に疲れた。喉も乾く。ボスも疲れたのか自動販売機の方を向いて吠える。もしかして何か飲みたいの?
ボスは何かを確認するように鼻をヒクヒク動かすと、自動販売機に向かって急に低く唸り始めた。そこには1人の男性がいる。
「あれ? あの人は確か……」
名前は知らないけど、会う度に飲み物を奢ってくれる男性だった。話が長くて困るけど……
「まだ少し反応がズレるな……もう少し調整させるか」
男はスマホを見ながら立ち去ろうとしたが、ボクを見つけて足を止める。
「よぉ、実月。また会ったな」
「グルルルル!」
男はスマホをしまってボクに手を振ると、普段は穏やかなボスが牙を剥き出しにして威嚇した。
「どうしたのボス? この人はボクの知り合いだよ?」
ボスはそれでも威嚇を止めず、クラフトメタルの破片と男性に向かって交互に吠える。えっ、まさか……
「もしかして……貴方がイノシシを操っているのですか……」
恐る恐る尋ねると、男性はスマホをしまって不気味な笑みを浮かべた。
「あぁ……そうだぜ」
そう答える男性の瞳は、まるで猛獣の様に鋭く危険な光を放っていた。
絵梨香&万丈vsイノシシ
「ねぇ、万丈、大丈夫?」
私はイノシシを警戒しつつ、ちらっと隣にいる万丈を見た。至る所にイノシシの爪で引き裂かれた傷があって痛々しい……
さっきから攻撃をしているけど手応えがない。せいぜいクラフトメタルの破片が飛び散るだけだ。
「絵梨香、お前は子供たちを頼む。俺がこいつの相手をする!」
「でも、もうボロボロじゃない!」
相手は不死身でこっちは生身の人間。長引けは長引くほど不利になる。お願い実月くん、早くして!
「お願いみんな、逃げて!」
「俺が時間を稼ぐ。お前らは逃げろ!」
私と万丈が必死に叫ぶが子供たちは首を振る。
「嫌だ! ボクたちも戦える!」
「ワタシたちもお兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に頑張る!」」
「お兄ちゃんたちをいじめる人は許せない!」
「##$%##@!!」
相変わらず意味不明な言葉を叫びながら子供たちの元にイノシシが突っ込んでいく。
「皆んな行くよ!」
「「うん!」」
子供たちは戦いの最中に飛び散ったクラフトメタルの破片を拾うと、口々に動物の名前を叫んだ。
「クラフト・メタル・ライオンさん!」
「クラフト・メタル・シマウマさん!」
「クラフト・メタル・ウサギさん!」
クラフトメタルは使用者の想像力によって形を変える。子供たちが創造した動物は一直線に突進してイノシシを押さえ込んだ。
「みんな凄いよ!」
「やるじゃねーかお前たち!」
「$###@%%@!!」
イノシシは叫びながら抵抗したが、逃げ出せないと分かると、電池が切れたオモチャのように静かになった。
実月vs黒豹
「ライオンにシマウマにウサギか……やっぱり子供たちの自由な発想には敵わないな……」
男性はスマホをしまうと、苦笑いを浮かべた。
「やっぱり貴方がイノシシを操っていたんですね。もしかしてギャングのリーダーですか?」
「あぁ、そうだぜ。俺の名前は黒豹。お前には随分とやられたからな、仮は返すぜ!」
黒豹はボクを睨むと、ポケットから禍々しい漆黒の光を放つクラフトメタルを取り出した。
「クラフト・メタル・ゴーレム!」
クラフトメタルは黒豹の想像力によって形を変えて二足歩行の黒い人形に変化する。でもそれだけじゃない!
「えっ? 動いた⁉︎」
「どうだすげーだろ? 通常のクラフトメタルは形が変わるだけ。でもこいつは純度が100%のクラフトメタル。俺の想像通りに動くんだぜ!」
黒豹が作った人形はボクの方を向いてゆっくりと歩いて来た。
「持ってけ、クラフト・メタル・ハンマー!」
人形は黒豹からハンマーを受け取るとボクに襲いかかって来た。この軌道……斜め右からボクの顔を狙う!
「斜め右から顔を狙う……と思っただろ?」
黒豹が指揮者のように指を動かすと、それに合わせて人形の動きも変わる。
「えっ? ちょっ……うわぁぁあ!」
鉄のハンマーがボクの太ももを強打した。あまりの痛さに涙が溢れる。
「どうだ? すげーだろ? まだまだ行くぜ!」
黒豹はもう1体黒い人形を作ってハンマーを持たせた。あれが頭に当たったらと思うとゾッとする。それに絵梨香さん達が心配だ。早くしないと!
「クラフト・メタル・チェーン」
クラフトメタルはボクの想像力によって鎖に変わる。何とか動きを止めようとしたが、寸前の所で避けられてしまいハンマーが右肩に直撃する。
「どうした? その程度か?」
「あぐっ……ぐっ……こっこんなの痛くないっ!」
「ふ〜ん、そうか……じゃあもっと行くぜ!」
黒豹は3体目の黒い人形を作ってハンマーを持たせた。上、右、左、から一斉にボクに襲いかかる。避ける? いや無理だ。だったら!
「クラフト・メタル・バリア!」
ボクはクラフメタルを使って黒豹の目の前に鉄の壁を作った。
「おっと、なんだこれ? 前が見えねぇ!」
たとえ思い通りに動かす事が出来ても、前が見えなければ意味がない。これならいける!
「クラフト・メタル・チェーン!」
ボクは残りのクラフトメタルで鎖を作り人形のハンマーを絡め取った。
「いっけ〜!」
そのまま勢いをつけて鎖を振り、先端に巻き付いたハンマーでバリアを叩き割った。
飛び散った鉄屑が黒豹の視界をさまたげる。その隙にボクは背後に回り込む。
「クラフト・メタル・ナイフ!」
地面に散らばったクラフトメタルを拾いナイフに変える。完全に後ろを取った。ボクの勝ちだ!
「ふん、それで勝ったと思ったか?」
黒豹は背を向けたままボソッと呟く。その瞬間、ボクの直感が『今すぐ離れろ!』と訴える。でも遅かった……
「クラフト・メタル・ゴーレム!」
自動販売機の後ろに隠れていた4体目の黒い人形がボクの頭に向かってハンマーを振り下ろした。
強烈な一撃を喰らってボクの体は中を舞う。重力から解放されたようなふわふわした感覚に包まれる。
薄らと目を開くと。雲一つ無い青空が広がっていた。こんな風に仰向けになって見上げるのは久ぶりな気がする。
「なぁ。実月、俺の@$#$!!%!」
黒豹が何か言ってるけどよく聞き取れない。起きあがろうとしたのに体が動かない。うっ……頭が痛い……
「*&##@()@」
黒豹は諦めたようにため息をつくと、ポケットからスマホを取り出して何処かに連絡を入れた。
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