15話
第5章 息抜き
メタリック社の研究室で調べ事をしてかれこれ3時間。流石に疲れた。頭が痛い……
「あぁぁぁぁ〜、疲れた……」
「お疲れ様、実月くん。少し休憩にしようか」
目頭を指で抑えていると、同じく研究室で作業をしていた日下部さんがカフェオレを持って来てくれた。疲れた体に糖分が染み渡る。
「ありがとうございます」
椅子に持たれてくつろいでいると、そこへ絵梨香さんがやって来た。
「お疲れ様です〜 あれ? 実月くんもいたんだ! 何していたの?」
「クラフトメタルについての可能性と今後の発展について考えていました」
「相変わらず実月くんはクラフトメタルが好きなんだね」
「はい、もちろんです! だって自分の想像通りに物が作れるんですよ! こんなに面白いものはありません!」
色々と謎は多いけど、クラフトメタルは知れば知るほど魅力的に見える。
「あまり無理するのはよくないよ。ここ最近忙しかったし、遊びに行こうよ!」
「う〜ん……そうですね……」
クラフトメタルは確かに凄い。でもまだまだ改良の余地がある。それなのに遊んでいてもいいのだろうか?
「実月くん、たまには息抜きも大事だよ。ずっと考えてばっかりだと想像力も落ちるからね」
隣でボク達の会話を聞いていた日下部さんが話に入る。
「まぁ、確かにそうですね」
「よし、決まりね! 早速行こ!」
絵梨香さんはボクの手を引っ張ると、軽い足取りで研究室を後にした。
* * *
「結構混んでいますね」
絵梨香さんに案内されたのは地元のデパートだった。様々な店が並び、1階から3階は吹き抜けで、太陽の光が全ての階に降り注ぐ。
「なぁ、どうして俺まで付き合わされてるんだ?」
急に呼び出されて参加した万丈さんが不満を言う。
「だって、実月くんに荷物持たせるわけにはいかないでしょ?」
「なんだよ、俺は荷物持ちかよ……」
「お昼ぐらいなら奢るわよ」
「まぁ、別にいいけどよ、俺も暇してたしな。それにしてもすげー人だな! イベントでもやってんのか?」
「ねぇ、あれじゃない? ほら、最新VRゲームだって!」
柱や壁沿いには、リアル脱出ゲームと書かれたチラシが貼られていた。
「おい! タイムリミットまであと5分だぞ!」
「なんだよこれ? どっちが現実でどっちがゲームの中なんだ?」
何やらプレイヤーらしき人が、随分と慌てた様子で走り回っている。楽しそううだな〜
「ねぇ、そこの店によってもいいかな?」
最初に絵梨香さんが目をつけたのはペットショップだった。
「この犬用のアクセサリーとかどうかな? また児童館のボランティアに行ったらボスにプレゼントしよ! きっと喜ぶよね?」
絵梨香さんが選んだアクセサリーは、鎖をモチーフにしたものだった。確かにボスに似合いそうだ。尻尾を振って喜ぶ姿が目に浮かぶ。
「良さそうですね。それにしますか?」
「うん!」
会計を済ませて店を出ると、今度は向かいの洋服屋も見たいと絵梨香さんが言い出した。
「ねぇ、実月くんは普段どんな服を着ているの?」
「普段着ですか……適当にパーカーを着ています」
「オシャレはしないの?」
「正直興味がありません」
「えぇ〜 勿体無いよ! せっかくだから私がいい服を選んであげる」
絵梨香さんはボクの手を掴むと、店の奥に向かって行く。でもそこはレディースだった。
「あの……絵梨香さん? ここにあるのは全て女性用ですよ」
「うん、そうだよ。ねぇ、チェックのスカートとワンピース。どっちがいい?」
絵梨香さんはボクの質問を聞き流すと、洋服を手に取る。
「どっちも嫌ですよ!」
「えぇ〜 そっか……じゃあ万丈はどっちが似合うと思う?」
「そうだな……チックのスカートが似合うと思うぜ!」
万丈さんがニヤニヤしながら悪ノリをする。
「お願い! 買わなくてもいいからせめて着てみて!」
絵梨香さんが顔の前で両手を合わせる。どうしよう? 逃げる? でも何処に?
何とかこの状況を打破すべく思考をフル回転するが、何も思い浮かばない……
「いっ、一度だけですからね! 本当にこれが最初で最後ですからね!」
こうなったら仕方ない。ボクは覚悟を決めて更衣室に向かった。
「これで満足ですか?」
人生初のスカートを履いて戻ってくると、絵梨香さんが目を輝かせてボクを見る。
「きゃぁー可愛い! 似合ってるよ! 万丈もそう思うでしょ?」
「マジで可愛いぞ、本物の女子にしか見えないな」
万丈さんが言う通り、鏡に映る自分の姿は完全に女の子だった。丈の短いスカートでは太ももが大胆に見えてしまう。それに何だかスースーして落ち着かない。
「そろそろいいですよね? 脱ぎますよ!」
もうこれ以上は限界だ。やばい、めちゃくちゃ恥ずかしい!
「はぁ〜 もっと見たかったなぁ〜」
絵梨香さんは着替え終えたボクを見て名残惜しそうに嘆く。
「どうだった初めて履いたスカートは? 何か新しい自分に目覚めた?」
「いいえ、全く。むしろ自分の中の大切なものが壊れた気がします……」
ボクが肩を落として落ち込んでいると、
「絵梨香、まぁ、これくらいにしてやろうぜ」
流石に可哀想に思ったのか万丈さんが止めに入ってくれた。
「なぁ、次は何処に行くんだ? そろそろ昼にしないか?」
「そうね、せっかくみんなで来たから何か食べに行きましょ!」
何はともあれ、服屋を後にすると、今度は2階のファミレスに向かった。
* * *
「ねぇ、万丈! 一口頂戴!」
「いいけど、っておい! 一口がデカいな!」
3人でファミレスに来てランチを食べていると、絵梨香さんが万丈さんのハンバーグにかぶりつく。
「うん、美味しい! 私のパスタも少し食べる?」
「いいよ別に。実月、お前も取られる前に早く食べろよ」
「えっ、あっ、はい」
「大丈夫、横取りしないから安心して。実月くんは小さいからもっと食べて大きくなってね」
絵梨香さんが自分のパスタをボクの皿に分ける。気持ちは嬉しいけどもうお腹がいっぱいだ。
「そういえば実月くんが精鋭部隊に入ったお祝いをしてなかったね。改めてよろしくね!」
「こちらこそよろしくお願いします」
メタリック社に訪れた日に万丈さんと戦って次の日は児童館のボランティア。そこでイノシシと戦ってその後はタヌキのアジトに潜入。さらに密室窃盗事件の解明……改めて振り返ってみると大変だったなぁ……
「あの、今更なんですがどうしてメタリック社には学生や未成年が多いのですか?」
「それはな……」
万丈さんはフリードリンクのジュースを一口飲んで続きを話す。
「クラフトメタルは想像力が重要だろ? だから常識に囚われた頭の硬い大人には使えねぇーんだよ。俺たちみたいに若くて自由な発想をする奴に適性があるんだってよ」
「なるほど……ちなみに万丈さんと絵梨香さんはいつメタリック社に来たのですか?」
「2年くらい前だな。絵梨香はもう少し前か?」
「そうね。あの頃の万丈はクラフトメタルが全然使えなくて毎日イライラしてたよね? 懐かしいな〜」
「昔の事だろ! お前だって親父さんに認められたくて必死だったじゃねーか」
「まぁ、確かにね」
その後も2年前の入社したばかりの頃の話で盛り上がり、ふと外を見ると陽が傾いていた。
「さてと、そろそろ帰る?」
「そうだな、随分話し込んだからな」
久しぶりに来たデパートは凄く楽しかった。みんなで食べたランチも美味しかったし大満足。会計を済ませると、ボクたちはショッピングモールを後にした。
* * *
「ここ最近、あいつにやられっぱなしだな……」
黒豹は自動販売機に向かって呟くと、缶コーヒーを購入した。
「あの、すみません……」
まぁ、例の純度100%のクラフトメタルが手に入ったから別に何とかなるだろ。実践が楽しみだ。
「あの、そこいいですか?」
誰かに呼ばれて振り返ると、例の子供……実月が突っ立っていた。
「おっ、何でこんな所にいるんだよ!」
「えっと、ちょっと遊びに行った帰りなんです」
「それは随分と余裕だな。なんか飲むか?」
「あっ、大丈夫です。ボクはこれで……」
「おい待てよ!」
黒豹はオレンジジュース買うと、無理やり実月に手渡した。
* * *
ショッピングモールから家に向かっている最中の事だった……喉が乾いて道端の自動販売機でジュースを買おうとしたら、またこの人に出会ってしまった。
(この人、話が長いんだよなぁ……)
無理やりボクが好きなオレンジジュースを渡され今回も話に付き合わされそうだ。
「なぁ、自動掃除ロボットってあるだろ?」
「はいありまね。毎日お世話になっていますよ」
多分今日も誰もいない部屋で文句も言わずに淡々と掃除をしてるんだろうなぁ……
「知ってるか? あのロボットは日本の有名な企業も作ってたんだよ。でも蝋燭の火を倒したらどうするんだ? って理由で販売が中止されたんだぜ。笑えるよな」
男は呆れた様子で笑い、さらに続ける。
「例え1%でもリスクを感じたら却下。そのせいで莫大な富を失う。過剰にリスクを恐れて行動しない。行動しないから衰退する。あいつらはリスクを取らないリスクってもんを知らないんだよ」
「リスクを取らないリスク、ですか……」
確かにこの人の言っている事は間違っていない。何も行動しなかったら何も得られない。
「しかも行動しない奴に限って文句を言って人の足を引っ張る。ふざけやがって! 文句があるなら自分で何とかしろ。それが出来ないなら黙って従え!」
男は一気にコーヒーを飲み干すと、空になった空き缶を投げ捨てた。
「行儀が悪いですよ」
「べつに入るからいいだろ?」
「子供が真似するかもしれませんよ?」
「文句があるならもっとゴミ箱を近くに置いておくんだな」
男は皮肉ぽく言うと、軽くボクに手を振って路上の闇に消えていった。
* * *
「お帰りなさい、黒豹さん」
拠点に戻ってくると、ヘビが出迎えてくれた。
「例の物は用意できたか?」
「はい、もちろんです」
ヘビは鞄から小型マイクと小型カメラを取り出して机に並べる。
「何に使うのですか?」
「試したい事があってな、その前にちょっと聞いてほしい」
黒豹は一度咳払いをすると、喉に手を当てる。
「俺の名前はイノシシ! クラフト・メタル・クロー! どうだ? 似てたか?」
「急にどうしたんですか? まぁ、電話越しならバレないと思いますけど」
「上出来だ。俺はしばらく部屋に篭る。誰も入れないでくれ」
黒豹は純度100%のクラフトメタルを手に取ると、自分の部屋に篭って作業を始めた。
ご覧いただきありがとうございました。
「仮想からの脱出ゲーム」から一部引用。よければこちらもどうぞ!(しれっと宣伝)




