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14話 

「伏せろ!」


 窓から杵塚(きねずか)さんの行方を確認していると、突然ベテラン刑事さんがボクを突き飛ばした。その瞬間、何かが肩をかすっていった。


「痛った……!」


 火傷をしたような痛みと共に、右肩から腕をつたってポタポタと血が落ちる。


「実月くん! 大丈夫⁉︎」


 すかさず絵梨香さんボクの元に飛んで来た。


「早く後を追いましょう! ボクは平気なので」


「ダメ! まずは手当が先よ!」


 傷口を抑えて無理やり体を起こすが、絵梨香さんに止められる。


「万丈、私の鞄に応急セットが入っているから持ってきて」


「あぁ、分かった」


 万丈さんは部屋を飛び出すと、鞄を持って戻ってきた。


「早く服を脱いで傷口を見せて!」


「分かりました」


 言われた通り右肩を庇いながら服を脱ごうとすると、何故か新米刑事さんが慌てて目を逸らす。


「ちょっと待って()()()()()! すぐに出ていくから!」


 刑事さんはそう言い残すと部屋を出て行った。もしかしてボクの事を女子だと勘違いしてる?


「実月、お前は本当に絵梨香よりも女子っぽいな」


「むぅ、万丈さん茶化さないで下さい!」


 ボクが頬を膨らませて文句を言うと、横で見ていた絵梨香さんまでクスクスと笑いだす。


「君たちはここにいなさい。後は我々が追いかける」


 ベテラン刑事さんも部屋を出るとすぐに部下に命令を出した。


 その後、総動員で杵塚の捜索に向かったが、結局見つからなかった。




* * *


「キツネ、ヘビ、ご苦労だった」


 拠点に戻ると、黒豹(くろひょう)さんが労いの言葉をかけて出迎えてくれた。


「どうだった実月は?」


「あれは天才ですね。ヘビの援護射撃がなければ今頃捕まってました」


 万が一の事を考えてヘビを近くの林に待機させておいたのは正解だった。


「ワタシはスナイパーが試し撃ち出来て満足です。でもキツネさんは追い詰められてましたね?」


 ギャングの中で唯一女性のヘビは、どこかバカにした口調でキツネを見る。


「どうしますか黒豹さん? サルとイノシシしとタヌキが捕まってあと3人しかいません」


 このままだとあの子供に壊滅させられる。そうなる前に何とかしなければ!


「大丈夫だ。安心しろ。俺が何とかしてやるよ!」


 黒豹さんはそう宣言すると、会長から盗んだ純度100%のクラフトメタルを取り出した。


「ねぇ、そのクラフトメタルは普通のと何が違うの?」


「いい質問だヘビ、よく見てろよ! クラフト・メタル・ゴーレム」


 クラフトメタルは黒豹さんの想像力によって人形に姿を変えた。


「ここまでは普通のと同じだ。だけどこの人形が動くところを想像すると……」


「あら凄い!」


 人形はゆっくり立ち上がり、両足を交互に動かして歩き始めた。なるほど、想像通りに()()()()が出来るのか……


「キツネ、お前はしばらくじっとしていろ。ヘビ、ちょっと頼み事をしていいか?」


「はい、もちろんです」


 本来なら下っ端に任せる内容だが、今のギャングには黒豹さんとヘビと自分しか残っていない……


 あの子は天才だ。だけど黒豹さんはもっと天才だ。黒豹さんが安心しろと言うのだからきっと何か考えがあるのだろう……


「では、早速、用意してきます」


 ヘビはメモ用紙を受け取ると、鞄を肩に掛けてアジトを出て行った。




3年前 戸黒(とぐろ)の日課


「あ〜〜ぁ、もう! うざい! 死ね!」


 ワタシは襲いかかるゾンビに向かって銃を撃ち続けていた。ここまでは順調だ。でも後ろから現れた奴に背中を刺されてしまい、ゲームオーバーと表示された。


 ここは地元のショッピングモールのゲーセン。学校帰りに寄ってゾンビを撃ち殺すのが日課だった。


「これで残り1枚か……」


 さっき両替をしたはずなのにもう底を尽きてしまった。これでダメなら帰る。そう心に決めてコンティニューしようとしたが……


「あっ、しまった!」


 100円が地面に落ちて転がっていく。あと10秒以内に入れないといけないのに! 

 

「嬢ちゃん落としたぞ」


「あっ、ありがとうございます」


 100円玉は男性の足元にぶつかって止まる。けど、お礼を言ってすぐに受け取る頃には10秒が経過していた。


「どきな嬢ちゃん、俺が代わりにやってやるよ」


 男性は銃を取ると、襲いかかるゾンビを次々と殺して進んでいく。そのままノーダメージでボスを倒してしまった。


「凄い! 1回も死なずにクリアーするなんて!」


「まぁ、こんなもんだろ。それにしてもゲーセンに女子1人で来るなんて珍しいな」


「別に楽しみたくて来たわけじゃないんで。ここが唯一ストレスを発散できる場所なんです」


「訳ありみたいだな。代わりにクリアーしてやったんだ。話してくれよ」


 男性は自動販売機で飲み物を2つ買って缶ジュースをワタシに渡す。まぁ、クリアーしてくれたし話をするくらいならいいかな?


「ワタシ……両親が大嫌いなの! 家に帰ったら勉強しろとしか言わないし、進学先も親が決めた所に行かされるの。口癖は()()()()()()()()()()()()だって! 信じられる⁉︎」


 別にそこまで話すつもりはなかったのに、一度開いた口はなかなか閉じなかった。何となくこの人なら聞いてくれる気がして……


「置かれた場所で咲きなさい? また随分と勝手な言葉だな。()()()()()()()()()()()! だろ?」


 男性は缶コーヒーを一口飲むと、ニヤリと笑みを浮かべて話を続けた。


「人の評価ほど曖昧で適当なものはないからな。どうせ何やっても批判してくる奴らは一定数いる。だからお前の俺も好きなようにやればいいんだよ」


 男性はからになった空き缶を潰すと、ゴミ箱に投げ捨てた。空き缶は弧を描いてすっぽりと入る。


「そんな考え方もあるのですね……あの、また明日もゲームをしませんか?」


 まだ一回しか会った事がないけど、この人の話には説得力がある。それにもっと沢山話してみたい!


「あぁ、いいぜ。俺もよくここに来るからな。また話し相手になってやるよ。


「本当ですか⁉︎ ありがとうございます! あっ、そうだ! 名前を教えてもらってもいいですか?」


「俺の名前は黒豹。お前は?」


「えっと、戸黒(とぐろ)です」


「戸黒……とぐろを巻く……よし、今日からお前はヘビだ。また会おうな!」


「ヘビ? 何ですかそれ? 初めて言われました」


「だろうな、俺は人の名前を動物で例えるのが好きなんだよ。またな」


「はい!」


 ワタシはお礼を言ってゲーセンを後にした。流石に帰りが遅くなると親がうるさい。それに比べて黒豹さんは尊敬できるし、人を惹きつけるカリスマ性も感じる。


 これがワタシと黒豹さんとの出会いだった。後にギャングとなって黒豹さんの元で働く事になるが、当然この時のワタシが知る由もなかった。

ご覧いただきありがとうございました♪

次回は実月くん、実月ちゃんになる⁉︎ お楽しみに〜

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