表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/23

11話 

3年前 メタリック社研究員の杵塚(きねずか)


「どうしてですか日下部(くさかべ)さん! どうしてこの技術を公開しないのですか⁉︎ こんな画期的な技術があったら世界は変わりますよ!」


 メタリック社の研究員として働いている杵塚が声を荒げて机を叩くと、


「確かに君の言ってることは正しいよ。でも国がねぇ……()()がない事だから認めないと言うんだよ……」


 同じくメタリック社の研究員として働いている日下部が呆れた様子で嘆く。


「前例がない? そりゃそうでしょ! 今までに無い画期的な技術なんですから! 前例なんてあるはずがありません!」


 杵塚はさらに身を乗り出して捲し立てる。


「まぁ、そうなんだけどね……ほらクラフトメタルがあったら想像通りに物が作れるでしょ? 建築業社や3Dプリンター業社が嫌がるんだよね。儲からなくなるから」


「知りませんよそんな事! 時代と共に変化するべきです。いつまで経っても昔の栄光に頼っている方が悪い!」


「そうなんだけどねぇ……」


 日下部は諦め気味に答える。それが杵塚には許せなかった。この人だって本当はもっと凄い人のはずなのに!


「はぁ、分かりました。もう結構です。私は出て行きます!」


「待ってよ杵塚くん! 君は優秀なのだからきっといつか認めてもらえるよ! だからもう少しだけ一緒に研究しようよ」


「1人で勝手にやっていて下さい」


 杵塚は研究道具とクラフトメタルを鞄に詰めると、メタリック社を出ていった。




* * *


 外はすっかり日が沈み、街は帰りを急ぐ人で溢れていた。クラフトメタルの技術を使えば空に道を作るなんて造作もない。そしたらこの渋滞も解消されるだろう。


 目の前に技術はあるのにそれが使えない。それが歯痒くて仕方がない。


「はぁ〜 どうして新しい技術はいつも煙たがられるんだ!」


 腹いせに地面を蹴ると、地面に転がっていた空き缶に当たって宙を舞う。それが運の悪い事に前を歩いていたチンピラに当たってしまった。


「痛って、なんだお前? ケンカ売ってるのか?」


 チンピラは私を睨みつけて怒鳴り声を上げる。


「すみません! 悪気はありませんでした!」


「悪気はないか、そうか……じゃあ俺も悪気はないから一発殴らせてくれないか?」


 イノシシの様に大柄な男が腕を回すと、


「待って下さいイノシシさん、騒ぎを起こすとまた黒豹さんに怒られますよ!」


 隣にいた小柄な男が(たしな)めた。


「サル、お前は黙って見ていろ!」


 イノシシと呼ばれた男はサルを押しのけて近寄って来た。それにしても動物の名前で呼び合うのはどうしてなんだ? 確かに特徴がそのままだけど……


「空き缶をぶつけたのは謝ります。すみません。道をあけてもらえませんか?」


「嫌だと言ったらどうする?」


 イノシシは明らかに見下した態度で腕を組む。


「じゃあ仕方ないですね……」


 本当は一般人に向かって使うのはよくないが……今はしょうがない。


「クラフト・メタル・センス」


 クラフトメタルは杵塚の想像力によって姿を変え、扇子に変化した。扇を開いて振ると白い粉が出てきて2人の顔に直撃する。


「うわ⁉︎、なんだこれ?」


「目眩しか? 前が見えん!」


 これ以上ここにいて騒ぎになると面倒だ。さっさと自宅に帰ろうとすると、


「なんか面白れぇの持ってるな」


 背後からもう1人の男が現れた。


「ウチの者が面倒かけちまった様だな。悪いけど見逃してしてやってくれないか?」


 多分この男がリーダーなのだろう。圧倒的な自信とカリスマ性を感じる。


「分かりました。私も騒ぎは起こしたくないので」


「悪いな、ところで今のはなんだ? 教えてくれよ」


「これは企業秘密なので無理です」


「そうか、じゃあ勝手に見させてもらう。おいサル、それをよこせ」


 サルと呼ばれた部下が「へい!」と答える。まさかと思って鞄を開くと、クラフトメタルが無くなっていた。


「おい、いつの間に盗んだ!」


「兄ちゃんが黒豹さんと話している最中ですよ。背中を向けるのは禁物ですぜ」


 サルは小悪党の様に手を擦り合わせながら答える。


「それは素人が持っていても何も出来ない。返して下さい。あなた達にはこれの価値が分かるはずがない」


「素人には無価値か……でもやってみないと分からないだろ? クラフト・メタル・センス」


 男がそう言うと、信じられない事にクラフトメタルが一瞬で扇子に変わってしまった。


「流石です黒豹さん! もしかして扇子以外もできたりしますか?」


「どうだろうな、やってみるか! クラフト・メタル・ハンマー」


 男がそう呟くと、クラフトメタルは鉄のハンマーに変わった。でもそれだけじゃない!


「ソード、縦、槍、銃!」


 クラフトメタルは男の意のままに形を変える。なんだこの男は? 


「黒豹さん! 俺にもやらせて下さい」


 隣で興味津々に見ていたイノシシが試しにやってみるが、全く変化しない。


「下手くそだなイノシシ」


「そう言われましても難しいですよこれ」


 イノシシの言う通り形を変えるのは難しい。クラフトメタルを扱うには圧倒的な想像力と空間認知能力が欠かせない。この男は天才だ。


「クラフトメタルとか言ったな? この技術が普及したらすげー事になりそうだな」


 男が豪快に笑ってクラフトメタルを弄ぶ。でも私は笑えない。


「普及? 何を言ってるんですか? 普及するわけないですよ、こんな国では!」


「おい、黒豹さんに失礼だぞ」


 つい口調が荒くなると、イノシシが横から口を挟む。


「新しいものは怖い! 今までのやり方を変える必要はないと主張し、画期的な技術が生まれても問題が発生したら責任をなすり付け合う」


 キツネは一度言葉を切ると、悔しさのあまり唇を噛み締めた。


「おまけに悪徳業者は自分達の儲けが減るのを嫌って新たな技術を揉み消そうとする」


 一度開いた口はもう止まらない。もうこの国はうんざりだ。どうにでもなれ!


「どうせこのクラフトメタルも他国の優秀な組織が技術を横取りするのが目に見えているね」


 どれだけクラフトメタルはあります! と訴えても奴らは聞く耳を持たない。この国は終わっている。


「すみません、少し熱くなりすぎました」


 つい腹の中に煮えたがる怒りと不満が爆発してしまった。少し落ち着こう……


「お前の言う通りこの国は今のままでは成長しないだろうな、でもそれを嘆いていてもしょうがねぇーだろ? 文句だけ言って行動しないのはカッコ悪いからな」


 意外にも黒豹の意見は冷静で理にかなっている。


「じゃあどうするつもりですか?」 


「簡単さ、俺がこの国を作り変えてやるよ。なぁ、この国に必要なものは何だと思う?」


「必要なものですか……」


 それを数え出したら両手では収まらない。課題は山のようにある。


「天才とかですか?」


「悪くないな。でも今最もこの国に必要なのは……()()()だ!」


「独裁者⁉︎ 何を言ってるんですか?」


 さっきまで冷静な奴だと思っていたが訂正しよう。何だこの男は⁉︎


「何度だって言ってやるよ。この国に必要なのは独裁者さ! 考えてみろよ、1人の天才な社長が引っ張って行く会社と、多数決で方針を決める会社……どっちの方が成功すると思う?」


「それはまぁ……1人の天才な社長が引っ張て行った方が成功するでしょうね」


 人が沢山集まれば上手く行くとは限らない。人数が増えれば増えるほど意見はまとまらないし、文句しか言わない奴も出て来る。それでは上手くいかない……

 

「分かってるじゃないか。でもよく覚えておけ。多数決というのはなぁ……天才の1票よりもバカ共が束になって集めた10票の方が強ぇーんだよ!」


 黒豹の言ってる事は正しい。どれだけ凄い天才だろうと多数決の前には敗れる。


「いちいち全員の顔色を伺っていたら何も決まらない。だから今、必要なのは周りにどれだけ批判されようが揺るぎのない信念を持って引っ張っていく存在……独裁者なんだよ!」


 黒豹は獣の様な鋭い目付きでが私の肩を力強く叩く。


「俺がそれになってやるよ。だからお前も来い! 一緒にこの国を作り直さないか?」


 もしかしたらこの男なら本当に国を変えるかもしれない。そんな予感が胸の奥から込み上げて来た。


「分かりました。ぜひ、私も協力させて下さい!」


「よし! 決まりだ! 今日からお前の名前は()()()だ。よろしくな」


 黒豹が右手を差して力強く握手をする。こうして私はキツネとしてこの男について行く事を誓った。

ご覧いただきありがとうございました!

次回は狐と天才の化かし合いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ