10話
30分前
「実月くん大変! タヌキがいないの」
ここは密売用の銃が保管されている地下倉庫。すり替え作業をしていると、電話越しに絵梨香さんの慌てた声が聞こえてきた。
「いない? それって……まさか⁉︎」
首筋に嫌な汗がつたる。ゴクリと唾を飲んで耳を澄ませると、廊下から誰かの足音が近づいて来た。
(やばい、どうしよう? 隠れる? でも何処に?)
足音はすぐそこまで近づいてきている。もうここしかない!
「クラフト・メタル・オリイト」
ボクはクラフトメタルを限界まで糸状に伸ばすと、タンスの足と自分の腕に巻きつけてスーツケースの中に忍び込んだ。
敵にはバレない事を……絵梨香さんと万丈さんには気づいてもらう事を祈って……
* * *
「修理は以上です。では失礼します」
「ご苦労様でした」
タヌキの部下に見送られて事務所を出ると、万丈が屋上から降りてきた。
「絵梨香たちの方は上手くいったか?」
「それが、実月くんがまだ地下倉庫から帰ってこないの……」
「マジかよ、じゃあまだ事務所の中か?」
「分からない……万丈の方は何かあった?」
「さっき屋上で見ていたんだが、丸々と太った男と、スーツケースを持った男が歩いて行ったぜ」
「えっ、どっちに?」
「向こうの方だな」
万丈が指し示す先を見ていると、西陽に照らされて何かがキラリと光った。
「何これ? 糸? いや違う、クラフトメタルよ!」
「糸状のクラフトメタル? こんな芸当出来るのは実月しかいないだろ」
「じゃあ、もしかしたらこれを辿っていけば……」
「絵梨香、直ぐに後を追うぞ!」
「うん!」
糸を辿って行くと、ひとけのない橋に辿りついた。
「おい、絵梨香、あれを見ろ!」
橋の下を見ると。実月くんがタヌキに首を絞められていた。
「酷い! 実月くんになんて事するの⁉︎」
私はクラフトメタルを銃に変えると、迷わず発砲した。
「痛た! 誰だ今度は⁉︎」
ゴム弾がはタヌキの腕にヒットする。
「クラフト・メタル・アーム!」
さらに万丈がクラフトメタルを腕に纏わせてタヌキの仲間を殴り飛ばした。
「実月、大丈夫か?」
「実月くん! 助けに来たよ」
「ゴホッ、ゴホッ、ありがとうございます……助かりました」
私は実月くんの元に駆け寄ると、小さな背中を優しく撫でた。
「どうして、どうしてこの場所が分かったんだ⁉︎」
「この糸のおかげよ。実月くんがこれで私たちに居場所を教えてくれたの!」
怒りで体を震わすタヌキに尋ねられ、私はポケットから糸状のクラフトメタルを取り出した。
* * *
「よかった、気づいてもらえたんですね」
ボクは糸状のクラフトメタルを返してもらうとホッと息をはいた。もし2人が気づかなかったらと思うとゾッとする。
「どうするんだよキツネ! このままだと捕まるぞ!」
「そうですね確かに捕まってしまいますね……貴方が」
「どういう事だ?」
「こういう事です」
キツネは扇子を開くと大きく振った。扇から白い粉が出てきて辺り一面を包み込む。
「ゴホッ、ゴホッ、前が、見えない……」
ようやく煙が収まって目を開くと、キツネとスーツケースが無くなっていた。
「クソ、逃げられた!」
「まだ近くにいるはずよ、万丈、タヌキと部下を見張っておいてくれる? 私ちょっと探してくる!」
「あまり深追いはするなよ」
「分かってる」
タヌキとその部下は万丈さんが呼んだ警察によって連行されていった。それから待つ事、数十分……しょんぼりと肩を落とした絵梨香さんが戻ってきた。どうやら逃げられたらしい……
「すみません、ボクがもっと念入りに作戦を立てていればこんな事にはならなかったのに……」
「そんな事ないよ実月くん! タヌキとその部方を捕まえたのよ。失敗なんかじゃないわ」
すかさず絵梨香さんがボクを励ますように明るく声をかけてくれた。
「ありがとうございます。次はもっと念入りに準備します……」
「そんなに気にするな、むしろ実月1人に無理させて悪かったな」
万丈さんは謝ると軽くボクの肩に手を置く。
「そうよ、そうよ、いつでも私たちの事を頼ってくれていいのよ!」
絵梨香さんも申し訳なさそうに謝るが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「もう、1人で無理をしたらダメだよ」
「はい……気をつけます」
確かに今回の作戦は強引だった。ボクが危険な目に遭うと絵梨香さんたちも傷つく。以前母親に誓ったように、改めてボクは誰も悲しませないと胸に誓った。
* * *
「そうか……タヌキは捕まったか……」
キツネの報告を受けて黒豹が軽く目元を手で押さえる。
「それにしても子供1人にどうして追い詰められるのでしょうか?」
「このご時世、子供だからって舐めてかかると痛い目に遭うぜ。なんなら、大の大人よりも大金を稼いでいる奴も普通にいるからな」
「なるほど、確かにそれは否定できません。用心しておきます」
キツネは丁寧にお辞儀をすると部屋を出て行った。
「サルとイノシシに続いてタヌキまで仕留めるとはなぁ……やるじゃねーか、実月!」
正直、部下を3人も失うのは痛い。しかし黒豹は笑っていた。まるでこの状況を楽しんでいるかのように……
ご覧いただきありがとうございました。
次回はキツネがギャングになった理由を明かしていきます。




