1話
プロローグ
昔から数学が好きだった。計算は電卓を叩くより早く出来るし、3年後の今日が月曜日だと思うと、何だか憂鬱な気持ちになる。
「次はこの四角形の問題が分かる人。じゃあ……実月くん!」
確かあれはまだ小学生の頃だった。授業中に先生と目があって指名される。
「実月くん、このアの角度は分かるかな?」
「はい、33°です」
ボクがそう答えると、先生は苦笑いを浮かべる。あれ? 間違っていたかな?
「えっと実月くん、あっているけど……どうやってその答えになったのか教えてくれるかな?」
「えっと……だって……」
そんなのパッと見たら分かるから説明の仕様がない。逆にどうして分からないのだろう?
「次からは皆んなにも分かるように途中の説明もしようね」
「はい……すみません」
クラスの皆んながクスクスと笑いながらボクを見る。中には『どうせカンニングしてるんだろ』という生徒もいた。
どうやら周りと自分は違うらしい。そのせいでクラスに馴染めず、いつも浮いた存在だった。それがボク──早瀬実月であった。
キャラクター紹介
実月
主人公。中性的な見た目で、よく女の子に間違えられる。現在は中学3年生。
絵梨香
メタリック社の先輩。実月の世話役。明るい性格で金髪のポニーテールがよく似合う。
万丈
メタリック社の先輩。燃えるような赤い髪が怖いが、何だかんだで面倒見がいい。
氷室
メタリック社の司令長。
日下部
メタリック社の研究員。
黒豹
クラフトメタルを悪用するギャングのリーダー
第1章 ようこそメタリック社へ!
(18、19、20……残り時間はあと40秒……)
ボクは教室の時計を確認しつつ、教科書と筆記用具を片付けた。
(57、58、59……よし、時間だ)
終礼の終わりを告げるチャイムが鳴ると、ボクはカバンを取り出して教室を出た。
(さてと、帰ろうかな……)
自宅までは徒歩23分。家に着いたらさっさと面倒な宿題を片付ける。それから風呂に入って明日の準備をすれば後は自由だ。ボクの計算に狂いはない。はずだったのに……
「うわ⁉︎」
突然、曲がり角から男が飛び出してきた。ぶつかった衝撃で男の持っていた鞄から鉄の球体が落ちる。何これ?
「クソ、邪魔なんだよ!」
男は悪態をつくと、逃げるようにその場を立ち去って行った。
「あの、何か落としましたよ!」
黒くて丸い謎のメタル。大きさはテニスボールくらいかな?
「待て! 誰かそいつを捕まえて!」
不思議なメタルを観察していると、数秒遅れて息を切らした女性がボクの前にやって来た。
「そこの君! あいつを捕まえて!」
「えっ、ボクですか⁉︎」
捕まえる? でもどうやって? 急にそんな事を言われても出来るはずがない。せめて動きを止めるもの……例えば鎖とかがあればいいのだけど……
鎖……金属の輪っかを繋ぎ合わせたひも状のもの。何かを繋ぎ止めるために使う道具。頭の中でイメージが膨らみ鎖が擦れる音まで聞こえてくる。まさにその時だった!
「えっ⁉︎ 何これ?」
突然、謎のメタルが粘土のように伸び縮みし始めた。球体だったメタルはあっという間にボクの想像した鎖に変化する。
「凄い! 君が形を変えたの?」
隣にいた女性も驚いた様子で見つめる。ただ今はそんな事よりもひったくり犯をどうにかしないと!
「そこだ!」
ボクが投げた鎖は、真っ直ぐ伸びて窃盗犯の右足に巻き付く。
「うわ! 何だこれ!」
「ナイス! 後は私に任せて!」
女性がどこかに連絡を入れると、すぐにパトカーが来て窃盗犯は連れて行かれた。
* * *
「ありがとう。助かったわ! でも、女の子が1人で帰るのは危ないわよ」
「女の子?」
さっきの金髪の女性がクルリと振り返る。周りに人はいないし、多分ボクの事を言ってるよね?
「あの……ボクは男なんですが……」
「えっ⁉︎ あっ、そうだったの⁉︎」
女性はとても信じられないような目でボクの顔を凝視する。
確かに身長は156センチと小柄で、幼く見える容姿は自分でも自覚している。おまけに声も高いから余計に女の子と間違えられてしまう。
最近では女子もズボンの制服があるし、ボクが通う中校は学ラン……ではなくて、ブレザーだから余計に紛らわしい。
「初めまして、私の名前は絵梨香。よろしくね」
絵梨香と名乗った女性はニコッと微笑む。悔しいけど背はボクよりも高い。金髪のポニーテールがよく似合う女性だ。
「初めまして実月です。盗まれたのはこれですか?」
少し名残惜しいけどボクは鎖に形を変えた不思議なメタルを返した。絵梨香さんの手に渡ると、鎖はさっきの黒い球体に戻る。
「それにしても凄いよ実月くん! 初めてなのにクラフトメタルを使いこなしていたんだよ!」
「クラフトメタル? その不思議なメタルの事ですか?」
「そうよ、強度は鉄と同じくらい硬いのに、使用者の想像力によって粘土みたいに形が変わるの。凄いでしょ⁉︎」
「想像力で形が変わる……確かに凄いですね!」
絵梨香さんが言ってることが本当なら、それこそ鎖だけじゃなくて、剣やフィギュアも作れるのかな? だとしたら試してみたい!
「興味津々な顔だね。そんなに面白かった?」
「はい! もっと色んな事をしてみたいです!」
これまでのボクの人生は退屈でしょうがなかった。学校の勉強は進むのが遅すぎるし、ゲームもせいぜい3日で飽きてしまう。でもこのクラフトメタルには無限の可能性を感じる!
「じゃあさ、これを持って今度来て」
絵梨香さんは名刺を取り出してボクに手渡した。どこにでもある普通の名刺。でもこれがボクの人生を変える大きなきっかけとなった。
ご覧いただきありがとうございましたm(_ _)m
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