第1話
ああ、この呪いは、神が私に下した罰なのでしょう。
私があの子に辛くあたったことをあなた様はお気に召さなかったのです。だから私にこのような呪いを……。
あの子を不当に扱うたびに、毒が私の体を蝕んでいく。今はもう、起き上がることすら敵わない。けれども……。これがあなた様のご意志だとしても、私はどうにも納得がいかないのです。
あなた様は私に何をお求めなのか。
夫が外で作ってきた義娘に辛くあたることを、あなた様は悪だとおっしゃる。私が招き入れなければ、あの子には住む家すらなかったというのに。
これが悪ならば、この世は悪人だらけでございましょう。あなた様はその者らすべてに呪いを振り撒いているとでもおっしゃるのですか。
ええ、ええ。知っておりますとも。あなた様が公平でないことくらい、救貧院の子供ですら知っているのですから。
*
夫が死んだ。
仕事だと言って出ていってから一週間も家を空けていたかと思えば、愛人と共に遺体で発見されたという報せが届いたのが昨日のこと。気持ちの整理もつかぬままバタバタと忙しなくしていると、気づいたときには夫は冷たい土の下にいて、すべてが終わっていた。
参列者たちはみな似たような言葉を私に投げかけ、離れていく。そんな流れ作業が一通り終わった頃、夫の墓の前に一人ポツンと立ち尽くす少女の姿が私の目を引いた。
少女の方へと歩き出せば、後ろから服を引っ張られる。振り向くと、二人の娘が不安そうに瞳を揺らしていた。安心させるように二人の頭を撫で、私は再び少女のもとへと向かった。
「あなた、どこの子?」
少女の横に並び、問う。
「ママとパパ、死んじゃった……」
少女は私の問いには答えず、夫の埋まっているところをぼうっと眺めながら、温度の感じられない声でつぶやいた。――ママとパパですって?
私は唖然とした。夫に愛人がいることには薄々勘づいていたし、そのことを私は容認すらしていた。けれど、子供まで作っていたというのなら話は別だ。
少女の爪先まで頭のてっぺんまで、よく観察する。背丈は、八歳になる次女のアンナと同じくらいに見えるけれど――いったい、いつ生まれた子なのだろう?
少女は幸運にも夫の悪い血を受け継がなかったようで、幼いながらに整った顔立ちをしている。こんな状況でなければ、きっと笑顔の愛らしい子なのだと想像できた。
「あなた、ママ以外にも頼れる大人はいるのよね?」
私はなんとなく嫌な予感がして、いまだ無表情で墓を見続ける少女に尋ねた。少女は少しの間を置いて、それから「ううん」と頭を大きく振った。
そのとき、少女は初めて私の方を向いた。水晶玉のような、まんまるの大きな目玉が印象的だった。その青色の虹彩を見て、ああ、たしかにこの少女は夫の娘なのだと、私は諦観を覚える。
「お姉さん、だあれ?」
少女は邪気もなく私に問いかける。
「私は――きっとこれから、あなたの母になる女よ」
これから先のことを考え、目の前の少女に聞こえるのも厭わず、私は大きくため息をついた。