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雪の雫石  作者: 六華優羽
純白の光
41/46

41話 共に信じて

鳴り渡る二つの激音と確かな手応えを得て、フィールドを滑りながら着地。


予想通り試合開始同時に依り代を狙ってきた相手の攻撃に対し、マナによる脚力向上と“空踏”の合わせ技で上空に回避。そのまま落下速度を用いてウィズと共に渾身の一撃を脳天に叩き込んだ────というのに。


『グルルルゥ…!』


憎しみに満ちた赤い単眼に、変化は一切無い。


「クヒッ、そんな雑魚い攻撃効くわけないだろぉ!!」


『ギャアァァァオォォォッ!!!』


再び口辺にマナが集約…!


「態々ボックスから出てくるなんてバッカじゃないのぉ!?望み通り死ぃぃねぇ!!」


複数の赤い光弾が、ミサイルの如く殺到する。


一発でも直撃を受ければ大ダメージは必死の威力…しかし、


「(かわせる。)」


マナの流れを読み、ウィズを従えてフィールドを駆け抜ける。


どれだけ高威力であろうと、僕がいる箇所をただ撃ち抜こうとしているだけでしかない。


「クヒヒッ、そらそら逃げろ逃げろぉ!当たればゲームオーバーだぞぉ!」


『ガァァァアァァァ!!』


であれば、怖くない。


怖がる必要性はない。


たとえ相手がキメラであろうと、依り代が際限のないマナを保有していようと、恐怖はない。


この程度、


「(奴に比べれば…!)ウィズ!」


『了解!」


並走していた相棒と二手に分かれる。


僕は依然降り注いでくる攻撃を回避しつつ弱点の模索。


ウィズは


『っらあぁっ!!』


『グォォオォ…!!』


攻撃に専念させる。


「無駄な努力ご苦労様ぁ!ぜんっぜん効かないねぇ!!ほらほらほらほらぁ!追い詰められてきてるけどいいのぉ!?」


弾幕が激しくなり、眼前に複数の熱球が迫る。


後方、横方共に回避ルート無し。前方───有り。


「(“空踏”。)」


マナの足場により作り出したルートを駆けて回避。潜り抜け、僕自身もキメラへと迫る。


「チョコ、マカとぉ!逃げてんじゃねぇよぉ腰抜けぇ!」


───乱れた。見つけた。


「首!根本から二メートル!────“攻化”、セット!」


『“スマッシュ”!!』


ドゴオォォン!!


『ギャォォンッ!!?』


苦悶の叫びが木霊する。


─────────


「効いた…!」


顕現不能にはならないけど、間違いなく今のはダメージが入った。


「依り代のマナが乱れた一瞬を突きましたね。加えて、」


「ええ、コアはあそこね。」


コア…?


『私達の急所…心臓部と言える核のことよ。コアを破壊されたら、当分の間私達は顕現不要になる。』


「じゃあ…!」


『シンとウィズが勝つには、今のようにマナが乱れた瞬間に攻撃して、コアを破壊するしかない。』


「…いえ、もう一つありますわ。あれ程の破壊力となれば、消費するマナの量も計り知れません。彼がああも攻撃をかわせるなら─「マナ切れを狙った長期戦は悪手ですよ。」え?」


「何故なら─」


─────────


「“弾”!!」

『“ブレス”!!』


ウィズと共にコア付近への追撃。


ダメージを確認。


コアの破壊────には至らず。


「硬い…!」


『あんなクソ雑魚依り代のメチャクチャなマナでこれとか…!』


キメラの力が、レア度で評価するならば確実にA+を超えていることもあるが、それだけでこの防御力は説明がつかない。やはり───っ!


『グギャルルゥゥゥゥッ!!!』


強大なマナが口辺に収束…解放。


レーザーの如く吐き出されたそれを、今の僕では“守絶”であっても防ぐことは不可能。必然的に回避に全力を注ぐ。


「何やってんだぁ!いい加減当てろよポンコツゥ!!」


トリコ・ダザンバの激昂。その≪感情≫に呼応するかのように、右手中指に嵌められた指輪…それに取り付けられた水色の結晶が輝く。


『マズッ…!シン!』


「っ!」


瞬間、全身を赤く発光させたキメラから上空に大火球が放たれ…花火のように破裂したそれらが絨毯爆撃の如く降り注いだ。


────────


「シン!ウィズ!」


逃げ場なんて一つもない爆撃に晒され、地面を転がった彼らの姿にいくつもの悲鳴が上がる。


『っ、立って!次が来る!』


「く…!」


幸い、直ぐに立ち上がって、ウィズのフォローを受けながらシンは追撃をなんとかかわしていく……けど、白い制服には至る所に焦げ跡と赤い染みが浮かんでいた。


「っ、先の言葉、ミスリルというのは本当ですか…!?」


「ええ、ダザンバ君の指輪に取り付けられた結晶は、間違いなくミスリルの類でしょう。」


ミスリルって、確か…


「自然に回帰した一部のマナが長い時を経て、結晶化した物質です。産業や工業における動力源としての利用が主であることは、授業でもしましたね?」


先生は苛烈な攻撃を必死に掻い潜るシンから目を逸らさず、言葉を続ける。


「ミスリルにはそれだけ膨大なマナが含まれています。それがたとえ、一粒サイズの小さな結晶であろうと。ならば、もし仮に、ミスリルのマナを自身に取り込み、扱うことが出来ればどうなると思いますか?」


「っ無理に決まってます!」


席を立って、声を荒げて否定したのはソウマだった。


「そういう研究が昔されてたのは知ってます!けどっ、ミスリルの膨大なマナに、人のマナ回路じゃ耐えられなくて、とても実用は不可能だって答えが出てます!それにミスリルのマナには─「麻薬以上の酷い中毒性があり、使用者の精神を即座に崩壊させる。」そ、そうです!だからどうやってもミスリルは─────あ。」


「ええ、だからこそ、私やアイリにも、何故ダザンバ君がミスリルをああも扱えているのか、何一つ分かりません。今この場で、ミスリルを扱っていると誰にも証明ができないのです。」


水色に輝きに呼応するかのように、痛々しい雄叫びが轟いて、とんでもないマナが吹き荒れ、嵐のような攻撃が二つの白に襲いかかる。


「っ、シンはそれを知ってんのか!?」


「マナの扱いなら、私以上の彼が気づいてなかったと思いますか?」


「あの、馬鹿野郎…!」


どんどん強烈になっていく攻撃は、フィールドも炎上させて、その熱や攻撃の余波だけで白髪の少年と白の幻獣を傷つけていく。


痛いはずなのに、苦しいはずなのに…まるで痛みを意図的に無視しているように、気にも停めず“空踏”で作った足場を使ってキメラの後ろを取ったシンとウィズは、共にコアへ攻撃を仕掛ける。


けど、大した効果は見られない。


『ギャガオォォォォォォ!!!』


「つぁ…!」

『クッソ…!』


怪物のような力を振るうキメラだけでも脅威なのに、その上無限に等しいマナ。


追い詰められていく彼らの姿を、誰もが見ていれなくなっていた。


「………っ、止めて、下さい…!」


!…ミレイナ…。


「…もうっ、見て、られないっ。お願い、ですからっ…止めて、下さい先生…!」


…涙を浮かべて懇願するその姿は、どこまでもシンのことを想っていた。


彼女だけじゃなくて、みんながそう訴えかけていた。


みんなが、シンのことを心配していた。


みんなが、シンを止めようとしていた。


「……君も同じですか?フィールセンティさん。」


シンもウィズも、もう十分やった。


もう誰も、彼らを責めない。


彼のことを想えば直ぐに止めるべきだ。


もう、傷ついてほしくない。


もう、これ以上…戦わないでほしい。


…………でも、


「ウィズ!!」


だけど、


『まだまだぁ!!』


シンとウィズは─


「っ───二人は、諦めてません。」


私は、最低なんだと思う。


「二人は、あんな奴に負けません…!」


間違ってるんだと思う。


「シンとウィズはっ!」


あんなにも必死で、傷つきながら戦う彼らを─


「───絶対に勝ちます!!」


それでもと───≪心≫から信じているのは。


────────


声が聞こえた。


怪物の咆哮と、狂人の嘲笑と、爆撃音が響き渡る死地に、彼女の声が聞こえた。


こんな状況であるにも関わらず、僕を信じてくれる少女の声が。


目を逸らさず、共に戦ってくれている少女の声が。


思わず、頬が緩んだ。


あの時と同じ、敗北必死の状況。


自身とは比べ物にならない強敵。


なのに、彼女は─


「(ヒカリは、諦めていない。)」


僕は、最低なんだと思う。


「(僕らを、信じてくれている。)」


間違ってるんだと思う。


あんなにも悲痛に、傷つきながら祈ってくれる彼女を─


『だってさ、シン!!』


「ああ────必ず、勝つ!!」


それでもと───≪心≫から信じているのは。




to be continued

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