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雪の雫石  作者: 六華優羽
純白の光
35/46

35話 一緒に

「で!結局何をどうして何があってあんな大怪我したんだよ!!?ほんとは誰かにやられたんだろ!!?ダチをこんな目に遭わされて黙ってられっかよーー!!」


意識を取り戻してから今日で5日目の午後6時。


概ね痛みは引き、身体も問題なく動く…ものの、一部箇所は包帯が取れず、完治するまでは登校不許可及び安静との通達を担任、理事長並びに連絡を受けたアーカム博士より耳にタコが出来るほど言い聞かされ…未だ大人しく、一人保険室で自習やリハビリをこなす日々が続いている。


…いや、「一人」というのは些か語弊があるか。


何せ、


「?どうしたのシン?」


「いや、なんでもないよ。」


毎日、授業が終わると直行してくれる3人の友人がいてくれるのだから。


うち一人、呼びかけてきた青みを帯びた黒髪の少女に笑みを返し、引き続き課題に向き合う。


「今日の課題、授業で新しくやったところばかりなんだけどどう?分かるかい?」


「うん。ソウマの取ってくれるノート、凄く分かりやすいから。本当にありがとうね。」


「ならよかったよ。」


「授業出てないのにスラスラ解いちゃうんだもんなー。……ねぇシン、ここ教えて?」


「え?あ、うん。」


今日も今日とて、そのメンバーと本日の課題を共にこなしている最中…と言っても自身のものはあと一問で終わるため、一旦ヒカリの助けに注力することにする。


『授業に出てるマスターが教えてもらってどうするの。今日も授業中上の空で何回注意されか…。』


「うぐ。だ、だって、シンが居ないとどうしてもつまんないというか寂しいというか…。」


…そう言ってくれるのは嬉しいし、休み時間の度にテレビ電話(マナフォンは失ったため、タブレット宛に)をかけてくるのを止めろとまでは言わないが、ちゃんと授業は集中して受けようね?


「無視すんなよーー!!」


なお、今日も今日とてアサヒは元気一杯の様子。…毎度の如く彼だけは課題に手をつけていないのだけれど、大丈夫なのだろうか?


「明日の朝写すから問題なしだ!!」


『駄目じゃん。』


「今のうちに言っとくけど、テスト期間になって困ってもぼく達は助けないからね?」


「今はどうでもいんだよそんなこと!」


どうでもいいことではないと思うのだが…。


「お前だって気なって仕方ねーんだろソウマ!」


「そりゃ…そうだけどさ。ぼくだって崖から落ちた…なんて先生の報告を信じてるわけじゃないし。」


二人の視線が僕とヒカリに向けられる。


…2人を始めとした、ヒカリが信頼し得る者達には≪真実≫を話すべき…という思いはある。が、再びあの黒い少年…ノワールと相対する可能性がある以上、現状、彼らを巻き込むのはあまりに危険すぎるというのもまた事実。


実際、事態を重く見た理事長や先生から緘口令が敷かれ、≪真実≫を語ることを禁じられている。


ヒカリもまた同様に感じているようで、心優しい彼女が彼らを巻き込むことを望むわけもなかった。


「シンが起きた時もヒカリだけ部屋ん中入れられて、俺らは外でずっと待たされて!結局その日はそのまま帰らされてよ!あん時のじーさんメッチャ恐かったんだからな!?何があっても部屋には入れさせねぇって感じで、地獄の門番顔だったんだぜ!?」


じーさん、というのはナイブス理事長のことだろう。というか、地獄の門番顔って…ソウマの顔が青ざめたため冗談ではないのかもしれない。


「一体何してたんだよ!?」


何って…


「……色々…かな。うん。」


「そ、そうよ。色々……あぅ…。」


あの日を思い出し、互いに顔を赤らめたのは当然の話であった。余談だが、あの後、何故かヒカリの方が離れなくなってしまい、なんだかんだ言いくるめられ…一時間以上密着状態が続いてしまった。後日、間近で一部始終を目撃していたフロウ先生に散々からかわれたのは言うまでもない。


「ま、まさかお前ら学校の保健室で、ヤラシーこと─『どんな想像してんのさ。』あで!?」


「あはは…まあ、それだけ心配してるってことだよ。ぼくやアサヒだけじゃなくてクラス全員ね。」


…それだけヒカリは皆に想われているということか。


入学当初の忌避された日々は見る影もないようで安心する…と同時に、ようやく平穏な学校生活を謳歌できるはずであった彼女を危険な目に遭わせ、挙げ句、皆に心労をかける原因となった自身にどうしても嫌気が差す。


「……よしっ、宿題終わり!ちょっと外行こシン!」


「え?…ちょっ、ヒカリ…!?」


「ずっと部屋に籠ってちゃ逆に良くないし、ちょっとだけだから!じゃあまた明日ねアサヒ、ソウマ!」


「ふ、二人も一緒の方が─」


「いいのではないか?」と言い切る前に、彼女は保健室の扉をバタンと閉め、僕の手を引き廊下を突き進む。背後から「明日こそ白状させてやるからなー!」との声が聞こえた気がした。






…で、校舎の中庭…テラスに連れて来られたわけだけれど…


「どうしたの?いきなり…。」


多くの生徒はアリーナでトレーニングに勤しむまたは寮の自室に戻っているであろう時間帯であるが故、僕達以外誰一人いない庭園で、僕をここに連れてきた少女に問う。


彼女は腰に両手を当てて、ジト目で睨んできた。


「シン、また自分の所為で私を危険な目に遭わせたーとか、皆に心配をかけてるーとか変なこと考えてるでしょ。」


「……いや、そんなことは─『ダウト。』ウィズ…。」


「やっぱり。」


…マナの繋がりから、依り代である僕の心情をある程度察知可能なウィズに否定された以上、誤魔化すことは出来ず…加えて、更にジトーと睨んでくるヒカリの視線に観念するほかなかった。


「なんっかいも言ったでしょ?シンは私もみんなも護ってくれたの。シンはぜんっぜん悪くないの。もう自分を責めちゃダメ!」


『そうね。寧ろ、その彼を有無を言わさず引っ叩いたマスターこそ少しは反省するべきだと思うわ。気持ちは分かるけど冷静にねって念を押したのに。』


「うぐぅ!」


自身を依り代とする精霊の一言に胸を押さえ、整備された芝生の上に膝をつく少女。


二人揃って自身のスピリットに裏切られるとは思わなかった…ってそうじゃなくて。


「暴力女でごめんなさい…!」


「あ、謝らなくていいから。暴力だなんて微塵も思ってないし…ヒカリの気持ちは、本当に嬉しかったよ。」


「シン…。」


少女に手を貸し、立ち上がらせる。


「自分を必要以上に責めているつもりは…もうないよ。ただ、僕が彼に負けたことは紛れもない事実だ。」


それだけは、誰にも変えようのない結果。


それだけは、譲ることは出来ない≪真実≫。


故に、認めなければならない。


故に、目を背けてはならない。


今の自分がとても弱いことを。


今の自分では彼に勝つことは到底不可能であることを。


今の自分では…目の前の少女を護れないことを。


「だからヒカリ、僕、強くなるよ。」


もう二度と、あんなことを起こさないように。


「強くなって、君を護る。」


もう二度と、彼女を悲しませ、泣かせないように。


「駄目かな。」


もう二度と、この手を離さないように。


自身よりもひと回り小さく、柔らかな手を握り、アメジスト色の瞳を見つめて…すぐに俯むかれ目を逸らされてしまった。


「ズ、ルい…。」


「え?」


ずるい…?


「シンは、ズルい。そんな顔で、そんなこと言われたら…ダメなんて言えないもん…。」


夕陽に照らされ、頰や耳を朱に染めた彼女の返答に、桜色のスピリットはどこか同情するかのように飾り触覚で肩を叩いた。


『そうね。彼の場合偽りのない本心からだし、余計にね。』


『ヘタレなのかタラシなのかハッキリしなよヒカコン。』


意味がよく分からないのだが…とりあえず、「ヒカコン」って何?初めて聞く単語なのだけれど。


『でもま、全部完全同意だね。次は絶対負けない。』


「ああ。」


肩に飛び乗ってきた相棒に頷きを返す。


『勿論私達も、ね。マスター。』


「ん。私も、一緒に強くなるから。」


顔を上げた少女とそのスピリットもまた、同じだった。


きっと、全員が全員…同じ≪心≫を抱いているのだろう。


「クスッ…。」

「ふふっ。」


お互いの視線が交わり、微笑みが零れ落ちる。


いつの間にか、日は大方落ち、空には一番星が薄らと姿を現し始め…帰らなければならない時刻。


「まあ明日」と、別れを告げなければならない頃合い。


だというのに…繋いだ右の手は緩まるどころか、どちらからともなく指を絡ませた。




5月が終わり、6月が始まる。




「あん?手ぇ出すなだと?」


「ええ。自分でやるから邪魔するなっていうのがご依頼主様の意向よ。そのくせ、あれこれ寄越せなんて要求だけはしてくるんだから、お得意様はいいわよね。」


「……キメラか。」


「あら、気に入らない?」


「チッ…。……だが…ハッ、どこまでやれるかは実物だな。」


「フフ、そうね。精々実験台になってもらいましょ。」




次の戦いは、もうすぐそこまで迫っていた。




to be continued

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