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雪の雫石  作者: 六華優羽
純白の光
29/46

29話 邂逅前

───考えが、甘かった。


「───が、あっ…!」


思い上がった自惚れ者とは、今の僕を指すのだろう。


「っ…ぐ!」


それでも…!


「もう一度聞くぜ?───光属性の女を差し出す気になったか?」






───約2時間前。


「あっ、この花スッゴく綺麗…!それに…なんか爽やかないい香り。」


「……ほんと、だ。」


「へぇ、柑橘系の匂いがするね。あたし結構好きかも。」


「野花ですが品のある香りですわね。手配させて家に飾ろうかしら…。」



『花で戯れる美少女って絵になるよねー。』


「…そういうことは口には出さないものだよ。」


『シンは花を静かに愛でるタイプだもんね。』


「……他意を感じるんだけど?」


『気のせいじゃない?』


他意ありまくりの相棒の軽口に溜息を吐きつつ、道脇に咲いたオレンジ色の花を鑑賞する同グループの女子4人の後ろ姿から視線を外して、マナフォンを起動。現在位置を把握するため地図をディスプレイに表示させる。


『…大体半分くらい?』


「だね。他のグループより遅れ気味だけど、集合時間の12時までには着くよ。」


現在時刻は10時少し過ぎ。今のように休憩や花の鑑賞を挟みつつでも30分と少し程度で着く距離だし、余裕は十分にある。なので、風情を楽しんでいる彼女達に先を急がせるような真似をする気は毛頭ない。


マナフォンを懐に仕舞い、女子同士仲良く談笑している彼女達の反対方向…麓方向へと向き直りその景色を目に映す。普段より近くに感じる蒼穹の空を白い雲が風に乗ってゆっくりと流れており、眼下にはスノープレシャスの美しい街並みがあった。…やはり、サウスとは違う点が多く見られる。


『ここに来てもう2ヶ月。早いもんだねぇ。』


「…うん。」


『……帰りたいって思ったりする?』


「……いや。博士達に会いたいって思わないわけじゃないけど、不思議と帰りたいとは思わない。」


無論、博士達が嫌いになったとかでは全然ないのだが…。


『分かってるって。…よかったね。』


「?よかった…?」


『うん、よかっただよ。だってそれ、博士達以上の理由が出来たってことでしょ?』


そう告げたウィズの視線が後方…楽しそうに花を愛で、友達と団欒している青みを帯びた黒髪の少女に向けられる。


「……………そう、なのかな。」


『そうだよ。』


「………………。」


返し切れないほどに恩義のある博士達以上に…か。


『んで、その件の子が呼んでるよ。』


「!」


思考の海に浸りそうになったのをキャンセルすると、ヒカリだけでなく他3人─エストワールさん、テルマーサさん、アリーセさん─も僕の方へ視線を向けていた。もう花はいいのだろうか?


「どうしたの?何かあった?」


「ううん、そうじゃなくて、この花をバックにみんなで写真撮ろってことになって。」


ああ、そういう…。マナフォンを手にしているのはマナフォンには写真撮影の機能もあるからか。


綺麗な花を背景に皆で写真を撮って記録に残す…うん、非常にいいと思う。


「分かった。じゃあ、マナフォン貸してくれる?」


「?うん。」


自身が付けているもののペアストラップが取り付けられたピンク色のマナフォンを借り受け、彼女達から少し距離を取る。


ん、この距離なら背景の花を含め全員綺麗に映る……?何故皆目を丸くして棒立ちしているのだろう?


「…撮るけど、ポーズとかしなくていいの?」


有り体に言えばピースとか。せめて笑顔くらい浮かべた方がいいと思うのだが…いや、よくよく考えれば僕なんかに撮影されるのは嫌なのでは…?しかし、生憎近くに人は居ないし僕がやるしか…。


「い、いやいやいやいやいやっ!それだとシンが写らないじゃないっ!」


「え。あ…ぼ、僕はいいよ。」


女子4人の中に男1人混ざるというのは如何なものかと思うし。「気にしないで」と彼女達を促す…が、全員が納得していないのが目に取れた。


「はぁ。進んで損な役目を引き受けるのは貴方の美徳と思いますが、今は交流を深める場ですわよ?」


「それとも」テルマーサさんの視線が冷気を帯びる。


「負け知らずの自分はわたくし達などと一緒に写真など写りたくないとでも?」


「思ってない。思ってないからそんなこと。」


目が怖いです。寧ろ逆に自分なんかが彼女達と写真に写っていいのかと思っています。


「で、でもほら、誰かが撮影しないといけないし、この場合適任者はぼ─「あ、そんなこと気にしてたの?大丈夫大丈夫!こっち来て!」え?あ、ああ。」


何やらヒカリには案がある様子。


再度彼女達の近くに寄り、預かったマナフォンの返却を求められたので応じるままに返す。


次いで、彼女の左手が僕の右腕を捉え、引き寄せられたと思った次の瞬間には右肩に華奢な体躯が寄せられていて───って!


「ちょっヒカリ…!?」


「ほらみんな寄って寄って。撮るよー。」


いやいやいやいやいやいやいやいやいやっ!器用に右手だけでマナフォンのディスプレイをこちらに向けた状態で前方に掲げて「撮るよー」とか言っている場合じゃないから!!


近い近い近い近い近い…!というか、完全に密着しているのではないかこれ!?心なしか右腕に柔らかい何かが当たって…!


「ヒカリっごめ─「観念しなって。」ア、アリーセさん…!?」


半端力尽くで少女から距離を取ろうとした僕の右肩を後ろに回ったノゾム・アリーセなる少女がぐわしっと押さえ込み、僕の脱出を妨害した。あと君も近い…!


「このわたくしと写真を撮れるのですから光栄に思いなさい。」


「ん…。」


そうこうしている間に左側もテルマーサさんとエストワールさんに抑えられ、完全に身動きが封じられた体勢に。


「っ…!」


押しくら饅頭の如く密集したことで四方八方から脳を刺激してくる甘い香りやら柔らかい感触やらなんやかんやに思考は完全にパニック。いやこういう時こそ今尚左肩に乗って僕の傍に居てくれる5年という月日を共にした家族である相棒に助けを─


『わぉ、花に囲まれて役得だねマスター。ほら笑顔笑顔。』


ウィズーーーーっ!!


「じゃ、撮るよー。はいチーズっ。」


───カシャ


…………お、終わった。これで─


「折角だしもう一回撮るねっ。」


ヒカリーーーーーっ!!!






『うわシンってば顔真っ赤だし引きつり過ぎでしょ。』


「…そういう君は憎たらしいほど満面の笑顔だね。」


撮影者であるヒカリからマナフォンに転送されてきた7枚にも及ぶ写真の中央に写る自身の顔は、それはまあ酷いものであった。他のメンバーの表情が非常に映えるため、自分の酷さがより顕著に感じる。あと、密集し過ぎて肝心の花がほぼ写っていないのだけど…。


「えへへ、やっぱりシンってカッコいいね。」


「『いやいやいや。』」


一体彼女のマナフォンにはどのように写っているというのだ…?


「っくく。いい写真もとい面白い写真が撮れたね。さてと、結構長居しちゃったね。そろそろ行かないかい?」


「ふ、くっ。んんっ…そうですわね。わたくし達のグループが最も遅いようですし行きましょうか。」


あと君達は君達で笑いを堪えようとしているのがバレバレだからね?いっそのこと爆笑してくれた方が気が楽だ。


羞恥を落ち着ける意味を込めて溜息を吐き、自身の荷物であるショルダーバッグを肩に掛け直し、これまで通り先頭を歩くことにする。といっても、このグループ…先日の対抗戦で一年一組Dチームとして共に戦ったメンバーは、知っての通り僕以外女子であるため、ペースには気を遣わなければならない。まあ、ウィズが要所要所で後ろの様子を見て伝えてくれるので、僕はそれに従っているだけなんだけど。


「あ、そういえば、シンはさっきの花見たことあった?私もみんなもなかったんだけど。」


「…いや、ないかな。………どうやらさっきのもテール山の特有種みたいだね。」


撮影した写真の片隅に微かに写った花の画像を元に検索をかけると、テール山でのみ生息する花との解説がヒットした。


『付け加えると、もう二つ前にヒカリ達が見てた白い花とピンクの花もテール山特有のやつだったよ。ね、シン。』


「ああ。」


「へぇ、そうなんだっ。」


「他にも見つけられるかな?」と笑う彼女につられ、頬が緩む。楽しみにしていた以上に満喫できているようで何よりだ。


正直、他グループの一部の男子が集合場所である中腹まで競争だと走り出し、それが瞬く間に広がって一年生男子全員での徒競走へと変貌した上、彼らと同班の女子メンバーまでも慌てて追って行った時はどうしようかと思ったが。


「テール山は特有種が多いとは聞いていましたが、本当なのですね。」


「あたし達だけでもう3つ見つけてるわけだしね。」


他3人も女の子だからか、ヒカリ同様楽しめている様子だし、本当によかった。


「…でも、なんで…?」


ん?


「ほぇ?なんでってどういうことレミリア?」


「ぁ、…その、なん、で……特有種が、多い、のかなって…思って……。」


「あ、確かに。…なんでだろ?」


ああ、そういう意味か。


『解説の時間だよシン先生。』


君ね…。あと誰が先生なのさ。


ウィズの言葉のせいで、振り返らずとも4つの視線が背中を貫いていることが感じ取れ…無視するわけにもいかず、自身の考えを述べることにする。


「…複数の要因が絡み合っているだろうけど、大きな要因はここのマナの属性だと思うよ。」


「マナの属性?」


「うん。スピリット同様、マナにも属性があって、僕達依り代の場合、保有するマナの属性によってどの属性のスピリットと契約できるのか等に影響する、というのは…授業でもやったよね?」


ヒカリを例に挙げるなら、彼女はマナの属性が光属性に突出していたからこそ、光属性のスピリットとの契約に到った…である。


無論、波長や振幅等の相性も関係してくるため、必ずしも依り代が保有するマナとスピリットの属性が一致するわけではないのだが…少なくとも、依り代のマナの属性と相反する属性─ヒカリの場合は闇属性のスピリットと契約─といったケースはまず無い。


「あ、うん。でも、基本的に依り代のマナは契約時に目覚めるから…契約してからでないと依り代のマナの属性は分からない、だっけ?」


「うん、合っているよ。」


四名共フロウ先生の講義をしっかり聞いている成績優秀者であり、各々頷いてくれたのでここまでは問題なしと判断し、話を続ける。


「で、ここからは依り代のではなく、自然に回帰したマナについて。自然に回帰したマナはスピリットの糧にもなるけれど、余剰分は長い時間をかけてミスリルへと結晶化していく。その過程で、回帰したマナの属性はその地帯の環境や天候に影響を与えるとされている。ノースの場合、全体的に気温が低く、雪が降りやすいのは氷属性のマナの割合が多いからだね。」


逆にサウスハートは炎属性のマナが比較的多い。


「では、ここも氷属性のマナが多いのではなくて?」


「多いには多いよ。けれど、この感じだと…ここは緑を豊かにする、土、風、水のマナの比率が絶妙に良い。…多分だけど、氷属性のマナが多いにも関わらず、土、風、水のマナのバランスが取れている結果、ここ特有の環境が形成され、特有の種が育まれやすいんだと思う。」


「お、おおう…さすがシン。」


「本当に研究者なんだねぇ…。」


彼女達のリアクションに「研究者見習いだって」と振り返ることなく返す。


「それに、他にも生息するスピリットの属性だって環境に大きく影響するし…そもそも僕が知らない他の要因があるかもしれない。間違っていたらごめんね、エストワールさん。」


「う、ううん…、…やっぱり…凄い、ね。」


「凄くなんかないよ。」


この程度、研究書を読んでいれば誰にでも分かることだ。


「…そんな、こと…ない。……同じ無属性、でも…わたし、なんかとは…違う。」


「いや、僕は本当に─「あなた、は」…?」


「ちゃんと、スピリットの…力に、なれてる…。………落ちこぼれ、じゃ…ないから。」


……………振り返ると、何故かエストワールさんの表情が曇ったというか悲しげに顔が伏せられたのだが…。


え、もしかしなくとも僕のせい、なのか…?ウィズの「これだから」と言いたげな視線がぶっ刺さってくるのだけれど。


「え、えっと。シ、シンがスゴいのは勿論なんだけどレミリアだってスゴいよっ。成績だってクラスでトップクラスだし。落ちこぼれなんかじゃ絶対ないって!ってかそんなこと誰が言ったの!?…サイフォン!?あのナンセンス野郎でしょ!野郎ぶっ飛ばしてやるぁ!!」


「…………………。」


…ヒカリの励まし?も効果なし、か。とりあえずヒカリ、女の子にあるまじき言葉遣いになっているから正気に戻ろう。サイファー君と決まったわけじゃないから。


怒れるヒカリ…を宥めるテルマーサさんとアリーセさんに目をやると、二人はなんとなくではあるが…何やら事情を知っている様子。無論、赤の他人の僕にそれを聞き出す権利はないため事情については触れないでおくことにして…少なくとも、彼女が落ち込んだ発端が僕との会話にあるのは事実。


故にこのまま放置は出来ないと判断し、意を決して足を止め、水色の髪の少女と向き合う。


「ぁ…っ、ご、ごめん…変な、こと言っ─「一つ質問。君は、君のスピリットのことが…セラのことが大切?」ぇ、あ、う、うん。当たり、前。」


取り留めもない僕の質問に、戸惑いながらもはっきりと頷き返してくれた彼女に、自然と頬が緩んだ。


「なら、やっぱり君はセラの力になれているよ。」


「っ…….…なんで、あなたに、そんなの…分かるの…?」


「分かるわけない」と言いたげに僅かに吊り上がった眼鏡越しの瞳。空気が急転し、ヒカリ達が心配げに見守る最中…僕は少女の視線を受け止めて、


「───分かるよ。対抗戦の時も、クラス内での試合の時も、セラは必死だったから。」


「…!」


「それはダブルスを組んで共に戦い、逆に先日競い合ったウィズがそうだと言っているし…何より、君自身が一番よく分かっていることでしょ?」


……コクリ、と首が縦に振られた。


「知っての通り、スピリットを競い合わさせるコンバットは、一部の戦闘好きな例外を除き、多くのスピリットにとっては忌避的なものだ。それでも、彼らが戦ってくれる理由は…君も知っているよね?」


「……依り代、のため。」


「そう。つまり、君がセラを大切に思うように…セラも君が大切だから、セラはあんなにも必死だった。」


「だから」と言の葉を続ける。


「セラの大切な存在である君がセラの力になれていないなんて僕は思わないし、言わせない。」


それはセラにとって侮辱に等しいだろう。


僕とて、ウィズの力になれているかと聞かれれば…まだ力及ばずな部分は多々あるが、精一杯努めてはおり、ウィズも分かってくれている。少なくとも、もし仮に僕が「ウィズの力になれていない」などと口にした日には、彼は硬化した尾を全力で振り下ろしてくるであろうことは間違いない。


「……………………。」


「それともう一つ。」


「!…な、何…?」


「少しでも現状を打破しようと、休日でも図書館で閉館まで資料を読み漁り、可能性があるのならとにかく試し、この短期間でマナのコントロール精度が飛躍的に向上している君が落ちこぼれだなんて、ヒカリ同様僕も思わないし…うん、やっぱり言わせたくないかな。」


ヒカリみたく「ぶっ飛ばしてやるぁ」までは言えないけれど。誰だって、人の努力を嘲笑われるのは気に食わない。


「し…し、知って、たの…!?」


?…何故かとても驚いている様子だが。


「それは、まあ…クラスで唯一同じ無属性だから気にはするというか…。席も比較的近いし、ヒカリともよく話しているよね?図書館でもいつも見かけ……なんかストーカーみたいだね僕…。ごめん…。」


「っあ、謝らなくて、いい…けど…。」


「嫌、とか…じゃ、ないから」と辿々しくも許してくれた、のかな?とりあえず元気…かどうかは分からないが、さっきまでの落ち込んだ様子はもうない…と思う。


…といっても、落ち込ませた上、隠していたらしいことを暴露してしまった身としては謝罪を入れる必要があるし………謝罪が受け入れられないなら、


「えっと…じゃあ、許してくれたお礼…と言ってはなんだけど、あまり世間に周知されていない情報を一つ。」


ヒカリ達もいるが、彼女達にも日頃お世話になっているし聞かれてもいいだろう。


「さっきマナの属性は周囲の環境に影響を与えると言ったけれど、逆に周囲の環境がマナの属性を変化させることもある。」


「え、あ、そ、そう…なんだ。」


「このことから、マナが一方的に外界に影響を与えるのではなく、マナもまた、外界の影響を受ける…つまり両者は相互で影響し合っているということになる。」


この時点では、エストワールを含めて誰も僕が何を言いたいのかは分からないようで、単なる座学的な知識としか捉えていない様子。


「で、この相互の影響は、依り代のマナにも当てはまり、なんらかの要因で依り代のマナの属性が変わる事例が少数確認されている。その結果、」


「け、結果…?」


「更に極少数、契約したスピリットの属性が変化した事例が確認されている。現状、その全てが、無属性のスピリットが属性持ちになった…という事例らしい。」


「っ…!」


「本当にごく僅かな事例だけれどね」と、目を見開いた彼女に念を押す。


「?、??…ど、どういうことなんだってばよ…?」


口調がおかしくなっているよヒカリ。混乱状態の少女に思わず苦笑し、噛み砕いて伝えることにする。


「端的に言うと、エストワールのマナの属性が変化することで、セラが属性持ちになる可能性が僅かだけどある…ということだよ。」


『もちろん、ぼくもね。』


エストワールさんはともかく、僕はあり得るのかな…。


「その上、依り代のマナの変化で属性を得たスピリットは、依り代との波長や振幅等のシンクロ率、それに基礎能力までもが飛躍的に向上し、過去の事例全てにおいて、レア度がC以下からB+以上に上がっている。」


「なっ…!」


「ほ、本当かいそれ。聞いたこともないよ…。」


「ごく僅かな事例な上…スピリットが属性持ちに変化する以前に、依り代のマナの属性が変化する事象すら稀有で、要因も分からないで歯止めされているから。」


加えて、確認されているのは無属性から変化した事例のみなので、研究テーマとしてもあまり重要視されていないのも未だ解明されていない理由の一つだろう。


「ただ───────っ…!?」


………………………今、誰か


「シン?」


『どしたの?』


「…………いや、なんでもない。」


…ウィズも無反応だし、気のせいか…?


「…ごめん、続けるね。ただ、【ピピピ、ピピピ】っと。」


今度は自分のマナフォンのコール音により言葉を中断。相手は…


「うー、いいとこなのに誰?…アサヒ?」


手元を覗き込んできたヒカリが言った通り、アサヒからのコールであった。


…出ても構わないか皆に視線で問いかけると、話の続きを聞きたそうに─特にエストワールさん─しているように見えたものの、頷き返してくれた。「ごめんね」と断りを入れ…マナフォンの通話ボタンをタップする。


「はい、もしも─〈おっせーよシン!!!どこで道草食ってんだっての!!!〉っ〜!?」


み、耳が…!


スピーカー状態にはしていなかったし、音量は低めにしていたはずなのだが…。


反射的にマナフォンを遠ざけ、耳鳴りする右耳を押さえた僕を哀れんでくれたのか、「アサヒうるさい!」とマナフォン越しに憤慨するヒカリを「大丈夫だから」と宥め、実質スピーカー状態となっているマナフォンを通じアサヒとの会話を開始する。


「えっと、どうしたのアサヒ?」


〈どしたもこしたもあるか!!今どこだよ!!?〉


…何やら焦っている様にも聞こえるが、何か起きたのだろうか?あちらにはフロウ先生を始め、他クラスの担任が居るはずなので大抵の問題は問題にならないはずであるが…。


「…中腹まであと30分ってところかな。」


〈はあ!?まだそんなとこかよ!!10分で来い!!ダッシュ!ダッシュでな!!そろそろ始めっから!!〉


10分て…ヒカリが「無理に決まってんでしょあのバカ」と頭を抑えている。僕一人ならばマナで身体能力を向上させて行けないことはないが、彼女達を置いていくというのは原則班行動を指示されているため拙いだろうし…というか、「始める」?


「何を始めるの?」


〈決まってんだろ!!───一年男子コンバット最強決定戦だよ!!!〉


「……………………。」


〈いいか!!遅れんなよ!!今度こそお前に勝つんだからな!!!〉


───ブツッ、プー、プー、プー


…一年男子コンバット最強決定戦、ね。


「…ウィズ。」


『今日はのんびりしたい気分。』


「だよね。…ゆっくり行く、でいいかな?」


幸いにも女子四人は即頷いてくれた。






「───ふぅん、あの娘が例の光属性ね。…楽しそうに笑っちゃって、学校でもさぞ楽しくて平和な生活を送れてるんでしょうねぇ。」


「ハッ、その楽しくて平和な学校生活とやらは────今日で最後になるけどな。」




邂逅まで、あと──




to be continued

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