24話 オールラウンダー
5度目となる勝利宣言を試合中に、それもフィールドのど真ん中で行った白髪の少年の姿に…皆が唖然とするのは当たり前な話だった。流石に私もビックリしてるし。
と、とりあえず、
「あ…ああ、ああああ危ない!危ないよシン!そこフィールド!ボックスじゃなくてフィールド!アーツとかがバンバン飛び交うフィールドだって!怪我しちゃう!…いやいやいやいや!笑ってないで早く戻ってってばぁ!」
なんでクスクス笑うのぉ!?私超マジメに心配してるんだけど!?
「つか依り代がフィールドに出るとか反則とかじゃねーの!?いいのかよ!?」
「いいですよ。」
「いいのかよ!?」
「ええ。依り代が自ら進んでボックスからフィールドへ出ることは特にルールで禁止されていませんので。無論、その場合スピリットの攻撃を受けても自己責任ですが。…授業でやったはずですよ?依り代の役割…スタイルには大きく分けて三つあると。」
…指示出しに比重を置くコンダクター。
スキル等の補助をメインとしたサポーター。
そして、
「依り代自身が前に出る、アタッカー…。」
「正解ですフィールセンティさん。」
じゃあ、シンのスタイルって…アタッカーってあああああっ!!今電撃!!電撃がシンの顔すれすれを飛んでったぁぁぁ!!イヤァァァァァ!!!お願いだから戻ってーーー!!!
「はっはっはっ。彼のスタイルについてはここからの試合を見ていれば分かるでしょう。…まあ、これまでの戦い方を見るとおそらく…ふむ、ますます面白い少年ですねぇ。」
う〜、なんで面白がってるのよ先生…!私は心配で気が気じゃないんだけどぉ…!!
──────────
なんかヒカリが両手を祈るように合わせてこっちを凝視しているのだけど、一体どうしたのだろう?…勝つと約束にも関わらず、攻め込まれてばかりであまりに不甲斐ない僕を心配しているのだろうか?とりあえず大丈夫ということを伝えるために笑いかけておく。え?何ウィズ?違う?そうじゃな───!
バチィ!
顔の約30センチ横を微弱な電流が駆け抜け、後方で着弾した。電気を放ったのは何者か…言うまでもない。
あと、後方から聞き覚えのあるソプラノの悲鳴が聞こえてきたけど大丈夫かな…。
「…次は当てる。」
「………………。」
「10秒だけくれてやる。今すぐボックスに戻れ。」
…未だ後方で「危ない」「戻れ」と叫んでいるヒカリやアサヒ、ソウマと同じように…優しい先輩だ。
しかし、
「…お気遣い感謝します。ですが、お気になさらず。全て承知の上で僕はここに立っています。」
「………………。」
「納得して頂けないでしょうか?」
「………全て承知の上、ね。───口だけならなんとでも言えんだよざけんな一年坊が。」
ケラウスの右腕にバリバリと帯電されていく。アーツ…“スパークショック”か。
『…忠告はした。恨むなよ。』
僕目掛けて真っ直ぐに放たれた雷撃。威力が抑えられているそれに、本当に優しい先輩とスピリットだと再認識する思考の最中───右足を軸に身体を反転させることで電撃を回避。
止まることなく僕は右から、ウィズは左から距離を一気に詰め…無防備なケラウス目掛け、スキルとアーツをクロスを描くように発動させた。
どちらも命中…はしなかった。正確には、させなかったと言うべきだが。
「…次は当てます。」
『もっかい言うけど、気遣いなんていらないよ。これが、今のぼくらの全力なんだから。』
“弾”を放った指先を下ろし、ウィズと共に一旦距離を取る。
「………クッ…ハ、ハ…ハハハッ、ハハハハハハハッ!ハハハハハハハッ!!」
「………………。」
『……ラインハルト。』
「ハハハハ…ッハー………全力でいくぞケラウス。───強いわこいつら。」
『ああ。』
「ウィズ。」
『うん。』
ここからは互いに遠慮はなし。
一段と威力を増した雷撃が放たれ、僕とウィズは地を蹴った。
──────────
ズドォン!!ズガァン!!ガガァン!!
フィールドに何度も降り注ぐ紫電の雷。帯電した電気の放出にフィールドがバリバリと音を響かせる。
その中を…黄色い二足歩行の幻獣が発生させる放電の嵐の中を、二つの白が駆け抜けていく。
「セット。」
『“ブレス”!』
ドォン!!掛けながら放たれたマナ砲。それをかわすため跳躍したケラウス…を、シンのスキル“弾”が襲う。
『ぐっ…!』
『頭上注意だよ。』
『!いつの間に─があぁっ!!?』
続け様にケラウスの頭上に“転移”したウィズの“スマッシュ”が直撃。けど、すぐ様ケラウスは立ち上が─
「“縛”。」
『っ!』
「っ”か─」
『もう一丁!!』
ドッゴォン!!再びウィズの“スマッシュ”が炸裂。
「立てっケラウス!“サンダーガンズ”!」
『っおぉぉっ!!』
球状の電気の塊が八つ出現、一旦退いたシンとウィズ目掛けて撃ち出され…る前に瞬く間に全てが爆散する。
シンの放った複数のマナ弾によるものだった。
「っ!マジか…!」
“弾”の派生スキル─“霰弾-さんだん-”。シン曰く“弾”よりも一発一発の威力は低いけど、こういった風に複数のアーツを誘爆させて防ぐことも可能で重宝しているとのこと。
攻守交代と言わんばかりにウィズがケラウスに迫る。
「下がれ!」
『くっ…!』
『今度は足下注意。』
直後、ケラウスの足下が爆発。加えてウィズの追撃が直撃して、苦悶の声が響く。
今のは…
「仕込んだマナを任意のタイミングで爆破させるスキル、“発破”ですね。今までの攻防の中で地中に仕込んでいたのでしょう。」
たまたま上手く行った…んじゃないと思う。多分ウィズは分かって誘導して、シンはシンで、この展開を読んでたのかのように、ウィズの攻撃で足を止めたケラウスとの距離を詰めていた。
『あとそれ、メッチャいったいよ。』
黄色い毛皮に覆われた腹部に彼の手が添えられて…
「ごめんね。」
轟音が響き渡り、二足歩行の幻獣は大きく吹っ飛びフィールドに叩きつけられた。
「ほぅ…“霊撃衝破-れいげきしょうは-”まで扱えましたか。おっと失礼、今のはマナを体の一部に集約、圧縮臨界させ、開放と同時に相手に直接叩き込むスキル、“霊撃衝破”と呼ばれるものです。威力だけならばトップクラスの攻撃系スキル…使い手によってはスピリットをも一撃で顕現不能に追い込みます。相手のダメージは相当でしょう。」
ミッドサイオン先輩の声に応えて立ち上がったケラウスだけど…先生の言うようにダメージが甚大なのは明らかだった。
「スゴい…。」
シンがフィールドに出てから、完全にウィズが…ううん、シンとウィズが圧倒してる。
「ですが、何故ですの…?いくら彼がフィールドに出たとはいえ、ここまで…。」
「ええ。チャンスがあれば攻撃も行なっていますが、やっていることは基本的にボックスにいた時と同じ、スピリットのフォローです。なのに何故いきなり優勢となったのか、分かる人はいますが?」
ま、また授業が始まっちゃった。
「…いませんか。では解説を。といっても理由は非常に簡単で単純です。クオーレ君とウィズ、そしてケラウスとの距離が近くなったからです。」
…………え?それだけ?
「はい。まあ、クオーレ君が前に出てすばしっこく動いて相手を撹乱させている、ミッドサイオン君が彼のようなスタイルを相手にすることに慣れていないといった理由もあるかもしれませんが、大きいのはその一点ですね。」
「…………距離が、近くなる、と…どう変わるん、ですか…?」
「まずクオーレ君とウィズ…依り代とスピリットは両者を繋ぐマナのラインが短くなります。結果、マナが僅かに早く供給されアーツの発動が僅かに早くなり、連携速度の向上に繋がります。無論、距離が短くなった分マナもより効率よく供給されているはずです。」
「あっ…。」
「スキルは仕掛ける対象との距離が近づいた分、術式の構築から仕掛けるまでの時間やその効果が発揮されるまでの時間が僅かに短縮され、その効力も強さを増し…相手の依り代の妨害がしようとしても間に合わない、又は解除しきれないケースが増える。ただそれだけです。」
「簡単でしょう?」と軽笑する担任に皆納得する…けど、
「で、でもそれって本当に僅かですよね?1秒…いや1秒もないんじゃ…?」
「そうですよケントレッジ君。フィールドの大きさを考えると、あってもコンマ1秒レベルでしょう。しかし、その僅かに感じる差が今のクオーレ君とミッドサイオン君の差なのです。」
それはある意味、シンと私達の差とも言われてるように感じた。…でも、なら…どうしてシンとウィズはあの時私に…
「じゃあ俺も前に出る…なんだっけ?そう!アタッカーってやつをやればシンみたいになれんのか先生!?」
「はっはっはっ。───そんなわけないでしょう。」
ですよねー。ただ、さすがにシンみたく出来るなんて思わないけど、前に出たらいいこと尽くめな気がするんだけど…。
「確かに依り代が前線に出ることで攻撃の手が増える、威力が増す等のメリットがアタッカーにはあります。しかし、あくまで依り代とスピリットの連携ありきの話です。それ以前に当たり前の話ですが、相手どころか自身のスピリットの攻撃に巻き込まれかねないという多大なリスクが存在する事をお忘れなく。依り代がやられて敗北…であればまだマシです。大怪我をする危険性もあるのですから。アタッカーが少ない理由がそれです。」
…シンの動きがとんでもないからすっかり忘れてた。あ、ウィズが危ないからマネしちゃダメって言ってたのってそういう…。肝心のシンは危ないって思ってるか微妙だけど…。
「故にアタッカーには、状況の判断能力は勿論、優れた身体能力やマナを筋系に巡らせ身体能力を底上げする技術が必須になります。」
マナを筋系に巡らせて…だからシンはあんな動きが…………………待って。
じゃあ……今のシンは、指示を出して、マナをウィズに送ってアーツを使って、スキルでウィズのサポートして、前に出て一緒に戦うためにマナで身体能力を上げてるってことよね?
それって…
「気づいたようですね。そうです。今の彼のスタイルは厳密にはアタッカーではありません。より正確には、アタッカーだけではありません。」
「!…指示をガンガン出してアーツ使わせてっから、コンダクターでもある…けど、」
「場合によってウィズの自由意志に任せて、スキルでフォローを行っているからサポーターとも言える…。」
「その通り。先程ミッドサイオン君はクオーレ君をコンダクターとサポーターの両刀使いと例えましたが、実際はアタッカーもこなす三刀使いだったということです。そのようなスタイルを近年では───オールラウンダーと呼びます。」
「…オール、ラウンダー。」
それが、シンの本当のスタイル。
──────────
「ガチのオールラウンダーとか、勘弁しろよ…!」
「小細工ってレベルじゃねーぞ」と苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる先輩に「そんなことないですよ」と苦笑する。
皆より劣る僕らが少しでも皆に追いすがるには、出来ることを増やすしかない。ただただ小細工を積み重ねていった結果に過ぎないのだ。
「嫌味にしか聞こえねー…っての!」
バチバチバチィッ!!ケラウスの右腕に紫電が集束…雷属性近接系中級アーツ“ライジングクロー”。
「ウィズ。」
『うん。』
雷を纏った爪を構えて突っ込んでくるケラウスに、ウィズもまた爪にマナを集約し真っ向から突っ込む。
『“ライジングクロー”!!』
『“スラッシュ”!!』
激突したアーツは激音と衝撃を生み…はしなかった。こちらのアーツに対し、これまでのように真正面からアーツをぶつけるのではなく、いなすように捌くことでウィズをかわし…
「シン!!」
やはり、ウィークポイントである僕を狙ってきたか。
悲鳴染みたヒカリの声が後方から聞こえた最中、ケラウスの爪が僕に振り下ろされる。
───ウィズ。
───了解。
ケラウスを挟んだ向こう側のウィズと頷き合い、上半身を後ろに逸らしながら後方向けて地面を蹴り半転。視界が反転したタイミングで床に当てた手を支点に再び半回転を経て着地。
『っ!逃がさん!』
今度はフィールドを殴りつけるように右拳が叩きつけられ、紫電が地面を這うようにこちらに迫る。マナにより強化された脚力を用いて右へ跳躍、電撃を回避。
「───今だケラウス!!」
『そこでは───かわせまいっ!!』
黄色の毛皮に覆われた幻獣の左腕が宙を漂う僕に向けられた。
「マズい!空中じゃ…!」
身動きの取れない宙での回避は───不可能。
「シン逃げろ!!」
鋭い音と共に雷光が放たれ
「シンっ!!」
───バヂィィィンッ!!
マナを集約させた右腕を左から右へ薙ぐように振るい、紫電を四散させた。
「───チェックメイト。」
着地…右手に走る痛みを無視し、驚愕を露わにするケラウスの背後に視線をやる。そこにはチャージを終え、高密度のマナの鎧を纏う白い幻獣の姿があった。
「っ離れろケラウス!!」
『っ!?』
遅い。
「『“ブースト───ストライク”!!』」
アリーナに激音が轟き渡った。
to be continued




