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雪の雫石  作者: 六華優羽
純白の光
20/46

20話 クラス対抗戦

午前9時30分。


ヴァイス学院中等部、第一アリーナ。


「おはよう、諸君。」


今年度より本校の理事長となったゼスト・ナイブス博士の挨拶に対し、アリーナに集まったヴァイス学院中等部全生徒は「おはようございます」と返礼。


「うむ。新学期が始まり早二週間が経過した。新一年生は学校に慣れ始め、二年生は先輩となった自覚を、三年生は最上級生としての責任を感じ始めたのではないかと思う。そんな中、昨年同様この行事の日がやってきた。クラス対抗コンバット戦である。」


「ああ、昨年同様とは言いはしたが、私にとっては初めてなんでな…年甲斐もなくワクワクしている」なんてジョークも交え、博士は言葉を続ける。


「今日、明日に渡って行われるトーナメントで、二、三年生はこれまでの成果を、一年生には先輩達が積み上げてきたもの体感しつつ己の可能性を十二分に発揮して欲しい。」


───今、こっち見たね。


…偶然だと思うよ。


「この二日間が諸君らにとって少しでも糧となってくれることを祈っている。では、ヴァイス学院中等部、クラス対抗コンバット戦の開始をここに宣言する!」


やれるだけのことはやった。後は…


「頑張ろうねっ、シン!」


「…ああ。」






『といってもぼく達Dチームの試合って一回戦の最終試合だし、当分は応援なんだけどね。』


「応援も大事なことだよ。」


少なくとも、クラスとして一チームでも一回戦突破を目標としている以上、自分だけ応援せず足並みを乱す…というのは好ましくない。担任からも応援はしっかりするようにとお達しを受けているし。


なので、第一アリーナに四面設置されたコンバットフィールドの最東側にてこれから行われる一回戦、第四試合…一年一組Bチームvs二年三組Cチームの試合の応援の為、担任を含めた一年一組全員がフィールドの近くに集まっている状態。試合を控えたメンバーに対し、サイファー君を筆頭に「歴史に名前を刻もう!」等、各々声援をかけている最中である…僕以外。


「分かっているなら、ヒカリちゃんと一緒に君も級友に声をかけてきたらどうですか?」


「…彼女はともかく、愚者の自分が声をかけては高い状態の指揮が下がりますよ。」


「おや、それも分かっていましたか。」


クラスの応援を受ける我らがBチームのメンバーは、アサヒ・ヴィレイズ、テル・マッケンジー、セイ・クロスロード、サナ・フローライト、レナ・ヴァスティ。


複合属性のスピリット、ライカを宿すアサヒの他、全員がC+以上のスピリットを有した実力者が並ぶチームである。


その組み合わせは、


「アサヒに声かけてきたよー。なんでシンは来ねーんだよって言ってたけどいいの?」


「…あまり試合前の時間を取っても申し訳ないから。やっぱり緊張していた?」


「んー、ちょっとだけ。でもヤル気満々だったし大丈夫と思う。」


幼馴染の彼女がそう思うなら問題ないだろう。


「そろそろ始まりますね。」


「えーっと、シングルス1がアサヒでシングルス2がサナで…」


「ダブルスにマッケンジー君とフローライトさん、シングルス3はクロスロード君、最後のシングルス4にヴァスティさん、だね。」


対する二年生のチームは…


『流石に向こうは落ち着いてるね。』


「それでいて戦意は十分。」


こちらの指揮もあの日以降高い状態をキープしているが、さて…どうなるか。


「それではこれよりシングルス1の試合を始めます!両選手フィールドへ!」


「っ!…しゃ!いくぜぇ!ライカ!」


『おうよ!』


…流石のアサヒも初の公式戦で、それもトップバッターということからか…少々緊張している様子。それでも、フィールドの中央で試合相手の二年生と握手しつつ交わす姿に臆した気配はなく、ライカ共々「絶対勝つ」という意志が見て取れる。


「アサヒー!頑張れー!」


「落ち着いていけよー!」


ヒカリ、ソウマからの声援に腕を上げて応じたアサヒがボックスに入り、ライカはフィールドにて眼前の相手…背中に翼を持つ二足歩行のスピリットを見据え─


『シン、ウィズ!黙って見てねぇで相手の情報とっとと教えろ!』


…ルールに規定されていないとはいえ、マナー的にそんなことしていいのだろうか?


「一回くらい構いませんよ。」


「…風属性、妖精タイプ!」


『レア度C+!』


…ちゃんと聞こえたようで、己のマスターと頷き合ったライカは今度こそ相手のスピリットを見据えた。ついでに一部を除くクラスメイトからの「何言ってんのこいつ」的な視線が僕を射抜いた


「それでは、試合開始!」


と同時に試合が始まり、皆の意識がフィールドに向いたので心から安堵する。ありがとうございます審判さん。


開始の直後、ライカは相手向かって直進。炎を纏う右腕で殴りかかり見事ヒット。相手は慌てて翼を羽ばたかせ浮遊。しかし、アサヒ及びライカも相手が飛ぶことを予想していたようで、間髪入れず火属性下級アーツ“ファイアボール”を発動…命中。


「やった!当たった!」


クリーンヒットにヒカリを始め一年一組勢が湧く中、ライカは体勢を崩したスピリット目掛けて跳躍。雷を纏う左腕が相手の翼に触れ…るか触れないかの瀬戸際、発生した突風によりフィールドに叩きつけられた。


『…風属性中級アーツ、』


「“スィービルガスト”。」


続けて、風属性下級アーツ“ウィンドスラッシュ”がライカに炸裂。


瞬く間に形成逆転され、皆に焦りが生じ…アサヒも同じなのだろう、ライカに供給されるマナの波長が乱れている。これでは…。


『マズイね。これじゃライカは力を十分に発揮出来ない。』


ライカの動きのキレが落ち、アーツを放つも威力、精度が下がった今の状態では宙を舞う相手を捉えるには至らず。


距離を取られて着実にダメージを与えてくる二年生に徐々に追い詰められ…ライカは顕現不能となった。


『…出だしは良かったけど、やっぱり向こうの方が一枚も二枚も場慣れしてるね。』


「ああ。」


肩を落として戻ってきたアサヒを皆が「惜しかったよ」等励ます中、サナ・フローライトさんによるシングルス2が始まる。


水属性、レア度B+という力の強いスピリット…スイクウを駆る彼女は二年生相手に引けを取らない勝負を展開していく。


…しかし、それでも…あと一歩及ばない。


「サナ・フローライト選手、顕現不能!勝者、ハモンド・ネマーナ選手!」


アサヒもそうだったが、実力的に大きく劣っているわけではない。寧ろスピリットの能力はアサヒやフローライトさんの方が優っていると見ていい。


しかしながら、相手の攻撃を受けた際の動揺やこちらの思い通りにいかない焦燥がスピリットに伝わり、それが隙となって…


「テル・マッケンジー選手、サナ・フローライト選手、共にスピリット顕現不能!よって一回戦、第四試合!勝者は二年三組Cチーム!」


…その後、一回戦第七試合として一年一組Cチームvs二年四組Dチームの試合が行われたが、誰一人白星を上げることは出来なかった。






「いや〜、皆さんすっかり落ち込んでしまいましたねぇ。」


「笑い事ではないでしょう。」


一回戦、第八試合が終了した現時点における勝利チームは全て二年生のチーム。それも、全てパーフェクトゲーム。


そうなるとあの高かった指揮も何処へやら。予想以上に勝利が遠いことを認識させられた一年一組…いや、一年生に対して「はっはっは」と軽笑する先生ってどうなんだろう。


「…いくら、この行事の目的の一つが…有名校に入学したことでなまじ優越感に浸っている一年生に、自分はまだまだなのだという現実を突きつけるためとはいえ、些かやり過ぎなのでは?」


「おや、それも気づいていましたか。はっはっは。」


だからこの空気の中笑わないで下さい。今尚、勝利を諦めず、これから行う試合の準備をしているサイファー君が睨んでますよ。


「あ、ソウマー、アサヒー、シンいたよー!」


ん?


これから行われる第十試合、一年一組Aチームvs二年二組Aチームに出場するソウマへの声援に行っていたはずのヒカリが、思ったより早く戻ってきた。…アサヒはともかく、試合の準備で忙しい筈のソウマまで何故か来たんだけど。


「だってお前こっち来ねーじゃん。」


「ご、ごめん。」


「シンが謝ることないわよ。悪いのはナンセンス・サイフォンなんだから…!」


「そうそう。今のシンの立場的に難しいし、仕方ないよ。」


そう言ってもらえると助かるけど…ヒカリはいい加減名前を覚えてあげて。


「…次の試合、シングルス2だよね。頑張って。」


「ありがとう。…で、アドバイスとか欲しいんだけど何かない?」


「え…いや、ソウマとヒスイは練度も高いし、僕からは特に…。先生に聞いた方が─「基本的に今回私は関与しないと言ったでしょう?」…これまでの全ての試合、一年も二年も、アーツしか使っていないよ。」


ソウマならこれで分かるだろう。


「…なるほどね。確かに不意はつけるかも。ありがとう。いざって時やってみるよ。」


「うん。応援している。」


差し出された拳に自身の拳をコツンと当てる。


「あーあ、俺もアドバイス貰ってりゃ勝てたかもしんねーのになぁ…。」


「何言ってんのよ。アサヒは相手の属性とか教えてもらってたじゃない。」


「そうですねぇ。属性どころかレア度まで言い当てられ、相手の方は動揺していました。開始直後、君が優勢だったのはその為です。」


「マジかよ!?」


「ええ」と胡散臭い笑みを浮かべて肯定する担任教師。そんな訳ないだろうに。後で訂正しておかなければ。


「さて、そろそろ試合が始まりますね。…ソウマ君、初白星を期待していますよ?」


「っ、はい!」


闘志を瞳に秘め、ソウマはチームメンバーが待つフィールドへ駆けていく。


「私達も近くに行こ?」


「うん。…けど、その前に、」


『どうでもいいけど…一応担任なんだし、チームとしての勝利も期待しているって言ってあげた方がよかったんじゃないの?』


「…本当は言ってあげたいんですがねぇ。あの子達にはあまりに酷でしょう。」


「?どういうことだよ先生?」


「すぐに分かりますよ。」


「………………。」


…Aチームはソウマの他、クロア・サイファー君、クウヤ・スカイフォール君、ナンシー・パーパシィさん、ソラウ・アナスタシアさんという全員がレア度BまたはB+のスピリット使いから成るチームであり、各々の練度も高く、はっきり言って一年一組最強のチームだ。その上、代理ルールを用いた切り札としてネーナ・テルマーサさんの存在もある。


なのに、チームとしての勝利は期待できないというのか…?


少なくとも、Aチームは、これまで対戦した二年三組Cチームや二年四組Dチーム相手なら、結果は違っていたかもしれないと思わせるメンバーの集まりだ。


パーフェクトで敗れ続け意気消沈したクラスメイト達が、それでも…と、一縷の望みにかけて応援しようと思えるのは、Aチームが強いことを知っているから。…他のクラスにもそれは伝わっているのだろう。始まった一年一組Aチームvs二年二組Aチーム…シングルス1の試合に、一年一組以外の一年生からの声援も聞こえてくる。


二年生と一進一退の攻防を繰り広げるクウヤ・スカイフォール君の勝利を一年全員が祈る。


最早クラスなど関係なく、自分達の代で歴史を変えたいのだろう。


…無論、昨年同じ目標を掲げ、涙を飲んだであろう二年生はそうはさせまいと必死だ。悔しさをバネに励んだ力の全てをスカイフォール君のスピリットに叩き込んだ。


『…ここでAチームが惨敗したりでもしたら、一年全体の心が折れるだろうね。』


「…ソウマがそうはさせないよ。」


泣いて謝りながら戻ってきたクウヤ・スカイフォール君の肩を叩き、翡翠の羽を広げる翼鳥を従え、シングルス2に望むべくフィールドに立つ若き研究者。


相手のスピリットは…火属性、怪虫タイプ、レア度C+。


「それではシングルス2の試合を開始します!…試合開始!」


「ヒスイ、上昇!アーツ発動!“ウィンドスラッシュ”!」


いきなりアーツを発動させたか。おそらくソウマの狙いは…。


「な、なあ?あんまりアーツ効かなかったぽいんだけど大丈夫なのか?」


反撃の相手のアーツを含めた攻撃を、ヒスイは翼を駆使し全てかわしていく。ソウマは…うん、マナを練りつつ、しっかり状況を見ている。


『問題ないよ。あれはただのブラフ。自分達のアーツが弱いって見せかけるためのね。』


ソウマと相対する二年生にとって、相手の攻撃はそこまで強くないのであればダメージを警戒することはなく…積極的に前に出てくる。


「…あ、」


ヒカリは気づいたかな。


無意識なのだろう、少しずつではあるが…向こうの攻撃が大振りになってきた。回避に専念するソウマとヒスイに、苛立ちも募っていているのやもしれない。


「『……………そこ。』」


───相手のマナが乱れた。


「“弾”ッ!」


ソウマの指先からマナの弾丸が射出。ダメージは小さいとはいえ、スキルという予想外の攻撃に二年生側のマナが大きく揺らいだ。


「ヒスイ!」


『“ガスト───ブレイド”!!』


一閃。


研ぎ澄ませた風を帯びた翼の斬撃。


ソウマとヒスイの全てを込めた一太刀を受けた怪虫は、空気に解けるように消失した。


「そこまで!シングルス2!勝者、ソウマ・ケントレッジ選手!!」


ソウマの腕が天高く突き上げられ、アリーナが湧き上がり万雷の拍手が鳴り渡る。


「いっよっしゃぁぁぁっ!!あいつやりやがったぜぇ!!」


「勝った!ソウマ勝ったよシン!」


「ああ。」


相手の油断を誘う作戦を含めて、見事としか言いようのない試合だった。


一年生勢初白星という大きな手土産を掲げて戻ってきたソウマはクラスメイトから手厚い歓迎を受け、こちらにもやって来る。


「…やったよ。」


「うん。おめでとう…って僕に言われても意味ないかもだけど。」


「そんなことないって。」


右掌を少し上げて向けてきたソウマに倣い、こちらも右手を若干上げ…パンッとハイタッチを交わす。


「よしよしよしよしっ!遂に初勝利!行けんじゃね!?これ!」


下がっていた指揮もソウマの勝利によって勢いを取り戻し…いや、寧ろ増した。勝負の流れはこちらにあると見ていい。


ダブルスはクロア・サイファー君とナンシー・パーパシィさん…二人とも進学組であり、ミーネ・テルマーサさんも認める実力者。フィールドに向かう二人に一年生全てから応援の声が降り注ぐ。


『ここだね。』


「うん。ここを取れば、チームの勝利が一気に見えて来─────っ!」


………向こう側から歩いて来る、メッシュとピアスをつけた…ダブルスに出場すると見受けられる二年生選手。


「気づきましたか。」


一つ年上であろうその少年と主人に付き従う黄色の獣をはっきりと認識した瞬間、友人がこじ開けた勝利への一筋の光が僕の中から掻き消えた。


「…ウィズ。」


『……雷属性、幻獣タイプ。レア度…A。確かに強い力はずっと感じていた…けど、』


「それだけじゃない、ですよね。」


「ええ。」


メッシュの少年と共に出てきた二年生の少女と見比べると、その差は明らか。少女が劣っているわけではない。少年とスピリットから感じられる力の強さが…群を抜いている。


…組み合わせ表に記された名は、「ラインハルト・ミッドサイオン」。


しかも─


ズガアァォァァン!!


「っ…!」


開始と同時に、二筋の雷が放射状にミッドサイオン先輩のスピリットから放たれ、サイファー君、アナスタシアさんのスピリットは黒焦げとなり…顕現不能となった。


そこで一年生勢全てがその先輩の力に気づいた。


「え、え…?」


「は…?」


ヒカリとアサヒが状況を飲み込めないのも無理はない。皆がそうなのだから。


それでも事実は変わらない。


ダブルスは負け、これで一勝二敗で崖っぷち。


『あの先輩、ダブルスだけじゃなくて…シングルス3にも出て来るっぽいんだけど…。』


…マナ供給器によってマナを回復させたサイファー君が、シングルス3に望むべくフィールドに向かうが…もう周囲から応援の声はない。本人すら、戦意がない。


それだけ、再度フィールドに立ったメッシュとピアスが特徴的な先輩とスピリットが圧倒的に見えるのだろう。


「…あの方が、十席集の一人ですか?」


「ええ。席次は八席。雷属性のスピリット、ケラウスを宿す依り代…ラインハルト・ミッドサイオン君です。」


閃光と轟音が轟き…一年一組、Aチームの敗退が決定した。




to be continued

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