19話 チーム決め
ヴァイス学院に入学し、授業を受け、放課後は廃棄された施設でトレーニングに励み、休日である土曜日、日曜日で英気を養…えたのかは微妙だが、今日で丁度一週間。
午前中のスピリットに関する授業…でなく、数学、国語、理科、歴史に関する授業を受け(一時アサヒが爆睡しておりフロウ先生から矢の如く放たれたチョークの餌食になっていた)、学食で昼食を取り…午後の授業であるスピリット学が始ま
「さて、この時間は先週お話ししていた来週に控えたクラス対抗戦のチーム決めに当てます。」
りはしなかった。
「基本的に全生徒参加で、各クラス、5人一組のチームを4チーム作り、クラス並びに学年隔たりのないトーナメント戦です。コンバットの団体戦の形式…シングルス4つとダブルス1つで行われ、先に3勝したチームの勝ちになります。」
各クラスで1チーム…となると、各学年4クラスであるため計48チームというわけか。
「5名のチームでシングルス4つとダブルス1つを行ってもらいますので、一人はシングルスとダブルスを兼任する点は注意して下さいね。チーム分けや戦術等、基本的に私が関与することはありません。勝利を目指すのもよし、交友を深めるのもよし。やりたいようにやってみて下さい。」
───放任主義過ぎない?
学生主体の行事だし、僕はいいと思うけど?
「メンバーが決まったチームから黒板に書いていって下さいね」との言葉を最後に、各人席を立ち行動を開始した。
倣うように僕も席を立ち…左肩をちょんちょんと突かれる。
「私とシンは同じチーム、でいい?」
「ああ。」
「えへへ、ありがと。」
「此方の台詞だよ。」
あとはアサヒとソウマが心変わりしていないことを祈るだけ─
「ぼく、シン、アサヒ、ヒカリは決定であとどうする?」
「つえー奴がいいけどな。」
なんて杞憂だったか。
アサヒとしては残る一枠は強者を引き入れたいようだが、僕は別段拘りはない。というか、無属性の僕がいるチームなどに入ってくれるだけでありがたい。
「なんか、もうみんな結構決めてるっぽいねー。」
既に黒板に書かれたチームを見たところ、僕達のように交友のあるメンバーでチームとなっている模様。
…以前ソウマに、フィールドを一緒に使わせてもらえないか頼んできたクロスロード君は…もう先約されていたか。
「んー、シンは誰か誘いたい人いる?」
繰り返すが僕に別段拘りはない。
───基本ボッチだもんね。
五月蝿い。…しかしながら事実であり、誘いたい人物などいるはずもない。強いて言うなら、宛なら一人無くはないが…。その人物が座っている方向…ヒカリの一つ後ろの席で我関せずというように本を読んでいる眼鏡をかけた少女を見やる。…向こうも気づいて目が合って、一秒もしないうちに視線は本に戻されてしまった。
───残念!シンはフラれてしまった!
五月蝿い。
…その彼女の右隣、つまり僕の真後ろの席でノートや資料を見つめる少年にも試しに視線を向けて見るが…
───完全無視!シンはまたもフラれてしまった!
五月蝿い。
「シン?」
「…いや、特にいないかな。」
「そっかぁ。」
「ならさ、とりあえず、この四人の名前書いといて、入ってくれる人いないか聞いてみない?」
「お、それいいな。そうしよーぜ。」
思い立ったが吉日というように、ソウマの提案にアサヒは頷き返し、他の生徒達に混じって、黒板に僕、ヒカリ、アサヒ、ソウマの名前を記載していく。
「でも、最後の一人が誰になるか分かんないけど、こうして見ると私達のチームって結構強いんじゃない?シンもいるし、ソウマだって結構強いんだし。」
「うん。ヒカリとアサヒも期待のホープだし、実際、このクラスだといい線言ってると思うよ。…けど、そう簡単には絶対いかないのがこのヴァイス学院なんだよね。」
やはりソウマも知っているか。首を傾げるヒカリを視界の端に入れつつ…黒板を見やる。
現状、黒板に名前が記載されていない人物は…自分が宛てにしていた人物と……意外にもクラスで彼女に唯一並ぶ高レアのスピリットを宿す少女も残っているか。
───意外なのはシンだよ。いくらヒカリ達が誘ってくれたとはいえ、こういうイベント系、前は全然興味無かったのに。
少なくとも、こういった行事よりも授業の方が好みなのは今も変わらない…けど、今回ばかりはそうもいっていられない。
───へぇ?もしかして勝ちたかったりする?
僕個人の勝敗はベストは尽くすけれどどうでもいいよ。チームとしての勝敗についても、皆には悪いが最優先事項ではない。
「あっ、なんかアサヒに声かけてる人いるよ。」
「テツヤ・ドレア君、だったかな?入ってくれたら嬉しいんだけど…お、そうっぽい。二人もオッケー?」
「ああ。」
「うんっ。」
僕にとって、今回の最優先は…
「チームも決まったし、頑張ろうね。シンっ。」
「…うん。」
───…なるほどね。その方がシンらしいし、ぼくも賛成。
とはいえ、アサヒもソウマが同チームなのだから、僕に出来ることなんて無いに等しいんだけれど。
ドレア君を連れて戻ってきたアサヒによる「ぜってー優勝だかんな」との鼓舞に合わせて腕を突き上げる彼女の様子に頰を弛ませる。
「───ナンセンス。」
和気藹々と賑わう教室が冷水を浴びたように静まったのはそんな時だった。
声の出所は…僕からすると真後ろの席。
静かになった教室内に一人の生徒が席を立つ音と、続けてツカツカと歩行する音が小さく鳴った。
無言となったクラスメイト達を意にせず、少年─クロア・サイファー─は、ノートと資料を手に取り黒板前に座する教卓に立ち、再度「ナンセンスだ」と言葉を発した。
「人が黙って見てれば低レベルな話ばかり…君達はふざけているのか?」
───いきなりブッ混んできたねぇ。
フロウ先生は……介入する気無しか。寧ろあの顔は楽しんでいるな。
「君達は何のためにこの学院に来たんだ?───依り代としての実力を高めるためだろう!!高みを勝ち取るためだろう!!」
バンッ!!教卓に彼の右手が振り下ろされ、鋭音が響いた。
…ヒカリ、吃驚するなとは言わないけど僕の背中にあまりくっつかないで欲しい。
───と言いつつヒカリとくっついていたいんでしょ?このムッツリめ。
ぶっ飛ばすよ?
「なのになんだこのチーム分けは!?仲良し同士で集まっただけの腑抜けたチームで勝てると思っているのか!!ナンセンスだ!ナンセンスにも程がある!!」
───サイフォン君だっけ?ナンセンスって言うの好きなのかな?
サイファー君ね。あと、真面目な話してきている最中なのだから腑抜けたこと言わないで。
「いいか!このクラス対抗戦は僕達一年にとって最初で最重要な行事なんだ!ここで勝利することがどんな意味を持つか、君達は全く分かっていない!!」
…彼の言う通り、一年時にこの対抗戦で一度でも…つまり、一回戦だけでも勝利できればそのチームはおろか、クラス全員が大きな栄誉を得ることになるだろう。
「ヴァイス学院中等部でクラス対抗戦が始まって以来!一年のチームが一回戦を勝ち抜けたことは───一度もない!!一度もだ!!」
故に、
「だからこそ、ここで僕達が勝つことが出来ればどれだけの大業になるのか!馬鹿な君達でも少しは理解できるだろう!?勝てば、そのチームだけじゃない!クラス全員の栄誉になるんだぞ!!───僕は本気で勝ちにいきたいんだ!!」
───本気で勝ちに「いきたい」…ね。
ウィズ。
───はいはい。
「愚か者以外分かりきっている話はもう結構。具体的にどう勝ちにいくのか聞かせて願えます?クロア・サイファー。」
「…ふん、まるで自分は愚か者じゃないみたいな言い草だなネーナ・テルマーサ。まあいい。この資料は入学してから約一週間の、君達がアリーナやフィールドを利用した履歴だ。そして初日に聞かせてもらったそれぞれが宿すスピリットの属性、レア度…一部はランク。これらを統合し、僕の方でこのクラスで最も最適なチーム分けを行った。各人取りに来たまえ。」
属性、レア度、ランクはともかく…アリーナやフィールドを利用した履歴を考慮したチーム分け、ね。
「ふむ…私も見て宜しいですか?サイファー君。」
「ええ、どうぞ先生。」
───嫌な予感しかしないんだけど。
だね。何故なら…
「言っておくがナンセンスな反論は受け付けない。特に───無属性な上、入学してから一度も施設を使用していないナンセンス極まる愚者からはね。」
ですよね…。正規の施設じゃないことがここに来て仇になったか…。
───でもいいんじゃない?ほら、ヒカリとは同チームだし。
しかし、アサヒとソウマ、ドレア君は別チーム。
…稀有な光属性の彼女を僕なんかと同じチームにしたのは、例の噂と…彼女も施設利用の履歴がないからだろう。
ヒカリには、本当に取り返しのつかないことをしてしまっ─
「よしっ、シンと同じなら全然問題なし。」
───だってさ。
えー…。
「ふむ、私からも特に何もありませんので後は皆さんで決めて下さい。」
…なんですか、その安堵と楽しみが合わさった表情は。
えーと、他のメンバーは…レミリア・エストワールさんにノゾム・アリーセさん、………ネーナ・テルマーサさんも?………そういうことか。
「なっ、ずりーぞヒカリだけシンと同じチームじゃねーか!異議あり異議あり!俺シンと同じチームがいい!」
「あ、ならぼくも彼と同じチームを希望したいんだけど。」
そこは正直にヒカリとって言ってあげた方が彼女も喜ぶと思うのだが。
「は?何言ってるの?ナンセンスな反論は受け付けないって言ったよね?というか、シンって誰?もしかしてそこのナンセンス極まる白髪の無属性の無能の愚者?…あのさ、馬鹿じゃないの?せっかく僕のおかげで別チームにしてあげたのに。これでも僕は君達二人を買ってあげてるつもりなんだけど?」
確かに、僕視点では二人と同じチームになれれば非常に嬉しいが、二人からすれば僕と組むメリットは全くな───!
「おいてめ─「アサヒ。」っ…!」
「ソウマも…ね?」
「…………はぁ、分かったよ。」
「…あと、ヒカリもだよ。」
「…私、あいつ大っ嫌い。」
いや、こんなことで嫌わなくても…。…それでも、彼らの優しさに嬉しく感じてしまう。…僕なんかには本当に勿体ない友人達だ。
「…それで?その愚者とわたくしを同じチームにしたのには、何か理由があってのことなんでしょうね?」
「勿論だよ、テルマーサ。認めるのは癪だが、現状このクラスで最も高い実力を持っているのは君だ。つまり、切り札だ。だからこそ君にはどうでもいいチームに入ってもらい、他のチームで勝利が見えた際に登場してもらいたい。」
やはりか。
「…どういうこと?テルマーサさんってあたし達と同じチームなんだから、他のチームの試合には出れないよね?」
「通常はね。しかし、一度だけ同じクラスのチームに限り、他のチームの試合に代理として出られる特殊ルールが対抗戦には存在する。」
捨てチームを一つ用意して他三チームに戦力を集めた上、敢えて捨てチームに切り札を隠し、特殊ルールを用いて要所で投入…一つの考えとして間違っているとは言えない。
「…切り札。……まあ、悪くはありませんわね。」
クラス一の実力者も納得した様子。となれば、反論する者はもういない。
「どれか一チームでも勝つことができれば、それは僕達全員の勝利となる。クラス一丸となって、対抗戦に望もう!!僕が皆を勝ちにいかせてみせる!!」
「おおー!!」と一部を除き湧き上がる教室内。
…今更だが、一応授業中なのにこんなに騒がしくして大丈夫なのだろうか?
「あーもー!!ムカつくムカつくムカつくムカつくーーっ!!フィア!あのナンセンス野郎だと思って“ホーリーレイ”!!」
ズドォォォォン!!…廃棄された施設内に響き渡る光線の着弾音。
八つ当たり気味の猛攻に晒され、今まさに消失していくエレメントにどこか哀愁が漂っているのは気のせいか、それとも…。
『依り代、スピリット共に荒れてるなぁ…。』
「ただ、調子は良さそうなんだよね…。」
感情の高ぶりで試合運びが疎かになるどころか、逆により洗練されていっている。やはり彼女らは僕らのような理屈や理論よりも、感情や想いで力を発揮するタイプのようだ。
とはいえ、
「シン、次─「駄目だよ。マナも消費しているし少し休憩。」…むぅ。」
「むくれても駄目なものは駄目。」
タオルと飲み物を手渡し、ベンチに座らせる。
「…アサヒとソウマが別チームになったことは残念だけど─「それはどうでもいいし。」…どうでもいいは言い過ぎじゃ…。」
「私が怒ってるのはシンが悪く言われたことだもん。」
「…それこそどうでもいいと思う─「よくないの!」あ、はい。」
「シンの方がランクも高くて強くて頭良くてカッコよくて優しいのにあの頭くるくるパーはなんにも分かってないんだから見てなさい絶対ギャフンと言わせて」と呪詛を吐く闇を背負ったヒカリに相棒たるフィアは同意し、僕とウィズは引く他ない。
サイファー君が僕に言ったこと─無属性であることや施設の利用履歴がないこと─は全て事実なので、彼に非はないのだけどな…。
とりあえず、これ以上彼がヒカリに恨まれるのは僕の良心が痛むので話題を変えよう。
「そ、それより、来週の対抗戦のことなんだけど…。」
「分かってる。試合相手を狙うふりしてあいつをぶっ飛ばすから。ふふっ。」
『任せてマスター。』
「『ヤメテ。』」
お願いだから。
「はぁ…というか、いくらなんでも外野を気にしてどうにかなる相手ではないから真面目やるように。」
「大マジメなんだけど…そんなに強いの?」
「少なくとも、僕達よりこの学校で一年長く研鑽してきた二年生が相手だし、経験は向こうが上だよ。」
「?…なんで先輩が相手って分かるの?」
「トーナメントなんだし、一年生同士が当たることだってあるじゃない」と至極最もな質問を口にするヒカリ。
「うん。そうであれば、これまで対抗戦で一年のチームが勝利することもあったんだけどね。」
そうは問屋が卸さない。
外から拾ってきた木の棒を手に持ち、地面に対抗戦のトーナメント図を簡易的に書き記す。
「一年から三年、それぞれ十六チーム、合わせて四十八チームからなるこの対抗戦のトーナメントだけど…まず、三年生の十六チームは全てシード権が与えられて一回戦は免除されている。」
『つまり、一回戦はマスター達一年生と一つ上の二年生、三十二チームが試合するわけね?』
「そう。厄介なのは…この一回戦の組み合わせは例年、全て一年チームvs二年チームとなっているらしい。」
「え…。」
「新入生に中等部の厳しさを教える等の理由があるようだけど…ともかく、これまで一年チームが一度も一回戦を勝てた試しがないのはそれ所以だよ。」
クラスでの総合力はどう見積もっても二年生の方が一枚も二枚も上手だ。無論、個々人でいえば一年生にも一部の二年生に勝てる実力者はいると思うが…。
「平均的な力で劣るからこそ、サイファー君は戦力を均等にではなく、二年生に勝てる見込みのある者でチームを組ませ、その何れか一チームが勝ち上がれるようにしたんだよ。」
彼は何も間違っていない。
「…シンはそれで勝てると思うの?」
「…少なくとも、彼のお陰で勝ちにいこうと思うメンバーは増え、指揮は高まった。けれど、二年生とてこれまで積み重ねてきた一年チームの未勝利の歴史を自分達の代で終わらせたくはないはず。そう簡単にはいかないだろうね。それに…」
「それに?」
「噂では…今代の十席集は歴代でも上位に入るメンバーらしいよ。」
「……じゅっせき、しゅう…?」
…まだ知らなかったか。
「ヴァイス学院中等部全体において、依り代及びスピリットの力が秀でた上位十人のことを指すみたい。」
『因みに今の十席集は、主席から六席までは三年生で七席から末席は二年生だってさ。』
「ふぇ〜…なんかスゴそう。」
会ったことはないので具体的には分からないが、実際凄いのだろう。
対抗戦も、場合によってはその十席集がいるチームと当たる訳だし…その場合勝ち目は薄いと言わざるを得ない。
「なんか聞けば聞くほど勝ち目なんてなさそうに思えてくるね…。特に私達のチームとか…。」
『捨て石扱いなのは明らかで、レミリア・エストワールはやる気なし。ノゾム・アリーセはやる気はあるっぽいけど、』
『シンに対するサイファーの言葉をそのまま受け取って、シンへのヘイトが高いわね。』
「本当に申し訳ない…。…クラストップの実力者のネーナ・テルマーサさんもこのチームに貢献する気はない。」
『ぶっちゃけ、チームとしては最低最悪だね。』
「許すまじナンセンス・サイフォン…!」
クロア・サイファー君だからね。
しかし、そんな最低最悪のチーム故に…
「チームとして勝つことは難しくても、個人的にでも勝つことが出来れば…分かってくれるよ。頑張っているんだって。特にヒカリの試合を見たら皆吃驚すると思うし。」
「…シン…。」
「君は凄いんだってところ、皆に見せつけてあげよう?」
そうすれば、きっと噂に惑わされずに彼女を受け入れてくれる人が出てくる。
「……シンも、だからね?」
「…勿論、ベストは尽くすよ。」
ただ、それでも…
「ならよしっ。さてと!休憩終わり!いくわよフィア!」
『ええ。』
チームとしての勝利も、クラスとしての勝利も…自身の勝利も、僕はいらない。欲しいとは思わない。
今、僕が欲しいのは…
「あ、そだ。ねぇフィア、光線を曲げることってできる?それができたら試合中にナンセンス・サイフォンに当てることも─」
「ヤメテ。」
to be continued