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雪の雫石  作者: 六華優羽
純白の光
15/46

15話 不穏の影

「にっしてもよ、トップスリーが纏めて一組とかすんげぇ偶然だよなー。」


「スリー…?シンと私のツートップでアサヒが圏外の間違いでしょ?」


「っはあ!?俺一位、シン二位、ヒカリ三位の間違いだろうが!」


「なんで私とシンがあんたより下なのよ!筆記ダメダメだったって言ってたじゃない!」


「駄目駄目とまでは言ってねーし!」



「クスッ、仲がいいね。」


『そう?』


太陽も高く登り、春を感じさせる陽気に包まれるルミナスの街路。平日の昼間であるためか、人通りの少ない路を隣に並んで歩く幼馴染の男女のやり取りは、後ろから眺めていて自然とほっこりした気持ちにさせられる。…ウィズは何故か違うようだが。


「だいたい、実技だってアサヒが一番時間かかってるんだし、一番下なのは明らかじゃない!約束通り何か奢らないといけないんだからね!」


「あれは偶々相手が悪かったんだよ!ビリはお前だっての!」


「どこをどう見ればそうなるのよ!さすがのフィアもそれはないって私の内から言ってるし!」


…まあ、二人の会話には訂正する箇所がありはするのだが……この一ヶ月間ヒカリには気を遣わせ迷惑をかけたことも多々あったと思うし、この気兼ねのないやり取りに口を挟んでまで指摘するのは無粋か。


寧ろタイミングを計って二人きりにしてあげた方が─


「シンもそう思うよね!?」


「え、あ…な、何?」


「だから試験の順位!シンが一番で私が二番!そんでこの馬鹿がビリって思うよね!」


「違うっての!一位は俺でシンが二位!お前がドンケツ!」


二人共負けず嫌い、というより幼馴染であるが故に互いにだけは負けたくもとい譲りたくもとい奢りたくはない様子。こういうのをライバルというのかな?


「で!」


「どっち!?」


しかし、何故僕に決定権があるような節なのか…?


…ともあれ、≪真実≫を告げるならば…


「えっと…この中で最下位なのは、僕のはずだけど…。」


全体的にも僕の順位は良くて真ん中よりやや低いくらいだろう。なお、あくまで推測なので言うつもりはないが…トップはヒカリであり、アサヒは筆記試験を加味すると5位付近でないだろうか。


「だから僕が奢……どうしたの?」


そんな信じられないものを見るような目をして。


「いや、なんつーか…お、お前さ、疲れてんだな…!?」


「?別にそんな事は」


「わ、私奢るよっ。何食べたい?」


「奢るのは僕であって…」


「やっぱよ、疲れてんだったら甘いものがいいんじゃね?」


「だ、だから疲れていな─」


「いいと思うわ。急いで行こ!」


「おう。行くぞシン!」


「ちょっ…二人共どうしたの…え、何…!?」


右手をヒカリに、左手をアサヒに引かれる形で強制的に二人の後を歩かされることになったのだけれど…!?


『二人からすればぼくらが最下位なのはあり得ないんじゃない?その辺り疎そうだし。』


…そういえば二人が有する才覚のあまり頭から抜けていたが、彼らはつい一月前に依り代になったばかりであった。


「言った方がいいのかな…?」


『多分今ぼくらが何言っても二人は受け入れないと思うよ。』


…まあ、入学すれば否が応にでも分かることか。


僕も慣れない土地とはいえ…いつまでも彼らに甘えないよう気をつけなければ。彼らに迷惑をかけては目も当てられな─


「昨日この先に美味しそうなケーキ屋さん見かけたの。人気ナンバーワンって書いてあったしそこ行こっ!」


「だな!シンもいいよな!?」


もう既に迷惑をかけてしまっているよねこれ…。見方によっては、今の自分のポジションはカップルのデートを邪魔している者そのものだし…。


「う、うん…。」


罪悪感に晒されながら話を振ってきてくれた二人に相槌を打ち、手を引かれるがままに歩くこと十分程度。昨日の試験後の帰り道、ヒカリが興味津々にしていたものの生憎混雑しており断念したスイーツメインのカフェが見えてきた。


「ほら、あそこ!…って、あれ?ねぇ、あそこにいるのって…」


「あ?…ソウマとゼストのじーさんじゃねーか。」


…加えて、その二人と対面するサングラスをかけたスーツ姿の男性が四人。


ナイブス博士の仕事関係者─



「ええいしつこい連中だな!ついて行く気はない!協力せんと言ったら協力せんっ!帰れ!」


ではないか。



「なんかじーさん怒ってね?」


「ソウマも困っちゃってる感じ…。」


全ての会話が聞こえているわけではないが、要約するとスーツ姿の男性達がナイブス博士に何かしらの協力を要請しているが、博士は断固拒否…といった具合か。ソウマの表情からも完全に迷惑している感情が読み取れるので、少なくとも二人にとって相手の要望は話にならない案件なのだろう。


『…どうする?』


どうする、と聞かれても…見て見ぬ振りをする気はないが、下手に介入して話を拗らせては意味がないし…。


『…あ、もう遅いや。』


え。


「おいっお前ら!じーさん断るって言ってんじゃねーか!」


「大人なのに人が嫌がってるのをさせるのはダメって知らないの!?」


….少し思考に深けているうちにヒカリとアサヒは口論真っ只中の博士達と男達との間に割って入っており…手を引かれたままの僕も当然両者の間に立つことになっていた。


「!お前達何故ここに…!」


「…なんだこのガキ共?」


…少しばかり向こう見ずな気もしなくはないが…己が≪感情≫と≪意志≫のまま、困っている博士とソウマのためにたじろぐことなく即座に動いた二人は素直に凄いと思う。


僕達の介入に目を丸くしている博士達に会釈し「何か揉めているようでしたので」と告げて状況を問う。


「こ、こいつらいきなり博士に研究の成果を渡せって言ってきてるんだ!あと自分達の組織に協力しろって!」


「…目的は?」


「世界平和のためとか未来のためとかぶっちゃけ訳が分からない!」


『これは酷い。』


何かしらの宗教家、といったところか?どちらにせよナイブス博士が憤慨して断る訳だ…。日夜励んで得られた成果を前触れもなく渡せと言われれば、誰とてふざけるなと思うだろう。


無論、割って入ったアサヒとヒカリに対して「邪魔だ」と怒鳴りつつも「平和の為」やら「皆の為」やら言っているので、彼らは彼らで本気なのかもしれないが…。


「このっ…邪魔って言ってんだろがガキィ!!」


「…!」


怒声に続き、マナの変化を察知。即座にヒカリとアサヒを下がらせ、手の繋がりを解かせてもらいウィズと共に臨戦態勢に入る。


「スピリット…!?」


背に隠した少女から漏れた言葉の通り、現れたのは四体のスピリット。四人全員が依り代だったか。加えて、このタイミングでスピリットを顕現させたとなると穏便に引き下がる気は毛頭なく、力づくで来る気満々と判断していいだろう。


『いいよね?』


…応戦してもいいか博士に目線で問うと、コクリと頷いてくれた。


「…程々にね。」


『りょーかい。』


肩から飛び降り着地する白い幻獣。相手は四体だがこのレベルならなんとか─


「へっ、そっちがそのつもりならこっちだって!じーさんは下がってな!いくぜお前ら!ライカ!」


「う、うんっ!フィアお願い!」


「仕掛けてきたのは向こうだし正当防衛になるよね。出てこいヒスイ!」


…アサヒ達も対応するとなると構図的には四対四…それぞれ相手にする対象は立ち位置で自然と定まったようで、ライカ、ヒスイ、フィアが各々戦闘を開始。混戦とはならず実質一対一の形態となり、僕らが応戦することになる最後の一組は灼熱の体毛の猪とその依り代。


「なんだそのスピリット。ちっせぇ上にまさかの無属性か?雑魚中の雑魚じゃねぇ─」


────ズガンッ!!!


…まさに電光石火。相手が身に纏う炎を大きくさせたその刹那。「雑魚」と呼ばれたそのスピリットはアスファルトを蹴り、その炎が燃える脳天目掛け気により硬質化させた尾を容赦無く叩きつけ…アスファルトにめり込ませた。ぶっちゃけ主である僕でさえドン引きである。


「…はぁ。程々にね…と言ったよね?」


『今日シンにブチ込んだのよりは手加減したつもりだけど?』


何それ怖い。


「な、は…?」


ウィズの一撃により身体を保てなくなったスピリットが光の粒子となって消え去っていく。これで暫くの間彼はスピリットを顕現させることは出来ない。スピリットの使役が不可な状態で、男がウィズをどうにかすることはまず不可能だろう。


ヒカリ達の方─「さっすがシンとウィズ!よーしっ、私達も決めにいくわよフィア!」…問題ないか。


ソウマは元より、ヒカリ、アサヒも依り代になったばかりとは思えぬ采配で終始相手を圧倒し、向こう側のスピリットが全て消失するまで5分とかからなかった。


「くっそ!どうすんだよ!?」


「っ!きょ、今日のところはこの辺で…か、勘弁してやる!」


「いいか!?今日だけだからな!!二度と邪魔すんじゃないぞ!!」


「覚えてやがれ!」


…今日日、ここまでテンプレな捨て台詞を吐いて走り去っていく人物がいるとは思わなん─


「おととい来なさいってのよ!」


ここにもいたか…。


…ともあれ、男達を追い払う事は成功…した訳だが、結局彼らの目的は愚か素性すら不明確のまま。


ハイタッチを交わし喜び合う3人とスピリット達を視界の端で眺めつつ、被害にあったナイブス博士に「追いますか?」と問いかける。


「構わん、放っておけ。…一応警察には連絡はしておく。」


「…承知しまし─「ほらっ、シンも!」え…?あ、ああ。」


笑顔で右手を上げる少女の姿に一瞬何のことか分からなかったが、こちらも右手をぎこちなく上げるとぱんっと軽快な音が響き渡った。






その後、予定通り目的のカフェにてスイーツを食すことになった僕達。但し、当初と異なりメンバーは僕、ヒカリ、アサヒに加え…


「へぇ、じーさん甘いもんが好物なのか。言っちゃなんだけどすっげー意外。」


「他人の好物に難癖をつけるでない…と言いたいが、私も自覚はしている。」


「ここの杏仁豆腐が博士は好きでね。毎週来るよ。」


「ふふっ、なんか可愛いかもっ。」


「…ウォホン。フィールセンティ君、あまり揶揄わないでくれるかね?」


「ふぇ?」


間違いなく彼女は心から素直に言っているだけですナイブス博士。なお、僕はナイブス博士が甘味好きであることはアーカム博士より聞いていたので驚くことはない。サウスハートからの手土産も名産フルーツを用いたゼリー等、デザートの盛り合わせだったし。


そのナイブス博士行きつけの店とだけあってか、メニューは非常に豊富。和菓子から洋菓子まで、多種に渡るメニュー表を隣の椅子に座る少女が真剣に見やる姿に…微笑が零れてしまうことが自覚できた。…ただ、彼女以上にウィズが真剣であることには呆れが勝った。


「んー…ねぇ、シンは何にするか決めた?」


「ん?ああ…僕はウィズが頼んだのを少し分けてもらうから気にしなくていいよ。」


何せ、元々アサヒとヒカリの分は僕が持たなければならないのを、ナイブス博士に支払っていただくことになった形なのだし、僕まで注文するのは気が引ける。


「遠慮するでない。助けてもらったのだ。これくらいはさせてくれ。」


「いえ、遠慮しているわけでは─「シン。」…では、ホットコーヒーを。」


…何処と無くまだ納得してないような顔色だが、ここが妥協点なので勘弁して頂きたい。


注文を聞きに来てくれた店員さんにそれぞれ発注する際や頼んだものが運ばれてきた際も何かと勧められたが、なんとか引き下がってもらえた。


「ったく、折角のじーさんの奢りなのに勿体ねーぞ。」


「そういうアサヒは五品は頼み過ぎよ。」


そう言うヒカリもヒカリで三品のケーキ…ショート、チョコ、ミルフィーユという量は結構多い部類になると思うのは黙っておく。彼女が見た目によらず大食ゴホンッ…健食家であることはこの一月で理解している。


「でも本当、遠慮することないと思うよ。ぼく達がスムーズに勝てたのもシンとウィズが速攻で決めて、相手がたじろいだってのも大きいんだし。」


抹茶ケーキを「ちょっと食べる?」と差し出してきてくれたソウマに苦笑しながら「そんなことないよ」と首を横に振る。


僕らが居ようが居まいが結果も内容もさして変わらなかったはず。そのくらいの力は彼らは優に秘めているのだから。


あと、揃って「遠慮しているのでは?」と問われるが僕とて全く食べていない訳ではない。「早く早く」とウキウキと口を開けてせがむウィズに、都度小さくカットし掬ったフォンダンショコラを差し出しつつ自らも食べて─むぐっ……………ごくん。


…口の中に広がったフレーバーはショコラでなくミルフィーユ…。


「……ヒカリ。」


「えへへ、美味しい?」


…前触れなくいきなり口に突っ込まれた事に一言言いたいが、こうもニコニコと笑顔を向けられると何も言えない。


「…一応、ありがとう。ご馳走さま。」


「うんっ。」


というか、またしても間接キスになったのではないかこれ…?それも知人の前でとか…彼女がそういった事に無頓着であることもいい加減理解してはいるのだが、周り…それも幼馴染の視線くらいは少しは気にしないものだろうか…?


少なくとも、僕自身はウィズ、博士、アサヒ、ソウマの生暖かい視線が非常に気になってしまい…視線から逃れること及びいつも以上に甘ったるい口の中を中和すべくコーヒーを口につける。


「あはは、謙虚過ぎるのも考えものってことだね。」


そんなつもりは一切ないのだが…。


「あ、やっぱりソウマもそう思うよね。今のもそうだけど…シンってばこの間の試験、この中だと自分が最下位って言うのよ?」


「いや無いでしょ。絶対トップに決まってるじゃん。」


「だよねー」と相槌を打った彼女にアサヒが「トップは俺だろ!」と反論。途端、口論を始める幼馴染コンビとそれに苦笑する少年…の一方、最年長者の表情が強張りその視線が僕に向けられた。…ヒカリ達に言うべきではなかったか…。


謝罪の意を博士に視線で伝えると、彼は数秒こちらを見据え…


「……シン、少しいいかね?」


「…はい。」


椅子を引き、席を立つ。


「博士?」


「私とシンは少し席を外す。」


「あ、はい。」


「ふぇ?どこ行くの?」


「…ちょっと研究関連で伝えることがあって。ウィズ、残り全部食べていいから…宜しく。」


『了解。』


さて…怒られるのは覚悟するとして、怒鳴られたらどうしよ─






「───本当に申し訳ない…!」


…頭を下げられたのだが本当にどうしよう…。


「え、いや、あの…?」


謝らなければならないのは安易に事を言った僕の方では…?


「誰がどう見ても昨日の試験は君がトップだった。それだけ君もウィズも素晴らしかった。筆記も満点で実技も完璧…しかし…っ。」


御手洗いへ続く通路の死角にて、頭を上げたナイブス博士はやり切れぬ思いを吐き出すかのように一つ溜息を零した。


「…トップは君では無く、フィールセンティ君だ。ヴィレイズ君は10位といったところで、君は…中の下、下から数えた方が早い成績となった…。」


アサヒの順位が予想より少々悪かった─恐らく筆記が原因だろう─が…大方想像通りか。というか…


「えっと、秘匿事項だと思うのですが…僕が知ってもいいんですか?」


「構わん、君には知る権利がある。…ただ、他言はしないでほしい。」


僕なんかに知る権利があるとは思えないのだが…いや、これ以上とやかく言うのはやめておいた方がいいか。ここは素直に頷いておくべき。


「…分かりました。」


「すまんな。…気づいているだろうが、このような結果になったのは君達が無属性だからだ…。ただそれだけで、君達を評価しない者達ばかりだった…っ。」


まあ、そうだろう。


「…幻滅したかね…?」


「?いえ、合格にして頂いただけでもありがたいですし…僕もウィズもナイブス博士やフロウさんを始めヴァイス学院の方々に感謝の気持ちでいっぱいです。」


負の感情は全く持ってない。


一般的に無属性が属性を有する依り代やスピリットより力が劣るのは事実なのだし、周囲からそのように見られている事くらい僕もウィズも理解している。


というか、一部の学校では無属性の時点で試験を受けさせてもらえない事もザラだし、それに比べたらヴァイス学院は非常に良心的である。


「寧ろ、紛いなりにもアーカム博士の研究所に所属している身なので…その辺りで皆さんにご面倒というか、ご配慮してもらったのであれば申し訳ないと言いますか…。」


「…君という子は…。言っておくがアーカム君は全く関係ない。無属性という大きいハンデを負いつつ合格できたのは、君達が非の打ちようの無い内容で結果を出したからだ。」


「僅かでも付け入る点があればそれを理由に落とそうとした者もいたはずだからな」と博士は続けた。


「それならよかったです。改めて…お声をかけて頂き、その上学院に通うことを許して下さったこと、本当にありがとうございます。」


感謝の気持ちが少しでも伝わるよう…深く、深く、頭を下げた。


「……………………もう一つ、」


「…?」


「もう一つ、聞いて欲しいことがある。」


「構わぬか?」と更に神妙な顔色となったナイブス博士に戸惑いつつも肯定を返す。


「…成り立てとはいえ、私は学院の理事長の身。君の不平等な評価に物申すことも…本当なら出来た。だが───しなかった。」


「…………………。」


「私は─「ヒカリの為ですか?」っ!?」


「となると、ソウマも同じクラスでしょうか?」


「………本当に、君は優秀だな…。」


「い、いえ、そんな…。」


この程度、誰であれきっかけがあればすぐに思い至る。僕、ヒカリ、アサヒ…一月前に出会った3名が同クラス…単なる偶然とは考えにくい。ソウマを含め僕達が同じクラスになったのは意図的と見るべきだ。


では何故そう意図したのか。もし仮に博士が理事長の権限で僕をトップにした場合、以下の順位は繰り下がり次席はヒカリとなる。アサヒは11位と仮定。…アサヒの言葉通り、トップスリーが同じクラスになることはまずない。よってこの構図の場合、僕と彼女は間違いなく別クラスとなる。


最後に、僕と彼女のどちらに同クラスにする要因があるか…考えるまでもない。


希少な光属性…その上トップクラスの力を秘めるスピリットの依り代となると、否が応にも注目が集まるだろう。善性のものだけでなく…悪性のものも。


「…これまであの暴走を恐れて様子見していた他学院の連中が、昨日の試験を境に彼女を─うちに寄越せ、こちらに入れるべきだ─などと騒ぎ始めた。勿論、既に彼女は我が校の生徒でそのような話が通るわけもない…が、」


「今朝方、グリューン学院中等部の校長を名乗る男性が彼女に…その、少々強引にアプローチしてきました。」


「…もう直接出張る者まで出てきたか。」


「ふざけおって」と苦々しく言葉を零す博士。


「…無論、フィールセンティ君が望むのなら引き止める気は無い。しかし、そうでないなら我が校の生徒である彼女を守る責任が私にはある。とはいえ、だ…」


当然他にもやらなくてはならないことがあるのだから四六時中彼女を見守ることは出来ない。故に、彼女の幼馴染のアサヒ、博士が信を置くソウマ、そして博士の後輩であるアーカム博士と接点を持つ僕を彼女の近くに置いた、ということか。


「正直に言って、私がこの件に関して生徒側で信頼出来るのは君達3人だけなのだ。特に実力を加味すると君が筆頭となる。フロウ君もそう判断し…君を彼女と同クラスにするよう動いてもらった。」


…実力的にもアサヒとソウマで十分と思うが…まあ、備えあれば憂いなしとは言うし、彼女をそのような境遇に置いた原因は自分にもある。


「こちらから声をかけておきながら、利用する体になって本当にすまない。」


「いえ。こちらもまだ同年代の知人が彼女達以外居ないため…同クラスなのは助かりますので…。…僕なんかがどこまでお力添え出来るか分かりませんが、気をつけるようにします。」


本当、僕なんかが出来ることなど限られており力になれたとしても微々たるものだろう。だが、それでも…生徒のために奔走し、今再び「宜しく頼む」と頭を下げたナイブス博士の負担を少しでも減らせるよう努めたい。


それに…




「───あっ、戻ってきた。お帰りっ。あのねシン、クラスなんだけどソウマも一緒なんだって!スッゴい偶然だよね!」


「そうなんだ。宜しくね、ソウマ。」


「うん、こちらこそ宜しく。」


「へへっ、なんか楽しくなりそーだな!」


「だよねっ!」


僕はこの笑顔を…曇らせたくない。


「あとね!さっきのミルフィーユもスゴく美味しかったけどこのショートケーキとチョコケーキもスッゴく美味しいの!よかったら一緒に食べよっ。」


「…クスッ、じゃあ…少しだけ。」


「!はいっ、あーん。」


「いや、流石に自分で食べるから…。」


理由は定かでないが、彼女には笑っていてほしいと願う自分がいる。


「いいからっ、あーん。」


「…………………。」


『諦めたら?勿論シンがだよ。』


「…………あーん。」


「あーんっ。…えへへ。」


それが例え…




「───ったくよぉ…ジジィ一人拉致んのに何しくじってんだオマエら。」


「い、いや、それは…その…!」


「じゃ、邪魔が入って…。」


「……ま、いいさ。元々ジジィなんぞに興味ねぇし、収穫もあった。…ターゲット変更だとよ。光属性───まずはあの女からだ。」


どれだけ困難なことだとしても。




冬の季節は終わりを迎え、いよいよ春が始まる。




to be continued

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