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雪の雫石  作者: 六華優羽
純白の光
13/46

13話 少女の成長

「…だから、そういう関係ではないよ。」


博士からとある少女のサポートを依頼されてから一ヶ月弱。


僕は再びヴァイス学院に訪れていた。目的は言うまでもなくヴァイス学院中等部の一般入試を受験し、その狭き門を潜り抜けるため。…なのだが、


「ええー…。」


「んだよ、つまんねーな。」


つまらないって…。


学院にて再会した二人の少年、ソウマ・ケントレッジ並びにアサヒ・ヴィレイズに詰め寄られたか否や…僕がそのとある少女と随分仲良くしていたことを指摘され、挙げ句の果てに何をどう思ったのか恋仲とまで勘違いされる始末。僕なんかが彼女のような容姿端麗で性格も素敵な女の子と付き合うなど、力不足にも程があるだろうに。


親しい仲である二人に勘違いされたままでは、彼女が嫌がるのは目に見えていたので学会での研究報告以上に舌を回し論じた結果、誤解はなんとか晴れた様子。


あとは件の少女、ヒカリ・フィールセンティに謝罪をば…。


「ごめんね、ヒカ………あの、ヒカリ…?」


「……………………何?」


「い、いや…その、なんというか…怒っている…?」


「……………………別に。」


怒っていないというなら、その間と膨れっ面はなんなのでしょうか…?


やはり、勘違いだったとはいえ…僕なんかとそういった間柄に見られたことは嫌だったのだろうか。無理もない。しかし、こちらとしては数少ない友人といえる彼女と険悪な関係になるのは御免被りたいので土下座も視野に入れて誠心誠意謝罪を─ガツンッ!!って!?


約一ヶ月前に体験した衝撃が再び脳天を襲った。犯人は言わずもがな…


「ウィ、ウィズ…!」


地味に全く同じ箇所にとか…!


というか、これから筆記試験だというのに≪知識≫が飛んだらどうしてくれるというのだ?


激痛に蹲る僕を憐れんだのか、膨れっ面を収めてくれたヒカリが慌てて「大丈夫!?」と気遣ってくれる中、現況を生み出した白い毛並みを持つ元凶は呆れた眼差しを送ってきた。


『鈍感も大概にしなよヘタレマスター。』


「わ、訳がわからないんだけど…?」


『ともかく、まだ四の五の言うまたは考えるなら次は全力でやるよ?』


君は僕の頭をかち割る気か…?


まさかの武力による脅迫を前に無力な僕が抵抗できるはずもなく…溜息を飲み込み、とりあえず今はもう何も言うまいことにしておく。


…あくまで今は、であ─


次の瞬間、本当に多量のマナを纏った尾が全力で振り下ろされた。






「終わったーーっ!!」


「あはは、お疲れ。」


午後の12時半。場所はヴァイス学院内の食堂。


午前中に実施された筆記試験を終え、僕達四人は再び集まり共に昼食を摂ることとなった。


「くっそー、一人だけ推薦で高みの見物かよ…!」


恨めしげにソウマを睨むアサヒ。


「高みの見物なんてつもりはないって。強いて言うなら偵察だよ。ヴァイス学院で競い合うことになるライバルのね。」


…確かに、複合属性や光属性のスピリットを宿すアサヒとヒカリはソウマとも互いに切磋琢磨し合える良きライバルとなり得る存在だろう。…なんてことをぼんやり考えながら食後のコーヒーを口に含む。


「ねぇねぇシン。筆記試験どうだった?」


「…それなり、かな。」


直前に受けたウィズの攻撃によって脳細胞に語彙の異常が発生してなければだが。


「ヒカリは?」


「シンのお陰でバッチリ!」


「クスッ、よかった。」


「ってか、シンはともかくヒカリはなんでんなけろっとしてんだよ。まさかお前全部白紙で─」


「そんな訳ないでしょ!シンにマナのコントロールだけじゃなくて勉強とかも見てもらったもん。あれくらい余裕だし。」


「んなっ、マジかよ!ずりーぞ!」


「ふふーん、聞こえなーい。」


和気藹々と口論する幼馴染の二人に思わずほっこりする。


「勉強も見てあげたんだ?」


「合間に軽く程度だよ。別に僕が見てあげなくても彼女なら問題なかったと思うし。」


…まあ、少々スピリットに関する常識がどこぞの変わり者のせいでおかしくなっている節はあったが…その程度だ。


「それより、午後の実技…具体的に何をすればいいのか資料に記載がなかったんだけど、ソウマは知っている?」


「流石に詳しくは博士も教えてくれなかったよ。どうも直前に告知みたい。」


ふむ…。


「そこまで言うなら勝負だぜヒカリ!どっちが試験でいい成績か勝負だ!」


「別にいいけど、なんかもう筆記で大差ついてるみたいだしやる意味あるの?」


「ぐっ…筆記はなしだなし!スピリットっつったら実際どんだけやれるかだろ!午後で実技で勝負だかんな!シンもだぜ!」


「え?」


何?よく聞いてなかったのだが…。


「だから、実技で誰が一番いい成績残せるか勝負ってことだよ!ビリの奴が今日の晩飯奢り!逃げんなよ!」


「い、いや僕は─「望むところよ!あんたなんかシンはおろか私の足元にも及ばないって教えてあげるわ!」ちょっ…。」


「言ったな!負けたからって言い訳すんなよ!」


「こっちの台詞よ!頑張ろうねシン!」


「負けねーからな!手ぇ抜いたりすんなよシン!」


「……りょ、了解。」


背後に炎を幻視させるほど燃え盛る両名に対し、「ノー」を言えるわけもなかった。


「どんまい。頑張って。」


「…はぁ…。」


ともあれ、ヴァイス学院一般入試試験午後の部…実技試験が始まる。






『実技って何やるんだろうね?やっぱコンバット系かな?』


「…もしくはアーツの披露かな。」


少なくとも、自身の契約したスピリットと共に臨む試験になるとフロウさんは言っていた。だからこそ、コンバット用のフィールドが設置されたアリーナに案内されたのだろうし。


…にしても、筆記試験で既に分かってはいたが…さすが由緒あるスピリット専門校。三つのフィールドが設置された大型アリーナだというのに、それを埋め尽くすと言わんばかりに集まった受験者は五百は下らないだろう。毎年倍率十倍近いというのも頷ける。


それに、


『なんか観客席にも人が結構いるね。』


「ソウマのような推薦合格者や進学組、上級生もいるかもね。」


目的は、ソウマのようにライバルとなる存在の確認…もしくは、


「ほぇ?何?」


「…いや。」


「?─「皆さん、こんにちは。私は実技の試験監督をさせていただくフロウと言います。」あ、フロウさんだ。」


マイクを片手に壇上に立つ眼鏡をかけた青髪の男性。予想はしていたが…やはりここの関係者だったか。


「時間も限られていますので手短に。筆記試験お疲れ様でした。ここからはそれぞれスピリットと協力した実技になります。」


「その実技の内容ですが」と、彼はもう一方の片手を上げた。


───ブォン、という音と共に彼の隣に顕れる炎を纏った一つ目の球体。


「ふぇっ!?な、何あれ!?」


「…エレメント。」


『だね。』


「え、えれめ…?」


「エレメント。人工的に濃縮、可視化させたマナに行動パターンを入力して自律行動を促す…スピリットを模した存在だよ。」


『あくまで濃縮されたマナが術式通りに動いてるだけだから、僕達と違って命はない…プログラムみたいなもの。』


危険箇所への探索等使われる用途は様々だが…ここで出してきた理由は十中八九、コンバットでの仮想相手だろう。通常であれば与えられる術式は単純明快なのでそこまでの力量はない。…が、気のせいでなければあのエレメントは…


ざわつくアリーナ内にフロウさんの声が響く。


「お静かに。これから皆さんには複数のグループに分かれ、それぞれのアリーナでこのようなエレメントと五分間コンバットをしていただきます。」


「つ、つまり時間内にそいつに勝てばいいってことですか?」


壇上に近い最前列の受験者からの質問。


「いいえ、勝て、倒せとは言いません。我々が見たいのは貴方達の潜在能力であって、勝敗は合格不合格には直接関係はしません。」


あくまで勝敗は依り代とスピリットが秘める力の結果、という扱いなわけか。


「無論短時間で勝つことができればそれだけの力を秘めている…とことになりますので、合格に近づくとは思いますが。」


その言葉に触発されたのか、周囲からスピード勝負の雰囲気が漂い始める…が、「ただ」と続けられたと共に指がパチっと鳴らされた瞬間───エレメントから上空に放たれた多大な熱量を誇る灼熱の焔によってその雰囲気は掻き消された。


『…へぇ。』


火属性中級アーツ…“インフェルノ”。通常流通している術式によって構成されたエレメントでは放てるアーツではない。やはり、感じ取れたマナの量と高度な術式は残念ながら気のせいではなかったらしい。特有の術式が使用されているのだろう。


「ご覧の通りそれなりの相手ですので、気を引き締めてかかった方が宜しいかと。繰り返しますが…勝て、倒せとは言いません。貴方達が秘める全力を尽くしてください。ああ、あと相手となるエレメントはこれとは限りません。強さは同レベルにしていますが、形態や属性、行動パターンは完全ランダムで同一のエレメントが出現することは無いと思ってください。」


前半組と後半組とでの優位差を無くすための処置か。とはいえ、前半組はいい成績を残すことができれば印象に残りやすく、後半組は前半組の試合を見ることができるというメリットはあるかもしれないが。


「私からは以上です。何か質問は?………ありませんね。では受験番号1番から100番は第一アリーナへ移動、101番から─」


試験形態は概ね予想通りコンバット系統な訳だが…相手が予想外だった。てっきり受験者同士で試合させられるのかと思っていた。ウィズは…面白い獲物を見つけた猛獣が如く目をギラつかせているから放っておくとして、ヒカリは…


「なんか強そうだけど大丈夫!頑張ろうね、フィア!」


『ええ。』


…顕現させたフィアと頷き合う姿からは臆した様子は全く見られない。これなら問題はないだろう。


「シンとウィズも頑張ろうね!一緒に合格しよ!」


「クスッ、ああ。」

『もちろん。』


…さて、僕らが向かうアリーナは第五アリーナ…ここでいいのか。ヒカリとアサヒ…も同じか。


因みにアサヒは自身のスピリット、ライカ共々ヤル気満々で非常に燃えていたので心配はいらないだろう。


早速各アリーナ毎に分かれたグループで受験番号順に試合を開始するらしく、このグループでは僕達三人は後半…僕に至ってはラストに属するので邪魔にならないよう未だ燃え上がっているアサヒを引きずってフィールドの外に出る。


三つのフィールド全て使用して試験を行っていく様子だが、さて…どうなるか。


アリーナを囲むフェンスに背を預け、ウィズと共に様子を見守る。


「では試験を始めていきます。試合の判定はそれぞれのフィールドの審判が行いますので指示に従うように。また、試合が終わったフィールドがあれば、直ぐに次の試合を始めますので次の受験者は準備しておいてくださいね。では…始めましょう。」


各フィールドでエレメントが顕現。応戦するようにそれぞれと向かい合う受験者らが己のスピリットを繰り出した。


『奥から、スピリット…水属性レア度C+、地属性レア度C、火属性レア度B。エレメント、レア度は全てB相当、属性は風、火、雷。』


「ん、ありがとう。」


タイプも妖精、精魚、幻獣とバラバラ…加えて開始されたコンバットの様子を見る限り、戦法も攻撃主体、防御主体とそれぞれ異なっている。フロウさんの告げたように、どういったエレメントが相手になるかは完全にランダム…その上、そのエレメントらはレア度Bの能力を備えており、中級クラスのアーツを容赦なく放ってくる、か。


【ドォォォンッ!!】


「ああっ…そんな…!」


「受験番号402番顕現不能!そこまで!次、受験番号404番の方どうぞ!」


「受験番号401番顕現不能!405番の方用意してください!」


五分という時間制限も実に嫌らしい。勝敗は合格不合格に直接関係ないと告げられても、勝つに越したことはない以上勝ちたいと思うのが人の性。しかしながら、このレベルのエレメントを相手に五分以内に勝利を収めようとするとどうしても焦りが出てしまう。焦りはスピリットとのコンビネーションに不和を呼び、実力を発揮し難くなる。


かといって慎重になり過ぎると…


「タイムアップ!402番の方そこまでです!次の方!」


「えっ…もう五分!?」


時間内にアピールすることができなくなり合格が遠退く。


アリーナ内に設置された大型ディスプレイには現在行われている試合の受験者とスピリットの情報だけでなく、他アリーナの様子も映し出されているがここ同様苦戦している様子。


なんとも歯痒い試験だ。これを考えた人は絶対ドSだと断言できる。


「ふぇ〜、なんか難しそうだね。」


「…他会場も第一陣は終えたようだけれど、勝てた人はいないようだね。」


どうやらディスプレイには勝つことができた受験者とスピリット及びタイムまでも表示されるらしいのだが、現状連ねられた名前は無い。…というか、勝敗が関係ないと謳いつつこのような表示をするとか…絶対受験者達の心理を揺さぶっているだろうこれ。


「へへっ、益々燃えてきたぜ!俺らはぜってー勝とうぜライカ!」


『当然だな。』


いや、だから勝つ必要は…まあいいか。後半組である僕達は前半組以上に目立たなければ印象に残りにくいだろうし。


それに、ヒカリはもちろん、アサヒも実力を発揮すれば十中八九…そうなると、僕の場合その二人が直前にいるわけだから…合格のためにやるべきことは自ずと一つしか無くなる。


「…頼むよ、ウィズ。」


『任せてよマスター。』


愛くるしい容姿の相棒はニヤリと不敵に笑った。






「489番タイムアップ!」


「490番、顕現不能!」



「……だーれも勝てないねー。」


実技試験が始まって二時間少し。立っているのが疲れたのか、しゃがみ込んでフィールドを眺めるヒカリの言った通り、他アリーナ含めここまで時間内に勝利を収めた者はおらず…一部のアリーナでは既に全員試験を終えたらしくこちらに戻り来始めていた。


ここまで優位に試合を進める者はいたが、やはり五分の壁は厚い様子。


しかし、


「それもここまでかもね。」


なんといっても次は…


「次、受験番号491番!」


「いよっしゃーー!いくぜぇっ!」


熱い叫びを上げ意気揚々とフィールドに立つ、金髪緑眼の少年。言うまでもなく、


「あ、来た。アサヒ〜一応頑張れー!」


「おうって一応ってなんだってんだよーー!?」


試験中だと言うのにコントじみたやり取りをする幼馴染コンビに苦笑しつつ、僕も腕を上げてエールを贈る。観客席からはソウマの声援も聞こえた。


「いくとすっか!ライカ!」


フィールドに繰り出される…炎と雷を両の腕に纏う二足歩行のスピリット。


大型ディスプレイにアサヒらの情報…ライカが火と雷の複合属性であることが表示されると、アリーナ内に騒めきが迸った。


…相手のエレメントは、


『幻獣タイプの水属性…となると、』


鍵となるのはライカの持つ一方の属性。


試合開始の合図と共に突っ込み、電気を纏った左腕で相手を殴りつけたライカを見るにアサヒらもそれに気づいている様子。


「一気にいくぜ!"ファイアボール"だ!」


『オラァッ!…ってあんま効いてねぇぞマスター!』


「何ぃ!?」


…聞かなかったことにしよう。


右腕から放ったアーツの効果が少なかったことに動揺した隙をつくように、相手エレメントが水を纏ってライカに突進。


「押さえ込めライカ!」


『ぐっ…!』


かわすこともできただろうが、敢えてダメージ覚悟で捕まえた。つまりアサヒとライカの次の手は…


『マスター!』


「新技いくぜ!“スパークショック”!」


雷属性下級アーツ…“スパークショック”。ライカの左腕から唸りを上げた紫電が、捕まえたエレメントに直接放電される。片方の属性が駄目ならもう片方の属性を…複合属性の本領発揮である。


『手応えありだぜコラァ!』


ゼロ距離で浴びせた電撃によってよろめくエレメントに、ライカは左腕での攻撃を中心に追撃をかけていく。


しかしながら、相手はここまで500近い挑戦者を退けてきた実力を備えた存在。


「うげっ、避けろライカ!」


『くっ…!』


中級クラスのアーツによる反撃を開始し、そう容易くは顕現不能にはならない。


「アサヒ…!」


はらはらと見守るヒカリにつられ、電光掲示板に目をやると残り時間が1分を切ったことが示されていた。


「だぁーしつけー!くっそリベンジに取っておきたかったんだけどなぁ!…とっておきだライカ!」


『おうよっ!』


!…アサヒからライカへ供給されるマナの質が変わった。ライカの左腕に充電される電気も閃光の度合いが増している。


これは…


「新必殺!“エレクトリックボルト”!!」


『これでっ…終わりだぁ!!』


───バリバリバリバリバリッ!


放たれた黄色の雷電─雷属性中級アーツ“エレクトリックボルト”─が相手エレメントを飲み込み、炸裂。


これまで以上の高威力のアーツによりフィールドは所々焦げ付き…エレメントは消失していた。


「そこまで!エレメント顕現不能!受験番号491番の勝利!」


「おっしゃーーーっ!!見たかぁぁぁっ!!」


勝利の判定を下されると同時にガッツポーズで雄叫びをあげるアサヒ。ここに来て初めての勝利者…アリーナ内にも響めきが生まれたのは当たり前の話であった。


タイムは…4分12秒か。


「あ〜もう、ハラハラした〜…。」


「クスッ、彼が勝ててよかったね。」


声には出さなかったけど祈るように に応援していたし。


「べ、別にアサヒなんてどうでもいいけど─「見たかお前ら!このアサヒ様の大勝利を!」…よく言うわよ。苦戦してたくせに。」


「はぁ!?どこが苦戦だよ!?んなもんしてねーし!」


「どう見てもしてたわよ!」


「してねー!」


「してた!」


「してねー!」


「して─「えっと、ヒカリ…。」シンも苦戦してたって思うわよね!?」


個人的には、十分すぎるほどの試合内容だったと思うけど…


「そろそろ君の出番だから行った方が…」


「…あっ!ホントだ!」


彼女の受験番号は僕の一つ前、499番。


既に496、497、498番の受験者らが試合を開始しており…497番の人は押され気味で五分保たない可能性がある。


『いよいよね。』


「うん。」


自身の相棒であるフィアと頷き合い、一度深呼吸した少女…その澄んだアメジスト色の双眸が此方の視線と交じり合った。


「じゃあ、行ってくるね。」


「うん…応援しているよ。」


「うんっ。」


満面の笑顔を咲かせた彼女はフィアと共にフィールドへと駆けて行った。


僕もそろそろ頭のギアを切り替えないと…。ただその前に、


「お疲れ様、アサヒ、ライカ。凄かったよ。」


「お前だけだぜ賞賛してくれんのは…。っと…んで、ヒカリはもう大丈夫なのか?」


「お前があいつの面倒見てたんだろ?」…コウキから聞いたのだろう。あの日…契約の儀式で苦しんだ幼馴染の姿を思い出したように、彼は心配げな表情を浮かべた。


「もう大丈夫だよ。それに…」


「それに?」


「多分、驚くことになるよ。」


案の定、受験番号497番は5分保たず、スピリットが顕現不能となった様子。


そして、そのフィールド…アリーナのセンターに位置するフィールドに、青みを帯びた黒髪を靡かせる少女が、桜色の体躯を持つ四足歩行のスピリットを従えて立った。


大型ディスプレイに彼女らの情報が記された瞬間、アサヒの時以上の騒めきがアリーナの至る所から上がり、数多の視線が少女に集中する。


『さすが光属性…注目度が半端ないね。』


「…緊張していないといいけれ─「シンー!頑張るから見ててねー!」してなくてよかったよ。」


ブンブン右手を振ってくるヒカリに苦笑しながら手を振り返す。本当、彼女は大物というか、度胸があるというか…。


「えー、それでは受験番号499番の試合を開始します!」


2人の相手となるエレメントは…背に二対の羽を生やした妖精タイプの風属性か。


「…ウィズ、僕らも行こう。」


『だね。』


「?んな急がねーでもあの二試合最後までかかりそーだし、まだいいんじゃねーの?」


せっかちのアサヒに急がなくてもと言われるとは…。まあ、確かにヒカリの両サイドで行われている他の二試合は最後までかかるだろうが…


「うん…でも、ヒカリの試合は───1分もかからないだろうから。」


「は?」と彼の口が開かれたと同時だった。


「試合開始!」


「“エンチャント=パワー”!…フィア!」


『せー…のっ!』


ドガァァァン!!光属性が得意とするステータス向上のアーツにより攻撃力を増したフィアによる飾り触角の鞭が相手に直撃。


「捕まえて!」


『ええ!』


そのまま触角で相手を捉え、


「叩きつけて!」


『よいっ、しょ!』


ズガンッズガンッズガンッズガァァァンッ!フィールド四度叩きつけられる妖精。


顕現不能…にはまだならない。エレメントはふらつきながらも大気を凝縮した風の刃をフィア目掛けて放ち…


「『“プロテクション”!』」


守護壁によって完全にシャットダウン。エレメントの抵抗はこれが最後となった。


「『“ホーリーレイ”!!』」


フィアの口辺に集約された光がビームの如く撃ち出され…風を操る妖精を貫いた。


『分かっていたけどこれは酷い。』


消失していく試験相手に、心中で合掌してしまうほどの虐殺劇であった。


「…エ、エレメント顕現不能。受験番号499番の勝利です。」


タイムは…18秒。アーツも効果的に駆使していたし…合格は間違いないだろう。


「お疲れ様フィア!ありがとね!」


『ええ。』


誰もの予想を超える実力を発揮したヒカリとフィアにアリーナ内は騒然…にも関わらず、彼女は気がついてないのかそれとも気にしていないのか…いつものような明るい笑顔を浮かべ、後方から試合を見ていた僕の方へ駆け寄ってきた。


「勝ったよシン!」


「うん…凄かったよ。本当に頑張ったね。」


「えへへ〜。」


にへらと頬を緩ませる少女。…色々とギャップが凄まじいとかもう少し周囲の目線を気にして欲しいとか思うところはあるが、この一ヶ月の彼女の努力を知る者として…ここは素直に褒めてあげたかった。


なので…視界の端にて、アサヒとソウマが「やり過ぎだ!」と視線で訴えかけてきている様子は見て見ぬ振りをした。




to be continued

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