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雪の雫石  作者: 六華優羽
純白の光
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11話 特訓

「……綺麗な青空だ。」


見上げた天空は雲一つない蒼穹。


まさに快晴と言うべき天候であり、雪国と名高いノースダイヤの澄んだ空気も合いまってか非常に美しく、1日の始まりとして申し分ない。ここまで綺麗な青空を見たことがかつてあっただろうか?いやない…とは言い切れない。何故なら僕はこうまで真摯に空を見上げたことがあるとは言えないから。従って、無意識下で見上げた空が今以上に綺麗であった場合がある可能性がある。


それ以前に「綺麗な青空」とは言ったがその定義は一体なんなのだろうか?青味の濃淡?雲の有無?おそらく違う。そもそも空が青いのは太陽から発せられた光の内、紫外線等の光の波長がオゾン層を始めとする空気の層によって吸収され、結果僕達の目に入る波長が青を基調としたものとなるから空は青く見えるらしい。が、当然生物の中には青色の波長を認知できない種もいるわけで、そういった種にとって空は青色とは言えな─


『戻ってこようか。』


───ガツンッ!!


第三者的視点であれば、シークタウン外れのとある広場にて…白い毛並みのスピリットに硬化された尾をぶちかまされる白髪男児の姿がそこにあった。





「痛いよウィズ…。」


頭をさすりつつ右肩に座するパートナーに恨めしい視線を向けるが完全に知らん顔。こんな子に育てた覚えはないのだけれどな…。


『別にそう気負う必要ないってば。』


「……簡単に言わないでよ…。」


これからのこと…というより、自身の記憶違いでなければあと5分もしないうちにやってくるであろう一人の少女のことを考えると…楽観的にはなれるわけがない。


…あの後、流されるままにナイブス博士らにあいさつを済ませルミナスを出た僕、アーカム博士、ヒカリ。内、アーカム博士は仕事もあるため予定通りサウスへ帰るべく、そのままノースの空港へ…。無情にもシークタウンの駅で降りることとなった僕はヒカリを自宅へ送り届け、その後安めの宿で一夜を明かしたのが昨日の出来事である。


そして現在、ナイブス博士からの指令─ヒカリのサポート─のため、待ち合わせ場所で待機しているわけだが…


「どう考えても人選ミスだよこれ…。」


少し前まで常日頃ニートや引きこもり、挙句コミュ症とまで言われてきた自分が、ウィズがいるとはいえ出会って間もない女の子の手助けなどハードルが高すぎますよ博士…。…とはいえ博士も一緒に残ってくださいとはとても言えなかったが…。


『でも、ヒカリってばシンのことかなり頼りにしてるっぽいし、大丈夫なんじゃない?』


「…あれはただ単に僕を美化しているだけだよ。」


理由は定かでないが、彼女は少々…どころか僕を多大に美化している節がある。


故に…怖くも思う。その鍍金が外れた時…いや、それ以上に…僕の秘密を知られた時………考えに耽るのはここまでだな。


「───だ〜れだ?」


明るいソプラノの声と共に、真っ黒となる風景……。


「……ヒカリ…。」


「せーかい!」


光を取り戻した視界を後ろに向けると、満面の笑顔を咲かせる黒髪の少女とその足下から見上げてくる桜色の体躯のスピリットが映し出された。


「おはよっ。待たせちゃってゴメンね。」


「おはよう。僕らもさっき来たばかりだから気にしないで。それより親御さんの許可は…」


「うんっ、だいじょーぶ!最初は不安そうだったけど、シンのこと話したら安心したみたい。精一杯頑張ってきなさいだって。」


『そうね。ヴァイス学院を受験することも貴方が入ることを話したら快くオッケーしてくれたわ。』


…何故僕のことを話したら了承してくれたのかよく分からないのだが。あと、僕が入学できる保証はどこにもないのだけれどいいのか…?


「なので、宜しくお願いしますっ!シン先生!」


「あ、ああ、こちらこそ。あと先生って…」


『シン師匠と呼びたまえ。』


何を言っているのかな君は。


「おすっ、シン師匠!」


「先生も師匠もいらないから…。」


何やらテンションの高い彼女に思わず苦笑。とりあえずお茶目なウィズの額を指で弾き、訓練を行う場所…ルナが住まうルーメン湖へ場所を移すため、湖へ繋がる雑木林へ入っていくことにする。


「昨日言ってたけど、やっぱり湖でやるの?」


「人気もないし、あの場所はマナに満ちているようだったからね。」


『ルナが居座るほどなんだし、光属性との相性もいい土地のはずだよ。』


『なるほど。まさに私とマスターには打って付けの場所なわけね。』


依り代となった以上、先日のような襲撃は起きないはずだし…マナを扱う訓練をする分にはこの近辺でベストだろう。無論、生息するスピリット達から去れと言われたらそれまでだが。


「この間みたいに出て行けって言われないかな…。」


『そんな心配しなくて大丈夫だよ。まあ、一ヶ月くらい通い詰めになるんだし一応スピリット達には話してはおくけど、駄目なんて言わせなゲフンゲフン…言われないよ。』


『今言わせないって言おうとしなかったかしら…?』


「お願いだから平和的に頼むようにね。」


なお、サウスにおける経験則での話になるが…基本的に自然に生息するスピリットはこちらから危害を加えたり約定を違わなければ向こうも手を出してくることはないので、おそらく問題はないと見ている。ウィズもそういった知見があるから大丈夫と言った…と信じたい。


「そっか。…あ、一ヶ月といえば…ホントにずっとホテルでいいの?うちで泊まって全然いいんだよ?ママもそう言ってたし今日からでも…」


「…心遣いは感謝するけど、サポートする側がサポートされては立つ瀬がないから。」


「でも…」


「それに、もう一ヶ月分の宿を取ったし心配はいらない。」


「むぅ…。」


というか、いくらなんでも年頃の女の子が住まう家に同年代の異性を泊まらせるのは倫理的に問題だと思う。


「別に野宿しているわけじゃないし大丈夫だよ。」


「……分かった。でも気が変わったらいつでも来ていいからね?」


「あ、あはは…覚えておくよ…。」


もう分かりきったことではなるが、警戒心が無さ過ぎる…。もちろん、それは彼女の美点の一つであるのだが…。


『っと、着いたね。んー、マナが美味しい。』


『…確かに、マナが豊潤ね。』


『でしょ?さてさて…』


茂みの方へ歩いていくウィズ。……特に辺りのスピリット達が行動に出ることはなさそうだ。


「疲れてない?」


「うんっ、全然いつでもだいじょーぶ!頑張ろうねフィア!」


『ええ。』


「クスッ、了解。」


まさにやる気満々と言わんばかりのご様子のコンビ。


ウィズの方は…


『…ん。この前のスピリット達も構わないだってさ。寧ろ手伝えることがあったら声をかけてくれだって。』


「ありがとうって伝えておいてくれる?」


『うん。』


…さて、


「まず確認と少しだけ説明させてもらうね。」


枯れ落ちた手頃な木の枝を手に取り、地面に人体の略図を図示。


「君も知っているように人は無意識のうちに体内でマナを生成している。マナは心臓で生成され、頭に、そこから腕と手を経由して足先に、その後再び心臓に戻るサイクルを繰り返す。このサイクルをマナ経路と呼ぶ。」


略図にマナ経路を追記していく。


「その際、余剰なマナは体外に放出され自然へ還り、スピリット達の糧となる。このマナの生成及び放出を人は呼吸と同様、無意識に行なっているんだ。」


『マナをコントロール出来てないヒカリがフィアを顕現出来るのも、その無意識に生成されたマナがフィアに供給されているからなんだよ。』


「そ、そうなんだ…。」


よって、通常、依り代となってもただ日常を送る分であれば…マナをコントロール出来かったとしてもそう支障はない。


「けれど、君の場合…博士達が言っていたように身に秘めたマナが膨大であるが故、万が一の可能性がある。」


『だからこそ、マナをコントロールする術を身につけた方がいいって話だったわね。』


「ああ。それに…アーツ、あと学院で習うと思うけどスキルを行うにもマナのコントロールが必要不可欠になる。」


「えっと…スキル?」


初めて耳にするのだろう。こてんと首が傾げられる。


「…アーツは依り代からスピリットに供給されたマナを用いてスピリットが放つ技。対して、スキルは依り代自身がマナを練り発動する技、というより補助に近いかな。」


『見せた方が早いんじゃない?』


それも…そうか。


「簡単なものだと…」


右手を湖に向け、マナを集約。威力は最小限に…


「“弾-だん-”。」


掌から放たれた小さな光弾は水面に着弾し炸裂、バシャンと水飛沫を上げた。


「ふぇっ…!?」


「…これは攻撃的な物だけど、基本的に自身のスピリットを支援する為のものが多くて、コンバットでも使ったけど…一時的に能力を攻撃特化とする“攻化”、スピード特化とする“速化”などがポピュラーかな。」


『他にシンが使えるものだと、自身のスピリットのダメージを回復する“治癒”、実態のない分身を生み出す“虚-うつろ-”、小規模の瞬間移動を行う“転移”とかだね。スピリットにマナを供給するだけのアーツと違って、依り代自身で術式を構築しないといけないから難易度は高めだよ。』


「ほぇ〜…やっぱりシンってスゴいんだね!」


「い、いや…別に凄くもなんともないから…。」


だからその「スゴい!」と文字が浮かび上がっているキラキラした目を向けるのはやめて欲しいです。


「…スキルもアーツ同様マナを消費して発動するけど、アーツに比べて威力や効果に劣るし…スキルにマナを消費するならアーツに費やした方がいいというのが定説だから。」


手札の少ない無属性の僕らには必要であるが、光属性である彼女らはそう必要としないだろう。無論、覚えておいて損はしないと思うが。っと、話が逸れてしまった。


「とにかく、使用するアーツやスキルによって、マナの波長や振幅、量を適切にしなければ発動は出来ないし、仮に出来たとしてもその効果は著しく低下…場合によってはスピリットに負荷を強いることになる。」


告げるつもりはないが、先日のコンバットで突発的に発動した“プロテクション”はフィアに少々負担がかかったはず。


「どんなマナが好ましいかは君とフィアで探っていくしかないけど…」


「まず、そのマナの波長とか量とかをコントロールできるようにならないと…ってこと?」


「そういうこと。」


…説明はこんなところか。


「それじゃあ、始めようか。」


「う、うん。」


「そんな緊張しなくていいからね?とりあえず現状の確認と基礎のために…生成するマナを気持ち多めに意識して、この図のサイクルに沿って循環出来るかやってみてほしいんだけど…。」


「え?えと…」


「小難しいことは考えなくていいよ。意識するだけで構わない。…具体的に説明してあげれるといいんだけれど、マナのコントロールって結局のところ感覚で掴むしかないというか…。」


『考えるな、感じろってやつなんだよね。』


「そう、なんだ…。」


『マスター…不安なら私にマナを流して─』


「ううん…大丈夫。やってみ─「それと申し訳ないんだけれど…手を繋いで貰ってもいいかな?」ふぇ?」


アメジストの瞳をぱちくりと瞬かせる少女に両の手を差し出す。


『あ、なるほど。』


ウィズは気づいたか。この方法ならいける…と思うのだが…


「───────。」


少女は数秒硬直状態の経て、差し出された僕の両手を見つめ…今度は僕の顔を見て、また僕の両手を見て…顔を見て、またまた両手を見て─


『マ、マスター…?』


「───────。」


「えっと…こっちの方がマナの流れを正確に感じ取れて、何かあってもすぐ対処できるから…なんだけど、やっぱり嫌かな?」


「い───イヤじゃないっ!!全然イヤじゃないですっ!!」


ガシッと握られる両手。何故敬語なのかはよく分からないが…


「そ、そう?ならいいけど…。」


「で、でもまたこの前の様になったらすぐ離してね…!?」


…本当に、どこまでも優しい娘だ。自然と頰が弛むのが分かった。


「クスッ…大丈夫。もう君に…あんな怖い想いをさせたりしないよ。」


「…!」


「ね?」


「っ…うん…あり、がと…。」


?…頬の赤みが増したが大丈夫だろうか?怒っている、様子ではなさそうだが…。



『…狙ってやってるわけじゃないのよね、あれ…。』


『うん、天然。ヘタレのくせに天然のタラシだよ。』


何根も葉もないことを言っているのかな…?



「始める…ね?」


「うん。」


ぱっちりとした綺麗なアメジストの瞳が閉じられ、深呼吸が三度繰り返された。


「…………………。」


「………………んっ…。」


「……ゆっくり、慌てなくていいよ。」


マナ操作…同調開始…


「う、ん。…………ふ…………っ…。」


「……………………。」


波長、誤差修正…


「…………………────ぅっ゛。」


振幅、誤差修正…


『っ!マス─『大丈夫。』…!』


同調…完了。


「ちょっと失礼するね。」


接続。


「ぇ…?」


干渉───誘導開始。


「ぁ…。」


「…どうかな?」


「………あった、かい…。これって、シンの…?」


「うん。…勝手にごめんね。辛くない?」


「う、うん…なんか、スッゴく楽になった…。」


「よかった。慣れるまで僕が補助するから…ゆっくり、自分のペースでいいからやってみて。」


「ん……こう、かな…?」


「…そう、そんな感じ。……うん、上手だよ。」


「えへへ…。」


ヒカリのマナの波長及び振幅からずれぬよう…負担がかからぬよう、全神経をマナのコントロールに注ぐ。



『ね?大丈夫だったでしょ?』


『…もう…どこをどう驚いたらいいかも分からないわ。』


『ヒカリは気づいてないみたいだけどね。今シンのやってることがどんだけ神ってるのか。』


『……彼、何者なの…?』


『超絶ヘタレで鈍感スキルマな、誰よりも優しい最高のマスター。……だけど、』


『だけど…?』


『………多分、シン自身が一番知りたいことだと思うよ。』




to be continued

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