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雪の雫石  作者: 六華優羽
純白の光
10/46

10話 ランク

試合が始まって、そろそろ10分…といったところか。


「ライカ、フィアを狙え!」


「フィア!リボンで牽制しながら距離をとって!」


『了解、っと!』


『チッ…くっそ、その触角うざったいにも程があんだろ!』


『褒め言葉として受け取っておくわ!』


ウィズの言葉で緊張が解けて以降、積極的に指示を出し始め…コツも掴んだのか今も 距離を詰めようとしてくるライカに対し、フィアのリボンのような飾り触角で距離を取りながらダメージを与え奮戦中。


「空中から突撃しろヒスイ!」


『御意!』


こちらも集中しないと。


……引きつけて、


「……ウィズ!」


翼を用いて滑空してきたヒスイに対し、ギリギリまで引きつけ…タイミングだけ指示。クルリと反転するように最小限の動きで特攻をかわしたウィズはそのまま背後を取り、


『っせい!』


『ぐあっ…!!?』


無防備な背中にマナを集約し硬質化させた尾を叩き込む。


「くっ…!ヒスイ!アーツ発動!」


『御意!"ウィンドスラッシュ"!』


『シン!』


「セット!」


「『"ブレス"!』」


互いのアーツの激突。羽ばたきによって生み出された風の刃は口辺からのマナのエネルギー砲により相殺。


続けて、


「ウィズ!」


『はいはいっと!』


『こっちにもかよ…!?』


ややフィアを押し気味だったライカに射線を変更して、引き離すことに成功。


そこに少女らが追撃をかける。


「今よ!」


『よいしょっ…と!!』


『ぐおっ!!?」


「なろっ、お返しだ“ファイ─「“速化”!」『はいドーン!』いっ!?」


ドンッ!地を蹴った白いスピリットがライカに突貫、大きく吹き飛ばす。…というか、今の感じ…まさかヴィレイズ君とライカはもうアーツを習得しているのか?だとすればとんでもない才能だ。


「そこだっ、ヒスイ!」


「今度こそ!"ファイアボール"だライカ!!」


"ウィンドスラッシュ"に加え、やはり火属性のアーツ"ファイアボール"か。よりマナを込めた"ブレス"で相殺─


「フィア!ウィズを守って!」


『!っ、了解!』


「『…!』」


ウィズの周囲に形成される光の壁。外からの干渉を防ぐ光属性のアーツ、"プロテクション"。


ウィズに迫った風刃と炎の散弾を完全にシャットダウンしたそれに驚く他ない。アーツを…おそらく無意識に発動させたこともそうだが、初めてのコンバットであるはずの彼女らがこんな短時間で僕らのフォローまで…。


しかし、


「っ…─「ウィズ、5秒任せる。少しごめんねヒカリ。」ふぇ…?ぁ…。」


彼女の右手を左手で握り…意識を試合から離し、マナのコントロールに集中。………………良し。


「ん、もう大丈夫だよ。」


彼女の手を離し、意識を試合へ戻す。状況は…“プロテクション”から出たウィズが相手をフィールドに叩きつけたところか。


「シ、シン、今…!」


『話は後!シン!』


「決めるよ、ウィズ!」


少しでも試合に慣れさせようと組立をしてきたが…これ以上長引かせるのは得策ではない。


「っ、アサヒ!」


「ああ!同時に行くぜ!」


「“ウィンドスラッシュ”!」

「“ファイアボール”!」


「"ブレス"で相殺!」


フィールドの中央で交錯する三つのアーツ。


───ドガアァァン!!


ぶつかり合ったそれらのエネルギーは爆発、爆煙、爆風となってフィールドを覆い尽くした。


「おいおい何も見えねーんだけど!?」


「っ!ヒスイ上昇!煙を吹き飛ば─『まあそうするよね。』嘘、だろっ…!?」


『何故貴様がそこにっ…!?』


飛翔し煙から抜け出したヒスイの更に上方…アリーナの天井には、マナによる脚力の向上と爆風によっていち早く制空権を獲得した白い毛並みのスピリットの姿。


「チェックメイト。“攻化”!セット、“ブースト─」


「『──ストライク”!!』」


攻撃力の強化に加え、全身にマナの鎧を纏い且つ推進力としたウィズが、流星の如く二翼のスピリットへ突貫。なす術なく直撃したヒスイはフィールドに凄まじい勢いで叩きつけられ、付近のライカも余波に巻き込まれた。


「…後はお願い。」


直接アーツを受けたヒスイはともかく、それに巻き込まれる形で共に宙に舞うライカは顕現不能になっていないはず。


「う、うんっ!フィア、えーとっとにかく攻撃!」


『ほんと彼らが相手じゃなくてよかったわ。っえい!』


飾り触角の乱舞。これが決め手となり、ヒカリ、ヴィレイズ君の初コンバットはヒカリの勝利という形で幕を閉じたのだった。






…そういうわけで、勝利を納めたヒカリとフィアはコンバットというものを知れて、全てめでたしめでたし…


「なんだよなんだよなんだってんだよーーー!!!俺負けちまったっていうか、お前強すぎだろぉぉぉっ!!!」


とは、いかないか…ヴィレイズ君にとっては。


頭を抱えるヴィレイズ君 の言動や視線から察するに、彼の言う「お前」とは僕のことらしいが…僕が強すぎとか色々間違っている。


強すぎというのは、サウスハート最強のコンビという栄光を掴み取った人物レベルを指す言葉なのだから。


「つか最後のなんだよ!!?飛べるヒスイよりも先に上にいるとかいつどう指示したんだよ!!?」


…いつ、どうって…。


「普通にした、よね?…決めるよって。」


『うん。』


「そんな普通がっあるかぁぁぁぁ!!!」


そんな全力で否定しなくても…。なんか僕とウィズが非常識みたいではないか。


因みに僕にとっての非常識とは、フィールドがズタボロになる壮絶なコンバットを「うふふ」「あはは」と幸せピンクオーラを撒き散らしながら行う人物達を指す言葉である。某第二位的表現なら、僕らにコンバットの基礎を叩き込んだ先輩に常識は通用しない。


「ほほっ、まあ勝敗はさておき、ヒカリ君もアサヒ君も初めてのコンバットとは思えぬほど素晴らしい立ち回りじゃったな。ソウマ君も含めて将来が楽しみじゃわい。」


「い、いえ、私はそんなこと…全部シンとウィズのお陰というか…。」


「そんなことはないよ。ダブルスは依り代二人とスピリット二体でやるもので、結果も皆で掴むものなんだから。」


「ぁ…。」


『そうそう。あの防御壁とか結構助かったし、悪くなかったよ。』


「みたいじゃぞ、ヒカリ君。」


『ふふっ、そう言ってもらえると自信になるわねマスター。』


「そう、だね。…えへへ。」


照れくさげに笑う少女とそのパートナーに、思わず頬が緩む。…彼女らに関しては力になれたみたいで本当によかった……ものの、やはりヴィレイズ君の方には悪いことしたかな?初陣ということもあって勝ちたかったようだし…。ケントレッジ君も負ける気は無かったらしく、ショックを受けているというか。


「全く、そこの二人はいつまで凹んでおるのだ。…ダブルスを進めた私が言うのもなんだが、今のお前達ではシンとまともにやりあっても敵わんことは目に見えていただろうに。」


そんなことは無いと思うのですが…?


ナイブス博士のよく分からない発言に僕以外の三人も首を傾げる。


「…汽車でスピリットを含めた自己紹介をし合ったと言ったではないか。」


「え?はい、そうですけど…。」


「ソウマとヒスイが風属性、レア度はBでランクが三階級…ケイトなんだよな?んで、シンとウィズは無属性でレア度がD+。あと、ソウマは推薦組なんだろ?あ、もしかしてシンも推薦組なのか?」


「いや、僕は一般枠で受験するから…。」


「…言っちゃなんだけど、ソウマの方が強そうに思えんだけどじーさん?」


ヴィレイズ君の言う通りである。一体ナイブス博士は何を…?


「…シン、ウィズ。もしやお前さん達…ランクを言っておらんのではないか?」


「『え?…………………ぁ。』」


「そういえば、聞いてないかも…。」


「なるほど。道理で合点がいきました。」


博士らもともかく、何故フロウさんまで知っている口ぶりなのだろう?いや、だからってランクを言っているかどうかで何か変わるとは……なんか三人がジィ〜っと見てくるんだけれど。


───言うしかないのかな…?


───ないんじゃない?よろしくマスター。


僕が言うの…?


…隠すことではないのだが、なんだかなぁ…。


「無属性で、」


「レア度D+の、」


「シンとウィズのランクは?」


なんか息ぴったりだね君達。


「………………一応…六階級-サイス-。」


「……はぁっ!!?」とこれまた息の揃った三つの驚声がアリーナに響き渡った。


「な、なんっだそれ!?詐欺だろ!六階級って、ソウマの倍じゃん!!」


「これで一般枠を受けるとか…ぼくも推薦で入るの辞めた方がいいのかな…。」


いや、それは気にすることではないと─


「そんでなんでヒカリだけファーストネームで俺らファミリーネームなんだよ!?」


それもどうでもよくないだろうか?何故かヒカリが「ふふーん」と誇らしげだが…。


ランク含めて意図していたわけではないものの、こうも反応されると罪悪感が芽生える。


「えっと…なんかごめん。ただ、ヴィレ…ア、アサヒも知っているとは思うけれど、ランク=強さではないし…今回は初見だったから通じただけというか…。」


属性を持つ彼らの方が伸び代も大きいだろうし、次はこうはいかないのは目に見えている。


「あと、僕が一般枠で受験するのは、推薦の条件であるランクは満たしていても、無属性は例外と規定されているからだし…。条件を全て満たしているケントレ─「ソウマね。」ソ、ソウマが気に病む必要は全くないよ。ですよね?ナイブス博士。」


「うむ。第一、ソウマ、お前には新入生代表の挨拶をしてもらわんといかんのだぞ?私の仕事も増えるし、これ以上推薦の予定だった者が一般に回るんじゃない。」


「ぅ、了解です。」


…なんかすみません。


「でも私もビックリしちゃった。こう…息ピッタリで、一心同体っていうか…。」


『…そうね。色々とピッタリにも程があると思うわ。』


…流石に昨日のこともあってフィアには気づかれたか?


『…というより君達がバラバラなんだよ。あれじゃぼくらには勝てないよ。』


『言ってくれるじゃねーか。…次は俺とマスターが勝つからな。』


『我らとて次こそは遅れを取るつもりは無い。貴様にもな。』


『あら、怖いわねぇ。』


気のせいか…四体のスピリットの間に火花が散ったような…。もしかしなくてもこの子ら全員好戦的な感じ?


「よく言ったぜライカ!こうなりゃ早速特訓するっきゃねーよな!」


『おうよマスター!』


「つーわけだヒカリ!俺、このまま親父んとこ行って暫く特訓すっからヴァイス受けることとかお袋に伝えといてくれ!じゃな!」


「えっ!?ちょっ……もぉ…。」


これでもう何度目か。息つく間もなく要件だけ告げ、ライカを収納したアサヒは行ってしまった。


『…本当せっかちなのね彼。』


「もう慣れたけどね…。」


はっきりは分からなかったが、アサヒはヒカリと共にシークタウンに戻らず、この街もしくは別の街にいる父親のところへ向かった…ということか?それも暫くということは一日二日で戻る気はなさそうだったが…。


『あ…シン、博士。こっちもそろそろ出た方がいい時間じゃない?』


「!…そうだね。」


時刻は11時少し過ぎ。今日の最終便でサウスに戻らなければならないから、余裕を持って汽車の乗り継ぎ等が出来るよう考慮すると出立した方がいい時間帯である。


「やっぱり一度サウスに戻るのかい?」


「え?そうなの…?」


「あ…うん。元々今日帰る予定だったし、試験に向けて研鑽しないといけないから。」


彼女に関しては心配であるが…これ以上赤の他人同然の僕が干渉するのは良くないだろう。…一応、フロウさんに伝えておいた方がいいか。


「研鑽って…君は必要ないんじゃないかなぁ…。」


「絶対トップで合格だと思うよ?」などとコウキに告げられるがそんなことはまずない。サウスで無能と評されていた僕などが─


「あー…それなんじゃがな、シン。」


「はい?」


何故か苦笑するアーカム博士の視線がナイブス博士に向けられる。


「…先程中断した話の続きするとしよう。」


中断?…そういえば、アサヒがやってくるまで何か言いかけていたような…。


「昨日の儀式はもちろん、先程のコンバットでもフィールセンティ君のマナが乱れたことは分かったな?」


「…!」

「え…!?」


『気づいていたのね…。』


「…そうか、だからあの時シンはヒカリの手を握ってたのか…。」


…流石、というべきか。この様子だとアーカム博士やフロウさんも気づいていたらしい。


「契約を終え、マナが安定した以上…昨日のような大規模の暴走はもうおそらくないだろう。…しかし、」


ナイブス博士の言葉をフロウさんが引き受けて続ける。


「光属性という稀有な属性に加え、非常に力の強いスピリット。何より、依り代である彼女が秘めるマナの量があまりに多すぎます。…試験に向けての練習中に万が一、ということもないとは言い切れません。そうですね?フィア。」


『……否定は出来ないわ。』


「っ…!」


フィア、そしてヒカリの顔に不安の色が現れたのは言うまでもなかった。だが、ナイブス博士やフロウさんが気づいてくれたのなら大丈夫だろう。彼らが彼女に着いてサポートするなり─


「彼女にマナのコントロールを身につけさせることは急務というわけだ。そこでだ。このままノースに残り、彼女に着いてサポートしてやってほしいのだが、引き受けてくれないだろうか?───クオーレ君。」



「………………………………は?」


ノースダイヤが誇るスピリット博士が発した言葉の意味を把握するまで、要した時間は何秒であったか。


「え、えぇっ!?」


少なくとも、傍らで件の少女が驚声をあげるまで完全に我を失っていた。


「ちょ、な…え?…え?まっ、待って下さい!な、何故自分が…!?」


いや、マナのコントロールを教えつつ万が一彼女のマナが乱れて暴走した時に備え、誰かを着けた方がいいという考えは分かったし僕も同意する。しかし、そこは普通自らの助手であり信用できるソウマや最終的に暴走を止めたフロウさんを採用すべきところではないか…!?そういった意を込めた視線を彼らに向ける…が、


「いやいやいや。ぼくには無理だから。」


『僅かにマナが乱れたくらいならまだしも、暴走したマナを正すなど常人には不可能だ。』


なんか非常人扱いされたような気がするが、その非常人筆頭-フロウさん-であれば…!


「…勘違いしているようなので言っておきますが、私にも無理ですよ。」


「しかし昨日の事態を止めたのは貴方であって…!」


「昨日私がやったことは、暴走した彼女のマナをある程度鎮静化させた君から引き受けただけに過ぎません。あれ程暴走したマナに波長を合わせて直接干渉するなどという神業はまず不可能です。」


くっ、ならアーカム博士の意見を…


〈シン君が約一ヶ月女の子に付きっきり、だと…!?〉


〈でも、じゃあシン君はこのままノースに残って帰ってこないってこと…?〉


〈…いや!しかしだ!正直あのヒカリって娘、滅茶苦茶可愛いし性格もいい子っぽいぞ!〉


〈つまり美男美女の同棲生活…何それキュンキュンしちゃう。〉


〈さっきも二人で手を握り合ってたし…。〉


〈…シン君がヴァイス学院に入りたいと言った要因は、ヒカリちゃんが絡んでると見たわ。〉


〈…結論は出たようだな。───シン君の生活用具を片っ端から用意し発送手配するのだ!オールハイル・シン!!〉


〈〈〈〈〈オールハイル・シン!!〉〉〉〉〉


「……………あの、博士…。」


「…一応、こういう話が出とることを連絡しただけなんじゃが…すまん、わしには意見を言うことすら儘ならぬようじゃ。」


研究所で最も地位の高い博士に意見すら言わせないうちのスタッフって…。というか、同棲生活ってどういうことですか?あと美女は認めますが美男は間違っています。


『別にいいんじゃない?戻ったってまた来なきゃいけない訳だし。それに超心配してたじゃん。』


ウィズまで賛成派か…。


「そうは言うけど…会って間もない異性が近くにいるなんて、年頃の女の子ならば抵抗あるのは言うまでもないよ…。」


見方によってはストーカーといっても差し支えないのだ。なので、しっかりと信頼のおける人物に任せなければならない。


それに僕とて暴走を完璧に止められたとは言い難く、仮に僕が残ったところで本当に力になれるかは分からない。彼女にマナをコントロールさせる術を教えられる保証もない。従って、僕などより信頼のおけるフロウさんやソウマの方が適任であると誰もが思うはずなのだが…。もしくは、迷惑をかけることになるが先輩に来てもらえたら…


「あ、あのね、シン。」


「あ…気を遣わないでいいからね。誰だって僕なんかじゃ嫌だろうし…。」


「?えと、とりあえず私は全然嫌じゃないんだけど…。ちょっとビックリしちゃっただけで、シンがヴァイス学院を受けるって決まった時、一緒に勉強とか練習とか出来たらいいなって思ったりもしてて。」


断られるとばかり想定していたため、「えへへ」と頬を染めて笑う彼女に言葉を失うと共に顔に熱が集まるのが分かり…思わず手で顔を覆う。


「い、いや…でも…」


「ダメ…かな?」


…挙げ句の果てに、無意識なのだろうが上目遣いまでされては───


サウスハートのとある田舎町のとある研究所にて喝采が轟き渡るまであと五秒。




to be continued

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