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あのひまわりは折れない  作者: 朝飛
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プロローグ

初めまして。朝飛です。あさひと読みます。

飽き性なのでいつまで書けるか分からないけれど、完結を目標に書いていきます。

初投稿なのでお手柔らかにお読みください。

生まれた世界が悪かったとひまわりはつくづく思う。

しかし、憎んでばかりでは何も変わることはない。ひまわりはせっかく生まれてしまったのならば、思い切り足掻こうと思ったのだった。


この世界に生まれたときから、男女は不平等であった。男女のうち、男の子だけが魔法を持って生まれるという性質があったからである。この世界のあらゆるものが魔法によって動いているため、魔法を持っている男性は重宝され、大切に育てられた。一方女性は無能であるため、労働力のために育てられた。女性は肉体的な力も、社会的地位も低いので、男性に見下されて生活していた。

そのような生活が当たり前の中、ひまわりの家庭は少々独特だった。ひまわりの家族は父、母、姉、そしてひまわりであり、魔法を持っているのが父親しかいなかった。他の家庭ならここぞとばかりに父親が権力を持ち、好き勝手に妻や娘を操るものだが、ひまわりの父親の魔法はお世辞にも優れたものとは言い難く、父親自身もコンプレックスに感じていたため、その程度の魔法の保持者であるからといって、威張ることはなかった。基本的に妻や娘に関心がなく、暴力をふるったり、怒鳴りつけたりすることはなかった。ひまわりはそれが他の家庭でも当たり前だと思っていたので、成長して他の家庭環境を知るうちに、女性の置かれている立場というものを徐々に理解していった。

男の子は男子高校を卒業したら、魔法学校に進学する。そこで魔法についての技術を学び、社会に貢献していくのだ。女の子は女子高校を卒業したら、大抵は農業をしたり、結婚して家庭に入ったり、家族を手伝ったりすることしかできない。勉強がしたくても、何かしたい仕事があっても、女性は出来ないのが普通だった。ひまわりはそれを知っていたけど、父親が嫌な人ではなかったため、卒業したら家を手伝う道しか自分にないことを嫌だと思っていなかった。周りもまだ中学生くらいまでは自分の将来の話などほとんどしていなかった。高校生になり、卒業が間近になってくると友人たちはたちまち卒業を嫌がるようになり、自分の将来が限られていることを嘆き始めていた。そのタイミングでひまわりは友人たちの家庭環境を知っていった。自分の家庭環境とは大きく違っていて、むしろひまわりの家庭のほうが珍しかったのである。ひまわりは友人たちの家庭への文句や悩みをいつも黙って聞いていた。話を聞くたびにひまわりは心を痛めた。どうして女性だけ、限られた世界でしか過ごせないのか疑問に思うようになった。

そんなある日、卒業まであと数週間という日に友人が泣きついてきた。目を真っ赤に腫らし、頬も膨れ上がっている。目元は泣いた跡であるが、頬の腫れは誰かにつけられたのだろうとすぐに予想できた。友人は苦々しそうに歯を食いしばりながら、ひまわりに言った。

「お父さんに…、お父さんになんで産まれてきたんだって殴られた。」

ひまわりは宙を睨むようにして、怒りを抑えた。握りしめた手に深く爪が食い込む。その痛みすら感じなかった。

「私は産まれてこなければよかったの。」

友人は放心状態だった。目は虚ろで、流れる涙も弱弱しい。声色も吐息交じりで、不安定だった。ひまわりは涙を流した。目の前の友人が哀れで仕方なかった。少し触れたら消えてしまいそうなほど儚げに泣く友人にひまわりは強く抱き着いた。この世に彼女をつなぎとめるように、ひまわりは友人を抱きしめ、一緒に泣いた。

「そんなこと言わないで。」

ひまわりの声は震えていた。脳が溶けそうなほど暑く感じた。怒りと悔しさと哀れみと諦めが全て混ざって、唇が思うように動かなかった。ひまわりは歯で唇を噛んで、何とか震えを止めた。そしてゆっくり友人の背をさすった。友人の嗚咽は少しずつ落ち着いていき、ひまわりの頭も冷静に動くようになった。

「私はあなたに生きてほしい。」

ひまわりは友人を抱きしめながらそう言った。友人が顔をあげたので、ひまわりと目が合った。再び友人の目に涙が浮かんだ。悔しさや怒りの涙ではないとすぐに分かった。先ほどよりも友人の表情がほぐれていた。

「私、ひとつだけいいことがあったの。私、殴られたけど絶対に泣かないって決めていたから、痛かったけど我慢したのよ。それで腫れて、血が出たままの顔で、頭を下げてきてやったわ。お父さん、絶対にびっくりしてた。」

友人は涙を拭きながら照れくさそうに笑っていた。ひまわりは再び流れそうな涙をこらえながら、「そう」と呟いた。少し返事がそっけなくなったことにも、友人は気づかずに、そのまま話し続けた。

「そのときは清々していたけど、顔は痛いし、嫌なこと言われたから後から悔しくなっちゃった。」

友人は鼻水をすすりながら、ひまわりの腕から離れた。

「でもひまわりの言葉で元気が出たわ。ひまわりの言葉って魔法みたいね。」

ひまわりは驚いて、目を見開いた。その拍子に目から一粒涙がこぼれた。友人はもう一度目元を強く拭って、先ほどとは違う生気に満ちた笑顔を見せてくれた。頬は痛々しく見えるけれど、友人はそんなことを感じさせないくらいすっきりとした表情を浮かべていた。

「ありがとう、ひまわり。じゃあ、またね。」

そう言って、友人は先に行ってしまった。ひまわりは友人の足音が聞こえなくなったタイミングで壁にもたれかかり、ズルズルと座り込みながら嗚咽を漏らした。

友人たちは男の子だったらしなくていい我慢を数えきれないくらいしている。友人たちが苦しい中で見つけた喜びは本当に些細なものだった。なんて彼女たちは謙虚なのだろうとひまわりは思った。

「ひまわりの言葉って魔法みたいね。」

友人の言葉が頭によぎる。あの場の空気を読んだら、そう言ってしまっていたのだ。確かに友人に生きてほしいと思っているけれど、魔法のような大層なものではない。本当に魔法を使えたら、彼女たちを助けてあげられるのにと、ひまわりは滲んだ世界を見ながら考えていた。

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