表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

産めよ、増やせよ、地に満ちよ、その後

作者: ララーニア

神は言った。産めよ、増やせよ、地に満ちよ。

その結果人類は75億人、

しかし今、空前の少子高齢化が進んでいる。

人類に未来はあるのか、その打開策は・・・?

「近頃の女どもは産みたくないだと。少子化が進んでるのを知らないわけでもないくせに」

「大臣、それはセクハラ発言になりますし、差別発言ですので、」

 高齢の男性の脇で、細身の中年男性がひそひそ声を出した。

 ここは閣議の場、居並ぶ人々はそれぞれに名の通った大臣と、そのそばに控えるのはその秘書たちだ。

「少子化対策として、女どもに強制的に子作りをさせるという案はどうだ」

「ですから女ども、という文言は女性団体から抗議を受けます」

「全ての国民に子作りさせる、妊娠をさせるということではどうだ」

「とはいえ、子供をもうけるというのは非常にセンシブルな問題で、国の介入があるというのは、人権問題にもなりますし」

 比較的若い大臣が発言する。

「それに病気とか障害で子供を望めない人もいっぱいいますし」

 脇で科学顧問も口を挟む。

「そういう場合にどうすれば、妊娠することができるんだ」

「そうですね、現在研究が進んでいるips細胞から臓器を作る技術を使えば、子宮を作ることもできなくはありません。すでに治験が始まってかなり経っています。保険外適応ということですが、多くの産科でその手術は行われています。今や人工的に作った子宮で子供を妊娠出産している例は珍しくもありません。そして今の所、大きな問題もありません。初期の頃の動物実験で多くの問題を解決済みなので、比較的安心安全な技術といえます。今の段階で言えることは、子宮を移植すれば、おおよそ全ての人が妊娠は可能です」

「素晴らしいじゃないか。ならば全国民に生涯一人以上は子供を妊娠出産させるんだ。医学的には可能なんだから」

「しかし、問題はあります。子宮は作れますが、人間の生殖細胞は年齢とともに劣化するのです。高齢者の妊娠は障害児が生まれる可能性が高くなります。そして高齢では妊娠した時の体の負担が重すぎます。対象者はせいぜい40歳以下、できれば35歳で区切った方がいいと思います」

 その後、侃侃諤諤の議論が続き、法案が提出され、保守政党の絶対多数の数の力で国民皆妊娠法が採決された。

 全ての国民は35歳までに未婚既婚を問わず、妊娠すること。そして出産すること。そのために必要な費用は国が七割負担し、また妊娠ができない肉体的な理由、病気、障害等の場合には国の最新技術のips細胞由来の子宮を移植し、妊娠を手助けする。その場合の医療費は保険適応にする。

 などなどの条文を持って法律が決定し施行された。

 もちろん、多くの国民は大反対した。女性の人権団体はこぞって反対を示したが、男性たちが煽るように女性を侮蔑する発言が続いたことで、女性たちの怒りが爆発した。

「男たちも産めばいいのよ」

 誰かが言った。条文には国民がとある。女性がではない。しかもips細胞由来の子宮があれば男性でも妊娠出産は医学的に可能だ。すでにゲイカップルの間では自分達の子供を産むためにかなり普及している。男性も35歳以下は一人は子供を産むべきだと。法律では国民は必ず、妊娠出産の義務を負う、そうなっていると反撃した。国民に男も女も関係ない。

 国を根底からひっくり返すような議論の末に、国民皆妊娠法は全ての35歳以下の人が対象になってスタートした。

 今日も産科は賑わっている。35歳以下の全ての国民は一度は妊娠出産をしなければいけない。男性はまず女性の肝細胞で子宮を育て、それを腹膜内に移植する。そして卵子を譲り受け、受精卵を作って体内に移植する。十月十日後、育った胎児は帝王切開で取り出す。男性の場合、産道がないので、手術で取り出すしかない。結婚していれば、妻から肝細胞、卵子をもらうことになるが、そうではない場合は、幹細胞バンクや卵子バンクから譲り受けることになる。

 女性の場合も、結婚しているのなら、通常の妊娠出産だが、未婚の場合、精子バンクを使う。

 かくして少子化に歯止めはかかった。男性も妊娠出産、そして子育ての責任と義務のために保育園の拡充、各種公共機関での保育室などの充実が進んだ。晩婚化、生涯未婚が進んでいたので、対象年齢の男性、女性は独身であることが多く、男性も女性同様、子育てに追われることになり、長時間労働は無くなった。子育てしていれば、残業などできないことを、社会は認知せざるを得なくなった。


 街には子供たちの声が溢れ、男女問わず子育てに向き合うようになる。不思議と国内の労働生産性は上がり、経済は活性化した。割と知られていないことだが、長時間労働は労働生産性を落とし、成果のクォリティーを落とし、疲れからミスを誘発してきた。それが無くなったのだ。業績はどんどん上がっていく。世代交代が進んで、若者の声が各分野で通りやすくなり、産業は活性化し、国が豊かになった。老人たちの思惑はともかく、結果が良ければ、それで万事塞翁が馬。

御拝読、ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ