ただの”サラリーマン”
「も、もしかしてこの首輪が何か幻覚を?」
そう思って首輪を持って引き抜くとするっとタカハシの首から外れた。首を傾げながら首輪をじっくりと見分してみるが何処まで深く視てもタカハシの居場所を知らせる発信機の付いただけのただの首輪であった。
「幻覚とかそう言う感じじゃあない。ならこの違和感はなんなんだろうか」
首輪を元の位置に戻して再び思考の海へ沈もうとするとタカハシの下へ近づく気配があった。振り向くと目の前には鋭く光る剣先があった。
「あんた。何者だ?」
「俺は彫刻士だよ」
タカハシは両手を上げて問いに答えた。
「ちょうこくし? なんじゃそれ」
「君たちが無意識に使っているちから。その種類を増やせる職人さ」
「よくわからないが一緒に来て貰うぞ。長がお前を捕まえろと言っている」
へいへいと返事をしながらタカハシは立ち上がり剣を突きつけられながら長の下へ引き出された。
無節操に聞き回ったのがいけなかったのだろうこの集落の中でタカハシの事は噂になっていた。下調べはてって的に、が裏目に出てしまっていた。
シロの入り口にほど近いの少し立派な掘っ立て小屋へと押し込まれタカハシは長と対峙することとなった。小屋の中には数人の狩人が立っており長は一番奥に座っていた。眼光鋭い男だった。
「貴様がこそこそと嗅ぎ回る男か。死ぬか? うん?」
全身から身体強化の淡い光が漏れる。
(この長ってヒト、身体強化との親和性がかなり高いな。だから長なのか)
「返答は無しか? 死ぬか? うん?」
「私は彫刻士。あなた方の使うちからを増やす事が出来ます」
「おかしな事を言うやつだな。死ぬか?」
「百聞は一見にしかず。これを見た事はありませんか?」
タカハシは右の人差し指を立てその先に小さな火を灯す。
同席する者たちから色々な声が湧き上がる。
「貴様、みつかいさまか?」
「それは”いいえ”です。私はこの地に放逐されたただのサラリーマンですから」
タカハシがこれは童に戻れない訳だとつぶやき口を歪めると長は脇に置いていた槍を持って立ち上がり突きつけた。
「貴様、死ぬか?」
「長、とやら。その槍をもっと、もっと上手に使いたくないですか?」
「もっと、だと?」
「ええ、もっとです。あなた方が動物と呼ぶ物。あれをもっと簡単に倒す事が出来ます」