眼鏡
2回目の目覚ましの音で男はベッドから起き上がった。
背広を着、眼鏡をかけ、朝の支度を済ませてからいつものようにテレビをつける。
起床を少しだけ早くし、出勤までの時間をゆっくりと過ごすのが男の日課である。
テレビ画面は朝のニュースを世話しなく告げている。
すると不思議な事が起こった。
コマーシャルに映ろうとした所突然眼鏡が曇って何も見えなくなったのだ。
男が戸惑っている内にコマーシャルが終わり、眼鏡の曇りも突然と消え去った。
どういう事だあたりを見回してみると、眼鏡が曇る法則が掴めてきた。
汚い生ゴミ、クレジットカードの請求書、どうやら男にとって不快感を感じる物を見ようとした時だけその不思議な現象は起こるらしい。
そういえば意味もなく繰り返されるコマーシャルに苛立ちを感じていた事を思い出した。
見たいものを見れないならまだしも見たくないものを見えなくしてくれるのならありがたい事ではないか。
男はいつものように家を出てバス停までの道を歩きだした。
それにしても不思議な事もあるものだ。
この眼鏡は、確かに昨日まで使っていた自分の眼鏡だ。
もしかしたらこの眼鏡をかけていると、嫌味な上司の顔も見えなくなるかもしれない。
そうすればストレスも格段に減るに違いない。
何だか会社に行くのが楽しくなってきた。
自然と足並みも軽快になる。
色々なものを見て試してみようか。
そんな事を考えながら曲がり角を曲がった時だった。
突然と眼鏡が曇って何も見えなくなる。
どんという音と共に男は自分の体が浮くのを感じた。
薄れ行く意識の中で、壊れた眼鏡越しに、自分に起こった事態を確認しようと辺りに目を向けた。
なるほど、迫って来るトラックも確かに恐怖という不快感を感じさせるものに違いない。