第四話
葉をかき分けながら森を歩く。
前のように内臓がゆるゆる動くような事はなく快適に動ける。
体も軽い。まるで内臓が存在しないかのようだ。
以前とは違う感覚に首を傾げたが、快適なのは良い事だと気を取り直し進んでいく。
(この森には外敵がたくさんいるようだし拠点となるような場所を設けたい。安全地帯がないのは困る)
足音を殺しながら森を歩き回る。その時、微かに唸り声のようなものが聞こえたような気がした。
わたしはぴたりと動きを止め息を潜める。
その音は前方からしているようだった。
(獣だろうか)
そう思い迂回しようとして、視界の端に映り込んだ光景に息を呑んだ。
(人間が倒れている)
用心しながらそっと近寄る。ボロボロの衣服を纏ったその人間はどうやら気を失っているようだった。
褐色の肌で黒髪の男性。ローブを纏った逞しい体躯の彼は苦しそうな表情で微かな唸り声をあげている。
どうするべきか思案する。
目の前の男性はかなり弱っているようだ。外敵が多いこの森で意識のない彼を放置していたら死んでしまうかもしれない。
丁重に男性を担ぎ上げる。既にヒトではないからか、がっしりとした体格の男性を案外軽々と持ち上げることが出来た。
彼を背負い森の奥へ進んでいく。
ぐったりとした男性は浅い息を繰り返しながらわたしの背中にもたれかかっていた。
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丁度良い洞窟らしきものを探し出した時には夜になっていた。
奥まった場所に男性を横たえると一息つく。
(程よい広さの横穴だ。とりあえずここで過ごそう)
改めて男性の様子を観察する。
精悍な顔立ちをした男だ。褐色の肌は張りがあり彼の若さが窺えた。長い黒髪は一本の三つ編みとしてまとめられ、側頭部の刈り上げには紋様が刻まれている。
地味な色合いのローブはあちこちに擦り傷があり、長く森を彷徨っていたのだろうとわたしに想像させた。
相変わらず彼は苦しそうだ。何かしてあげたいが原因が分からない以上出来ることはない。
気道を確保するように男性の姿勢を整え横に座る。
外の様子を気にしながらわたしは彼を眺めていた。