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1-6 何があろうと夜までは

寝違えて寝込んだら寝違えたんだけど祟られてるのかしら

遅れてごめんなさい

ウタ()に連れられて着いたのは、大きな机をたくさんの椅子が取り囲んでいる部屋。既に招集をかけられたと思われる人間が何人か座っていた。



「ん、唄...ん?」



一人の女がこちらに気付き、そしてじっと見つめてきた。



「......なんだ、その、どこから言えばいいんだ」

「後でだいたい全部説明する。それでいい?」

「まあいいけど......」



おそらく、というかどう考えても自分の事だとわかった。知らない人間、しかも子供が、戦いの準備らしい会議に飛び入り参加してきたら普通は疑問に思う。そして止める。

唄はそのまま空いている席に座り、理奈はその隣の席に座る。部屋には二人以外には三人。本を読んでいる男、こっちを見てくる女、上座に座っている男。話によれば十数人戦える面子はいるらしいので、始まるまで少し猶予があるだろう。こういう時の暇つぶし道具を探した方がいいかもしれない。



「じゃあ始めるぞ」

「へっ?」



上座に座っていた男に考えていたことが一瞬で否定され、妙な声を出してしまった。



「観測機器によれば使用地点は小平(このひら)県小平市吉田原(よしだばら)区西部。規模は四級上だ」

「吉田原ってどんなとこだっけ、多分初めてだよね」

「今出す」



突然机から妙な音がした。すると、どうやら天板は蓋だったらしく、引きずられるように開いていく。そして空いた場所から光が出て、空中に立体的な絵が映し出された。

正直理奈の頭はついていけていない。知らない情報ばかりがなだれ込んでくる。だから、しばらく疑問は放置して後で聞くことにする。



「港湾と天楼街が両方ともあるんだ」

「真京の西河(さいが)に似てるね」

「つまり調べるのに結構時間かかるやつじゃねーか、大丈夫か?」

「最新の隔空探知方式なら前よりは楽に特定出来るはずだ。ほら、もうその辺の色が濃くなってきた」



おそらく、濃さがその魔法使用者のいる確率の指標になっているのだろう。立体絵の時点でだいぶ驚けるのに、加えて現在の観測と連動しているとは。

これなら直ぐに見つかりそうだとは思ったが、その濃い領域の狭まり方はどんどん遅くなり、すぐに縮小が止まってしまった。



「天楼地帯だな、まあ最新の危機を信じて待つか。どんくらいかかりそうだ?こっから」

「三四時間はかかるだろうな。方法はいつも通り、特定後多重監視、奴らの到着後直ぐに回収だ」

「りょ」

「了解」



そしてあまりにもあっけなく会議が終わってしまった。いつも通りと言っているあたりどうすればいいかそれぞれがしっかり理解しているのだろう。良い事だ。

そして会議が終わったなら、色々聞くことが出来る。



「じゃ、質問時間と行こうか」

「はいな」



都合よく質問が募われたが、理奈より先に女が手をあげた。



「まあ、そうだよな。寝江(ねるえ)

「うい。唄、その子は誰だ」



やはり理奈についてであった。



「どうする?リナさん、自分でする?」

「あー、じゃあそうさせてもらう」



自分のことは自分で説明した方が楽だろうと思い、立つ。おそらくこの場なら最低限の情報だけ言って質問を受けつければいいだろう。



「昨日ここに来た、く...九礼理奈だ。十歳、魔法は結構使えるとは思っている。よろしく」

「昨日のあの一級の奴か...十歳か...意味わかんねぇな...」



それはそれは意味不明だろう。クレイが生きていた時代でも、十歳の少女がガンガンに魔法を使っていたら誰だって驚くし目を疑う。



「しかもアヒルの謎装備つけてるじゃねぇの...情報量が多い...」

「あひる?」

「それあるってことは会ったろ?有瑠日だよ、幽谷。てかそれ今つけてる意味特に無くないか?」

「あ、確かに」

「手の甲のそこの蓋を外してそん中のつまみをひねれば解除できるよ」



アヒルは、知っている。鳥の名前であると思い出せた。有瑠日だからアヒル。申し訳ないが白衣も着ていたしそれっぽいのはよく分かる。

そしてこのまだ仕様も分からない装備を付けながら会議しているのもおかしなことである。言われた通りにすると、装備が消滅して元の服に戻った。



「なあ、お前らよく受け入れられてるな」

「昨日彼女の戦闘を見たからな。部隊二つ分程度の兵と戦えているところを見た」

「そんなことなってたのかよ」

「なってた、突入する隙が全然なかった、だから走ってくる方向に穴開けて飛び込んでもらった」

「飛び込んだな......あれ?なんで俺あの後寝てたんだ?」



あの夜について言われて思い出したが、あのもやもやに飛び込んだ次の記憶が目覚めである。なぜそんな重要なことを忘れていたのか。朝に弱いのは前世からだが朝に弱いで説明していいような問題ではない。抜け過ぎだ。一人の兵士だったものとして色々駄目だ。



「転移を使うあの部屋には既に設定されているもの以外の内魔力を一気に吸い取る魔法がかかってるんだ。その時の衝撃が大きすぎて気絶したんだと思う」

「そんな魔法もあるのか!?」

「一回騙されて処理部隊に入られてから開発して使うようにしたんだっけ、何年か前に」

「あれはやばかったなー、よくもまああの被害で済んだよな」



クレイの生きていた時代にはそもそも内魔力含め魔力の流れを強制する魔法が存在しなかった。そんなことをしても意味がなかったためそのような遠回りな方法が取られることもなかったのだ。

そして、処理部隊が騙して侵入を試みることもあるという。侵入係の命がほぼないことを考えても合理的な作戦だ。被害がそこまで大きくなかったらしいのは良かった。

そう思っていると、先程から指示を出していた上座の男が口を開いた。



「話の流れがちょうど良いから今言っておくが、今日の使用者も囮の可能性がある。その場合を毎回警戒して、最初は距離を保ちつつ結界を張ってから保護、少し体を調べてから転移の流れだ」

「......そうか......」



昨日はどれも見ていないが。



「言いたいことは何となくわかる。昨日の場合は色々例外だったんだ。昼間に町全域の外魔力が一気に薄くなった時点で俺達はの特定に感知器を使えなくなった。そしてその後、あの戦闘でやっと特定出来た。だがその戦闘は俺達の想像を超えていて、後はさっき言ったとおり」

「俺を飛び込ませた、か」

「そうだ。すまなかった、俺たちの落ち度だ」

「いや、助けて貰ったんだからそっちが謝る理由なんてない。というかこっちから感謝もまだ出来てなかった、その、ありがとう」



上座の男は申し訳なさそうに礼をする。こちらも申し訳なくなり礼をした。

助けて貰っただけでも感謝極まりないことである。あの後逃げ続けてもどうなったかわかったものでは無いのだから。



「あと、転移前に体を調べられた覚えは無いんだが、良かったのか?」

「あんな殺す気満々の攻撃見たら正直疑う気失せたし、あれだけ魔力あるなら飛ばしたら気失ってくれると思って」



なんだか雑に思えるが、助けて貰った時点でそんなことを思う資格もない。



「てかまあ、二人は昨日見てたし蓮子(はすこ)もさっきの装備で分かると思うけどリナさんもう結構強いんだよね。だからここに連れてきちゃった」

「本人の意思は?」

「どちらかと言うと連れてきてもらった」

「ならいいんだが」



まだ女、たしか寝江と言っていた彼女は理奈が魔法を高い次元で扱えることに理解が追いついていないらしい。見てないなら普通はそうなる。

ならやって見せればいいのでは?と思ったが、これから戦いなのにそんなことをしている余裕はない。なるべく全力で備えておきたい。実戦で見せればいいか。



「寝江の質問は終わりでいいか?」

「ああ」

「じゃあ次は」



つかさず手を上げる。



「クレイ」

「ありがとう。こっちからはとりあえず三つあって、まずみんなの名前が知りたい」

「わかった。五十音順でいいか?あと字も書いとくか」

「おう」

「はいな」

「うん」



話が早くて非常に助かる。少数精鋭なのか教育が行き届いているのか。



「ああ」

「俺は秋野雷(あきのらい)。保護戦で指揮取ったり現場行ったりしてる」



雷、さっき聞いた名前。あの装備をつけられた中で一番持ったらしい人。確かに強そうな雰囲気を感じる。転生してもその辺の感覚は鈍っていない、はずだ。

そして立体絵に「秋野雷」という字が表示された。自分で何かを書くことも出来るのか、とさらに感心する。



「あー次俺か。|寝江(ねるえ)蓮香(はすか)。大体秋野と同じだ。よろしく」



つぎに喋ったのは理奈について聞いてきた女。ハスコと言われていたが蓮香らしい。ややこしい名前で呼ばれているのか、それとも唄が読んでいるだけか。



「私はさっきも言ったけど唄ね。現場も行くけどだいたい研究してる」



次に唄。見たらなんとなく研究者っぽい雰囲気は伝わってきていたし、アルヒと仲良さげに話していたのでまあそうだとは思っていた。



「最後は僕か。(やしろ)啓介(けいすけ)だ。現場も行くけど、ここでの教育もちょっとやってる」

「教育って?」

「そこそこ子供もいるし、ここだと時間が余るから暇つぶしに学問をやる人も多いんだ。僕は大学で色々やってたから色々教えてる」

「へぇ」



暇だと学問をやり出すのは共感できる。クレイも魔法研究を実戦のために始めたが、最終的に楽しくて暇があればやっていた。



「あ、そだ。リナさんも難字書ける?」

「んっ?」



そうだった。この時代には三種類の字が有り、特に名前の前半、苗字には大抵この「難字」が使われている。適当に近い発音の「クレイ」を当て嵌めたが、何かいい字は無いか、頭の中を必死に探す。



「......こう」



「九」に「礼」。多分これでクレイと読める。理奈は、元のままでいい。だが、どうやって書けばいいのか。そう考えていると、唄は手元をさして、これ、これ、と棒を差し出し、黒い四角を指さした。

その黒い四角に字を書くと、その字が立体絵にも反映された。



「九礼理奈。こう書くはず」

「わかった、ありがとー」



こうして四人の名前を正確に覚えられた。難字は微妙だが、読みはまず忘れない。

なら次は、さっきからずっと引っかかっていること。



「次に聞きたいのは、なんで処理部隊はしばらく動かないかだ」

「あー、それはまあ、魔法を見られないためとアラタノオロチのせいにしてるからだね」

「アラタノオロチ?」

「え?知らない?」



魔法を見られないため、はわかる。

だがアラタノオロチはなんだ。

今度は全く知らない単語が出てきた上に知っている前提みたいな反応が返ってきた。



「小学校でとか親とかに言われたことない?」

「覚えてない......」

「うーんやっぱり理奈さん普通じゃない、よく分からない記憶の構造してる」

「アヒルとかは覚えてる」

「なんでアヒルは覚えてるんだよ」

「仮説は立てられたから今度説明する」



少し脱線してしまった。

おそらく今の記憶の中では、前世で知っているものの今世での言い方は全て覚えていると思われる。アヒルは、居た。食べたこともある。だがアラタノオロチは居なかった。



「で、アラタノオロチって何だ?」

「時々人間を食べに来るでかい蛇。悪いことすると来るって言われてる」

「そんなの信じる奴がいるのか?」

「魔法処理部隊が戦った跡がその痕跡扱いされるんだよ。それにアラタノオロチは見たら食われるとも言われてるからね、警報が鳴ったらみんな閉じこもって外を見ないし、見ると消される」

「はぁー」



正直もっと他になにかなかったのかと思ってしまう。

しかし、見ると消されるということは、誰かが戦闘を見てしまった場合それを特定する手段を彼らは持つということ。とんでもない調査力というか、もはや恐ろしい。



「要は奴らは戦闘のための嘘で行動を制限してしまってる訳だ。助かってるからいいが」

「なるほどな...それは分かった」



まあ、一度決めてしまったら変えるのは難しいんだろう。

そして最後にもう一つ。


「で、最後の質問だが、十数人戦えるのがいると聞いたけどなんでここには俺含めて5人しかいないんだ?全滅を避けるためとか考えたけどここまで少ないのは気になる」

「他の仕事とか色々あるからだな」

「保護だけじゃないんだな」

「ああ。投資してくれてる奴に色々届けたり、社みたいに教育に関わったりなんだりだな」

「投資してくる奴もいるのか」



言われてみれば百人近くが生活しているのだから資源はないと色々困るだろう。前世では英雄という立場であったため気にならなかったが、普通資源は枯渇する。



「かなり前からの付き合いだし、胡散臭く見えはするけど信用は出来るやつだ」

「それは一度会ってみたいな」

「次の機会に誰かに連れてってもらうといい。どうせ紹介はするから」

「そうか、ありがとう」

「他には?」

「今は特に」

「分かった。他は?」

「特に無さそうだし情報待ちながら理奈さんの話聞かせてくれない?」



それはありがたい。思い出したで通すのも面倒になってきたし、いつまでも自分の知っている情報を独占する理由もない。ならそうした方がわかりやすいし楽だろう。



「わかった。どこから話すか......」



ひとまず姿勢を正して、クレイ改め九礼理奈はなぜ自分がこうなっているかの説明を始めた。

要約

雷と蓮香と啓介が出た

戦場ビル街かも

理奈強いのはみんな何となくわかってる

オロチはカバーシナリオ

海底は教育が充実してる

以上です

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