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1-5 中途半端に歪んだ支配

アルヒ(有瑠日)に連れられやって来たのは、研究場所にしてはやたら広い部屋であった。クレイの知識で言えば、屋根付きの修練場といったところである。内魔力がここだけ薄いのもそういう事だろう。



「これっすー」



壁際の倉庫を漁って出てきたアルヒが持っていたのは、白い箱に「新式現装魔法始動拳銃(2)」と書いてあるものであった。

見て見てと言いながら彼女が箱を開けると、そこにはクレイにとってはあまり見た事のない形をした金属の道具が入っていた。



「それが銃か」

「そうそう、新式現装魔法始動拳銃」



触ってみると、今度は魔力が結構籠っていること以外分からなかった。

魔法は設計後は感覚で扱うものであり、クレイほどの魔法使いになれば逆に実用化された魔法を感覚で解析しどのようなものか理解することが出来るが、この銃相手ではそれが出来ない。つまり、クレイの知らない術式がふんだんに高密度に使われているということである。



「...これかなり凄いな?」

「わかるっすか!?触っただけで分かるなんてすごいっすねやっぱり!」

「ほんとに凄いよ、それ。使うと体ん中の魔力殆ど持ってかれるから」



内魔力がごっそり持って行かれる、それはまずいのでは無いだろうか。

この深海ならともかく、地上の外魔力希薄環境では、それこそ魔力の消費がないか僅かかの兵器を使わないと戦いにならないのではないか。

だが、そんな兵器を使いつつ、その現装魔法による装備が身体能力を強めてくるなら使えるだろう。そう考えてみればなかなか魅力的な道具である。



「そーなんすよね、しかも身体魔力切れたら現装解けるんすよね」

「は?」



前言撤回、面白いだけの欠陥品の予感がする。



(らい)ちゃんでも全力でやると二分で切れたね」

「雷さんなら二分持つから使えるっすねぇ」

「使えると思うならなら持たせなよあいつに」

「持たせてるっすよ?」

「え?じゃそれは?」

「二号機っす」

「お前さぁ、あのさ?貴重な資源をそうやって」

「手元にいっこ欲しかったんすよ」

「銃はね、使わないと意味が無いんだよ?」

「あ゛〜」



しばらくなんとか解析できないかと試している間に、アルヒは私的に資源を使った罰でか頭をウタ()に拳で挟まれていた。

ライという人間の内魔力がどれほどか分からないが、流石にクレイより多いということは無い、と思いたい。というか、転生してきた意味もなく人の人生に良くない影響を与えた上に殺害対象にされた時点で既に色々思うところしかないと言うのに、さらに自分より魔力がある人間が居たら流石に辛い。

だから、それを確かめようと思う。



「でね、さっきリナちゃん浮いてきてたしなんか触っただけであの弾とその銃がやばいの見抜いてたし、だから内魔力も多いんじゃないかなって思ったんすよ」

「あー、まあ確かに......」



丁度期待されているようだし、この新式現装()魔法始動拳銃()を使って内魔力だけで本気で二分以上戦えればそのライという人間より内魔力があるということになる。



「これどうやって使うんだ?」

「普通に引鉄引いてー」

「ここ?」

「そうそう。...あーもしもし、ちょっと今来れる?」



頭を挟まれたまま今度は別の謎の機械を取り出したアルヒの言う通りにヒキガネとやらを引く。

すると、言われた通り結構な勢いで内魔力が吸われていく。無い魔力の流れが激変し、全てが銃を持つ右手へ向かう。

このような経験はなかなかない。通常魔法は自分の意思で発動するものであるため、内魔力を使う際も自分で意識してその流れを作る。だが、この銃の場合引っ張られるかのように流れていく。慣れたらどうか分からないが、少なくとも今は正直気持ちのいいものでは無い。



「っく...」

「ん〜、現装自体は終わりそうっすね」



膝をついてしまったが、ようやく魔力吸収が終わったらしく、気持ち悪さはなくなる。そして今度は、銃から光の線が出てきた。

光の線は粗い網のようにリナを包むと、その内部に装甲のようなものが出現する。それが体内の魔力と反応したのか、丁度ピッタリになるようにその体にくっついていく。



「あれ?リナさんちっさいのに大きさ合ってるの?あとなんか遅くない?」

「体のデータ取ってから装甲作ってるんで初回はあんな感じっすよ」

「へぇ〜」



そうしてヒキガネを引いてから三十秒ほどで、現装が完了した。

黒と灰色を中心とした配色で、クレイの知る高い鎧にあったような派手さはない。また、ほとんどの場所は金属のような感触のする布で出来ている。これまた新しいものを見てしまった。

手にある銃はどう使えばいいか分からないが、腰にはそこそこの長さの剣が付いており、剣しか使えない身でも戦えるようである。

なおかなり重いのだが、この程度なら多少の強化魔法で何とかなる。

そして何より、内魔力がすっからかんになった。



「終わったっすね」

「無い魔力がもう殆ど無いんだが」

「ほんの少しでもあるのがすごいっすよ。初回の現装っていつもの何倍か魔力吸うんで」

「さっき言ってた雷って人はどんなんだったんだ?」

「雷さんは......確か最初はそこそこ外魔力あるとこでやったっすけど、同じこと言ってたっす」

「そうか...」



おそらく、雷という者よりは内魔力があると考えていいだろう。少し安心した。



「じゃあ外魔力濃くするっすよ〜」



アルヒがそう言いながら壁にある突起を下げると、ブーンという音と共に外魔力が濃くなっていく。外魔力が濃ければ濃いほど内魔力も早く回復するのでとても助かる。

それにしても、ここに来たばかりの時の部屋もそうだったが、外魔力の濃度を特定の空間だけ、見たところ簡単に操ることなど出来るのか。



「やっぱりこの部屋だけ外魔力を低めてたんだな」

「特殊半透膜魔法。魔力を片方にだけ通す膜でこの部屋を囲ってるんだよ」

「それを使うと魔力が流出する感じか?それとも中で消費してるのか?」

「いや、加えて魔力の流れを弄って外に流してる」



魔力の通りを制限する膜に、魔力の流れを変える魔法。現装の時の魔力を引っ張る魔法もその類だろうか。

クレイの知らない魔法を、短時間で既にかなり見ることが出来ている。この調子ならまだまだ新しい魔法を見られるだろう。知的好奇心をこうも次々と刺激されてしまっては、この興奮を抑えることはなかなか出来ないだろう。



「色々な魔法があるんだな。この現装とか、工夫しなくとも随分と便利なものだ」

「だよねぇ。私はもう魔法無しの生活とか思い出せない」

「わたしも研究ばっかしてるっすね」

「そういう話じゃない」



だからこそ、残念なこともあるが。



「......なんで魔法を知ると殺されるんだろうな。魔法を使えばもっと生活水準を上げられるだろうに」

「私も分からん。聞く間もなく逃げてきたし、何回か戦っても聞く暇ないし。あっちは魔法使ってくるんだけどね」

「確かに魔力のある剣使ってたな」

「そうなんすか?」

「興味を持たないの」



つまり、魔法処理部隊(彼ら)は魔法を独占しているということである。ここまで便利な魔法をである。

一体なんのためにそんなことをしているのか。独占と言えばやはり自分たちだけ利益を得るための行動。魔法を隠れて使って他より優位になる状況を作っているのだろうか。

しかし、それならどうして魔法の存在自体を隠すのか。魔法があるとされても、正しい方式に従わないと発動するなどありえないだろう。ならばここまですること──


──いや、その考えは既に破綻している。何故ならば目の前に、魔法を使った人間を救うために魔法を使っている人間がいるでは無いか。つまり、偶発的なのか教わったのか、少なくとも正しい魔法発動技術を知ることが出来るということ。

簡単に新しい魔法を発見できるとは思えない。それならばクレイの時代にももっと沢山見つかっている筈である。しかし、少なくとも、さっき聞いた話によれば魔法を何らかの方法で知った人間が百人近く居るらしい。



「リナちゃん?なにか考え事っすか?」

「ああ、うん」



彼女たちはどうやって魔法を知ったのか。



「二人はどうやって魔法をしったのかって」

「あー、なんだっけ......あ、確か実家の倉庫で見つけた本に書いてあった」

「わたしは水保町の古本屋で見つけたっすね」



少なくとも自分で発見した訳では無いらしい。だが、実家の倉庫はともかく古本屋はおかしいのではないか。知っただけで殺すのにそんなものが売られているのは見逃しているのか。探知できないのか。



「随分杜撰な処理をしてるんだなあいつら......」

「多分外魔力の変動を探知して殺しに行くだけでそのへんは細かくはやってないんじゃないっすか」

「まあ小さい古本屋まで目通すくらい活動してたら逆に気付かれるよね」

「その探知は出来ないんだな......」

「印刷に魔法使ってないから無理だろうねぇ」



酷い話である。

今彼女たちは生きているからいいし、自分も助かっているが、たまたま魔法を知って興味本位で発動させてしまい、殺された人間もいるかもしれないのだ。魔法が死神のように機能し、平和に生きてきた罪もない人間を殺すものになってしまうと考えると、腹立たしいことだ。



「...ん」



突然、ウタの腰の辺りから音がした。彼女はそこから、さっきアルヒが使っていたのと同じ箱のようなものを取り出し、耳に近付ける。



「あーもしもし、こちら星川唄」

「伝達すか?」



どうやらそこからは声が出てくるらしい。中に何が入っているのか。



「......は?昨日の今日で?そんなことある?まじ?そう。今行く」



話が終わったのか、ウタは箱を再び腰に隠した。



「ごめん、また魔法使用が感知されたから行く」

「二日連続なんて初めてっすね」

「うん。信じられないけど釣りにしてはわかり易すぎる」



どうやら彼女達の仕事が来たらしい。昨日理奈が行ったように、今日も誰かが魔法を使ったようだ。それが釣りの可能性もあるようだが。



「じゃあちょっと」

「俺も行っていいか?内魔力もおかげで戻ってきたし」



一つ、試してみたいことが出来た。

この装備には剣もついており、内魔力も他の人よりはあるようなので、戦力にはなるだろう。戦える人員が十数人だと言うからそれでも貴重な存在だ。



「んー、まあいいか。とりあえずついてきて」

「てらーっす」



許可は出た。早速赤字にならない程度に足に強化魔法をかけ、走る準備をする。今危機の迫る魔法使いを救うためになるのか、それともここの人々を誘き寄せようとしている処理部隊と戦うためになるのか。

しかしその準備はすぐに無意味なものと分かった。



「あ、まだ助けに行くわけじゃないよリナさん。だからその魔法は解いていいよ」

「えっ」

GW明けたらなんか忙しくなった あたりまえ体操

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