1-4 深く深くに生きながらえる
新キャラ出る(ここまで全話そう)
次の瞬間、目が覚めた。
「......夢?いや違うか」
今いるのは単純で薄暗く綺麗な部屋の中の単純で綺麗な寝床の上。
靄から覗いていた女だった。中途半端な長さの髪に大きめの服、前世で見た研究一筋の学者に近い印象を受ける。
「あ、起きた?」
「あ、うん。おはよう」
とりあえず助けてくれたと解釈していいようである。念には念を、一枚だけ薄い障壁で部屋を撫でたが、危険そうなものは置いていない。障壁と思われる魔法が使われているが、それは仕方無いだろう。さっきの男まで入ってきてしまっていたら、この部屋以外にも被害が及ぶ可能性があったのだから。
「ん?何かした?」
目の前の女はやはり魔法使いらしく、障壁に気付いたようだった。
「すまない、初見だったから少しだけ部屋を調べた」
「え、何それ。すごいどうやったの」
「薄い障壁を、こう、扇いだ」
「それで分かるの?はぁー、これまたとんでもない」
彼女は話を聞いて素直に感心しているようだった。障壁魔法は知っているようだが、この使い方をまだ思いついていないあたり、そこまで人が多くないか、それとも障壁の仕組みが大分違うのか。
「助けてくれたのか?」
「まあそういうことになるかな?」
「あ、ありがとう」
自分より強い存在がいない時間が長かったクレイにとって、助けられるのはかなり久しぶりであった。今思えば、あのまま逃げていたところでいつまであのうるさ男におわれていたかも分からず、あれ以上の攻撃が飛んできたかもしれないと考えると、ここで助けられたのはかなり幸運であった。
「いやいや仕事だから気にしないで。あ、まずは自己紹介からね。私は星川唄、唄って呼んで。魔法保護団の研究員と救助員やってて、あ、魔法保護団って言うのは私たちのことで後で説明するから、きみは?」
「あー」
名前。理奈でもいいが、クレイの方が正直慣れている。少し迷ったが、あまり待たせるのも違和感があるだろう。
「クレイ、リナ。くれいりなだ。よろしく」
単純にくっつけてしまった。
「くれいりなさん、ね。こちらこそよろしく」
特に違和感のない名前だったらしい。良かった。
ウタは、うんうんと頷き、一呼吸し、続けた。
「じゃあ次に、色々見せたりする前に二つ聞きたいことがあるんだけど」
「何だ?」
「きみ、魔法は好き?」
その質問は、クレイからすれば存在も考えたことの無いものだった。
魔法は世界に深く根付き、当たり前のものとして扱われていたもの。言わば「空気好き?」だとか「水好き?」だとか質問されるようなものである。
だが、魔法を研究し、魔法で戦い、魔法によってここまで来たということは、自ずと答えは決まるだろう。
「まあ、好き、なんだろうな」
「そっか。じゃあ、よし!」
返事を聞くと、ウタは扉まで歩き、開いた。薄暗い部屋に光が入り、一瞬目を瞑ってしまう。
そして同時に、失われていたいつもの感覚が取り戻されていく。
「外魔力が濃い?」
「あ、わかるんだ。やっぱり只者じゃないね」
「それで判断できることなのか?」
「教えられてもないのに空間に魔力が存在するのを認識できてる時点で。それにあの魔法処理部隊と戦って無傷っていうのもすごいね」
「そうなのか」
「そんなきみの魔法に関することについて聞きながらここを案内したいと思うんだけど、いい?」
「わかった。答えられることなら答える。代わりにこっちからも質問をしてもいいか?」
「いいよ」
そう話している間に目も慣れ、部屋の外に出ることが出来た。そこは無機質な、白が少し眩しい廊下だった。
「ここは?」
「救出基地。魔法に目覚めた人間を探知して、その場所を特定して保護する時に使うとこ」
「俺をそうしたみたいにか」
「そう。誘拐じゃんって言われることもあるけど、そんな人には色々話して納得してもらう」
「そのまま居たら殺されるって?」
「そそ」
白い廊下を進んでいくと、壁が少し凹んだ場所があった。その近くには黒い四角があり、上を向いた三角形が描かれていた。ウタはそれを押した。
どこかで似たようなものを見た覚えがあり、すこし考えてみると思い出せた。
「入って」
その部分の壁は扉になっており、開いたそこに入ると彼女はそう言った。
これは昇降機だ。階段以外の、高低差を昇り降りするための機械。何回か乗った記憶が朧気にもある。
「少しこれに乗るからね」
彼女は内側にある黒い四角のうち、一番上のものを押した。すると、下に体が引っ張られる感覚がした。飛行魔法で勢い良く飛び始めた時の感覚のそれである。
「じゃ、次私から聞いていい?」
「ああ」
「どうやって魔法を知ったの?」
まあ、当たり前の疑問だろう。おそらく魔法が一般に周知されていないこの時代、その情報をどこから手に入れるかは必ず気になるところだろう。それも、十かそこらの少女が、なら尚更である。
さすがにここで変な嘘をついてもすぐ齟齬が生まれてしまうだろう。
「あまり信じられる話でもないだろうが、簡単に言えば思い出したんだ」
「元々知ってたけど忘れてたってこと?」
「本当に色々省いた説明だけどね。詳しいことは時間がある時で」
「気になるけど今のところはそれでいいか。今日はとりあえず私たちを見て欲しいし。お、着いたね」
今度は少しふわっとした感覚がし、そして昇降機は止まる。
扉が開くと、先程とは変わって全体的に青い部屋だった。白く綺麗な床を、青色の丸い、おそらく強化魔法のかけられた硝子の壁が囲んでいる。硝子には照明が散りばめられており、その向こうを魚が泳いでいた。
「......魚?」
そう。魚が泳いでいた。海や、川に居るアレが。となると。
「分かる?ここね、海底」
「なんでそんな」
魔法使いを狩りに来るものたちを避けるため、人里離れたところにありそうだとは思っていたが、まさかこんな場所にあるとは。そもそも海底に人が定住していること自体がなかなか信じられない。
「魔力が濃いんだ、海の底に行けば行くほどね」
「それは初めて知ったな...... 」
「特に千丈(≒3000m)より深い場所を原始海領って言ってね。濃い魔力とそれを掻き混ぜる海流で魔法処理部隊の探知は効かないし、あと普通に陸から遠い」
「しかしどうやってこんな設備を?すごいな」
「さあ、私が来た時からこうだし?誰に聞いても分からないんだよね」
それなりに前からあるということか。
クレイの時代には魔法使いは迫害される存在ではなくありふれたものだったし、魔力も充分過ぎるほど、それこそこの海底よりも濃かったため、深海に行くという発想などあるはずもなく、それを目的とした魔法も当然存在しなかった。対してこの時代では、もしかしたらもっと前だが、それが達成されている。どのような仕組みか気になるところであるし、素直に感動してしまった。
「でもね、一つだけわかることはあるよ」
「それは?」
「こんなことが出来るくらい魔法はすごいってこと」
何か思う所があるようで、彼女は少しの間魚たちを眺めていた。
魚たちは、クレイノ見た事のない形をしていた。目が無かったり、透き通っていたり。この非常に清潔な建物なども含めて考えると、異世界に来たかのような気持ちになる。
「さて、じゃ次行こうか」
「ああ」
そう言う彼女を再び追い、昇降機に乗る。
「次は私たちの技術でも見てもらおうかな」
「魔剣でも作ってるのか?」
「や、殆どは銃かな。剣も作ってるは作ってるけど」
ジュウ、という聞きなれない単語が出てきた。
「ジュウって?」
「きみがさっき戦ってた奴らが使ってたやつだよ。弾を撃つやつ」
「へえ、魔力無しであの威力なのにそこに魔法を上乗せするのか。恐ろしいもんだな」
「あいつらとは人数的に戦力差があるからねぇ、武器位は優位に立てないと」
「どのくらい差があるんだ?」
「うちら側は戦えるの十数人くらいだけどあっちはどこ行っても集団が出てくる」
「ひっでえ」
「だよね」
まあ、生前のクレイなら一対千程度ならなんとかなったため、環境を整えて鍛錬を積めば勝つのも夢ではなさそうだが。
「戦えないのはどれくらいいるんだ?」
「数十人。全部合わせて百人弱かな」
「まあまあいるんだな」
「魔法に目覚めた人だけじゃなくて知っちゃった人も保護してるからね。できるだけ」
全体で百人いない集団で反体制派を成立させているならば、かなりの技術力を持っているか、戦えるものたちがかなり強いかのどちらかだろう。よくやるものである。
しかし、切羽詰まった状況ではなくなった上で保護の話を聞いたからか、ここでひとつ疑問が浮かんだ。
「ここから歩くよ」
「わかった」
昇降機が止まり、扉が開く。その先にはまた眩しい廊下があった。
引き続き彼女と歩きながら、質問する。
「魔法を使った人間を保護するってことは、魔法の探知ができるんだよな」
「そうだよ。海底に回線があって私たち側は本土の魔法に気づけるようになってる」
「俺が魔法を使ったのは確か昼過ぎのはずだった。処理部隊?もそうだったんだが、なんで夜になって一気に来たんだ両方とも」
「あー、それはねぇ」
その理由を彼女が言おうとしたところで、突然大きな音が鳴り始めた。
「なんだこれ」
「警報!ちょっと行ってくる!」
どうやらケイホウは鳴ったら急がなければならない音らしく、ウタは廊下を走っていった。確かに、なんたか急かされるような気持ちになる音で、よくもまあ音だけでこんな表現ができるものかと感心する。
さて、この間自分はどうするべきか。
ここが技術絡みの階層なのはウタの発言からわかっている。要は研究場所があるのだろう。
「...気になるな」
最初にされた魔法が好きかという質問、それ以降どうにも魔法を意識してしまうようになったらしく、知的好奇心が少々旺盛になっているらしい。
クレイの経験が言っている。事故は色んなものを知る機会だと。
ならば、と早速浮遊魔法と推進魔法を使い、唄を追いかける。外魔力の比較的豊富なここでは内魔力の消費をそこまで気にする必要も無い。
推進魔法を強めにかけると、すぐにウタに追いついてしまった。
「あれ!?飛んできたの!?」
「浮遊魔法で」
「いや、それはわかるけど使える人あんまいないからさあ、そこまで使えちゃうのかぁ」
「気持ちは分かる、色々難しいよなこれ」
魔法は魔力操作で発動させるもの。そもそも魔力の操作の感覚を覚えるのも結構大変であり、多くの人間はそこから先は本能的に相性のいいものしか使えない。
もちろんクレイのような例外もいる。かなりの才能とかなりの努力が必要だが。
「障壁に浮遊かあ、まだあるの?」
「沢山」
「うっわー、今度時間がある時根掘り葉掘り聞かせて」
「ああ」
魔法について語るのは慣れているし、楽しい事だ。それに、「思い出した」について説明するのに魔法の説明は切り離せない。
そんなこんなで廊下を進むと、天井に煙が流れてくるようになった。
「やっぱりあいつ...!」
そして着いたのは、煙を吐き出している材質不明の大きな何かがある部屋で、白衣を着た銀髪の女がいた。
「こら!今度は何を」
「唄さん!見てくださいっすコレ!」
小柄であまり白衣が似合っていないが彼女も研究者らしい。元気溌剌で、クレイの知っている研究者像からはかけはなれているが。
そしてその手の先には何かの粒があったが、しかしその粒、どうにも危険な感じがする。
「高熱と破裂と融解と侵食閉じ込めたんすよこれ!すごくないっすか!!」
「いや色々入れすぎ、三つ以上の魔法弾丸の研究は複数人でやれって言ってるのに四つとか」
「ちょっと失礼」
さっと近付き、指先の粒を慎重に、かつ素早く取る。
「あっちょっと、って誰すか!?」
「さっき助けてきた人」
触るとよく分かるが、なかなか面白い物体である。しかし、安全安定なら良かったのだが、そうもいかない。
手を離し、即座に粒の周りに囲むように障壁を張る。すると粒はそれに衝突し、発光し、破裂し、その破片も障壁に衝突し、今度は溶け、そして障壁に根を張るように変形し、そして固まった。
「あー、発動しちゃった」
「ほらやっぱり、詰め込みすぎて簡単にこうなる」
「すまない、いつ破裂するか分からなかったから」
「いや、いいっすよ。自由落下程度で破裂するなら失敗作っす」
どうやら印象から想像していたよりは冷めた人間らしい。まあ、失敗した作品にいつまでも拘る奴は前進しないと昔の知り合いの研究者が言っていたので、そう考えると妥当ではある。
「でもよく分かったっすねー、もしかしてなんかすごい人だったりするっす?」
「あー、いや、そんなものじゃない」
「いやすごいと思うけど。リナさん、こいつは幽谷。言うこと守らない奴」
「幽谷有瑠日っす!よろしくえーと」
「クレイリナ、よろしく」
「リナちゃんっすね!じゃあちょっと来てくれるっすか?」
自己紹介が済んだ瞬間肩を掴まれ、さっき通ってきたものとは別の廊下に誘導された。
「こら!まだ全然色々説明できてないから今度!」
「この前出来た新式現装魔法始動拳銃使ってみてほしいんすよ」
知らない魔法が口から出てきた瞬間、クレイは反応してしまう。
「ゲンソウ魔法?」
「戦闘用の装備を引鉄引くだけで即装着できる魔法っす」
なにそれ。滅茶苦茶便利。
クレイのいた時代にはなかった魔法である。そもそも、ここに来る時に見た靄も恐らくそうだが、この時代にはどうやら離れた所に瞬時に移動したり別の場所から何かしらを取り出す魔法が存在するようである。どれほど便利かはまだ分からないが、鎧などを持ち運ぶ必要が無い時点で相当使える。
気になる。
「リナさん、あっちにちゃんとした研究が......リナさん?」
「少しだけ、少しだけだからちょっと行ってみていいか?」
「まじか......んー、本人が言うなら......」
ウタには悪いが、現装魔法はかなり気になる。相変わらず白くて眩しい廊下を、有瑠日に背中を押されて進んで行った。
地の文は割とクレイの内心なんでそん中に漢字の名前とか入れないようにしてる 東大満点の月くんもシブタクの漢字確定できないからね 東大満点ってどうやって取るんだろうね