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1-3 夜闇の茨をかきわけて

殆ど勘だった。

クレイは多くの戦闘の経験から、魔力感知抜きでもなんとなく攻撃の気配を読むことが出来た。目線が自分にささると、ほんの少し、肌が撫でられるような感覚がする、気がしていた。しかし、それは「なんとなく」の領域を出るものではなく、気づけないこともあれば何も無いのに反応してしまうこともあった。


だが、今回は当たりであった。


一発目を防ぎ直ぐに防御障壁を張る。すると、魔力もほとんど籠っていないのに、凄まじいまでに加速された金属片が結界に当たり、コンコンと音が鳴る。

その攻撃は一方面からだけでなく、道の両方向、また家々の隙間からも来ているようだった。



「うそ、なんで!」



母親は狼狽えていたが、どうやら何か心当たりがあるようだった。



「何?」

「そんな、これって」



どうやらそれについて聞こうにも、動揺と金属音で聞こえないらしい。だが親の本能なのか、理奈を守るように抱きついてきていた。

そのまま耐えていると、一人、真っ黒な服に身を包んだ者が近付いてきた。



「そこの子供。使()()()。その女の命も無くなるぞ」



使うな。

そう言われて、身に覚えのあるものなど1つしかない。

魔法だ。



「それは知るだけで処理対象になる。何も言わず離れろ」



理由も何も分からないが、この時代では魔法は使うどころか知るで死罪となるらしい。この200年で一体何があったのか。



「こ、この子が何をしたって言うんですか......?」

「アンタもとにかく離れろ。今ならアンタは対象じゃない」

「やっと......やっと喋ってくれたのに......なんでこんな」



少し冷静になれたのか、母はある程度状況を把握できたようだった。それはつまり、ここから先の行動は彼女に知られてしまうということ。

それは、よくない。



「いいから離れろ!」

「だからなんで──」



彼女の首に手を当て、魔法を使用する。するとプツンと糸が切れたかのように、彼女は理奈に寄りかかった。

地面にぶつからないように彼女を横たえる。



「何をした」

「気絶させただけだ。起きたらここ何分かのことも忘れてる」

「そんな事まで...伝達通り只者ではないな」

「知らなければ死なないんだろう」

「ああ、念の為確保はするがな」



敵を信じるのもどうかとは思うが、これが一番彼女は守れそうな手である。というか、これ以外にやれることがない。



「あとはお前が死ぬだけだ」

「一応なんでか聞いてもいいか」

「それが法だからだ」

「そうかよ」



これ以上何も言わなそうだ。まあこれから死ぬと思っている相手に対してなど何も言うこともないだろう。

だが勿論、死ぬ気は無い。



「それじゃあ俺は逃げるから」

「んなこと...何!?」



脚力を強化して敵の薄い所へ飛び、同時に障壁魔法を張って金属片の攻撃に備える。

予想通り飛んできたさっきのような攻撃は全て障壁魔法によって弾かれる。

だが、このままではまずい。外魔力の希薄なこの環境でこの硬さの障壁を張り続ければ、逃げ切る前に内魔力が枯渇してなす術が無くなる。

ならば。

薄く、広い結界を二枚張り、張っていた硬い障壁を解く。



「『障布』って所か」



障壁魔法は本来攻撃を防ぐための魔法。その用途故に、多くの障壁魔法は穴が開けば即座に埋まるように設計されている。

だが、クレイ程の魔法使いとなれば、自動で埋めるより自分で埋めた方が早い。だから、一応自動障壁も覚えていたが、基本使うのは自分で埋める方であった。


自分で埋めねばならないということは、結界の状況が自分に伝わるということ。

その特性をここでは活用する。

二枚の障壁を通すことで、攻撃の方向、角度、速度を知り、その方向に小さく硬い障壁を張る。できる限り二枚の障壁を薄くすることで、魔力の消費をなるべく抑える。

魔力のあるものなら感知魔法でいいが、先程の奇襲に気づけなかったことから金属片にはあっても空間と同じ程度の濃さの魔力しか籠っていないだろう。ならば、魔力の無いものも防げる障壁魔法をその代わりに用いるしかない。

慣れれば、硬い方の障壁を常に張るより数百分の一の消費で済むだろう。咄嗟の発想にしてはなかなかいいのではないか。


さて、どこへ逃げようかと辺りを見ながら走っていると、前の方の薄い障壁が一気に破られた感触がした。



「新手か!」

「おいおい勘の良い奴だなァ!」



どうやらまだ兵がいたらしく、2方向から囲まれる。

ならばまた薄い所から、と目を向けると、その方向から先程までの数倍の速度で何かが飛んできた。

それもまた魔力も無しで。



「ちっ...」

「どうしたもう逃げねぇのか!」



前方後方から高速の金属片攻撃、さらに遠方からの超高速攻撃。どちらも魔力なし。更に速くなる可能性も否定できないとなると、流石に受け身のままでは埒が明かない。

あまり禍根は残したくなかったが、ここまで殺意が高いとそんなことを気にしても無駄だろう。

服の肩の辺りから伸びている紐を引っ張り、振るう。



「伝播剣装、雷鳥鞭」



斬撃を飛ばす魔法、伝播剣装。鋭さのない紐の場合、それは斬撃ではなく雑な破壊力となって突き進む。かなり硬いはずのこの時代の道も、直撃すれば粉々になり、余波だけでも凄まじい風が吹く。



「こいつぁすげえな!初めて見たぜ!」



兵が何人か吹き飛んだが、一人だけ、さっきからやたらうるさい男はそこにたったままだった。なかなか実力があるらしい。



「引く気になってくれたか!」

「逆だなァ!」



男は持っていた何かを投げ捨て、懐から刀を抜き、向かってきた。

ここでほんの少し、懐かしい感覚があった。その刀には、魔力が籠っていたのだ。


そして、その懐かしい感覚は、クレイの最後の戦いを思い出させた。魔力と魔力がぶつかり合うあの戦いを。



「あぁ...」



この体が弱いのもあるだろう。

外魔力は薄く、魔法の自由が効かないのもあるだろう。

そして、他対一という状況もあるだろう。


あの危機を、そしてその楽しさを思い出してしまった。



「空間剣装!」



男に向かって、その紐を振り下ろす。先程よりも強い斬撃が起きる。

クレイの得意とする魔法の中でも上位の魔法、空間剣装。本来ならばあらゆるものを切り裂く最強の斬撃だが、弱い紐を奮った程度では切れ味のある暴風をおこすことしか出来ない。

だが、それだけでもかなりの威力である。

男は今度こそ飛ばされるが、それでも周囲の壁に剣を引き摺り、そこまで遠くまで行かないうちに止まった。


ふと我に返り、昂ってしまったことを反省する。この興奮こそがこの状況を作り出しているのだ、と。



「やべえなこの威力!」

「帰る気になったか!?」

「こんなん見て帰れるわけねぇだろ!」

「戦闘狂が!」



今さっきやらかした自分に言えたことではないが。

ともかく、いまはこの戦いに集中せねばならない。技術の革新は平和の面だけではなくどう考えても戦闘面にまで及んでいる。こういう時は何かしらで相手の意表をついて隙を作り処理するのが最善だが、魔力抜きでの戦闘がここまで変わっているとこれ以上何をされるかも予想ができず、ついでに相手は強い攻撃を見せても帰ってくれないときた。


視界妨害でも張って逃げることも考えたが、魔法の使用が特定され、加えてさっき母ではなく自分がそれを行ったと軽く断定され、さらに逃げた先で挟み込まれたことから、かなり正確な探知を行える可能性が高い。


ならば次の選択肢は。


まずまともな武器がないので、新たに硬めの障壁を作り剣とする。紐やら枝よりはマシである。

加えて、足に重点的に強化魔法をかける。



「次は何する気だァ!?」



そういいながら威勢よく突っ込んでくる男とは少しズレた方向に、思いっきり走り出す。

要は強行突破である。

伝播剣装と空間剣装で一番敵が薄くなっており、かつ最も厄介そうなこの男とほぼ真逆に走る。おそらくこれが今とれる中では最善だ。



「逃がすか!」



しかし彼もなかなか優秀で、一瞬で踵を返し追ってくる。どうやら魔法以外の何かでその脚力を強化しているらしく、負けずとも劣らない速さで走ってくる。



(いくら未知の技術とはいえ無限に使えるとは流石に思えないな)



耐久力勝負か、と思いつつ加速しながら走っていると、突然、前方から妙なものを感じた。微かではあれど魔力が使われている感覚だとは分かったが、それにしてもどこか違和感がある。

何事かと警戒すると、黒い靄の中から人が覗いていた。



「こっちだよ!」

「クソ、穴野郎か!」



見ただけでは敵なのか味方なのか分からない。

だが、男とどうやら敵対しているらしく、そして魔法を使っているなら、賭けではあるが分がいいと判断できる。

そのままの速さで、黒い靄の中に思い切り突っ込んだ。

BNAのオープニングセンスありすぎてこわい 怖すぎて強飯になった(あんまりおこわは好きじゃない)

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