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1-2 無いとされれば無くされる

「探知機に反応があった。神川県立岸市の棚の丘第二公園、そこで魔法が使用された」



暗い部屋の中、机の上に雑に置かれたスピーカーがそう言った。



「へえ、久し振りの業務連絡だな」



ベッドで寝転んでいた男が答えた。



「久し振りであることは良い事だ。魔法使用者が減ってきている証拠だからな」

「そうかい。で?」

「対象はおそらく一人、だが周囲の魔力が一瞬で消え去った」

「まじかよ」

「念の為部隊を連れて行け、何が居るか分からないからな」

「りょーかい。こりゃあ今までで一番の殺し合いになるかもな」

「ああ。となれば、気を付けるべきことは分かるな?」

「『対象以外は殺すな』だろ」

「それだけではない。対象の居場所は住宅地のど真ん中だ。」

「」

「部隊にはお前が伝えろ。期限は明日の夜だが、可能であれば今夜のうちに動け。以上だ」



スピーカーはブツリと音を立て、静かになった。

男は窓の厚いカーテンを開ける。



「さぁて、どんな奴かな」




──────




トショカンは、簡単に言えば「書の館」という意味を持つ単語として図書館を認識することが出来た。

図書館に来て最初は、魔導書の類が置いていないかを探した。が、そのような本が集められた区域は存在しないようだった。つまり、魔法はこの時代においては相当重要度の低いものとわかる。まあ、ここまで魔力が薄ければそうもなるだろう。

ならば雑学の一種として残ってはいないか、と思い、それに近い本が置いてありそうな場所を探す。一番近そうなものとしては百科事典があるが、種類も多ければそれぞれの冊数が多い。とりあえす目に入った「山鳴百科事典」の「ま」が載っている冊を取り出した。


そして、「魔法」の技術を見つけることが出来た。



「不思議なことをおこす術......は?」



一字一句、読み逃さないように小さく声に出してそれを読む。



「木に人形を打つ......太鼓を叩く......は?」



先に行くに連れて、その記述は自分の知らないものについてのものであることに気付いてゆく。



「説明できないことへの説明として......」



記述の全てを読み終わり、そしてふたつの可能性について考えた。


一つは、この時代には勝手とは全く違う魔法体系が存在する可能性。自分の知っている魔法の大半は外魔力をふんだんに使うものであるため、ここでは希薄な外魔力に適した方式が取られているとすればその違いも納得できる。

だが、正直ここに書いてあることをしたとしても魔法が発動するとは思えない。それで起きていたらとっくにクレイも知っているだろう。太鼓なんて何千何万回叩かれているのか分からないし、その組み合わせで魔法が発動するならそんなこと注目されないわけが無い。


可能性が高いのはもう一つ、この時代には魔法が認識されていない。

自分の知識からすると、ここに書いてある方法で魔法が発動するとは思えない。なにより、魔法そのものを理解していれば、魔法という言葉がとりあえず怪奇現象にも使わるなどという事態は起きにくいだろう。


棚の上の窓から、大きな音が聞こえ始めた。ふと窓から乗り出してその源を探すと、それは空にあった。

ずっと遠く、どう考えても鳥ではない何かが、バタバタと音を立てて飛んでいる。


早計だった。

魔法が存在しない世界で魔法を使った。

さっきの広場に他の人がいたら?

さっきもし魔法で木でも切り倒して遠くから見られていたら?

どうなるかは簡単に分かる。今見ている空のアレが、前世の時代に現れるようなものだ。既存の知識から完全に外れた現象は、人々に大きな困惑を、混乱を生じさせてしまうだろう。


魔法は、人前では使ってはいけない。使うなら周りの人の目に気をつける必要がある。存在についても漏らすことは無いように心がけねばならない。クレイ、否、理奈は心に刻んだ。


しかしまあ、さっきの二人に転生魔法の話をしなかったのは我ながらたまたま良くやったと思える。そもそも魔法が認知されていないのだから、そんな中で魔法を使ってちょっと転生してきたなんて言ってしまっていたらただただ相手を困惑させるだけだ。

そういう偶然が重なって、かつて世界最強まで登り詰めただけはあるなと自分でも思う。


さて、魔法が存在しないとなるとこの時代の技術は全て他のもので構成されているということだ。それらについても、調べる必要がある。棚の中から簡単そうな辞書を探し手に取り、開いた。







そんなこんなでこの時代の言葉について調べ続けてどれほど時間が経っただろうか。気付けば外は暗くなってしまった。クレイの知らない技術が数え切れないほど存在しており、知的好奇心を刺激され続けたからだ。

例えば車。魔法も動物も使わないあれの動力は、「発動機」なるものだそうだ。そしてその発動機の多くは、炭や薪ではなく、海底などから取れる「石油」なるものを利用して稼働すると言う。

また、先程飛んでいた鳥ではない何かは「飛行機」の一種らしく、同じく石油で動いている。

他にも、「遺伝子」や「電子機器」など、欠片も想像出来なかった概念がこの時代には存在しているらしい。魔法の衰退を補ってあまりあるほどの別の技術の発展、もしそこに魔法を掛け合わせられたりと思うと想像が止まらないのだ。


今思えば、自分は何かに没入した時しばらくほかのことを考えにくくなってしまう正確なのだろう、と自己分析する。転生魔法の開発もその没入時の集中力あってこそ、アスラとの馬鹿みたいな戦いもそのせいなのだ。

今回はその性格が良くない方向に働き、夜になってしまった。子供が外に出ていい時間ではないだろう。



「そこの君」



一人の男が話しかけてきた。おそらくこの図書館の管理人か、本を積んだ前向きの荷車のようなものを転がして歩いていた。



「俺か?」

「あまり遅くなると夕飯に間に合わなくなるぞ。それに子供は寝てなんぼだ、そろそろ帰ったらどうだい」

「えっ」



そっちか?と言いたくなった。

いくら十の少女とは言え、中身が元世界最強なので、それこそ軍隊にでも襲われない限り対処することはできよう。だが、彼がそれを見抜けているとも思えない。となると危ないから親を呼べ、とでも言われるのかと思ったが、そこで夕飯の心配である。

この時代では夜道で襲われる危険性が排除されているのかもしれない。だが、そんなこと出来るのだろうか。そこまであらゆる暴力が排除されているのか。



「別に強要はしないがね。居たいなら」

「いや、ありがとう。帰る」



集中も切れた事だし帰るなら今だろう。それに、家に誰がいるかも気になることだ。


本を棚に戻して外に出ると、涼しい風が吹いてきた。空は暗く、道路脇の光と家々から漏れるだけが街を照らしている。実に静かである。

生活の至る所に技術革新が浸透し、夜道で襲われる心配もされない。この上なく平和な、本当にこんなことが実現可能であったのかと思ってしまうくらいに平和な世界。さらにおそらく魔法も知られていない。素晴らしいことだが、クレイが転生した意味が全くないと考えると少し悲しくなってしまう。


まあ、過ぎたことを考えても仕方がない。転生して今ここにいるのが事実なのだから、受け入れて生きていけばいいだろう。

それに、誰かが被害を被った訳でもない。ならいい。


行きはそこそこ迷ったが、その時に最短経路の確認はできている。家の形がどれもそこそこ似ていて、クレイの時代と比べて見分けは付きにくいが、道が整っているので迷うこともないだろう。

そう思いながら歩いていると、曲がり角に差し掛かった。記憶に従って右に曲がると、一人の女性が走っていた。

随分急いでいるようだなと思いつつ見ていると、彼女が街灯の下に差し掛かり、その顔が見えた時、何だか、いきなりきりがはれるかのような、そんな衝撃が走った。


自分は、あの顔を知っている。クレイではなく、理奈が知っている。

理奈の記憶に、ただ一人、朧気ながらも存在する女。



「理奈!」



そうだ。あれは母だ。タメガイリナをここまで育ててきた母だ。

彼女は目の前で止まり、抱き着いてきた。それも、苦しいくらいに強く。



「古市さんから連絡があって、喋ったって」

「ちょ、苦し」

「ほんとに......」



そうだ。タメガイリナは、今日の朝まで返事しかしないような人間だったらしいことを思い出した。おそらく、転生魔法にかけた制限の影響で。

瞬間、さっきまでの自分の考えを恥じた。誰も被害を受けていない訳では無い。クレイの魔法のせいで、彼女の娘は何も言わない植物のようになってしまっていた。子供との触れ合いという幸福の多くを、クレイは彼女から奪ったということになる。それは、被害と呼べるものだ。



「......すまない」



黙って抱きついている彼女に、小さな声で謝罪する。

転生魔法を使った先にあったのは、平和が染み渡った世界と転生魔法が無ければ被害に遭わなかった人間。世界を守るためとか言ってこのざまである。

驕っていたのかもしれない。世界を守るために自分が必要なんだと。あの戦いが終われば、そこに英雄は必要なかった。

必要のないことをして人に迷惑をかける、クレイが生前嫌っていた行為である。自分の力量と存在する意味を理解し、それに沿ってみな行動すべきだと思っていた。自分が出来ていないではないか。



「......もう喋らなくなったりしないよね」

「しない」

「うん......うん」



過ぎた事は気にしてはいけないが、犯した罪を償わなくてもいいという訳では無い。

これからのクレイの、いや、理奈の人生は彼女に本来あるべきだった幸福を返すことを第一目標にせねばならない。それがせめてもの償いであり、子として生まれた者のすべきことだ。


そんな決意をしたその時。



「...え」



二人の周り、それだけでなく町中の灯りが一斉に消えた。

さらに少し遅れて、自然の音ではない妙な音が響き渡る。聞くだけでどこなく恐怖を感じ、鳥肌が立つような音である。



「え?」

「一体何が」



立ち上がった瞬間、背中に知っている悪寒が走った。

反射的に障壁魔法を張ると、そこに高速で飛んできた何かが当たり落下し、足元に転がってきた。


何者かに攻撃されている。

裏列界さん、毒目覚めと無効貫通が落ちると必ず発狂どこかで食らうね 何

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